こちらの記事は、2017年3月にさくらのナレッジで公開された記事を再編集したものとなります。文●山下達也
さくらインターネットが注目するスタートアップ企業を紹介。今回紹介するのは、YuMake合同会社。IT対応への遅れが指摘されている国内気象業界に新風を吹き込む「YuMake Weather API」によって、中小企業でも気象情報を気軽に利用できるようにしました。その取り組みが見据える未来について、同社代表の佐藤拓也さんに語っていただきます。
気象情報をAPIで提供することで使い勝手を向上
——まずはYuMake合同会社がどういう会社なのかを教えていただけますか?
YuMake(ユメイク)合同会社は、気象、とりわけ「気象データ」に特化した企業です。天気情報や防災情報などをAPIの形で提供し、多くの方に使っていただくことを主たる目的としています。
具体的な取り組みについて
——具体的にはどういうことをやっているんですか?
YuMakeを含む民間の気象事業者は、基本的に気象業務支援センターという財団法人から気象庁のデータを購入し、それを活用して事業を展開します。予報会社なら、データに独自の見解を追加して天気予報を発信するなどといったかたちですね。
気象情報は、大きく分けて3つの分野に分類されます。天気予報、観測情報、防災情報です。天気予報では、今日・明日の天気予報や週間天気予報はもちろんのこと、緯度経度の位置情報に基づいた情報が取得できる、時系列天気予報も提供しています。観測の分野では、ひまわり8号による観測精度の向上に伴い、質の高いデータを入手できるようになりました。防災の分野では、注意報・警報、竜巻注意情報、土砂災害警戒情報などの防災情報も提供しています。
ただ、このデータはバイナリ形式や複雑なXMLで提供されており、専門外の方にはとても使いにくい、わかりにくいものになってしまっています。そこで我々はそれをJSONなど、誰でも使いやすい形式に変換して、「YuMake Weather API」と名付けて提供しています。
気象情報を使いやすくするメリット
——とは言え、一般的な気象事業者は、そうしたバイナリ形式の気象データを扱う技術とノウハウを持っているわけですよね。それを「使いやすく」するとどういったメリットがあるんですか?
気象情報を必要としているのは何も気象事業者だけではありません。専門知識は持っていないけれど、自社サービスで気象情報を扱いたいという企業はとても多いんです。
中でも、今、一番多いのはスマートフォン向けアプリでの活用ですね。たとえば、一般社団法人イトナブの「クリンチノット」という釣りの釣果を記録するアプリで潮汐情報の取得などに「YuMake Weather API」を使っていただいています。
アプリ以外ですと「小樽運河クルーズ」という、運河周遊サービスを提供している会社のWebサイトでも我々のAPIを使っていただいています。こちらでは最新の天気情報をサイト上に埋め込むことでお客さんがそれを確認できるようにしています。
——なるほど! こうして例を挙げていただくと、天気の情報がさまざまなサービスで重要なものだということがわかります。それをいわゆる門外漢の人たちが使いやすいかたちで提供するというのには大きなビジネスの可能性を感じますね。ただ、であるなら、なぜ、そうしたサービスが今までなかったのか気になります。それこそ、何年も前からあってもおかしくないですよね。
気象業界って、データの収集や解析にスーパーコンピューターなどの最新技術を駆使しているわりに、データを提供するという面ではとても遅れているんです。データのやり取りをファイルベースで行うなんていうのは当り前。APIを提供するところまで行っている会社もあるにはあったんですが、送られてくるデータの形式がXMLだったり、とても使い勝手が悪かったんですね。また、料金も決して安価なものではありませんでした。
民間の気象予報会社から独立
——佐藤さんは、そのことにどのようにして気がつかれたんですか?
実は、私、前職が民間の気象予報会社だったんです。そこで、気象業界のIT面での遅れを何とかすべく、業界初のハッカソンを立ち上げるなどしていく中で、各種気象データをAPIを駆使して使いやすくすることにビジネスの種があると確信しました。それで約2年前に独立してYuMakeを立ち上げたというわけです。
——創業の地を大阪にした理由を教えてください。普通に考えると気象庁があって、お客さんも多そうな東京で起業するのがやりやすいと思うのですが……。
確かに大阪は、東京と比べて気象系の会社は少ないのですが、それゆえに優秀な人材が眠っている面もあり、それを活用できるのではないかと考えました。また、サービスを製造業で活用してもらうなら関西の方がやりやすいという狙いもありましたね。
加えて、私が奈良県の生駒市に住んでおり、そちらで「Code for Ikoma」という市民活動団体を立ち上げていたことも、関西にこだわった理由の1つ。これは地域課題をITで解決していこうという取り組みなのですが、こちらもずっと続けていきたかったんです。
——今、製造業での活用とおっしゃいましたが、さすがに製造業と気象の関係がよく分かりません。工場でものを作るのに天気が関係あるんですか?
多くの工場で、生産効率アップに気象情報が役立てられているんですよ。例えば、熱源管理に外気温の情報を活用するといった具合ですね。気象情報って、一般の人が想像するよりも広い範囲で使われているんです。
後は生産業ですね。飲食業界やアパレル業界では「ウェザーマーチャンダイジング」なんて言葉もあるくらい、気象情報が重視されています。先々の天候を踏まえて生産計画を立てるというのはもはや当り前のこと。今年の冬は早めに寒くなるから、秋冬物を前倒しで生産しようなどといった感じに活用されています。
大手企業などは、専任のエンジニアを雇用して、そうした分析を独自に行う事ができますが、中小企業ではそうもいきません。そうした方々に向けて手軽な選択肢を提供できるのも、YuMakeの強みと言えるでしょう。
——何年か後には、知らないうちに皆がYuMakeのサービスを利用していた、なんてことになりそうですね。
そうなるようにがんばります(笑)。
第2ステージでは「ビッグデータ分析」をテーマに
——YuMakeが創業して約2年が経過しました。現在の状況を教えてください。
おかげさまで、ユーザー数も少しずつ伸び始めています。先ほどご紹介した釣りアプリ「クリンチノット」や小樽運河クルーズを始め、いろいろなサービスでYuMakeのAPIを活用していただけるようになりました。
——お客さんはどのようにして見つけてくるんですか?
YuMakeの知名度を高めるという点では、弊社が積極的に協力しているさまざまなハッカソンが役立っています。総務省・株式会社野村総合研究所主催の社会実装型ハッカソン「まちつむぎ」や、「株式会社リクルートホールディングス主催の「MashupAwards」、KDDI総研主催の「Webとクルマのハッカソン」など、さまざまなハッカソンでYuMakeのAPIを試していただき、そこからユーザーが増えたということが実際に起きています。
昨年からはそこにさらに力を入れており、2016年11月にはさくらインターネット協賛のもと、「釣りとお天気でハッカソン」というイベントも実施しました。
ハッカソンの内容
——それはどういったものだったのでしょう?
株式会社YEBIS.XYZの提供するアプリ「釣果ノート」で蓄積した釣りのデータと、「YuMake Weather API」が提供する気象情報を使い、データ解析とサービス開発を行うというものです。実はこの「データ解析」は、YuMakeの第2ステージとでも言うべき重要なトライアル。お客さまの持っているデータと、我々が提供できる気象データを組み合わせることでビッグデータ的な活用ができないかを模索しているところです。
——もう少し詳しく教えてください。
先ほど生産業におけるウェザーマーチャンダイジングの話をしましたが、こうした未来予測って最終的には「勘」になってしまいがちですよね。でも、POSの結果などと気象情報を照らし合わせて、こういう天気の時に売れたなどということをロジック化できれば、勘に頼らない未来予測が可能になります。
現在の課題は、そうした活用に向けて、気象データをどう整備していくか。将来的には、YuMakeを、ビッグデータ分析用のAPIを提供している会社というふうに打ち出していきたいと思っています。
今後について
——ほか、今後に向けて、他にやっていることがありますか?
直近では、防災サービスとの連動強化を検討中です。これまでも気象情報に含まれる防災情報の提供をAPI経由で行っていたのですが、そこからユーザーへの通知については各社のアプリにお任せしていました。そこで、これを発砲直前まで、うちで作ってしまえないかと考えています。
もう少し先の展望では、気象庁のデータだけに頼らず、自分たちでもデータを取得・蓄積していくということをやっていきたいですね。実はすでに動き始めていて、全国各地に気象センサーを設置し始めています。今はまだ実験的段階ですが、将来的には分析に活用していければ……気象センサーがだいぶ低価格化してきているので、夢物語ではないはず。さくらインターネットの「さくらのIoT」にも期待しています。
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