ウンログ株式会社~「うんち」の力でみんなを健康にしたい

ウンログ株式会社 代表取締役 田口 敬 氏

ウンログ株式会社 代表取締役 田口 敬さん

こちらの記事は、2017年1月にさくらのナレッジで公開された記事を再編集したものとなります。文●山下達也

さくらインターネットが注目するスタートアップ企業を紹介。今回紹介するウンログ株式会社は、なんと「うんち」の記録を専門に取り扱う超・個性派スタートアップです。きたない? くさい? いえいえ、うんちは今、ヘルスケア業界で世界的に注目されている存在なんですよ。

本記事では、ウンログ株式会社の取り組みについて、代表を務める田口敬さんにお話をうかがいました。

今、世界的に「うんち」の時代が来ている

――まずは「ウンログ」とはどんな会社なのかを教えてください。

ウンログは、その名の通り、うんちの状態を記録(ログ)するサービスを提供している会社です。スマホ向けのアプリ「ウンログ」を通じて、日々の健康・体調管理からダイエット、美肌対策までをサポートしています。

No1.快便アプリ「ウンログ」

――排便の記録を取ることが健康管理に繋がるんですか?

はい。健康や美容に直結する腸内環境を良い状態に保つことは毎日を気持ちよく過ごしていくために大切なこと。うんちの状態を記録することで、自然とこれを意識できるようにするのが「ウンログ」の目的です。ほか、ウンログではおしっこや、生理、体重、体脂肪、その日の気分なども記録できるようになっています。

健康に過ごせた日のうんちと、食べ過ぎたり、飲みすぎたりした翌日のうんちってやっぱり違うんですよね。それを観察していくことで、自分の健康状態に対する気付きを誘発できればな、と。ちなみに、私たちはこれを「観便」と呼んでいます。

“観便” ログ記録用の画面

“観便” ログ記録用の画面

――なるほど。でも、どうしてこういうサービスを始めようと思ったんですか?

個人的な話になるんですが、10年ほど前、二十歳くらいのころにアレルギーに悩まされるようになってしまったんです。それを何とかしようといろいろ試していく中で、腸内環境の改善に劇的な効果があることがわかりました。その「腸活」の経験が、後にウンログを立ち上げる原動力となっています。

 

――「観便」に続いてまた聞き慣れない単語が飛び出しましたね。「腸活」とは具体的にどういうことをするのですか?

正しい食事と運動、そして睡眠を心がけることです。例えば食事面では毎朝必ずたんぱく質と食物繊維を摂るようにしました。ゆでたまごとバナナヨーグルトといった具合です。それまでは好きなものを好きなだけ食べていたんですが、やっぱりそれだと体調が悪くなるんですよね(苦笑)。運動面ではヨガに通ったり、トライアスロンを始めてみたり、意識的に身体を動かすようにしています。

 

――そうして生まれた「ウンログ」の現在の状況を教えてください。

2012年にサービス開始して以来、順調にユーザー数を増やしており、現在は約50万人の方に使っていただいています。約9割が女性ユーザー、年代は10~70代と幅広く、ボリュームゾーンは20~30代ですね。

 

――美容がキーワードになっていることもあって、やはり若い女性が多いんですね。

そうですね。ですので、それを受けてアプリのUIなども徐々に女性を意識するようになっていきました。

 

――アプリのイメージキャラクターもすごく可愛いですよね。

ありがとうございます。実はこれ、私が描いているんですよ。

 

 

――ええっ? プロのイラストレーターさんに依頼しているんじゃないんですか?

もともと絵を描くのがすごく好きなんです。漫☆画太郎さんという漫画家の大ファンで、ずっと模写していたんですよ。だいぶ画風は違うんですけど、やたらうんちを描くところは影響がその影響かも知れません(笑)。

ウンログは完全に1人で立ち上げたサービスで、イラストのほか、プログラムからデザインなどまで最初は全て自分で作りました。当時はまだ法人化しておらず、あくまで副業としてやっていたので、そこまで費用をかけられなかったんですよ。

 

――現在は何人くらいで開発・運営しているんですか?

開発チームは私を含めて4名、会社としては10人のスタッフで回しています。

仕事中@かき小屋(左)、仕事中@オフィス(右上)、仕事中@電車の中(右下)

仕事中@かき小屋(左)、仕事中@オフィス(右上)、仕事中@電車の中(右下)

――創業(法人化)が2013年8月ということを考えるとかなりのハイペースですよね。マネタイズの方はどうなっているんですか?

サービス開始直後(2012年4月)、まだ法人化していなかったころは完全に広告依存でしたね。そこまで儲かっていたわけではなく、私がギリギリ生活できるくらいの収入だったんですが、ユーザー数が順調に伸びていたのでやっていけるだろう、と。

それでそれまで務めていた会社を辞めて、ウンログ一本でやっていく決断をしたのですが、ユーザー数の増加に比べて、思ったほど広告収入が伸びず、広告依存は危ないと思い始めました。慣れてくるとみんな広告をタップしてくれなくなるんですよ(笑)。

それで始めたのが物販です。ナチュラルに良いうんちを出そうということで玄米の販売を始めました。「若玄米」というちょっとレアな玄米を取り扱って、喜んでくださる方も多かったのですが、当時は発送も私がやっていたので、大変すぎてこちらも途中でやめてしまいました。現在も物販はやっていますが、基本的には外部のパートナー企業さんにお任せするかたちにしています。

 

――その手数料が現在の主な収入ということですか?

いいえ、現在の最大の収入源はそれらとは全く異なる「法人向けのサービス」になります。食品メーカーや製薬メーカーに、ウンログが持つうんちの情報、言わばビッグデータを提供することで、商品開発に役立ててもらうのです。

 

――うんちの情報が商品開発の役に立つんですか?

例えば製薬会社が腸の病気の薬を作りたいとしますよね。当然、たくさんのうんちを分析しなければいけないのですが、実はこれがすごく難しいんです。調子が悪く、病院にやってくる人のうんち情報は比較的集めやすいのですが、健康な人のうんちの情報を集める手段がありません。

 

――確かに!

その点、ウンログには50万人ものいろいろな属性のユーザーがいます。健康意識の高いユーザーにアプリで呼びかけてうんちを提供してもらったり、特定の食品を試用してもらってアンケートを採ったりといったことができるのです。ウンログはそのためのプラットフォームなんですね。

ほか、最近では腸内フローラ検査もスタートしており、そこでも収益が上がりつつあります。

腸内フローラのレポート

腸内フローラのレポート

――こうしてお伺いしてみると、うんちの情報を集めるって、ものすごい将来有望なビジネスのように思えてきました。

実はうんちの可能性については世界的に注目が集まっているんですよ。特に先進的な米国ではオバマ前大統領が何百億円も投資するなど、国家的なプロジェクトになっています。日本はまだまだこれからなのですが、これからビッグウェーブが間違いなくくると思います。

参考)Announcing the National Microbiome Initiative(whitehouse.gov)

アップルに「うんち」を認めさせた?

――ウンログの今後の目標について教えてください。

まずはウンログのユーザーをもっと増やしていきたいですね。現在は約50万人なのですが、気持ち的には日本人全員のうんちを集めたいくらいの気持ちでいます。うんちに市民権を与えたい(笑)。

 

――市民権ですか(笑)。

いや、実はこれ、今でこそ笑い話ですが、数年前まではかなり困らされていたんです。

 

――と言いますと?

iOS向けにアプリをリリースする際、うんちを扱うアプリであることが問題視されたことがあるんですよ。名前に「うんち」なんて入れたら一発アウトなのはもちろん、説明文にもうんちや排便といった言葉を使わせてもらえなかったんです。キャラクターがうんちっぽいとリジェクトされてしまったこともありますね。

アプリの趣旨をきちんと説明しても全然ダメで、一度はアップルまで直談判に行ったこともあります。似たようなことをやっている他の会社もかなり苦しめられたと聞いています。結果、iOSだけアプリがないなんてこともあったようです。

 

――アップルのアプリ審査の厳しさは有名ですよね。

ただ、そんな中でも地道にやってきたことが評価されたのか、米国でうんちに注目が集まるようになったからなのか、最近はやっと理解してもらえるように。市民権が認められつつあるのかなと思っています。

 

――ウンログのおかげかも知れませんね(笑)。

この流れをさらに加速させるために、昨年末に赤ちゃん向けの新しいアプリをリリースしました。その名も「Babyうんち」。赤ちゃんのうんちをカメラで撮影し、それをクラウド上で画像解析するというアプリです。画像解析エンジンは聖路加国際大学との協業で開発しており、赤ちゃんの病気を早期発見することを目指しています。

 

――うんち画像の解析というのはウンログにもない機能ですね。ぜひ、赤ちゃんと言わず、大人向けにも提供してください。

それはすごくやりたいと思っています。ただ、うんちを障害物なしで写真に撮れるのって、オムツをしている子供と老人だけなんですよ。大人の場合、どうしてもトイレにうんちをすることになりますから画像解析が難しくなっちゃうんです。その辺りは今後の課題ですね。

その上で、今後はやっぱり「菌」にフォーカスしていきたい。腸内フローラ検査をさらに多くの人に試して頂くなど、この方面も伸ばしていきたいと考えています。

 

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