デジタルトランスフォーメーションの最初で全部終わった話

デジタルトランスフォーメーションの最初で全部終わった話

 

「これからはデジタルトランスフォーメーションだ!

 

以前勤めていたブラック企業では経営方針発表会という、なんか公民館みたいな場所に集められて偉い人の話を3時間も聞き、最後に集合写真を撮って解散するというクソイベントが年に4回もあった。あまりに多いので「経営方針発表会 頻度」で調べたことがある。

会社がメインでやっていることはずっと「電波がすごく遅いWi-fi端末を高齢者に売る」という業務なのだが、一体年に4回も何を発表することがあるのか。無いだろう。役員たちも「とにかく気合だ!」みたいなうっすい話しかしない。みんな聞いてないけどスマホをいじったりすると、いつも社長室にいる何の仕事してるか不明の人に激詰めされるので、ただ生産性を下げる無のイベントとなっていた。激詰めとは、泣くか吐くまで怒られるという意味です。

 

「やりがい」「成長」って言葉が飛び交う。やりがいも何も言葉巧みに遅いWi-fiを売るだけだし、そういう力が成長していくだけだ。もっと昇給とかキャリアパスとかの話をしてほしかった。

ただ、社長だけは毎回違うことを話していた印象がある。僕もさすがに社長の話は一応ちゃんと姿勢を正して聞く。デジタルトランスフォーメーション? なんだそれは。

気になったのでちゃんと聞いていたが、要約すると社長は「とにかくデジタルだぜ!」みたいなことしか言ってなかったので、帰社してから自分で調べた。ちなみにこのイベントは3時間とられるので、残業が普段+3時間されます。

デジタルトランスフォーメーションとは?

一言でいうと「進化したデジタル技術を浸透させることで人々の生活をより良いものへと変革すること」らしい。

デジタルトランスフォーメーション(DX)とは? 意味や定義をわかりやすく解説

 

この「変革」というのが大事で、具体例を示すとよくZOZOTOWNの例が挙げられる。

「服は店頭で試着して買うもの」という概念をデジタルで覆した好例だ。人気ブランドを取り揃え、送料無料(当時は)や簡単な返品方法など、それまでほとんどギャンブルに近かった「服の通販」を当たり前にした。

デジタルを用いて、変革する。素晴らしいことだ。

また調べていくと、デジタルトランスフォーメーションをするためにはその前に段階があるとのことだった。

 

デジタイゼーション→デジタライゼーション→デジタルトランスフォーメーション

 

なんか似たような単語が並んでよくわからなかったが、デジタライゼーションは「個別の業務や製造プロセスのデジタル化」、デジタイゼーションは「アナログ・物理データのデジタルデータ化」を指していた。

デジタルトランスフォーメーションをするためには長い道のりがあるらしい。知れば知るほど、粗悪なWi-fiとウォーターサーバーを売っている弊社と一体何の関係があるのだろうかと思う。

しかし本当にデジタルトランスフォーメーションをするのだとしたら、まずはデジタイゼーション(アナログ・物理データのデジタルデータ化)をするのだろうか。

まあ関係ないだろうなと思い、言葉巧みに粗悪なWi-Fiを売りつける業務に戻った。

タイムカードの電子化

タイムカードの電子化

 

社長が言ったことは絶対! のスピード感だけはある会社だったので、翌月、出退勤表(タイムカード)をタブレット入力にして、電子で管理するという施策がなされた。デジタイゼーションだ。すごい、ちゃんとやろうとしている。

1フロアに1つタブレットがちょこんと置かれ、出勤と退勤はここに社員番号を入力してボタンを押しなさいとの指示が下った。

それまで、出退勤は月ごとに紙で管理していた。「日付」「出勤時間」「退勤時間」「上司のサイン欄」だけのシンプルな紙。名前欄が無くて余白に書かせるというエクセルレベル1みたいなシートが毎月配られていた。

今までどんな時間働いても残業代が支払われないのでこんな表でも成立してきていた。1つ問題があるとすれば人数の多い会社ではあったので、上司にサインを貰うために行列が出来ることだった。

 

当時の上司である鹿島(カシマ)さんは画数が多いからかカタカナで「カシマ」と次々サインしていき、後半は筆が乱れてほとんど「カシス」になっていた。

出勤:8時 退勤:0時 確認:カシス とびっしり書かれた表を眺め、本当にこれで給料が支払われるのだろうかと不安になりながら総務部へ提出し、翌月末にすごく低い給料が振り込まれる。

タブレットの導入によって、行列とこれらの不安が解消されるのだろうか。喫煙所で役員共はこれをデジタルトランスフォーメーションだと言っていた。それはデジタイゼーションですよとか言ったら一撃で嫌われそうだなと思ったので黙って聞いていた。

それでもあの紙よりはマシだろう、期待して月初の出勤をする。

現場は大混乱

現場は大混乱

 

大混乱が発生した。

タブレットが安物なのかアプリが変なのかものすごくタッチの精度が悪く、昔のデジカメのタッチパネルみたいな押しにくさ。さらにこの会社に何人入る想定で設定したのかわかんないけど、社員番号が8ケタもあるので押し間違いが多発し、タブレットは大混雑していた。

当時の僕は課長代理という立場にいた。管理職だからという名目のもと、低い給料で月350時間の勤務を命ぜられ、さらに課長の面倒ごとをすべて押し付けられ、ミスもすべて自分のせいになるというすべてのハズレくじを集約したようなポジション。

出勤時間を過ぎた。行列は収まらない。やっと順番が来た奴が焦ってボタンを押し間違える。そもそも普段使われることのない8ケタの社員番号を覚えていない人間が多すぎる。全員がイライラしている。上司の怒号が響く。課長からメールが届く「タブレットはお前に任せる」。

 

しかしまだ、地獄は始まりに過ぎない。

行列がはけたところで自分の出勤を登録するためタブレットを操作した。タブレットには大きく時刻が表示されていて、俺は08:07にボタンを押した。その結果

 

「出勤を登録します」

08:30 出勤」

「はい / いいえ」

は???

どうやら30分単位での計算しかされないらしく、1秒でも過ぎたら30分になるらしい。俺はどうせ残業させられまくるから別にいいんだけど、残業が禁じられていた派遣社員たちがすごく困惑していた。

その混乱をしばらく眺めていた課長は「タブレット責任者」と書かれた謎の紙を印刷して、俺のホワイトボードに貼ってきた。

 

「これ……30分働いてないことになるんですか……?」

 

派遣社員たちがタブレット責任者になった俺に恐る恐る聞いてくる。

知らない。俺もさっき同じ目に遭ってる。お前らと同じ立場。会社はこんな出退勤システムを思いつく人間で溢れているが、作れる奴は1人もいない。「1分でも過ぎたら30分になるように」とオーダーしてどこかに作らせたのだ。

唯一知ってそうな総務部の偉い人に内線をするが、おそらく全フロアで大混乱が起きているのだろう。内線は一向に繋がらなかった。みんなの出勤時間のメモをとり、後でなんとかするとだけ伝え業務に戻る。

早すぎたデジタルトランスフォーメーション

早すぎたデジタルトランスフォーメーション



そして17時。派遣の人たちが一斉に帰る時間なのだが、変わらずすごい行列が出来ていた。そして来週からタブレットを増台するという大本営発表がなされた。いらねえから撤去しろ。弊社には早すぎた。カシスに戻せ。隣のフロアからも俺のところに人が来る。「タブレット責任者の方ですよね?」違う。知らない。俺のところに来るな。タブレット責任者ってなんだ。

結局そんな混乱で手が回らなくなり、その日は日付を超えて0時半に退勤ボタンを押した。その瞬間

 

「退勤を登録します」

「17:00 退勤」

「はい / いいえ」

 

は?????????は?????

この会社は何時間働こうが残業代が出ない。だから会社的には別にこれでも問題ない。今までの紙にも、社員が何時に出退勤したと書かれていようが、支払われる金額は変わらなかった。

ただ、23時に退勤して23時と書いて出すのと、23時に退勤してるのに17時で「はい」を押させるのは無限の隔たりがある。なんだこのタブレット。悪魔とはこれを考えたやつのことだ。

同僚が「どうせ変わらないじゃん」と気にせずボタンを押したが、それは飼いならされすぎている。絶対おかしいって、みんなちゃんと怒って、みんなで変革ではなく革命を起こすべきなんだよ。

だが、押さないといけない。僕がこの会社に所属している以上、押さなかったら明日面倒な目に遭うのはタブレット責任者の自分だ。押さないといけないのがすごく悔しい。

 

2回喫煙所に行って、日付が変わったスマホの時刻表示を一瞬見て、17時の退勤に「はい」を押した。

それから毎日、「はい」を押すたびにより深く会社のことが嫌いになっていった。タブレットのせいだと俺は思っているが、その月は退職者が多かった。2か月後、タブレットは撤去されていつもの紙に戻った。弊社にデジタルトランスフォーメーションは早すぎたのだ。

そしてまた経営方針発表会があって、全社員が仕事を中断して公民館に集められ、社長の「タブレットは精度が悪かったから改良している。デジタルだぜ」という話をぼんやりと冷めた目で聞いていた。この集まりをデジタルにすればいいのにと思いながら。

 

株式会社リーヴォン~手づくりすれば、生活はもっと楽しくなる

株式会社リーヴォン 取締役 結城浩太さん

株式会社リーヴォン 取締役 結城浩太さん

こちらの記事は、2017年3月にさくらのナレッジで公開された記事を再編集したものとなります。文●山下達也

さくらインターネットが注目するスタートアップ企業を紹介。今回お話をお伺いした 株式会社リーヴォン は、DIYを「レシピ」にするというユニークな発想で話題のWebサービス「DIYREPi(ダイレッピ)」を立ち上げた注目スタートアップです。その狙いとは?

今どきのDIYはお父さんだけのものじゃない!

――株式会社リーヴォンでは、現在、Webサービス「DIYREPi」を運営中ですが、まずはこのサービスについて教えてください。

DIYREPiは、DIY(Do It Yourself)の総合コミュニティーサイト。料理のレシピサイトのようにDIYのレシピを掲載しているほか、質問・掲示板機能などを使ってユーザー同士が知識と知恵を共有できるようにもしています。

DIYREPiのサイトイメージ

――どうして「DIY」という市場を選んだんですか? やっぱり結城さんのご趣味がDIYだったりするんでしょうか?

いえ、実は「DIYREPi」は、これまで全くDIYをしたことがないメンバーで作りました。弊社の代表取締役の古橋がインテリア好きなのですが、彼がちょっと興味を持ってDIYをやってみようと思った時に、作り方を教えてくれるサービスがほとんど存在していなかったのがきっかけとなっています。

私も古橋も、かねてよりWebサービスを自分で立ち上げてみたいと考えていたので、これはチャンスだと思いました。今や、インターネットではあらゆるジャンルで、多くの企業が情報サービスを展開しており、割り込む余地がほとんどありません。でも、DIYの分野には当時、そういったサービスが見当たらなかったのです。

 

――でも、DIY=日曜大工って、インターネットが苦手なおじさんたちの趣味というイメージがあります。それってサービスとして成立するんでしょうか?

いえいえ、実は今のDIYのメイン層は、30~40代の主婦なんです。「日曜大工」と言うと木製の家具作りを想像してしまいがちですが、今どきのDIYはその枠に留まらず、雑貨やアクセサリーづくり、手芸や洋裁など、幅広く「ものづくり」のことを示しているんですよ。

また、ゼロから何かを作りあげるだけでなく、100均アイテムにちょっと手を加えてあげるような“プチDIY”も流行っています。

 

――今や、DIYはお父さんのものだけではなくなっているんですね!

そうして作りあげたものをブログやインスタにアップするのが最新のトレンド。二子玉川に有名なDIY作業スペースがあるんですが、そこに行くと女性がとても多くて驚かされますよ。しかも、場所柄もあってか、富裕層のお客さんがとても多いんですね。ビジネス的にも有望だろうと感じました。

 

結城浩太さんの写真

――なるほど。しかし、であるならば、いずれは競合も増えてくることになります。実際、同時期にいくつかのサービスもスタートしているようですが、それらと比べた際の「DIYREPi」の強みはどこにあるのでしょうか?

「DIYREPi」最大の特長は、レシピ共有とコミュニケーション機能に加え、ECサイト「DIYREPi Online」を併設していること。ユーザーが投稿したレシピに「DIYREPi Online」で取り扱っている商品がある場合、自動的に紐付けられるようになっています。

現在「DIYREPi Online」では約1600品目のアイテムを取扱中。今はまだ工具が中心なのですが、今後は段階的に材料なども増やしていく予定です。ユーザーからは材木のカットサービスを提供して欲しいという声が上がっているのですが、これも近日中に対応予定となっています。

 

――「DIYREPi」なら、気に入ったレシピを見つけたら、材料を手に入れるところまでワンストップでいけてしまうということですね。

そうですね。最終的にはそこを目指したいと考えています。あと、もう一つ、大きな強みと言えるのが、我々がDIYの素人だったこと。確かに作り始めは知らない事が多くて苦労させられたのですが、そんな初心者が作ったサービスだからこそ、DIYをこれから始めようと考えている人にも楽しんでもらえるのではないかと。

 

――「DIYREPi」を初めて、業界に何か変化はありましたか?

まだサービスを開始して半年程度なので、大きな変化は起きていないと思うのですが、提携している企業様には「こんなサイトはなかった。DIY業界の発展にはこうしたサイトが必要だ」と言っていただけました。

また、たくさんのDIYブロガーさんが「DIYREPi」にレシピを投稿してくださるようになりました。今後、「DIYレシピ」という言葉が当たり前になり、さらにDIY=「DIYREPi」となれるように社会変化させていきたいです。

日本のDIYを世界へ、世界のDIYを日本へ

――「DIYREPi」がサービス開始して約半年ということですが、その手応えはいかがでしょうか?

実はまだ、目的としていたシステムが完成していないため、大きく告知などはしていない状況です。ECサイトなど基盤となる部分が完成したところで、一気に攻勢をかけたいな、と。ただ、それにも関わらず、既に多くのユーザーさんが「DIYREPi」を活用してくださっているのはとてもうれしいですね。

 

――どんなレシピが人気なんでしょうか?

今は、100均アイテムを使ったDIYが人気ですね。シンプルな箱を買ってきて、それをアレンジして自分好みにカスタマイズするといったレシピがよく参照されています。

 

――サービス開始してみて分かった”想定外”などはありましたか?

思った以上にスマホユーザーが多かったのは想定外でしたね。実は計画初期に、GoogleのキーワードプランナーなどでDIYを検索する人の属性を調べたりしたのですが、そのときはPCユーザーの方が圧倒的に多かったんです。

それでサイトはPCを中心に作成し、最後にそれをエイヤッとスマホ対応させたのですが、蓋を開けてみると、スマホでアクセスするユーザーが7割という結果に(苦笑)。当初のスマホページが分かりにくい構造になっていたため、多くのユーザーを逃してしまっていました。慌てて昨年末に改修したものの、これは大きな読み違いでしたね。

 

――でも、そのおかげかサイトはとても見やすくまとまっていますよね。

ありがとうございます。当初から女性ユーザーを意識していたこともあり、デザインにはすごくこだわっています。DIYマニア向けの機能性よりも、初心者が親しみやいような、使いやすさや優しさを優先しました。また、自分のDIY生活を発信しやすいよう、SNSとの連携機能もしっかり用意しました。

 

結城浩太さんの写真

――今後の目標について教えてください。

現在、DIYを始めようとする際の壁は、「作り方が分からない」「工具・材料を買いに行くのが面倒くさい」「作る場所がない」の3つ。このうち、「作る場所がない」以外は「DIYREPi」で解決できるようにしています。そこで、今後は最後の「作る場所がない」を解決するために、リアルショップを作って、作業スペースの貸出やワークショップなどを行いたいと考えています。

また、世界と繋がっているインターネットの強みを活かし、最終的には日本のDIYを世界に発信し、世界のDIYを日本に広める活動もやっていきたいですね。既成品があふれる世の中ですが、手づくりの良さはその物を作る人の思いが込められている部分にあると思います。

「DIYREPi」が掲げる「手づくりすれば、生活はもっと楽しくなる」というコンセプトに沿って、DIYの魅力を一人でも多くの方にを伝え、DIYを始めるきっかけになればと思っています。

 

――都心のDIY愛好家に取っては確かに場所の問題は大きいですよね。アンテナショップ、期待しています!

そして、株式会社リーヴォンとしては、「DIYREPi」に留まらず、それ以外の分野にも進出していきたい。リーヴォン(Re:evon)という社名は、ReBorn(生まれ変わる)と、Nova(新星)を組み合わせた造語で、新たな世界を生み出し続けていくという意味が込められています。もちろん、現時点では「DIYREPi」に全力投球していくつもりですが、将来的にはいろいろなことをやっていこうと考えています。

 

■関連リンク
株式会社リーヴォン
DIYREPi

 

財産ネット株式会社〜勝率8割の株為替予報サイト「兜予報」で業界の常識を変える

財産ネット株式会社 代表取締役 荻野調さん

財産ネット株式会社 代表取締役 荻野調さん

こちらの記事は、2017年3月にさくらのナレッジで公開された記事を再編集したものとなります。文●山下達也

さくらインターネットが注目するスタートアップ企業を紹介。今回は、流行りのフィンテック分野で活躍するスタートアップ、財産ネット株式会社を紹介します。大金飛び交う証券取引の世界で、同社代表・荻野さんが見出した“勝機”とは?

日本の金融業界がテクノロジー面で遅れているというのは誤解

——財産ネット株式会社の事業内容についてお伺いする前に、まず荻野さんがどういう経緯でこの会社を興すことになったのか、からお聞かせいただけますか? なんでもかなりユニークな経歴をお持ちだそうで……。

荻野調さんの写真

ユニークかどうかは分かりませんが、大学にはたくさん行きました。最終的に修士を3つ、博士を1つ取得しています。学校に通いながら働いていたので、最低限の出席日数でどうやって単位を取るか、を考えているような学生でしたね(笑)。20代の前半は大学で勉強しながらフルタイムで働いていましたよ。

 

——その頃から金融関係のお仕事をされていたんですか?

いいえ、当時はネットワークエンジニアとしてコンサルタントの仕事をしていました。その頃(90年代後半)の日本はちょうど「ブロードバンド」がやってきた時期で、その立ち上げに関わっています。まだISDNの64Kをブロードバンドと称していた時代に、1.5Mbpsのケーブル回線を持ち込むという事業で、アメリカから持ち込んだ機材を日本で動くようにするといった作業をしています。

その後、2000年に務めていた会社が他社と経営統合することになり、そのタイミングでソニーに転職。当時のソニーは新規事業を積極的に立ち上げていた時期だったこともあり、10億円規模の新規事業立ち上げを1年に1プロジェクトというペースでやらせていただきました。データセンターの立ち上げ事業だったり、コンシューマー向けの製品を企画したり、後は企業合併などにも携わりましたね。

 

——それはすごい!

ただ、正直、大企業ならではのペース感に物足りなさを感じたというか、もう少し色々やりたくなってベンチャーキャピタルに転職します。2社合わせて8年半ほどいましたね。在籍中に約1万の事業計画書を見て、実際に100弱に投資して、30くらいはIPO(新規上場)やM&A(事業買収)にこぎ着けています。

その後、紆余曲折あって2011年にグリーへ転職。同社のグローバル事業立ち上げから事業開発部や子会社を率いた後、2015年に財産ネット株式会社を起業しました。

 

——財産ネット立ち上げの狙いを教えてください。

実のところ起業時に事業内容に対するこだわりはさほどありませんでした。ただ、ちょうどフィンテックブームが来ていたこと、そこにタイムマシンモデル(編集部注:米国で成功したビジネスをいち早く日本に持ち込むこと)を適用しやすいことが、この業界を選ぶ決め手となりました。

 

——「タイムマシンモデルを適用しやすい」というのは、日本の金融業界が米国と比べて遅れているということですか?

そこはちょっと説明が必要ですね。フィンテックブームと言うと、よく誤解されるのですが、国内金融業界はかねてよりテクノロジーに投資し続けてきた業界で、その点で遅れているということはありません。証券取引所の高速取引やセキュリティ性の高さなどはIT業界と比較しても最高水準と言えるでしょう。

一方、インターネットを利用して消費者にサービスを届けるというネットビジネスの観点では遅れている面も見受けられます。アパレルや靴などを扱う一般消費財のネットビジネスでは常識となっているマーケティング技術やノウハウ、顧客へのモチベーションの与え方といった考え方が、金融分野では理解されておらず、活用もされていないのです。そして我々は、そこに大きなチャンスがあると考えました。

株為替予報サイト「兜予報」の勝率はなんと8割!?

——そんな財産ネットの具体的な事業内容について教えてください。

主軸となるのは「兜予報」という、兜町アナリストたちの個人的な見解をお届けする無料メディアですね。企業のIR、PR情報が株価にどう直結するか、それは現在の株価に織り込み済みなのかといった見解や、昨日の値動きは何が原因だったのかなどといった解説を各アナリストの視点でまとめたものです。

「兜予報」サイトのイメージ

——もう少し詳しく教えていただけますか?

IR、PR情報を含む、全ての経済ニュースはそれが株価に織り込まれるまでに時差があります。ソニーやトヨタなどの大型株の場合は、この時差がわずか3〜5分程度しかないのですが、いわゆるデイトレーダー銘柄の場合は約1時間程度の余裕があるんです。「兜予報」はその滞空時間を利用してユーザーに情報を提供することで、実際の取引の参考にできるメディアとなります。

具体的には、IR、PR情報をクロールした中から、ネタになりそうなものをキュレーションし、それに対して参加アナリストがポジティブ、ネガティブの投票をおこなう事で“指針”を発信します。この際、アナリストの投票が外れているとどうしようもないのですが、「兜予報」では独自のシステムを開発することで、統計的に勝率をアップ。個々のアナリストの勝率はせいぜい6割くらいで、実際それが限界だと思うのですが、それを十数人集めると統計的に8割くらいまでに高められるのです。

 

——8割ですか!? それは、言うなりに買っているだけで儲かってしまいそうですね……。私も自分なりに専門分野があるので、たまに株価の上がり下がりを予想するのですが、全く当たらず、株には手を出すまいと思っています(苦笑)。

実は株価って、自分の専門分野の方が外しやすいんですよ(笑)。例えば、一昨年の秋にある会社が「画期的なウェアラブル端末を開発」というリリースを出したのですが、それは、その周辺に詳しい人には失敗するとしか見えないものでした。ただ、株価はその後2時間で、約10%ほども向上。もし「売り」に走っていたら大損ですよね。

ただ、実のところ、その玄人判断は正しくて、報じられたウェアラブル端末はその後、鳴かず飛ばず。中長期的には詳しい人の思ったとおりの展開となりました。でも、その“正しさ”は、その日、その瞬間の株価という観点では重要ではないんです。

 

——なるほど。そう言われてみるといろいろと思い当たることがありますね。

そしてこの話は、IT株だけでなく、あらゆる分野に言えること。株式取引をするトレーダーはプロであれ素人であれ、ほとんどが事業構造や製品・薬効等をよく知らずに売買をおこなっています。ゲームのことを知らずにゲーム会社の株を買い、自動車のことを知らずに自動車会社の株を買っているんです。そういう人たちがポジティブに見えるものに「買い」を入れ、ネガティブに見えるものに「売り」を入れる。「兜予報」の役目はそれを可視化するということですね。

荻野調さんの写真

——現状の「兜予報」に対する評価を教えてください。

証券会社への送客が利益となります。ここで重要なのは一般的なネットビジネスと比べて、証券取引の客単価が非常に大きいこと。1取引で少なくとも数十万円のお金が動きますから、リターンもそれに応じて大きくなります。ECでは客単価数千円の売上の約1割が粗利となり、さらにその中から経費を差し引いた2〜3%が利益に過ぎないわけですから比較になりません。

ちなみに証券業界の広告収入を狙ったビジネスはこれまでも活発におこなわれていましたが、そのほとんどは口座開設のアフィリエイトを狙ったもの。でも、証券会社からしてみれば、そうして口座を作ってもらっても、その9割はほとんど取引を行うことなく消えて行ってしまうんです。それでは肝心の手数料収入が取れませんよね?

その点、「兜予報」は、実際の取引発生までをコントロールするというサービス。その点がこれまでの送客ビジネスとは根本的に異なっています。ユーザーにとっても、1クリックで取引画面まで行けるので、利便性という点で大きなメリットがあります。

 

——WIN、WIN、WINというのは良いですね! 最後に、そんな財産ネットが今後、どのような展開を考えているかを教えてください。

「兜予報」を運用していく中で、蓄積された株式売買に関するビッグデータを活用していくことを計画中です。株価の推移については、皆さんデータをお持ちなんですが、どうして株価が動いたのかについての情報を切り出せている企業はほとんどありません。既に、それを利用した株価の変動時間を予測するアルゴリズムが完成しているので、機関投資家向けに販売を予定しています。将来的にはそれをさらに進化させ、利幅や、ポジティブ/ネガティブのシグナルも分析できるようなものに育てていきたいですね。

また、「兜予報」の仕組みは、証券市場があるところならどこでも適用可能。つまり、証券市場の数だけチャンスがあるということです(笑)。それぞれの国の事情に通じた人材の確保が必要となるため、我々単独で拡大していくのは難しいのですが、そこは現地の証券会社と組むかたちで上手くやっていきたいですね。実際、すでに米国版の「兜予報」を始めるべく、交渉を開始しています。

 

■関連リンク
財産ネット株式会社
兜予報

 

福岡ITコミュニティのキーマン・橋本正徳さんが語る、福岡がITスタートアップの街として成功したワケ、そしてこれから

株式会社ヌーラボの創業社長・橋本正徳さんの写真

こちらの記事は、2017年12月にさくらのナレッジで公開された記事を再編集したものとなります。文●村上純志

2001年のGMOペパボ創業(当時の社名は合資会社マダメ企画)など、2000年代初頭からITスタートアップの街としても知られるようになった九州・福岡の地。2014年には新興ベンチャー企業を支援する国家戦略特区に指定されるなど、その勢いをさらに加速しています。

しかし、東京から遠く離れた福岡の地で、なぜIT産業・コミュニティが定着したのでしょうか? ここではその「理由」を、福岡発で最も成功したITスタートアップの1つとされる株式会社ヌーラボの創業社長である橋本正徳さんに語っていただきました。

 

ヌーラボ

ヌーラボとは

ユーザー数が日本最大規模のプロジェクト管理ツール「Backlog」や、世界100カ国を超えて使われているビジュアルコラボレーションツール「Cacoo」、福岡市の「トライアル優良商品」に認定されたビジネスディスカッションツール「Typetalk」など、あらゆるチームのコミュニケーションを支援するサービスを提供する、2004年創業のITベンチャー。現在も創業の地・福岡に本社機能を置きつつ、東京、京都、ニューヨーク、シンガポール、そしてオランダに拠点を展開している。

2000年代以降、急激に活性化した福岡ITコミュニティ

――まずは、福岡のITコミュニティの成り立ちについて教えてください。

90年代以前に福岡にITコミュニティがなかったというわけではありませんが、現在に繋がる盛り上がりの“源泉”となったのは、2003年に発足したAIP(当時の名称は「高度IT人材アカデミー」)だったと思います。ただ、AIPは業務系テクノロジー畑(SIer)の人たちが中心となったコミュニティだったため、個人的にはそれをもう少し拡げたいという気持ちがありました。そんな中、AIPが「AIPコミュニティ」というものを立ち上げて、そのコミュニティ主催で2006年9月8日におこなわれた、 AIPコミュニティ1周年記念イベントで、コミュニティをもっと当たり前のものにしていこうというプレゼンをおこなったところ、多くの人がそれに賛同してくれて、多種多様なIT系コミュニティが立ち上がり始めたという経緯があります。

 

橋本正徳さんの写真

 

――なぜ、この際、「多くに人がそれに賛同して」くれたのでしょうか?

それまでブログ中心だった個人の情報発信が、mixiなどのオンラインコミュニティに移行して、“つながり”を産みやすくなったことが最大の理由だと思っています。まず、ネットで仲良くなって、それから、オフラインで実際に会おうということになって、そして「(そういうコミュニティが)あったら良いよね」と盛り上がっていったんです。

 

――それを受けて2007年に橋本さんが立ち上げたのが「FWW(福岡で働くWebの人々)」だったんですね。

はい。FWW(福岡で働くWebの人々)はその名の通り、福岡でWeb制作をおこなっている人たちの集まりです。福岡のWeb制作現場をより楽しくすること、福岡で働くWebの人々の交流を活発にすることを目的にセミナー、ワークショップ、勉強会、懇親会などのイベントをおこなっていました。当時のAIPコミュニティーのコアメンバーと話して、プログラマーだけでなく、デザイナーも巻き込んでいくことでコミュニティを一般化していこうと目論んでいたのです。クリエイターが語り合うことで、第三者が値付けができないくらいの価値があることをドライブしていきたいな、と。ちなみに、ネーミングはSEOを意識しました。

 

――FWWの存在がきっかけとなって、福岡のITコミュニティ、そして産業が活性化していったのは間違いのないところだと思います。そうした事情を知らない人の中には誤解している方もいらっしゃいますが、今の福岡の盛り上がりは、突発的なものではなく、2000年代初頭からの小さな積み重ねによってできたものなんですよね。そして、現在はどうでしょうか。FWW立ち上げから10年以上経過しましたが、橋本さんは福岡の現状をどのように評価されていますか?

目的の1つとしていた、一般化にはある程度成功しているのではないかと思います。ただ、残念ながら、当初狙っていた、“高度なプログラマー”と“高度なデザイナー”が交わることによる“スパーク”は思っていたほど起こりませんでしたね。今は炭酸の抜けたコーラのようになってしまって……(笑)。もっとも、それが「一般化」ということなのかもしれませんが。

 

――一定の目的は果たしたが「大成功」ではなかった?

そうかもしれません。ただ、個人としては10年前の志を今なお持ち続けています。今は、プログラマーやデザイナーではない一般の人でも“コト”というかたちで何かを生み出せるようになりました。そうした時代だからこそ、名刺交換などの社交辞令から生まれるコミュニケーションではなく、取り組んでいるモノ、コトありきで交流できるコミュニティの存在が重要なのではないでしょうか。

 

――それらとは別に、橋本さん個人が得たものはありますか?

一連の活動を通じて、人のモチベーションの正体、人が動く仕組みみたいなものを知る事ができたのは勉強になったと思っています。正直、僕らの注目しているコミュニティー活動というものはお金にならない取り組みなのに、知的欲求だったり、承認欲求だったり、あるいは単に飲み友達が欲しいとか、単に地域を盛り上げたいという理由でたくさんの人が繋がっていくのが興味深かったですね。それがその後の仕事に活きた面はあると思っています。

「行政」がコミュニティ形成に果たした役割

――続いて、福岡のITコミュニティ形成について、行政の果たした役割を教えてください。

コミュニティは、根っからコミュニティな人である「ネイティブコミュニタリアン」同士が自然と惹かれ合って生み出すものだと考えています。そこに関わる行政についても、彼らが同様にネイティブコミュニタリアンであるかが大事です。

 

橋本正徳さんの写真

 

――その点において、福岡市はいかがでしたか? 僕個人の印象では福岡市には「ネイティブコミュニタリアン」な人が多いように感じます。また、他県から来た方に「福岡市は行政との距離感が近い」と言われることも多い気がします。

そうですね。確かにその通りだと思います。福岡は今、行政と民間の間で上手にバランスをとって、起業家やスタートアップ企業が育ちやすい環境を築いています。この事実だけみても、コミュニティの発展に行政が大きく貢献していることは間違いないと言えるでしょうね。ただ、これ、職業や立場で区切ってしまうと誤解されてしまうかも知れません。行政と民間という分け方ではなく、コミュニティに対する考え方や接し方でクラスタリングすると分かりやすくなるんじゃないでしょうか。

 

――どういうことですか?

福岡市の一連の取り組みは、「行政」と「民間」という違う立場の人たちが手を組んだのではなく、双方に存在する「ネイティブコミュニタリアン」たちが一緒になって実現したという理解が正しい。だから距離が「近い」という表現は、実はあまり正確ではありません。福岡市の職員も、ITコミュニティを構成している人たちも、立場は違えど「同じ志や興味関心を持った人たち」なんです。「距離が近い」のではなく「同一組織」と捉えると分かりやすいかもしれません。明星和楽(「テクノロジーとクリエイティブに関わる人が集まる」ことを目的に、2011年に開始された福岡発祥のフェスティバル)も、Fukuoka Growth Next(福岡市の官民共働型スタートアップ支援施設)も、そうした官民の「ネイティブコミュニタリアン」たちが力を合わせたからこそ実現しました。僕はそう感じています。

 

――そうした福岡市の取り組みで、今、橋本さんが注目しているものはありますか?

近年、福岡市が諸外国(エストニア政府、ヘルシンキ市、台北市、台湾スタートアップハブ、サンフランシスコD-HAUS、フランス・ボルドー都市圏、ニュージーランド・オークランド市、そしてシンガポール政府)と取り交わしている、スタートアップ支援に関するMOU(基本合意書)ですね。これを民間が上手に活用できるようになると、グローバル化がしやすくなっていくのではないかと考えています。

デジトロポリスが切りひらくコミュニティの新たなかたち

――福岡のITコミュニティおよび産業が今後、さらに発展していくために必要なことを教えてください。

先ほど、「コミュニティ」とはモノ、コトありきでコミュニケーションできる場だと話しましたが、最近、コミュニティに参加し始めるようになった人の中には、そうしたファクト(実際に起こったコト、起こりつつあるコト)がないまま、「○○をやりたい」と言う人が増えてきているように感じます。このあたり、皆が、ファクトありきで話せるようになると、いろいろなことがスムーズに進むようになるんじゃないでしょうか。だから僕の主催しているコミュニティでは、「今度、一緒に何かやりましょう」とか「今度、飲みましょう」みたいなのはご遠慮いただいています(笑)。

 

――なるほど(笑)。

でも、真面目な話、そういうネイティブコミュニタリアンじゃない人とくっつくと、違う方向に進んでしまいそうで……。実際、才能はあるのに騙されてしまっている人は多いと思いますよ。たぶん本人は気がついていないと思うんですが……。

 

――今後、橋本さん自身が、新たに作ってみたいコミュニティはありますか?

ワールドワイドなコミュニティをオンラインでやれたら面白いと思っています。今まさに実験中である「デジトロポリス」という活動がそれに近いかな。これは、シリコンバレー(サンフランシスコ)や、テックシティ(ロンドン)を参考に、地域に別名を付けて、それをマーケティングに活用していこうというものなんですが……言い出してしばらく経つものの、今はまだあまり定着していない感じです。

 

――それはどういったところから発想されたんですか?

以前、福岡市が取り組んだ、「カワイイ区」(2012年から2015年まで実施された、「カワイイ」をテーマに福岡市の魅力を発信していくPRプロジェクト)がすごく良かったんですよ。ああいった取り組みをITの世界でもやりたいなって。バーチャルシティ(仮想都市)を作って、どこに居ても、同じ場所に居るという錯覚が生まれたら面白いんじゃないかって思っています。エストニアのデジタル政府みたいなやつをベースに。ぜひ、だれかやってください(笑)。

 

橋本正徳さんの写真

 

 

YuMake合同会社〜気象情報をより多くの人たちに活用してもらうために~

YuMake合同会社代表 佐藤拓也さん

YuMake合同会社代表 佐藤拓也さん

こちらの記事は、2017年3月にさくらのナレッジで公開された記事を再編集したものとなります。文●山下達也

さくらインターネットが注目するスタートアップ企業を紹介。今回紹介するのは、YuMake合同会社。IT対応への遅れが指摘されている国内気象業界に新風を吹き込む「YuMake Weather API」によって、中小企業でも気象情報を気軽に利用できるようにしました。その取り組みが見据える未来について、同社代表の佐藤拓也さんに語っていただきます。

気象情報をAPIで提供することで使い勝手を向上

——まずはYuMake合同会社がどういう会社なのかを教えていただけますか?

 

YuMake(ユメイク)合同会社は、気象、とりわけ「気象データ」に特化した企業です。天気情報や防災情報などをAPIの形で提供し、多くの方に使っていただくことを主たる目的としています。

 

YuMake(ユメイク)合同会社は、気象、とりわけ「気象データ」に特化した企業

具体的な取り組みについて

——具体的にはどういうことをやっているんですか?

 

YuMakeを含む民間の気象事業者は、基本的に気象業務支援センターという財団法人から気象庁のデータを購入し、それを活用して事業を展開します。予報会社なら、データに独自の見解を追加して天気予報を発信するなどといったかたちですね。

気象情報は、大きく分けて3つの分野に分類されます。天気予報、観測情報、防災情報です。天気予報では、今日・明日の天気予報や週間天気予報はもちろんのこと、緯度経度の位置情報に基づいた情報が取得できる、時系列天気予報も提供しています。観測の分野では、ひまわり8号による観測精度の向上に伴い、質の高いデータを入手できるようになりました。防災の分野では、注意報・警報、竜巻注意情報、土砂災害警戒情報などの防災情報も提供しています。

ただ、このデータはバイナリ形式や複雑なXMLで提供されており、専門外の方にはとても使いにくい、わかりにくいものになってしまっています。そこで我々はそれをJSONなど、誰でも使いやすい形式に変換して、「YuMake Weather API」と名付けて提供しています。

 

YuMake Weather API

 

気象情報を使いやすくするメリット

——とは言え、一般的な気象事業者は、そうしたバイナリ形式の気象データを扱う技術とノウハウを持っているわけですよね。それを「使いやすく」するとどういったメリットがあるんですか?

 

気象情報を必要としているのは何も気象事業者だけではありません。専門知識は持っていないけれど、自社サービスで気象情報を扱いたいという企業はとても多いんです。

中でも、今、一番多いのはスマートフォン向けアプリでの活用ですね。たとえば、一般社団法人イトナブの「クリンチノット」という釣りの釣果を記録するアプリで潮汐情報の取得などに「YuMake Weather API」を使っていただいています。

アプリ以外ですと「小樽運河クルーズ」という、運河周遊サービスを提供している会社のWebサイトでも我々のAPIを使っていただいています。こちらでは最新の天気情報をサイト上に埋め込むことでお客さんがそれを確認できるようにしています。

 

——なるほど! こうして例を挙げていただくと、天気の情報がさまざまなサービスで重要なものだということがわかります。それをいわゆる門外漢の人たちが使いやすいかたちで提供するというのには大きなビジネスの可能性を感じますね。ただ、であるなら、なぜ、そうしたサービスが今までなかったのか気になります。それこそ、何年も前からあってもおかしくないですよね。

 

気象業界って、データの収集や解析にスーパーコンピューターなどの最新技術を駆使しているわりに、データを提供するという面ではとても遅れているんです。データのやり取りをファイルベースで行うなんていうのは当り前。APIを提供するところまで行っている会社もあるにはあったんですが、送られてくるデータの形式がXMLだったり、とても使い勝手が悪かったんですね。また、料金も決して安価なものではありませんでした。

民間の気象予報会社から独立

——佐藤さんは、そのことにどのようにして気がつかれたんですか?

 

実は、私、前職が民間の気象予報会社だったんです。そこで、気象業界のIT面での遅れを何とかすべく、業界初のハッカソンを立ち上げるなどしていく中で、各種気象データをAPIを駆使して使いやすくすることにビジネスの種があると確信しました。それで約2年前に独立してYuMakeを立ち上げたというわけです。

 

——創業の地を大阪にした理由を教えてください。普通に考えると気象庁があって、お客さんも多そうな東京で起業するのがやりやすいと思うのですが……。

 

確かに大阪は、東京と比べて気象系の会社は少ないのですが、それゆえに優秀な人材が眠っている面もあり、それを活用できるのではないかと考えました。また、サービスを製造業で活用してもらうなら関西の方がやりやすいという狙いもありましたね。

加えて、私が奈良県の生駒市に住んでおり、そちらで「Code for Ikoma」という市民活動団体を立ち上げていたことも、関西にこだわった理由の1つ。これは地域課題をITで解決していこうという取り組みなのですが、こちらもずっと続けていきたかったんです。

 

——今、製造業での活用とおっしゃいましたが、さすがに製造業と気象の関係がよく分かりません。工場でものを作るのに天気が関係あるんですか?

 

多くの工場で、生産効率アップに気象情報が役立てられているんですよ。例えば、熱源管理に外気温の情報を活用するといった具合ですね。気象情報って、一般の人が想像するよりも広い範囲で使われているんです。

後は生産業ですね。飲食業界やアパレル業界では「ウェザーマーチャンダイジング」なんて言葉もあるくらい、気象情報が重視されています。先々の天候を踏まえて生産計画を立てるというのはもはや当り前のこと。今年の冬は早めに寒くなるから、秋冬物を前倒しで生産しようなどといった感じに活用されています。

大手企業などは、専任のエンジニアを雇用して、そうした分析を独自に行う事ができますが、中小企業ではそうもいきません。そうした方々に向けて手軽な選択肢を提供できるのも、YuMakeの強みと言えるでしょう。

 

——何年か後には、知らないうちに皆がYuMakeのサービスを利用していた、なんてことになりそうですね。

 

そうなるようにがんばります(笑)。

第2ステージでは「ビッグデータ分析」をテーマに

——YuMakeが創業して約2年が経過しました。現在の状況を教えてください。

 

おかげさまで、ユーザー数も少しずつ伸び始めています。先ほどご紹介した釣りアプリ「クリンチノット」や小樽運河クルーズを始め、いろいろなサービスでYuMakeのAPIを活用していただけるようになりました。

 

——お客さんはどのようにして見つけてくるんですか?

 

YuMakeの知名度を高めるという点では、弊社が積極的に協力しているさまざまなハッカソンが役立っています。総務省・株式会社野村総合研究所主催の社会実装型ハッカソン「まちつむぎ」や、「株式会社リクルートホールディングス主催の「MashupAwards」、KDDI総研主催の「Webとクルマのハッカソン」など、さまざまなハッカソンでYuMakeのAPIを試していただき、そこからユーザーが増えたということが実際に起きています。

昨年からはそこにさらに力を入れており、2016年11月にはさくらインターネット協賛のもと、「釣りとお天気でハッカソン」というイベントも実施しました。

ハッカソンの内容

——それはどういったものだったのでしょう?

 

株式会社YEBIS.XYZの提供するアプリ「釣果ノート」で蓄積した釣りのデータと、「YuMake Weather API」が提供する気象情報を使い、データ解析とサービス開発を行うというものです。実はこの「データ解析」は、YuMakeの第2ステージとでも言うべき重要なトライアル。お客さまの持っているデータと、我々が提供できる気象データを組み合わせることでビッグデータ的な活用ができないかを模索しているところです。

 

——もう少し詳しく教えてください。

 

先ほど生産業におけるウェザーマーチャンダイジングの話をしましたが、こうした未来予測って最終的には「勘」になってしまいがちですよね。でも、POSの結果などと気象情報を照らし合わせて、こういう天気の時に売れたなどということをロジック化できれば、勘に頼らない未来予測が可能になります。

現在の課題は、そうした活用に向けて、気象データをどう整備していくか。将来的には、YuMakeを、ビッグデータ分析用のAPIを提供している会社というふうに打ち出していきたいと思っています。

今後について

——ほか、今後に向けて、他にやっていることがありますか?

 

直近では、防災サービスとの連動強化を検討中です。これまでも気象情報に含まれる防災情報の提供をAPI経由で行っていたのですが、そこからユーザーへの通知については各社のアプリにお任せしていました。そこで、これを発砲直前まで、うちで作ってしまえないかと考えています。

もう少し先の展望では、気象庁のデータだけに頼らず、自分たちでもデータを取得・蓄積していくということをやっていきたいですね。実はすでに動き始めていて、全国各地に気象センサーを設置し始めています。今はまだ実験的段階ですが、将来的には分析に活用していければ……気象センサーがだいぶ低価格化してきているので、夢物語ではないはず。さくらインターネットの「さくらのIoT」にも期待しています。

 

YuMake合同会社

 

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YuMake合同会社

ウンログ株式会社~「うんち」の力でみんなを健康にしたい

ウンログ株式会社 代表取締役 田口 敬 氏

ウンログ株式会社 代表取締役 田口 敬さん

こちらの記事は、2017年1月にさくらのナレッジで公開された記事を再編集したものとなります。文●山下達也

さくらインターネットが注目するスタートアップ企業を紹介。今回紹介するウンログ株式会社は、なんと「うんち」の記録を専門に取り扱う超・個性派スタートアップです。きたない? くさい? いえいえ、うんちは今、ヘルスケア業界で世界的に注目されている存在なんですよ。

本記事では、ウンログ株式会社の取り組みについて、代表を務める田口敬さんにお話をうかがいました。

今、世界的に「うんち」の時代が来ている

――まずは「ウンログ」とはどんな会社なのかを教えてください。

ウンログは、その名の通り、うんちの状態を記録(ログ)するサービスを提供している会社です。スマホ向けのアプリ「ウンログ」を通じて、日々の健康・体調管理からダイエット、美肌対策までをサポートしています。

No1.快便アプリ「ウンログ」

――排便の記録を取ることが健康管理に繋がるんですか?

はい。健康や美容に直結する腸内環境を良い状態に保つことは毎日を気持ちよく過ごしていくために大切なこと。うんちの状態を記録することで、自然とこれを意識できるようにするのが「ウンログ」の目的です。ほか、ウンログではおしっこや、生理、体重、体脂肪、その日の気分なども記録できるようになっています。

健康に過ごせた日のうんちと、食べ過ぎたり、飲みすぎたりした翌日のうんちってやっぱり違うんですよね。それを観察していくことで、自分の健康状態に対する気付きを誘発できればな、と。ちなみに、私たちはこれを「観便」と呼んでいます。

“観便” ログ記録用の画面

“観便” ログ記録用の画面

――なるほど。でも、どうしてこういうサービスを始めようと思ったんですか?

個人的な話になるんですが、10年ほど前、二十歳くらいのころにアレルギーに悩まされるようになってしまったんです。それを何とかしようといろいろ試していく中で、腸内環境の改善に劇的な効果があることがわかりました。その「腸活」の経験が、後にウンログを立ち上げる原動力となっています。

 

――「観便」に続いてまた聞き慣れない単語が飛び出しましたね。「腸活」とは具体的にどういうことをするのですか?

正しい食事と運動、そして睡眠を心がけることです。例えば食事面では毎朝必ずたんぱく質と食物繊維を摂るようにしました。ゆでたまごとバナナヨーグルトといった具合です。それまでは好きなものを好きなだけ食べていたんですが、やっぱりそれだと体調が悪くなるんですよね(苦笑)。運動面ではヨガに通ったり、トライアスロンを始めてみたり、意識的に身体を動かすようにしています。

 

――そうして生まれた「ウンログ」の現在の状況を教えてください。

2012年にサービス開始して以来、順調にユーザー数を増やしており、現在は約50万人の方に使っていただいています。約9割が女性ユーザー、年代は10~70代と幅広く、ボリュームゾーンは20~30代ですね。

 

――美容がキーワードになっていることもあって、やはり若い女性が多いんですね。

そうですね。ですので、それを受けてアプリのUIなども徐々に女性を意識するようになっていきました。

 

――アプリのイメージキャラクターもすごく可愛いですよね。

ありがとうございます。実はこれ、私が描いているんですよ。

 

 

――ええっ? プロのイラストレーターさんに依頼しているんじゃないんですか?

もともと絵を描くのがすごく好きなんです。漫☆画太郎さんという漫画家の大ファンで、ずっと模写していたんですよ。だいぶ画風は違うんですけど、やたらうんちを描くところは影響がその影響かも知れません(笑)。

ウンログは完全に1人で立ち上げたサービスで、イラストのほか、プログラムからデザインなどまで最初は全て自分で作りました。当時はまだ法人化しておらず、あくまで副業としてやっていたので、そこまで費用をかけられなかったんですよ。

 

――現在は何人くらいで開発・運営しているんですか?

開発チームは私を含めて4名、会社としては10人のスタッフで回しています。

仕事中@かき小屋(左)、仕事中@オフィス(右上)、仕事中@電車の中(右下)

仕事中@かき小屋(左)、仕事中@オフィス(右上)、仕事中@電車の中(右下)

――創業(法人化)が2013年8月ということを考えるとかなりのハイペースですよね。マネタイズの方はどうなっているんですか?

サービス開始直後(2012年4月)、まだ法人化していなかったころは完全に広告依存でしたね。そこまで儲かっていたわけではなく、私がギリギリ生活できるくらいの収入だったんですが、ユーザー数が順調に伸びていたのでやっていけるだろう、と。

それでそれまで務めていた会社を辞めて、ウンログ一本でやっていく決断をしたのですが、ユーザー数の増加に比べて、思ったほど広告収入が伸びず、広告依存は危ないと思い始めました。慣れてくるとみんな広告をタップしてくれなくなるんですよ(笑)。

それで始めたのが物販です。ナチュラルに良いうんちを出そうということで玄米の販売を始めました。「若玄米」というちょっとレアな玄米を取り扱って、喜んでくださる方も多かったのですが、当時は発送も私がやっていたので、大変すぎてこちらも途中でやめてしまいました。現在も物販はやっていますが、基本的には外部のパートナー企業さんにお任せするかたちにしています。

 

――その手数料が現在の主な収入ということですか?

いいえ、現在の最大の収入源はそれらとは全く異なる「法人向けのサービス」になります。食品メーカーや製薬メーカーに、ウンログが持つうんちの情報、言わばビッグデータを提供することで、商品開発に役立ててもらうのです。

 

――うんちの情報が商品開発の役に立つんですか?

例えば製薬会社が腸の病気の薬を作りたいとしますよね。当然、たくさんのうんちを分析しなければいけないのですが、実はこれがすごく難しいんです。調子が悪く、病院にやってくる人のうんち情報は比較的集めやすいのですが、健康な人のうんちの情報を集める手段がありません。

 

――確かに!

その点、ウンログには50万人ものいろいろな属性のユーザーがいます。健康意識の高いユーザーにアプリで呼びかけてうんちを提供してもらったり、特定の食品を試用してもらってアンケートを採ったりといったことができるのです。ウンログはそのためのプラットフォームなんですね。

ほか、最近では腸内フローラ検査もスタートしており、そこでも収益が上がりつつあります。

腸内フローラのレポート

腸内フローラのレポート

――こうしてお伺いしてみると、うんちの情報を集めるって、ものすごい将来有望なビジネスのように思えてきました。

実はうんちの可能性については世界的に注目が集まっているんですよ。特に先進的な米国ではオバマ前大統領が何百億円も投資するなど、国家的なプロジェクトになっています。日本はまだまだこれからなのですが、これからビッグウェーブが間違いなくくると思います。

参考)Announcing the National Microbiome Initiative(whitehouse.gov)

アップルに「うんち」を認めさせた?

――ウンログの今後の目標について教えてください。

まずはウンログのユーザーをもっと増やしていきたいですね。現在は約50万人なのですが、気持ち的には日本人全員のうんちを集めたいくらいの気持ちでいます。うんちに市民権を与えたい(笑)。

 

――市民権ですか(笑)。

いや、実はこれ、今でこそ笑い話ですが、数年前まではかなり困らされていたんです。

 

――と言いますと?

iOS向けにアプリをリリースする際、うんちを扱うアプリであることが問題視されたことがあるんですよ。名前に「うんち」なんて入れたら一発アウトなのはもちろん、説明文にもうんちや排便といった言葉を使わせてもらえなかったんです。キャラクターがうんちっぽいとリジェクトされてしまったこともありますね。

アプリの趣旨をきちんと説明しても全然ダメで、一度はアップルまで直談判に行ったこともあります。似たようなことをやっている他の会社もかなり苦しめられたと聞いています。結果、iOSだけアプリがないなんてこともあったようです。

 

――アップルのアプリ審査の厳しさは有名ですよね。

ただ、そんな中でも地道にやってきたことが評価されたのか、米国でうんちに注目が集まるようになったからなのか、最近はやっと理解してもらえるように。市民権が認められつつあるのかなと思っています。

 

――ウンログのおかげかも知れませんね(笑)。

この流れをさらに加速させるために、昨年末に赤ちゃん向けの新しいアプリをリリースしました。その名も「Babyうんち」。赤ちゃんのうんちをカメラで撮影し、それをクラウド上で画像解析するというアプリです。画像解析エンジンは聖路加国際大学との協業で開発しており、赤ちゃんの病気を早期発見することを目指しています。

 

――うんち画像の解析というのはウンログにもない機能ですね。ぜひ、赤ちゃんと言わず、大人向けにも提供してください。

それはすごくやりたいと思っています。ただ、うんちを障害物なしで写真に撮れるのって、オムツをしている子供と老人だけなんですよ。大人の場合、どうしてもトイレにうんちをすることになりますから画像解析が難しくなっちゃうんです。その辺りは今後の課題ですね。

その上で、今後はやっぱり「菌」にフォーカスしていきたい。腸内フローラ検査をさらに多くの人に試して頂くなど、この方面も伸ばしていきたいと考えています。

 

■関連リンク
ウンログ株式会社

 

田口氏の写真

 

株式会社ストロボライト~ボタニカルライフメディア「LOVEGREEN」の野望とは?

株式会社ストロボライト 代表取締役 石塚秀彦さん

株式会社ストロボライト 代表取締役 石塚秀彦さん

こちらの記事は、2017年4月にさくらのナレッジで公開された記事を再編集したものとなります。文●山下達也

さくらインターネットが注目するスタートアップ企業を紹介。今回ご登場いただいたのは、“植物と暮らしを豊かに。”をコンセプトとするボタニカルライフメディア「LOVEGREEN」を運営している 株式会社ストロボライト の皆さん。約4年前までは、植物の知識もほとんどなかったという石塚さんがなぜ、この業界に飛び込んだのかを聞いてきました。

「LOVEGREEN」をきっかけに園芸業界を拡大・活性化させたい

――始めに、ストロボライトの事業内容について教えてください。

株式会社ストロボライトは2012年7月創業で、最初の3期は広告代事業をメインでやっていました。ところが、そこで私個人が「植物」に目覚めてしまい、大きく事業内容を変更することになります。まず、2015年9月に「LOVEGREEN」というWebメディアを軸に、ベンチャーキャピタルなどから資金調達を行いました。2016年11月にも約1.4億円の資金調達を行い、今年2月には園芸フリーペーパー「Botapii[ボタピー] by LOVEGREEN」を創刊、2017年4月にはお庭やインドアグリーンの施工・仲介を行う「“みどりと暮らす。” MIDOLAS[ミドラス]」をリリース、“植物と暮らしを豊かに。”を事業コンセプトに各サービスを展開しています。

 

――広告事業から植物のWebメディアというのはかなり大胆な方針変更ですね。何かきっかけがあったんですか?

4年ほど前に新居に引っ越したのですが、日当たりが良い物件だったので妻から観葉植物を置きたいという要望があったんです。でも、当時の私は植物について全く知識がなく……それまでも何度かインテリアとして観葉植物を買ったことがあったんですが、手入れが簡単なものを2度も根腐れさせてしまうような有様でして(苦笑)。Webでもいろいろ調べてみたんですが、当時は、「時代にあった園芸の情報」を「時代に合う形で配信」できているサイトがほとんど存在していなかったんですよ。

そこで、ふと、植物って生活に密着している割に、距離を感じることが多いと気がつきました。花屋さんで売っていないような植物はどこで買えば良いのか、庭の手入れを専門家にお願いしたい時に誰に頼めばいいのかとか、ビジネスシーンでもお祝いの花をどこにお願いすればいいのか、もらった時にどうすればいいのかとか、とにかく分からないことだらけなんですよね。

 

――言われてみればそうですね。

それが「LOVEGREEN」を立ち上げた直接のきっかけです。調べてみると、園芸業界の市場規模は約1兆円もあり、年間で約3,000万人がお金を使っているそうです。さらに、庭やエクステリアまで広げると約1.6兆円ほどの市場があると言われているそうです。それなのにWebがほとんど活用されていない。飲食業界における「ぐるなび」や「食べログ」のような、市場を活性化させるようなサービスも当時は存在していませんでした。

 

――そこにビジネスチャンスがあると考えたんですね。

はい、その通りです。ただ、そういう計算だけでなく、純粋に植物が好きになってしまったからという側面ももちろんあります。新居には結局、ウンベラータという葉っぱがハート型の観葉植物を買ったんですが、これがとても可愛くて。ちょっと元気がないのでお水をあげたら翌朝、ぴーんと元気になるんですよ。こういうのを見ていると「ああ、生きているんだな!」ってキュンキュンしちゃいますね(笑)。同時に、植物が正しい扱いをされずに枯れてしまうのをとても悲しく思うようになりました。

石塚氏の写真

――そうして「LOVEGREEN」を立ち上げたんですね。でも当初のコンテンツ制作はどうしていたんですか?

当初のコンテンツ制作はほぼ私1人でやっていました。この業界のプロの方々とやり合っていくために、自分自身に知識と経験が必要だと考えたからです。この頃は、毎日、園芸店を回ったり、自分で植物の手入れをするなどして、育て方を学んでいきました。

その後、現役の花屋さんや農業大学出身の方々などが、園芸業界の発展のためにということでお手伝いをしてくださるようになって……以降も紆余曲折あったのですが、2016年の春ごろには、今の編集部の体裁が整いました。

 

――ちなみに「LOVEGREEN」というサイト名にはどういう意図があるのですか?

キャッチーで、ビッグワードで、とにかく分かりやすい名前にしたかったんです。辞書で調べないと分からない言葉ではなく、誰にでも通じる名称にすることで、すそ野を広げたいという気持ちが大きかったですね。

あと大事なのは「趣味」というワード、ニュアンスを入れなかったこと。これまでの植物メディアって趣味の方向にフォーカスしたものが圧倒的に多かったのですが、「LOVEGREEN」はその方向ではないと考えていました。

 

――と、言いますと?

これまでの趣味の中での“園芸”というものは、植物の“育成”にフォーカスされ、ストイックな姿勢で取り組むものであると認識をしています。しかし、「LOVEGREEN」では園芸に“暮らし”という要素を追加して情報を発信しています。70〜90年代の園芸と違い、いまの時代の園芸は、家の中の生活空間でもどのように植物と共存していけるかがテーマになってきているのではないかと考えているからです。

また、これまで、切り花(生花店)、鉢物(園芸店)、庭(造園)の3つの領域は、業界側でも縦割りになっており、まったく消費者側の視点に立って情報配信ができていなかったのです。僕が成し遂げたいと思っているのは、園芸業界の活性化と市場規模の拡大です。その課題解決をするためにも、困っている消費者と、知識・技術を持った職人さんや商材をどのようにマッチングさせることができるのかをずっと考えています。

冒頭でもお話ししたよう、この業界にはいろいろと“旧態依然”としたところがあります。まずは「LOVEGREEN」というWEBメディアで情報の流れに変化を起こし、小売店に設置されたフリーペーパー「Botapii」でコアファンを定着させ、園芸のプロ集団である「MIDOLAS」で課題を解決していくことを目指しています。

「LOVEGREEN」は他の植物・園芸メディアとはひと味違う!?

石塚氏の写真

――現在の「LOVEGREEN」のコンテンツの方向性について教えてください。

「LOVEGREEN」では、各植物の「育て方」「管理の仕方」「飾り方」の3つを基本に情報を配信を行っています。特に植物については、「育て方」が圧倒的に検索され、読まれるコンテンツでもあります。

その上で、植物との暮らしにフォーカスしたコンテンツも配信を行っており、「実際にやってみた」シリーズとして「DIY」や「料理」などのジャンルも情報を配信しています。

アンケートの結果によると、「LOVEGREEN」閲覧者の約8割がインテリアに、約7割がDIYに、約6割が料理に興味があることが分かっています。これらと園芸との組みあわせに興味を持っている人が我々の読者なんですよ。

 

――“園芸だけ”ではないんですね。

実は国内の園芸トレンドって、20年おきくらいに切りかわっているんです。1970年代のガーデニングブームは庭を使った家庭菜園のことだったんですが、1990年代になるとベランダガーデニングという新しい流れが生まれます。そしてそれが2010年代にはインドアへ。リビングやキッチンなどの生活空間に植物が入って来るようになるんですね。ミーハーな言い方では「ボタニカルライフ」なんて言うんですが、それは植物だけでなく、インテリアなども含めた盛り上がりなんですよ。そういうことも含めて情報を提供しています。

 

――反響はいかがですか?

40代前半の主婦層を中心に読者が増えているのはもちろん、プロの方たちからの評判も上々です。園芸店や生花店、ホームセンターに行った際に「いつも読んでいます」とお声がけ頂くことも増えており、最近では生産者の方から連絡を頂くことも増えています。

 

――それは凄いですね!

園芸業界のベテランの方々からも注目してもらえていることは本当に嬉しいことです。園芸に関する現役のプロ、元プロ、変態的な趣味家のメンバーで毎日記事を書いているので、記事のレベルは高いと自負しています。

植物の世界はとても奥が深いですから、一見すると同じような記事に見えても、見る人が見れば分かるんですよ。例えば、桜の記事があったとして、正しい知識がないと、その桜は何という品種なのか、写っているものが正しい品種なのかもわかりません。

また、他のサービスとの決定的な違いは、インテリアとしての植物と、園芸としての植物をきちんと切り分けていること。実は、これをきちんと理解した上で情報を配信できているメディアは少ないと思います。同じ植物でもこの2つは大きく異なるんです。前者は「飾る」もの、後者は「育てる」ものですから。

そして、その上で、多くのメディアが「育てる」まで届いていません。素敵な観葉植物をお部屋において、そこで満足してしまうんです。実際、記事ではそれでも成立してしまいますからね。でも、植物は生きていますから、そこから先がある。ちゃんと育て方を学ばないと、かつての私のようにすぐに枯らしてしまって、結果的に植物と距離を置いてしまうことになりかねません。それは良くないことですよね。

 

――「LOVEGREEN」なら、そこも含めてきちんと知る事ができるというのは、大きなアドバンテージだと思います。

はい、そして、その上で、あまりマニアックにならないようには気をつけています。編集部には本物の植物好きが集まっているので、油断するとそっちに行ってしまいがちなのですが(笑)、そこはグッとこらえて、初心者の方、より多くの方が必要とする情報を優先的に制作するようにしています。

 

――そんな「LOVEGREEN」の運営において、さくらインターネットがどのようにお役に立てているかを教えていただけますか?

それについては、弊社の技術周りを取り仕切っている川上と寺山がお答えしますね。

 

川上さん:「LOVEGREEN」オープン当初はVPS1台でサービスを提供していましたが、負荷状況にあわせて、現在は全面クラウド型に移行しています。移行時に他社とも比較してみましたが、VPSからの移行ツールを用意していたこと、スタートアップ支援があったことから、さくらインターネットを選びました。

 

寺山さん:また、今後のメディア拡大にあわせ、次世代のサーバー環境を検討してみましたが、さくらインターネットは、スペックや環境含めて驚きのコストパフォーマンスで、そのまま継続利用する事を決めています。

「LOVEGREEN」以外でも、新規サービスとしてフリーペーパー事業の「Botapii」を立ち上げましたが、フロント及びバックエンドシステムを、拡張性のあるサーバ環境ですぐに構築できましたので、とても助かりました。さくらインターネットは、既に弊社にとってはなくてはならない存在です。

 

――今後、システム面で取り組んでみたいことがありましたら教えてください。

川上さん:現在は一部CGM化しておりますが、今後はもっと花・園芸業界の人が頑張った分だけ活躍できる場を提供していきたいですし、ユーザーも花・園芸業界の方も、さらに便利で使えるサービスにしていきたいです。

川上氏・寺山氏の写真

株式会社ストロボライト 取締役/COO川上睦生さん(左)、開発事業部/マネージャー寺山昭夫さん(右)

■関連リンク

株式会社ストロボライト

LOVEGREEN