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福岡ITコミュニティのキーマン・橋本正徳さんが語る、福岡がITスタートアップの街として成功したワケ、そしてこれから

株式会社ヌーラボの創業社長・橋本正徳さんの写真

こちらの記事は、2017年12月にさくらのナレッジで公開された記事を再編集したものとなります。文●村上純志

2001年のGMOペパボ創業(当時の社名は合資会社マダメ企画)など、2000年代初頭からITスタートアップの街としても知られるようになった九州・福岡の地。2014年には新興ベンチャー企業を支援する国家戦略特区に指定されるなど、その勢いをさらに加速しています。

しかし、東京から遠く離れた福岡の地で、なぜIT産業・コミュニティが定着したのでしょうか? ここではその「理由」を、福岡発で最も成功したITスタートアップの1つとされる株式会社ヌーラボの創業社長である橋本正徳さんに語っていただきました。

 

ヌーラボ

ヌーラボとは

ユーザー数が日本最大規模のプロジェクト管理ツール「Backlog」や、世界100カ国を超えて使われているビジュアルコラボレーションツール「Cacoo」、福岡市の「トライアル優良商品」に認定されたビジネスディスカッションツール「Typetalk」など、あらゆるチームのコミュニケーションを支援するサービスを提供する、2004年創業のITベンチャー。現在も創業の地・福岡に本社機能を置きつつ、東京、京都、ニューヨーク、シンガポール、そしてオランダに拠点を展開している。

2000年代以降、急激に活性化した福岡ITコミュニティ

――まずは、福岡のITコミュニティの成り立ちについて教えてください。

90年代以前に福岡にITコミュニティがなかったというわけではありませんが、現在に繋がる盛り上がりの“源泉”となったのは、2003年に発足したAIP(当時の名称は「高度IT人材アカデミー」)だったと思います。ただ、AIPは業務系テクノロジー畑(SIer)の人たちが中心となったコミュニティだったため、個人的にはそれをもう少し拡げたいという気持ちがありました。そんな中、AIPが「AIPコミュニティ」というものを立ち上げて、そのコミュニティ主催で2006年9月8日におこなわれた、 AIPコミュニティ1周年記念イベントで、コミュニティをもっと当たり前のものにしていこうというプレゼンをおこなったところ、多くの人がそれに賛同してくれて、多種多様なIT系コミュニティが立ち上がり始めたという経緯があります。

 

橋本正徳さんの写真

 

――なぜ、この際、「多くに人がそれに賛同して」くれたのでしょうか?

それまでブログ中心だった個人の情報発信が、mixiなどのオンラインコミュニティに移行して、“つながり”を産みやすくなったことが最大の理由だと思っています。まず、ネットで仲良くなって、それから、オフラインで実際に会おうということになって、そして「(そういうコミュニティが)あったら良いよね」と盛り上がっていったんです。

 

――それを受けて2007年に橋本さんが立ち上げたのが「FWW(福岡で働くWebの人々)」だったんですね。

はい。FWW(福岡で働くWebの人々)はその名の通り、福岡でWeb制作をおこなっている人たちの集まりです。福岡のWeb制作現場をより楽しくすること、福岡で働くWebの人々の交流を活発にすることを目的にセミナー、ワークショップ、勉強会、懇親会などのイベントをおこなっていました。当時のAIPコミュニティーのコアメンバーと話して、プログラマーだけでなく、デザイナーも巻き込んでいくことでコミュニティを一般化していこうと目論んでいたのです。クリエイターが語り合うことで、第三者が値付けができないくらいの価値があることをドライブしていきたいな、と。ちなみに、ネーミングはSEOを意識しました。

 

――FWWの存在がきっかけとなって、福岡のITコミュニティ、そして産業が活性化していったのは間違いのないところだと思います。そうした事情を知らない人の中には誤解している方もいらっしゃいますが、今の福岡の盛り上がりは、突発的なものではなく、2000年代初頭からの小さな積み重ねによってできたものなんですよね。そして、現在はどうでしょうか。FWW立ち上げから10年以上経過しましたが、橋本さんは福岡の現状をどのように評価されていますか?

目的の1つとしていた、一般化にはある程度成功しているのではないかと思います。ただ、残念ながら、当初狙っていた、“高度なプログラマー”と“高度なデザイナー”が交わることによる“スパーク”は思っていたほど起こりませんでしたね。今は炭酸の抜けたコーラのようになってしまって……(笑)。もっとも、それが「一般化」ということなのかもしれませんが。

 

――一定の目的は果たしたが「大成功」ではなかった?

そうかもしれません。ただ、個人としては10年前の志を今なお持ち続けています。今は、プログラマーやデザイナーではない一般の人でも“コト”というかたちで何かを生み出せるようになりました。そうした時代だからこそ、名刺交換などの社交辞令から生まれるコミュニケーションではなく、取り組んでいるモノ、コトありきで交流できるコミュニティの存在が重要なのではないでしょうか。

 

――それらとは別に、橋本さん個人が得たものはありますか?

一連の活動を通じて、人のモチベーションの正体、人が動く仕組みみたいなものを知る事ができたのは勉強になったと思っています。正直、僕らの注目しているコミュニティー活動というものはお金にならない取り組みなのに、知的欲求だったり、承認欲求だったり、あるいは単に飲み友達が欲しいとか、単に地域を盛り上げたいという理由でたくさんの人が繋がっていくのが興味深かったですね。それがその後の仕事に活きた面はあると思っています。

「行政」がコミュニティ形成に果たした役割

――続いて、福岡のITコミュニティ形成について、行政の果たした役割を教えてください。

コミュニティは、根っからコミュニティな人である「ネイティブコミュニタリアン」同士が自然と惹かれ合って生み出すものだと考えています。そこに関わる行政についても、彼らが同様にネイティブコミュニタリアンであるかが大事です。

 

橋本正徳さんの写真

 

――その点において、福岡市はいかがでしたか? 僕個人の印象では福岡市には「ネイティブコミュニタリアン」な人が多いように感じます。また、他県から来た方に「福岡市は行政との距離感が近い」と言われることも多い気がします。

そうですね。確かにその通りだと思います。福岡は今、行政と民間の間で上手にバランスをとって、起業家やスタートアップ企業が育ちやすい環境を築いています。この事実だけみても、コミュニティの発展に行政が大きく貢献していることは間違いないと言えるでしょうね。ただ、これ、職業や立場で区切ってしまうと誤解されてしまうかも知れません。行政と民間という分け方ではなく、コミュニティに対する考え方や接し方でクラスタリングすると分かりやすくなるんじゃないでしょうか。

 

――どういうことですか?

福岡市の一連の取り組みは、「行政」と「民間」という違う立場の人たちが手を組んだのではなく、双方に存在する「ネイティブコミュニタリアン」たちが一緒になって実現したという理解が正しい。だから距離が「近い」という表現は、実はあまり正確ではありません。福岡市の職員も、ITコミュニティを構成している人たちも、立場は違えど「同じ志や興味関心を持った人たち」なんです。「距離が近い」のではなく「同一組織」と捉えると分かりやすいかもしれません。明星和楽(「テクノロジーとクリエイティブに関わる人が集まる」ことを目的に、2011年に開始された福岡発祥のフェスティバル)も、Fukuoka Growth Next(福岡市の官民共働型スタートアップ支援施設)も、そうした官民の「ネイティブコミュニタリアン」たちが力を合わせたからこそ実現しました。僕はそう感じています。

 

――そうした福岡市の取り組みで、今、橋本さんが注目しているものはありますか?

近年、福岡市が諸外国(エストニア政府、ヘルシンキ市、台北市、台湾スタートアップハブ、サンフランシスコD-HAUS、フランス・ボルドー都市圏、ニュージーランド・オークランド市、そしてシンガポール政府)と取り交わしている、スタートアップ支援に関するMOU(基本合意書)ですね。これを民間が上手に活用できるようになると、グローバル化がしやすくなっていくのではないかと考えています。

デジトロポリスが切りひらくコミュニティの新たなかたち

――福岡のITコミュニティおよび産業が今後、さらに発展していくために必要なことを教えてください。

先ほど、「コミュニティ」とはモノ、コトありきでコミュニケーションできる場だと話しましたが、最近、コミュニティに参加し始めるようになった人の中には、そうしたファクト(実際に起こったコト、起こりつつあるコト)がないまま、「○○をやりたい」と言う人が増えてきているように感じます。このあたり、皆が、ファクトありきで話せるようになると、いろいろなことがスムーズに進むようになるんじゃないでしょうか。だから僕の主催しているコミュニティでは、「今度、一緒に何かやりましょう」とか「今度、飲みましょう」みたいなのはご遠慮いただいています(笑)。

 

――なるほど(笑)。

でも、真面目な話、そういうネイティブコミュニタリアンじゃない人とくっつくと、違う方向に進んでしまいそうで……。実際、才能はあるのに騙されてしまっている人は多いと思いますよ。たぶん本人は気がついていないと思うんですが……。

 

――今後、橋本さん自身が、新たに作ってみたいコミュニティはありますか?

ワールドワイドなコミュニティをオンラインでやれたら面白いと思っています。今まさに実験中である「デジトロポリス」という活動がそれに近いかな。これは、シリコンバレー(サンフランシスコ)や、テックシティ(ロンドン)を参考に、地域に別名を付けて、それをマーケティングに活用していこうというものなんですが……言い出してしばらく経つものの、今はまだあまり定着していない感じです。

 

――それはどういったところから発想されたんですか?

以前、福岡市が取り組んだ、「カワイイ区」(2012年から2015年まで実施された、「カワイイ」をテーマに福岡市の魅力を発信していくPRプロジェクト)がすごく良かったんですよ。ああいった取り組みをITの世界でもやりたいなって。バーチャルシティ(仮想都市)を作って、どこに居ても、同じ場所に居るという錯覚が生まれたら面白いんじゃないかって思っています。エストニアのデジタル政府みたいなやつをベースに。ぜひ、だれかやってください(笑)。

 

橋本正徳さんの写真

 

 

編集

さくマガ編集部

さくらインターネット株式会社が運営するオウンドメディア「さくマガ」の編集部。

※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。

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