ベンダーロックインとは?デメリットや防止方法を解説

ベンダーロックインとは?デメリットや防止方法を解説

 

企業や行政機関がDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進するうえで、ベンダー(販売事業者)との関わりは必ず発生します。そこで問題になるのが「ベンダーロックイン」です。この記事では、ベンダーロックインについて解説します。

ベンダーロックインとは

ベンダーロックインとは、特定の事業者(ベンダー)を利用し続けなくてはならなくて、他社の参入が困難な状態のことです。ソフトウェアの機能改修やバージョンアップ、ハードウェアのメンテナンスなどの情報システムを独自仕様にすると、他社への切り替えが難しくなります。

特定事業者に依存してしまうと、多くのデメリットがあります。

ベンダーロックインのデメリット

ベンダーロックインのデメリット

 

ベンダーロックインが起きてしまうと、どのような問題があるのでしょうか。ベンダーロックインのデメリットについて、3つ紹介します。

開発・運用費用などが高額に

特定の事業者しか利用できない状態では、競争相手がいなくなります。発注側は特定のベンダーに頼らざるを得なくなるため、契約を結んでいるベンダーは強気な値段設定が可能です。ベンダーロックインの状態では相見積もりもできないので、費用の妥当性もわかりません。

サービス品質の低下

ベンダーロックインによって特定事業者に依存してしまうと、費用が高額になるのと同様に、競争相手がいなくなるので殿様商売のようになってしまいます。発注先が強く抗議できないため、サポート対応や依頼事項への対応が遅れるといった事例もあります。

他社への移行が難しい

ベンダーに不満や問題があっても、他社へ移行できないというデメリットがあります。既存システムの仕様を公開するのを拒否されたり、データ引き継ぎを拒否される可能性もあります。また、仕様の公開やデータ引き継ぎの際に高額な費用を請求されてしまうケースもあるので注意が必要です。

公正取引委員会がベンダーロックインに関する調査を実施

公正取引委員会がベンダーロックインに関する調査を実施

 

令和4年(2022年)2月8日、公正取引委員会は官公庁におけるベンダーロックインに関する調査を実施しました。(官公庁における情報システム調達に関する実態調査について

この報告書から、ベンダーロックインに関するさまざまな事実が浮かび上がっています。

なぜ調査をしたのか

情報システム調達について、競争政策の観点からベンダーロックインを回避し多様なシステムベンダーが参入しやすくするためです。国の機関や地方公共団体における、情報システム調達の実態把握のため、調査を実施しました。

調査結果

「既存ベンダーと再契約することとなった事例がある」と回答したのは98.9%と、ほとんどの行政機関が再契約をしたことがあるそうです。

情報システムの保守・改修・更改などの際に既存ベンダーと再契約した理由について、以下のような結果が出ています(複数回答可)。

 

理由

回答数

割合

既存ベンダーしか既存システムの機能の詳細を把握することができなかったため

483

48.3%

既存システムの機能(技術)に係る権利が既存ベンダーに帰属していたため

243

24.3%

既存ベンダーしか既存システムに保存されているデータの内容を把握することができなかったため

211

21.1%

既存システムに保存されているデータに係る権利が既存ベンダーに帰属していたため

71

7.1%

(出所:公正取引委員会 官公庁における情報システム調達に関する実態調査についてp.4)

ベンダーロックインが起きてしまう背景

ベンダー側だけに問題があると思われがちなベンダーロックインですが、発注側にも問題はあります。たとえば、担当者がシステムに関する知見を持っていなかったり、人員が不足しているとベンダーに丸投げしてしまったほうが楽です。中にはシステムの仕様書作成方法がわからないため、外部のコンサルティング事業者に委託するケースもあります。

オープンな仕様設計のため、外部のコンサルティング事業者に支援してもらうのは良いことです。しかし、システムの仕様について担当者が理解できていないと後々トラブルにつながります。

また、コンサルティング事業者とベンダーがつながっていて、ベンダーロックインが起きてしまう可能性もあります。この可能性については、公正取引委員会の実態調査報告書でも触れられています。

ベンダーロックインと独占禁止法

公正取引委員会は「公正取引委員会 官公庁における情報システム調達に関する実態調査について」の中で、ベンダーがシステム受注の際に不当な囲い込みをした場合、独占禁止法上問題となるおそれがある、との考え方を初めて示しました。

既存ベンダーが合理的な理由が無いにもかかわらず、他のベンダーに対して仕様の開示を拒否したり、他の情報システムとの接続を拒否すること。また、既存システムから新システムへのデータ移行を拒否することは取引妨害となり、独占禁止法上、問題となるおそれがあります。

他にも、既存ベンダーが既存システムの運営などで不利益を示唆したり、他のベンダーに委託しないよう要求すること。また、虚偽の説明などで別の物品や役務を一括発注させることで自社との取引を強要し、他のベンダーに委託できないようにする場合には、排他条件付取引・ 抱き合わせ販売などにあたります。こちらも独占禁止法上、問題となるおそれがあります。

今後、公正取引委員会では、情報システム調達における独占禁止法違反行為に対して、厳正に対処していくとしています。

ベンダーロックインの防止方法

ベンダーロックインの防止方法

 

ベンダーロックインが起きてしまう原因はさまざまです。原因はベンダー側、発注側それぞれにあります。ベンダーロックイン防止の事例を集め、それを共有して対策することが重要です。

ベンダーとのマッチング

現状では情報システムを発注する際に、適切なベンダーを探すのが難しいという課題があります。その課題を解決するために中小ベンダーも含めて、さまざまなベンダーとマッチングできる仕組みを整備することもベンダーロックインの防止策です。

人員体制の整備

情報システムを発注するうえで、知識のあるIT人材がいればベンダーロックイン防止につながります。人材採用や人材育成をおこない、体制を整備する必要があります。必要に応じて、外部の事業者を活用して研修やマニュアルなどの整備も必要です。

官公庁におけるベンダーロックイン防止の取り組み

官公庁におけるベンダーロックイン防止の取り組みについて、公正取引委員会が調査結果を発表しています。

 

Q.情報システムの仕様の内容、発注方法等について、あらゆるベンダーが情報システム調達に参入することができるように工夫・留意していること(複数回答可)。

 

工夫・留意している内容

回答数

割合

情報システムの構築などが完了した際に、ベンダーから情報システムの機能の詳細に関する説明や設計書などの情報提供を受けている。

451

44.6%

不必要な一括発注や、過度なまたは不適切な調達単位の組み合せをしない。

410

40.6%

情報システムの仕様や契約において、情報システムに係るサービス提供主体が変更される場合には、既存ベンダーから新たにサービスを提供するベンダーに対して、円滑な業務移行のための引継ぎをおこなうことを規定している。

291

28.8%

情報システムの仕様や契約において、情報システムに保存されているデータに係る権利について、発注者である機関に帰属させることを定めている。

282

27.9%

地域要件、実績要件などの入札参加条件を可能な限り設けない。

192

19.0%

既存システムの保守、改修、更改などの業務の調達において、当該システムを構築した既存ベンダー以外のベンダーであっても入札等に参入できるようにする。そのための既存システムの仕組みを把握するための情報の開示や一定の検討期間の確保等をおこなう。

175

17.3%

情報システムの仕様や契約において、情報システムの機能(技術)に係る権利について、発注者である機関に帰属させることを定めている。

117

11.6%

(出所:公正取引委員会 官公庁における情報システム調達に関する実態調査について p.12)

長年にわたって続いていたベンダーロックイン解消のため、公正取引委員会はデジタル庁と連携して、競争環境の整備をおこなうとしています。

デジタル庁情報システム調達改革検討会

具体的な動きとして、令和4年(2022年)6月21日に「デジタル庁情報システム調達改革検討会(第1回)」が開催されました。

国内外の情報システム調達に係る制度や体制、手法などの先進的な事例を調査・整理しつつ、情報システム調達に必要な施策を議論し、その実現を目指しています。

密結合なシステム設計や仕様のブラックボックス化を予防する取り組みの検討や、ベンダー独自仕様の組み込みや知的財産権に係る制限を軽減するためのOSSの活用、システムのオープンソース化、APIの活用の検討にも言及されています。

今後は各検討テーマについて議論し、令和5年(2023年)2月6日に最終報告案を取りまとめるスケジュールとなっています。

まとめ

デジタル化を進めるうえで、多くの選択肢があることは重要です。

今後、政府や地方公共団体で政府共通のクラウドサービス利用環境である「ガバメントクラウド」の運用がはじまります。ガバメントクラウドについては「ガバメントクラウドとは?意味や目的、先行事業の内容をわかりやすく解説」をご覧ください。

ガバメントクラウドは、ISMAPリストに登録されたサービスから要件を満たしたITベンダーと政府が直接契約します。ISMAPについては「ISMAPとは?制度の概要やクラウドサービスリストについてわかりやすく解説」でくわしく解説しています。

このようにガバメントクラウドは、ベンダーロックインを防ぎ、競争を促すための対策がされています。

中国で盛り上がるNFTアートならぬ「デジタルコレクティブル」の世界

中国で盛り上がるNFTアートならぬ「デジタルコレクティブル」の世界

 

ブロックチェーン技術の応用によって生まれたNFT(non-fungible token=非代替性トークン)アートが巷で話題になっている。

我が国では政権与党がNFT関連の法整備に前向きで*1、成長戦略の柱とするのみならず、「岸田総理トークン」なるものを配布するほどの入れ込み具合*2

「なぜそれを…」という問題はともかくとして、NFTがお上の目につくほどのホットワードのひとつとなっていることは確かだろう。

では、お隣中国ではどうかというと日本同様、もしくはより前のめりになっているのが現状だ。現地報道によれば、中国国内におけるNFTアートの交易プラットフォームは300を超え、その多くは今年1月から4月の間に誕生したものだという*3

だが、そもそも中国はブロックチェーン資産に対して厳しい統制を加えており、暗号通貨の取引およびマイニングを禁止している。NFTアートは発行こそ認められているものの、転売はNGであり、そのうえ各プラットフォームは実名認証制のため匿名性も担保されない。

要するに、中国においてはいくらNFTアートを買い漁ろうが、値上がりや売り抜けが期待できるとは思えないのだが、どういうわけか発行即完売などというケースも見受けられるのである。

実のところ、NFTアートに関しては目下さまざまな問題が指摘されており*4、一部ではすでに伸びがピークに達したとする指摘もある*5

そんな国外の潮流などおかまいなしに、爆発的な盛り上がりを見せる中国のNFTアートの世界とは、一体どのようなものなのか。

本稿はうっかり立ち入ると泥沼にはまりかねない技術的側面は横に置き、NFTアート熱を中国で起きている事象のひとつと捉え、このテーマについて私見混じりで分析を加えてみたい。

資産ではなくコレクションという位置付け

筆者は普段、中国発のさまざまなアナウンスに目を通し、それらを訳したり分析したりする作業に従事しているのだが、昨年から今年にかけて「数字收藏」「数字藏品」という言葉をやたらと目にするようになった。

それも中央だけでなく、地方都市が出しているプレスリリースなどの文章にも、この単語がやたらと登場するものだから、ブーム到来かと思ったわけだ。

さて、この「数字收藏」を日本語にそのまま訳せばNFTアートとなるのは確かなのだけれども、いろいろと調べ、さらに筆者などよりよっぽど詳しいライターの方による先行記事を参考にした結果*6、「デジタルコレクティブル」という言葉を使うのが正解という考えに至り、現在に至っている。

これはざっくり説明すれば、海外で一般に言われるNFTアートと中国の「数字収蔵」は、トークンによって唯一性を証明するという点は同じでも、似て非なるものということ。

中国の「数字収蔵」はあくまでコレクション、単に集めて悦に入るためのもので、資産価値があってはならない(ということになっている)のである。そもそもこれらを扱う中華プラットフォーム自体、NFTという言葉をあえて避けているフシがある。

中国におけるデジタル資産の管理

中国におけるデジタル資産の管理

 

なぜそこまで気を使うかと言えば、中国は前述の通り、デジタル資産の管理について極めて敏感であり、法定通貨でない暗号通貨(暗号資産)がご法度の国であるからだ。ダメな理由としては投機の問題や実体経済重視の姿勢、中国が打ち出しているCO2排出削減計画への影響などさまざまな理由が挙げられる*7

だが、根本にあるものは、デジタル人民元の普及に当たって他の暗号通貨が邪魔であること、何事も自国のコントロール下に置きたい中国にとって分散型・非中央集権的な金融ツールは危険視されること、そして何よりもマネー流出への懸念であろう。

中国の人々、とりわけ小金を持っている層がどれほど国外に資産を逃したいと考えているか、また同時に政府がいかにそれを阻止したいか。具体的には語らないが、この攻防は実にすさまじいものがある。

中国としてはブロックチェーン技術の恩恵は受けたいけれども、デジタル資産に関しては上記の理由からどうしてもガチガチの統制を敷かざるを得ない。

よって、中国の「数字収蔵」に資産価値や流動性が生まれることは当局として断じて容認できず、乱暴に言えばスマホの中の飾りという以上の意味を持たない存在となっているのである。

デジタルコレクティブルを買うのは大半が若者

では、中国では実際にどのようにしてデジタルコレクティブルが売られているのか。試しにアリババが運営している「鯨探」というプラットフォームを開いてみると、真っ先に目につくのは博物館の収蔵品や京劇など中国の伝統文化にまつわる品々だ。

それに加えてキャラクター系もあり、価格帯としてはいずれも18元から25元(1元=約19円)程度。数量は限定10000などとしているものが多く、予約で完売などというデジタルコレクティブルも珍しくない。

ちなみに、中国の伝統文化にまつわるものは全体の約7割を占めるそうで、これは政府が文化のデジタル化戦略*8を打ち出して後押ししている影響が大きい(数字は以下いずれも前出の「腾讯网」の記事より引用)。

実際、5月18日は国際博物館の日だったのだが、それに合わせて収蔵品に関連するデジタルコレクティブルを発行した美術館や博物館も多かった。

なぜデジタルコレクティブルが若者に人気なのか?

では、そういうものにお金を出す人は比較的年配の方が多いのだろうと思いきや、1990年以降生まれが71%と、不可思議な状況が生まれている。中国の代表的な官製メディアである『人民日報』の日本語サイトは、「なぜ若者に大人気なのか?」との問いについて、以下のように論じている。

「デジタルコレクションにこれほど人気があるのは、今の若者にとってこれが一種の社交の手段であり、人と違う目新しいものを求める若者にぴったりだからである」*9

一読して感じるのは「いや、そんなわけないだろう」という思い。百歩譲って言うならば、中国では「国潮」といって、自国の伝統的要素を取り入れたブランドカルチャーに勢いがあるのは確か。

だからといって若者が青銅器や玉器などのデジタルコレクティブを集めまくるというのは、事象としていかにも不自然だ。この論評のピントがズレているのは明らかであり、はっきり言って投機目的以外に理由など考えられないのである。

恐るべし! 中国人の投機スピリッツ

売り買いできないものが、どうして投機の対象となり得るのか。筆者の見立てでは、まずひとつにNFTアートならぬデジタルコレクティブルが中国ではまだまだ広く認知されていないこと、平たく言えばよく分かっていない人が多いことが大きい。

一例として挙げられるのは、今年2月に開催された北京冬季オリンピックのマスコットキャラ「氷墩墩」(ビン・ドゥンドゥン)のNFTアートに最高で約2000ドルの値段がついたというニュースである。

中国国内でも伝えられたこの報道をもって、「やっぱり儲かる」「実は売り買いできる」と勘違いした者は、きっと少なくないだろう。

だが、ここで使われたプラットフォームは海外のものであり、値段の高騰もしょせんはビン・ドゥンドゥングッズが売り切れになった開催期間中のあだ花に過ぎない、といったことに触れない中華メディアが多かった。

また、確かに中国国内のデジタルコレクティブル関連のプラットフォームでは売買不可ながら、一定の条件下で譲渡はできる。そこで、表向きはプレゼントだが、裏で金のやり取りをすればいいと考えた者も多かったに違いない。

実際、中国で最もメジャーな中古品売買アプリ「閑魚」では、デジタルコレクティブル関連の売買がおこなわれ、それに対する取り締まりもあったが、今でも「数字収蔵」で検索すると結構な数がヒットする。

さらに、投機目的の購入がなくならない理由を深読みすると、「中国国内のユーザー間のみ取引を可とする」といった将来的な方向転換の可能性に賭けて、今のうちに先行投資ならぬ先行投機を行っているユーザーもいるかもしれない。

中国ではさまざまなものが投機対象に

中国ではさまざまなものが投機対象に

 

むろん、そのような変化が起きる確率はゼロではないし、自分の金をどう使おうが、極論すれば個人の勝手ではある。しかし、投機のために手を出す人々が、NFTアートもしくはデジタルコレクティブルについて言われる問題について、到底深く理解しているとは思えない。

ある日突然、プラットフォームが運営を止めたらどうするのか。購入した非代替性トークンはデジタルデータの唯一性を証明するものに過ぎず、紛失やコピーを防ぐものでもなければ、著作権や所有権を伴うものでもないことを分かっているのか。

こっそり売買していて捕まるリスクについて、真剣に考えているのかーー。

もっとも、中国人とは誰もが相場師の気質を大なり小なり持つと言ってもいいほどに、金への執着が強い人々。この国では理財商品や不動産にとどまらず、マオタイ酒にプーアル茶*10などさまざまなものが投機の対象とされ、その熱気たるや日本の比ではない。

暗号通貨の爆発的な値上がりを知る中国の人々がNFTに注目しないわけがなく、これからもアート以外のさまざまな分野を含め、この業界には投機マネーが流れ込むことだろう。

ちなみに筆者は根っからのビビリであり、一攫千金など信じないタイプ。でも、「岸田総理トークン」ならぬ「習近平総書記トークン」が発行されることがあったら、値上がりに賭けてひと勝負してみたいと思っている。

そのようなものがバラまかれることは、万が一にもないだろうがーー。

BEENOS Entertainmentが目指す、アーティストもファンも楽しめる「エンタメDX」

新型コロナウイルスの流行によって、エンターテインメント業界は大きな打撃を受けました。イベントやライブの開催が難しくなり、2020年には市場規模が大きく減少。

 

新型コロナウイルスの流行によって、エンターテインメント業界は大きな打撃

▲出典:公益社団法人日本芸能実演家団体協議会実演家著作隣接権センター

 

一方、動画配信やオンラインライブなどの需要が増え、エンタメ業界のDX化が必要だと気づかされました。そんな「エンタメ業界のDX化」に挑んでいるのが、BEENOS Entertainment株式会社です。代表の内海さんにお話を聞きました。

 

内海 拓郎(うつみ たくろう)さん プロフィール

内海 拓郎(うつみ たくろう)さん プロフィール

BEENOS Entertainment株式会社 代表取締役社長。2014年、BEENOS株式会社入社。事業会社の1つであるモノセンス株式会社に出向。キャラクターやアイドルなどのECサイト立ち上げに従事し、国内トップアイドルのEコマース運営、マーチャンダイジングに着手。売り上げの最大化を実現。2020年2月、BEENOS Entertainment株式会社を立ち上げ、代表取締役社長に就任。

エンタメ業界に身をおいて分かった「ライブイベントの課題」

――内海さんは、2020年2月にBEENOS Entertainment株式会社を立ち上げ、代表取締役社長に就任しています。代表になるまでの経緯を教えてください。

 

広告代理店からBEENOS株式会社に入社し、アーティストグッズのECサイト展開などの事業をおこなうモノセンス株式会社へ出向しました。モノセンスでは、トップアイドルのECサイトの構築や運用、運営会社への出向も経験しました。

運営会社と一緒に売上を伸ばすため、どのようなグッズが売れるか分析してマーケティングを進め、売上が130%くらい伸びたんです。いまでも継続的にお付き合いさせてもらっています。

エンタメ業界に身をおいて分かったのが、ライブイベントの課題です。ライブのグッズ販売時には、長蛇の列ができます。長いときにはグッズを買えるまでに3時間かかることも…。暑い時期には、お客さまは汗をかきながら長時間待たなくてはなりません。熱中症で倒れてしまう方もいらっしゃいます。

この課題を解決したくて、すでに社内の新規事業として事業開発されていた「narabee(ナラビー)」をビジネス展開しようと考えました。同じく課題解決を考えているメンバーと一緒に、BEENOS Entertainmentを設立しました。

 

――時期的にはコロナが流行する前ですよね。コロナ禍になり、3密回避が重要になったので、サービスも相当成長したのではないでしょうか?

 

イベントにてnarabeeを利用したクライアント様からは、3密回避として使えることに対して多くの感謝の声と期待の声をいただきました。ですが、イベント自体の規制があったので、成長でいうと、もうひとつの事業「Groobee(グルービー)」のほうが伸びています。サービス開始から1年以上経ちましたが、サポートしているサイトの数は開始時と比べて約10倍に増えました。

 

Groobeeの概要

Groobeeの概要

 

Groobeeの強みは大きく3つあります。1つ目はすぐに海外販売が可能になること。BEENOSグループの海外向け購入サポートサービス「Buyee Connect(バイイーコネクト)」と連携し、直ぐに海外への販売をスタートできます。

2つ目は初期費用0円で構築できること。ECサイトの開設やリプレイスしたいと考えている方にとっては、リスクや負担がないです。

3つ目がエンタメに特化した機能です。Groobeeでは、お客さまに買い物を楽しんでいただきたいと考え、エンタメ機能をどんどん追加しています。

コロナ禍でライブイベント自体できませんでしたが、今後コロナが落ち着いてくればnarabeeの需要が増えると思います。narabeeの強みとして、時間あたりの枠の上限設定が可能です。イベント会場側はクラスターを起こしたくないので、narabeeを活用してもらえれば密の解消につながります。

ECサイトにエンタメ要素を入れる

――エンタメに特化した機能とは、どういうものでしょうか?

 

買い物自体にエンタメ要素を入れています。ECサイトには珍しい、特典商品や割引クーポンなどがランダムで出てくるガチャのような機能があったり、オリジナルアイテム作成も可能です。もちろん、動画などのデジタルコンテンツの販売もできます。

ファンは数百種類の中からベースとなるアイテムを選び、用意されたスタンプを動かして配置することで、自分の好みにあったオンリーワンのグッズが作成できます。

 

「オンデマンドグッズ製造サービス」の流れ

「オンデマンドグッズ製造サービス」の流れ

 

このオリジナルグッズは即日製造可能です。商品によって異なりますが、最短で翌日には出荷できます。また、将来的にはnarabeeの機能をECサイトにも組み込みたいです。サイトの中でリアルイベントにも対応できる機能の追加も考えています。

 

――そもそもの話になってしまうのですが、なぜエンタメ業界に特化しようと思ったのでしょうか?

 

理由は2つあります。1つはシンプルにエンタメ業界が好きだからです。もう1つは、もったいないからです。これまでに数多くのエンタメ業界のECサイトをサポートさせてもらいました。その中で、ほとんどが1アーティストにつき1サイトで終わってしまうんです。これって資産がもったいないですよね。1サイトにプラスしてECサイトを作りたいと思いました。

アーティストの人気が高まってくると、同時に業務量も増えていきます。人気が高くなったことで業務を回せなくなってしまうことがあるんです。事務所はアーティストを伸ばすことに注力してもらい、ECサイトの売上げを伸ばすところはわれわれにお任せいただきたいと思っています。

コロナ禍でのコミュニケーション

コロナ禍でのコミュニケーション

 

――会社の立ち上げが2020年2月です。その後、すぐにコロナが流行しましたが、コミュニケーション面で苦労はしませんでしたか?

 

コミュニケーションには「社内」「社外」の2軸があります。社内についてはZoomなどを常にリモートでつなぎながら、いつもとそれほど変わらない環境づくりを考えました。社外については、こまめにコミュニケーションを取るために、オンライン打ち合わせや電話の回数を増やしました。とはいえ、当初は混乱しましたね。エンタメ業界は対面で仕事をすることが多かったので。

 

――日本のエンタメ業界全体の課題で、御社が解決できる部分を教えてください。

 

海外マーケットへの進出ができていない部分があると思っています。円安の影響で、海外から日本の物を買いやすい状況にあるのは理解されています。でも、どうやって海外に向けて売っていけばいいのかが浸透していません。

われわれのサービスを利用してもらえば、海外への販売も実現可能です。越境をメイン事業としているBEENOSグループだからこそ海外との取引で課題となってくる物流・決済・CSなどの部分も解決できます。海外販売へのハードルを下げ、安心して市場を拡大できます。

 

――御社はDXによってアーティストもファンも楽しめるエンタメの創出を目指しています。上手くいったエピソードを教えてほしいです。

 

グッズ販売というのは、アナログな世界なんです。何を作るか企画して、在庫の発注をしていきます。Groobeeではデジタル上でグッズのデザインもできるし、在庫の発注作業もいりません。無在庫で1個から販売できます。

クリエイターの方や個人で活躍される方にとって、在庫を抱えることはリスクです。リスクなく販売できて、在庫管理もデータ上でできるというのはDXとして成功していると実感しています。

人気YouTuberもGroobeeを活用

――実際に御社のサービスを利用されているクリエイターの方を教えてください。

 

アイドルや歌手、声優さんやキャラクターなど多くのジャンルに渡ってECサポートをおこなっています。最近ご利用いただいているのが、チャンネル登録者数が50万人を超えている、人気YouTuberの「きおきお」さんです。きおきおさんは、ファンとのコミュニケーションの一環としてECサイトを立ち上げました。

 

きおきおさんのアパレルブランド「necosan」

きおきおさんのアパレルブランド「necosan」

 

われわれはECサイトの制作から運営までをお手伝いさせていただいています。この間、きおきおさんが企画と制作をしたアパレルブランド「necosan」の商品を販売したところ、約6日で売り切れましたね。

エンタメ業界から日本を活性化させたい

エンタメ業界から日本を活性化させたい

 

――メディアのコンセプトが「やりたいことをできるに変える」です。BEENOS Enterteinmentの代表として、内海さんが今後やりたいことを教えてください。

 

引き続きエンタメ業界の活性化をやりたいです。アナログな業態だからこそ今後DXの力で急速にカタチを変えていける分野だと考えています。日本全体の成長のためにも、われわれの力でエンタメ業界から日本を活性化させたいです。

そのためにサービスの開発スピードを上げていきたいです。これからはクリエイターの方や個人で活躍していく方が増えていき、さらにファンとアーティストをつなぐプラットフォームの重要性が鍵になってくると思っています。

そこで、プラットフォームの構築だけでなく、エンタメ特化型の機能を使っていただき、国内・国外問わずアーティストもファンも楽しめるようサポートをしっかりしていきたいです。



(撮影:ナカムラヨシノーブ)

 

クリスピー・クリーム・ドーナツが仕掛けるDX(ドーナツ トランスフォーメーション)

そこかしこでDX(デジタルトランスフォーメーション)が話題になっている。コロナで社会の変化が加速して、デジタル化を進めないと世の中から置いてけぼりを食らってしまう。そのような中、一風変わったDXを仕掛けている会社がある。クリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパン株式会社のチーフマーケティングオフィサーでマーケティング部 部長の河井隆之さんに話を聞いた。

 

河井 隆之(かわい たかゆき)さん プロフィール 

河井 隆之(かわい たかゆき)さん プロフィール

1975年生まれ。クリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパン株式会社CMO マーケティング部 部長(現職)

ドーナツには人を楽しくする、小さなマジックがある。河井さんはそれを「Little Joy (小さな喜び)」と表現する。

「Little Joyは私たちが大切にしているブランドスピリットです。『ドーナツを通してほんの少しの喜びをお客さまに感じていただきたい』という想いで日々取り組んでいます。

それは、ドーナツを召し上がっていただくだけでなく、そこにまつわるすべての体験(社員1人ひとりのサービスや気遣いなど)から、笑顔になれる素敵な瞬間を創り出すことを意味しています。日常の小さな取り組みが、魔法のように、お客さまに笑顔を届け、心に残る体験になっていくと信じているのです」

ドーナツはちょっぴり特別

ドーナツはちょっぴり特別

 

子どものころ、母がおやつに揚げてくれたちょっといびつなドーナツ、ザラザラと白砂糖をまぶしたドーナツはちょっぴり特別感があった。

初めてのデートで見た映画。スクリーンの向こうでは、夜勤明けの黒い制服の警察官がドーナツを頬張り、コーヒーを流し込んでいた。

クリスピー・クリーム・ドーナツは1937年、アメリカのノースカロライナ州ウィンストン=セーラムで誕生。85年の歴史をもつ老舗のブランドだ。日本には2006年12月に上陸、1号店には連日長蛇の列ができ、一大ブームになった。ふわふわで甘いドーナツ。ときにはニコちゃんスマイルをデコレーション。ポップなドーナツはたくさんの人たちを笑顔にしてきた。

「ドーナツは片手でさっと食べられます。お皿もフォークも不要なので片付けも簡単で、オフィスでも手軽に食べられます」河井さんはそう話す。ドーナツは生活の中に溶け込む、プチスペシャルスイーツだ。

変化の時代に何を仕掛けるか

このクリスピー・クリーム・ドーナツが今、新たな仕掛けを目論んでいる。

テレワークが平常運転になり、働く人のコミュニケーションの仕方は変化した。オフィスに出社する日も減った。リアルに会わずともZoomの向こう側と話せば仕事ができる。雑談をしなくても必要なことだけ話せば、とりあえず仕事は進んでいく。PCのカメラに映る範囲で体裁を整えれば、上半身はジャケット着用でも、下半身はパジャマのままで成り立つ世界が到来した。

「ナショナルドーナツデー」というアメリカ発祥の記念日がある。毎年6月の第1金曜日におこなわれる記念日だ。第1次世界大戦で疲れきった兵士たちを少しでも元気づけたい。人々のそのような思いから、無料でドーナツを配ることから始まった。

「ナショナルドーナツデー」にあわせて何かできないだろうか。自分たちにできることはなんだろう。河井さんたちは考えた。

 

「ドーナツを通して笑顔が生まれる瞬間を創り出すことができないか。アイデアを重ねるうちに湧いてきたキーワードが『DX』でした。オフィスの少し重たい雰囲気の中にドーナツが『ポンッ』とはいってくる。それがちょっとした話題になり、会話のきっかけにもなって笑顔がうまれる。ドーナツは気軽に食べられるし、ちょっとした贅沢感もある。季節限定のフレーバーもあり、パッと箱を開けたときに場が華やぎます」

ドーナツにはそのようなCX(Customer Experience)がある。ドーナツは不思議な力を持ったスイーツなのだ。

テレワークが進みリアルのコミュニケーションが減った職場。飲みニケーションも激減した。ドーナツを介して人と人の交流が生まれ、変化が生まれたら……。時代背景を考えたアイデアが生まれた。それがDX、すなわち「ドーナツトランスフォーメーション」だ*1

 

ドーナツトランスフォーメーション

大胆に、馬鹿げて、寛大に。

「クリスピー・クリーム・ドーナツという会社はとても真面目だけれども、”Bold”ボールド(大胆に)、"Silly"シリー(馬鹿げた、ふざけた)、”Generous”ジェネラス(気前がいい、寛大)という3つのキーワードが社内で使われています。アイデアを出すときに、単純に正しいことをしても面白くない。少しでも面白く、お客さまに楽しんでいただきたい。そんなこともあって私たちのDXは、ドーナツトランスフォーメーションになったのです」

河井さんは続ける。

 

大胆に、馬鹿げて、寛大に。

 

「自分の経験からも、何かものを生み出すときは人が集まってできることが多いです。何気ない会話からポッとアイデアが生まれたりしますよね。そんなリアルな時間も意味があるでのはないでしょうか。そこにドーナツがあれば丸くおさまるというか(笑)」

「オフィスに笑顔と会話が戻ってくる。ドーナツを通して社内のコミュニケーション活性化を支援する最新のDX。画面越しでしか会ったことがない同僚、食事に誘いづらい風潮、効率が重視され雑談が生まれ難くなった打ち合わせ。会話や笑い声が減ったオフィスにドーナツを提供することで、スイートな時間を創出し、コミュニケーションの課題解決を図ります」キャンペーンにあわせてそのようなキャッチのメッセージを発信した。

ダズン(12個入り)に合わせてつくられた12のコピーも紹介したい。これまたクスっと笑える楽しさがある。

12のドーナツトランスフォーメーション

DX1. ドーナツを持ってオフィスへ。一躍みんなのヒーローに!

DX2. 箱を開けた瞬間WOW!オフィスに笑顔が溢れます。

DX3. ドーナツがあればどこだってスイートな場所に。

DX4. みんなでドーナツをshare。それは大事な共有体験。チームの結束力が高まります。

DX5. 会議室で食べるドーナツはなぜかいつもより美味しく感じます。

DX6. スイートなドーナツで頭をリラックス!良いアイデアにつながります。

DX7. ドーナツはワンハンドスイーツ。忙しくても片手でぺろりと楽しめます。

DX8. レンジでチンする8秒間、一瞬だけど仕事を忘れて好きなことを考えましょう。

DX9. ドーナツタイムのちょっとした雑談で、あの人とのうれしい共通点が見つかるかもしれません。

DX10. 口の周りにグレーズがついていたら上司や先輩でもどんどん指摘しましょう。ドーナツが好きな人に悪い人はいない。はず?

DX11. ダズンが空になったらデスクに戻る合図。お腹も心も満たされてやる気もUPします。

DX12. 丸いドーナツがどんなビジネス課題もまーるく解決◎

真面目なDXにも手抜かりなし

“Silly”シリー(馬鹿げた、ふざけた)と言いつつも、実は真面目なDXにも手抜きはない。6月8日には「クリスピー・クリーム LINEモバイルオーダー」がリリースされた。

 

真面目なDXにも手抜かりなし

 

「LINEで簡単注文、当日受け取り」が可能。お客さまはクリスピー・クリーム・ドーナツの公式LINEアカウントから注文・決済を来店前におこなえる。LINE上で支払いまで完結し、レジに並ばずスムーズに商品を受け取れる。LINEアカウントを持っていれば特別なアプリをダウンロードする必要もなく、気軽に利用できる。

「コロナ禍もあり、店舗でお客さまに待っていただくのは申し訳ない。お客さまの都合のよいタイミングで受け取れるサービスが必要だと考えました。でも、新しいアプリをインストールしてもらうのでは、お手間をおかけしてしまう。

面倒なことはしたくないでしょう。それで、一番ストレスなく提供できる仕組みとして、ユーザー数が多いLINEのプラットフォームを活用しました。お客さまはLINEから簡単にテイクアウトのオーダーをすることができるようになりました」

「やりたいことをできるに変える」これから進めて行きたいこと

「やりたいことをできるに変える」これから進めて行きたいこと

 

これから進めていきたいことを河井さんに聞いた。

「もっともっとたくさんの人に当社のドーナツを食べてもらいたいですね。私たちが提供しているドーナツを通じた体験を多くの人に広めていきたい。ドーナツを通じて人々の生活をちょっと活気づけるとか、何かいい変化を起こすとか。ブランドの価値をより多くのお客さまにお届けできたらと思います」

面倒なしに今すぐできるDX。それがドーナツトランスフォーメーション。マネージャーに頼んでみよう。「3時になったら、DXしませんか?」予算がおりたらすぐにLINEでモバイルオーダーだ。

 

クリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパン

クリスピー・クリームLINEモバイルオーダー

 

*1:「DX(ドーナツトランスフォーメーション)」は、ドーナツを通し社内のコミュニケーション活性化を支援するキャンペーン。キャンペーンに応募いただいた企業・団体の中から抽選により当選者を決定。「オリジナル・グレーズド®ダズン」を希望数(1~5ダズン)提供し、社内で楽しんでいただくという内容となっています。このキャンペーンの応募は6月12日に締め切りとなりました。

『銭湯図解』著者 塩谷歩波さんが救われた「ケの日のハレ」

建築図法「アイソメトリック」を用いて描かれたイラスト『銭湯図解』。浴室とお風呂でくつろぐ人の様子を緻密に描いたイラストの著者が、塩谷歩波さんです。『情熱大陸』(TBS)に取り上げられ、2022年2月には塩谷さんの人生をドラマ化した『湯あがりスケッチ』が配信されるなど、注目を集めています。

そんな塩谷さんにパラレルキャリアで良かったことや今後やりたいことについて、話を聞きました。

 

塩谷 歩波(えんや ほなみ)さん

塩谷 歩波(えんや ほなみ)さんプロフィール

1990年生まれ。設計事務所、高円寺の銭湯・小杉湯を経て、画家として活動。

早稲田大学大学院(建築専攻)を修了後、有名設計事務所に勤めるも、体調を崩す。休職中に通い始めた銭湯に救われ、銭湯のイラスト『銭湯図解』をSNS上で発表。それをまとめた書籍を中央公論新社より発刊。レストラン、ギャラリー、茶室など、銭湯にとどまらず幅広い建物の図解を制作。TBS『情熱大陸』、NHK『人生デザイン U-29』など、数多くのメディアに取り上げられている。好きな水風呂の温度は 16度。

休職中、銭湯に救われた

休職中、銭湯に救われた

 

――塩谷さんは設計事務所で働いていたときに体調を崩して休職し、銭湯に救われたとうかがいました。銭湯のどういったところに救われたのでしょうか?

 

休職して1か月くらいしたとき、大学のサークルの先輩が私と同じ感じで休職していたんです。その方が「最近、銭湯にハマっているから、よかったら一緒に行こうよ」と誘ってくれて銭湯に行ったのが最初でした。

会社を休まざるを得ない状況だったし、同級生にも打ち明けづらかったので自分の居場所がなかったんですよね。そんなとき、先輩に誘われて銭湯に行ってみたらとても気持ちが良くて驚きました。昼間の銭湯ってすごくピカピカ光っていてきれいで、お風呂が本当に気持ちいいんですよ。

さらに、そこで目が合ったおばあちゃんと「今日、暑いわね」とか、たいしたことない話をしたんですけど、そういう話をしたときに”受け入れられた”と思ったんですね。銭湯に長年通っているような方が、こんな若い知らない人間に声をかけてくれるのってすごくいいな、と思いました。心がふさがっていたので「私、ここにいていいんだな」と思い、救われた気持ちましたね。

銭湯は「日常の中の非日常」

――塩谷さんの考える銭湯の魅力を教えてください。

 

銭湯は「ケの日のハレ」とよく言っています。ケとハレは民俗学の言葉で、ケが日常でハレが非日常という意味合いです。

ケのお風呂は家風呂で、ハレのお風呂は長いお休みがあったときに行く温泉だとすると、銭湯は日常的でもなければ非日常的でもない、ちょうどその中間。つまり、「ケの日のハレ」的な存在が銭湯の魅力だと思います。週の半ばとか仕事終わりに「ちょっと疲れたから行こうかな」っていうテンションで行けるのが、銭湯のいいところです。

都会以外だと違う話になるかもしれませんが、少なくとも私が東京に住んでいる中で感じたのはそういう魅力です。実際に銭湯で働いているときもそういう利用者さんがすごく多かったんです。エンジニアの人とかは1日中パソコンに向き合っているから、デジタルから離れたいといって銭湯に来てくれます。

 

――確かにデジタルデトックスにもなりますね。

 

家風呂でもスマホで動画見たり音楽聞いたりする人いますよね。銭湯は、浴室も脱衣所もスマホ禁止なので、良いデジタルデトックスの場所になっているんですよね。今、そういう場所って逆に貴重な存在です。

『銭湯図解』を描くきっかけ

――塩谷さんは、小杉湯で番頭をしながら『銭湯図解』を描かれていました。こうした銭湯のイラストを描こうと思ったきっかけを教えてください。

 

休職中に銭湯に出会って以来、すっかりその魅力にとりつかれてしまい、「もっと色々な銭湯に行きたい!」とネットで調べ回っていました。そうすると、自分が思っていた以上にいろいろな種類の銭湯があったんですね。露天風呂がとてつもなく大きい銭湯や、ハンモックで寝られる銭湯、看板猫がいたり、待合室で鉄道模型が走っているところもあって、驚きました。それが面白くて、毎日ワクワクしてめぐっていたんですね。

そうやって銭湯巡りにハマっていたとき、ちょうど大学の友達とTwitterで、交換絵日記みたいなのをやっていたんです。その日にあった楽しかったことを絵で描いて、それを送ってリプライで返すみたいな。

その時期はもう銭湯のことで頭がいっぱいだったから、その友達にも銭湯の魅力を伝えたくなりました。そんな時になんとなく浮かんだのが、大学1年生のときに習ったアイソメトリックっていう建築の描き方です。アイソメトリックは建物を斜め俯瞰図的に描いた書き方で、建物の構造が一目でわかるので、銭湯に行ったことない友達にも面白さが伝わるんじゃないかな、と思って描きました。それが『銭湯図解』のはじまりですね。

 

『銭湯図解』小杉湯(高円寺)

『銭湯図解』小杉湯(高円寺)
▲出典:『銭湯図解』(中央公論新社)より

 

――『銭湯図解』はとても細かいところまで描かれていますが、描く際に意識していることを教えてください。

 

細かいことの積み重ねで絵が出来上がっているので、細かいところまで手を抜かないことを意識しています。ちょっと楽したいときもあるんですけど、楽するとそこの部分だけ欠落している感じになってしまいます。

あとは俯瞰して見ることも大事です。細かいところをやり続けていると、そこだけ色が濃くなったりもするので。俯瞰して見ることの大事さは、仕事全般で言えるかもしれません。

パラレルキャリアを実践して良かったこと

パラレルキャリアを実践して良かったこと

 

――塩谷さんは現在、画家として活動中ですが、以前は番頭をしながらイラストレーターをされていました。パラレルキャリアを実践していて良かったと感じたことはありますか?

 

思いもよらないところで線がつながることがあります。例えば、番台で年配の方や小さい子や普段関わりのない職業の方など、いろいろな方とたくさんお話をしていたので、お仕事の商談やメディアに出た時に、どんな人に対してもすんなり話せるようになっていましたね。番台でのおしゃべりが、お仕事のコミュニケーションにつながっていたのには驚きました。

でも、番頭とイラストレーターは、パラレルキャリアとは思っていませんでしたね。やり方が違うだけで、同じお仕事と感じていました。

他にも、思いもよらないところで技能が役立つことはよくあります。私はエッセイも書いているのですが、文章と絵ってぜんぜん違うことをやっているように見えて、根本は同じなんです。自分が感じていることをどう出すかっていう表現媒体が違うだけなので。

 

――設計事務所での経験も画家の活動に活かされていますか?

 

私の絵って建築とイラストのちょうど中間くらいだと思うんです。建築設計の仕事をやっていないといまのような絵は描けないし、建築だけやっていても描けない。だから、希少性が高いのかもしれません。

 

――そう考えると、建築設計のお仕事も後に活きてくるんですね。

 

もちろん活きていますし、いまの道を選んで良かったなと満足しています。ひとつの業種に入ったからといって最後までそれを続ける必要はないから、紆余曲折はありましたが、建築設計から銭湯を経て、画家という自分らしい生き方を自分で見つけ出したのは誇らしいと思っています。

銭湯以外の図解を描くことも増えた

――現在、塩谷さんが熱量を持っておこなっているお仕事を教えてください。

 

やっぱり絵ですね。絵のことは毎日ずっといろいろ考えています。図解もどこまで進化させられるかを考えていますね。昨年の6月にフリーランスになって、銭湯以外の図解を描くことも増えています。いまは、ホテルだったり銭湯以外のお仕事のほうが多いですね。

 

――フリーランスになって1年が経ちましたが、いかがですか?

 

フリーランスにはメリットとデメリット両方あると思うんですけど、私はメリットのほうが大きかったです。時間関係なくマイペースに仕事ができるのは、すごくいいところですね。

最近は朝6時に起きて、7時か8時くらいから仕事を始めて16時には終わりにしています。朝のほうが元気なタイプなので、午前中に仕事をしたほうが効率いいんですよ。

仕事したぶんだけ報酬があるのもいいところですね。税金の高さには驚きましたが(笑)。

塩谷さんの「やりたいこと」

塩谷さんの「やりたいこと」

 

――メディアのコンセプトが「やりたいことをできるに変える」なのですが、塩谷さんがやりたいことを教えてください。また、それをできるに変えるためにおこなっていることを教えてほしいです。

 

海外の建築の図解を描いてみたいですね。教会のような大変そうなものも描いてみたいし、最近できた大きなホテルとかも描いてみたいです。描きたい建築はまだまだたくさんありますね。

あとはもっと絵が上手くなりたいっていう純粋な気持ちが大きいです。まだまだ建築も人も上手く描けていないから、もっと上手くなりたい。ただその気持ちだけですね。

そのために、いまは筋肉や骨格の勉強をしています。あとは、これまでは透明水彩を使っているだけだったので、そろそろ日本画とか他の表現方法を勉強しないとなと思っています。それをやることですごく可能性が広がるんですね。

美術史や建築の歴史ももう一回勉強したいし、そもそも物事をどう見ていくかを知るために哲学も学びたいし、やらなきゃいけないことが多いんですよ。



――やりたいことが見つからないという方に向けてアドバイスをいただきたいです。

 

自分のことって結構自分ではわからないものなので、身近な人に聞いてみてはどうでしょうか。私もいまだに自分のことがよくわからなくて、友達に聞いてみると思いもよらないアドバイスを貰えることが多いです。絵を好きだと自覚できたのも、友達に相談したことがきっかけでした。

でも、別に好きなことをやらなくてもいいと思うんですよね。人生で大切なことって、その人によっていろいろあるじゃないですか。私は好きなことを仕事にできて幸せだなと思うんですけど、なんでもかんでも仕事につなげるのは、逆に不自由なこともあると思います。それよりも自分が幸せでいられることは何だろう? って考えることのほうが大事じゃないでしょうか。

すでにやりたいことがあるなら、がむしゃらにやるしかないと思います。私も絵をやりたいと気づいてからは、たくさん絵を描いて、それをすぐにSNSで発信していました。早めに発信することは、大事かもしれません。まだ努力の段階だから見せたくないと思うかもしれませんが、早めに発信したほうがフィードバックをもらえます。恥ずかしくてもいいから発信して、フィードバックをもらって、また頑張る。そうすれば成長できると思います。

 

(撮影:いのうえのぞみ)

 

サーバーとドメインを自分名義で契約して次の展開をスムーズにしよう

サーバーとドメインを自分名義で契約して次の展開をスムーズにしよう

 

「ホームページでの集客を考えはじめたビジネスパーソンへ」の連載 第2回では、次のビジネス展開を踏まえてサーバーとドメインを自分名義にすることの重要性について、経験談をもとにお話しします。

 

田原広一(たはら こういち)プロフィール

田原広一(たはら こういち)プロフィール

株式会社SoLabo 代表取締役/税理士有資格者 お客さまの融資支援実績は、累計4,500件以上(2021年7月末現在)。自身も株式会社SoLaboで創業6年目までに3億円以上の融資を受けることに成功。問い合わせゼロのオウンドメディアをWEBマーケティングを駆使し、毎月1,000件以上の問い合わせが取れるまで成長させる。

 

オウンドメディア

SNS・YouTube

「サーバーとドメインは自分名義」が基本なのはなぜ?

ホームページで集客したいなら「サーバーとドメインは自分名義」が基本です。

そもそもサーバーとは、ホームページを「建物」にたとえた場合の「土地」に当たり、ドメインとは「土地の住所」のことです。

ドメインは検索時には英数字のURLの一部として表示されます。例えば、さくマガであれば「https://sakumaga.sakura.ad.jp/」でのURLの中の「sakumaga.sakura.ad.jp」部分がドメインです。

Googleが決めるホームページのある場所の価値評価は「ドメインパワー」と呼ばれます。店舗ビジネスでお客さまを呼び込むとき、評価の高い「よい立地」にあるほうが有利であるように、ホームページでの集客はドメインパワーが高いほど有利です。

ホームページ集客はドメインパワーの強さで、ほぼ決まると言っても過言ではありません。サーバーとドメインを自分名義でホームページを作ると、ドメインパワーのない状態ではじめることになります。

ブログ機能で有用な情報発信をするなど地道にSEO対策を重ねれば、半年から1年ほどで集客につながるドメインパワーにまで成長します。

サーバーとドメインを他社が持っているサブドメインではじめる場合、ある程度、ドメインパワーがある状態で始められる可能性がありますが、次のビジネス展開では、最初からドメインパワーを積み上げなければなりません。

 

成果が出るまで時間がかかるうえ、ドメインパワーに「ホームページの権利元が企業法人か、個人事業主か」という判断はないため、個人事業のときからサーバーとドメインは自分名義で取り組む方が次のビジネス展開がしやすくなります。

なお、ドメインパワーについての基本や施策については、webマーケティングが得意でない税理士の方向けに解説しています。あわせてご覧ください。

ドメインパワーとは?確認方法とSEO評価を上げる施策|税理士ホームページ制作ガイド - 株式会社SoLabo(ソラボ)

自分の名義にせずに後悔している個人事業主は珍しくない

自分の名義にせずに後悔している個人事業主は珍しくない

 

株式会社SoLabo(ソラボ)ではメディア制作の委託サービスもおこなっているため、サーバーとドメインを自分名義にしないで後悔しているお客さまを数多く見てきました。例えば、フリーランスに依頼したホームページをお持ちの個人事業主のケースです。

品質は良く、安く、集客もできるホームページで喜んでいましたが、次のビジネス展開のためにリニューアルを検討したとき、サーバーとドメインの名義が個人事業主本人になっていないことがわかりました。

その後の連絡がつかず、せっかく育てたドメインパワーを活かしたビジネス展開ができないと悩んでいました。最終的に、心機一転、自分の名義のサーバーとドメインを用意し、新しくホームページを作ることになりました。

元のホームページと同じレベルまでドメインパワーを成長させるのにかかった労力や余計な制作費用、機会損失を考えると、全くもって残念としか言えません。

サブ展開なら期間短縮になると自社メディア運営で痛感

株式会社SoLabo(ソラボ)の代表取締役として、サーバーとドメインに関するビジネス判断で後悔したエピソードも、参考までにご紹介します。

オウンドメディアとして、創業融資ガイド(https://jfc-guide.com/)を運営していますが、自社コーポレートサイト(https://so-labo.co.jp/)のサブドメインやサブディレクトリとして展開すればよかった、という後悔があります。

 

こうすればよかった!と思うオウンドメディアのドメイン展開の例:

創業融資ガイドは、おかげさまで今では月1000件以上のお問合せをいただいていますが、集客の成果が出るまでに時間がかかりました。

その反省を生かし、補助金ガイド(https://so-labo.co.jp/hojyokin/)は、自社コーポレートサイトのサブディレクトリで展開した結果、数か月で集客の成果が出ているだけでなく、「so-labo.co.jp」のドメインパワーの向上にもつながっています。

もちろん、ドメインを複数持つことの強みもありますが、成果を出すまでのスピードを重視するなら「1つのドメインを強くする」戦略が妥当といえます。

外部委託するときはサーバーとドメインを自分名義と指定する

外部委託するときはサーバーとドメインを自分名義と指定する

 

ホームページ制作や運営を外部委託する場合、自社でドメイン+サーバーを契約し、そのアカウント情報をホームページ制作会社や運営管理会社に渡して、制作・管理してもらうのが理想です。

すべてを外部委託する方は最低限、サーバーとドメインを自分名義と指定するようにします。自前でサーバーを用意するなら、初心者の方でも扱いやすいさくらのレンタルサーバーサービスがおすすめです。

 

ドメインも、さくらのレンタルサーバーの契約時にそのまま取得できるので、スムーズです。

 

なお、ドメインに定番の「.com」を選んでも「.jp」を選んでもドメインパワーに直接影響はしません。海外のお客さまを想定しているなら定番の「.com」、日本の事業として信頼性を示したいなら「.jp」というように「利用する側に信用してもらいやすいかどうか」という視点で検討します。

次に「1つのドメインを強くする」戦略を取れるのが理想

集客を前提としたホームページのドメインは、事業の専門性に特化し、関連度が高い情報発信を続けるほうが強くなります。

例えば、事業として複数の専門性を持つ場合、それぞれサブドメインやサブディレクトリで分けないと、一方の関連性が低いと判定され、ドメインパワーに影響する可能性があります。

「1つのドメインを強くする」戦略では「ホームページのサブドメインやサブディレクトリをどう活用するか」の判断も適宜、求められます。集客に強いホームページ制作なら株式会社SoLabo(ソラボ)まで、ぜひご相談ください。

 

資金調達支援実績4,500件超 資金調達支援のプロから起業家支援のプロへ 

株式会社SoLabo(ソラボ)

『トップガン マーヴェリック』とトム・クルーズに学ぶ現役営業マンであり続ける方法

『トップガン マーヴェリック』とトム・クルーズに学ぶ現役営業マンであり続ける方法

『トップガン マーヴェリック』は「俺たちの映画」

トップガン マーヴェリック』が大人気である。映画自体が世界的大ヒットかつトム・クルーズ主演作として最高レベルのヒット作であるが、僕の周辺でもここ最近会った友人たちが「トップガン、ヤバすぎ」「劇場で見ないともったいない」「俺たちの映画」と口をそろえて言うヤバすぎる映画である。こんな映画は記憶にない。絶対に観たほうがいいという気迫に押されて劇場で鑑賞した。確かに「俺たちの映画」だった。

前作『トップガン』は1986年の作品である。観ていない人や忘れていた人も多いはずだ。にもかかわらず『トップガン マーヴェリック』が36年前の作品の続編であるのにもかかわらず、老若男女から支持を受けているのは、それぞれが「俺たちの、俺の映画」と受け取れる普遍的なメッセージが込められているからだ。

エンタメ映画の続編として圧倒的に正しい作品なので、「トム・クルーズかっこいい!」「戦闘機ヤバい!」「バイクに乗りたい!」と楽しめば良い。ただ、僕のようなアラフィフの営業マン、体力の限界や衰えを感じて今後のことを考えざるをえない人間からみると、実に参考になるところや学びの多い映画であった。

マーヴェリック(トム・クルーズ)はなぜ飛んでいられるのか

▲出典:『トップガン』公式 Twitter

▲出典:『トップガン』公式 Twitter

 

トム・クルーズは40年近くハリウッドのトップに君臨する大スターだ。『トップガン』『ハスラー2』『カクテル』といった出世作から、今も続く『ミッション・インポッシブル・シリーズ』までヒット作連発の空前絶後のスターである(個人的には主演ではなかった『マグノリア』のトム・クルーズが現時点のベスト)。

そんなトムも60歳、還暦である。今でこそ、60歳は現役世代にカテゴライズされるが、一昔前ならおじいさんあつかいされる年齢だ。だが『トップガン マーヴェリック』のトム・クルーズは劇中でもリアルでも完璧に現役だ。最前線で戦い続ける男だ。つまり『トップガン マーヴェリック』と俳優トム・クルーズの生き様を学ぶことで、営業マンとしていつまでも最前線で戦い続けるヒントを得られるのはまちがいない。

営業マンは最前線でバリバリやっていないと鈍る

みなさんの会社には、かつては営業のエースだったけれど営業部長になった途端に凡庸になってしまった人がいないだろうか。あるいは、出世コースを断たれて不貞腐れて最前線に取り残されて腐っている人を見かけないだろうか。

営業職は最前線で営業の仕事をしていないと感覚が鈍ってしまう。なぜなら最前線で人と現場と触れ合っていないと市場の動きやニーズを正確に把握するのが至難だからだ。提案することも企画を思いつくこともできなくなる。管理職になって営業の仕事から距離を置いてしまったり、不貞腐れて営業の仕事に真剣に向き合わなくなれば、あっという間に現場では使い物にならなくなる。退役させられる。

マーヴェリックのトム・クルーズが現役でいるのは、まず「最前線にいる」という強烈な意志があるからだ。「現役」であるから最前線や現場にいられるのではなく、最前線にいるから現役でいられるのだ。

マーヴェリックが最前線にいられる理由

とはいえ『トップガン マーヴェリック』のように、一匹狼としてふるまっていれば営業の最前線に留まっていられるだろうか。答えはノーだ。実力と経験があってこその一匹狼。一匹狼になれば実力と経験がついてくるのではない。

一方、一般的に実力があって結果と自責がある人間は一匹狼であることは許されない。意見や考えを求められるし、リーダーとしての役割が求められるものだ。では、営業マンはどうすれば最前線で現役としていられるだろう? たまたま営業の能力があったり、運がよかったりするなどして結果を残して管理職になってしまったら最前線にいるのは難しくなる(立場的に)。

方法はある。ただ、デスクに座っているのではなく、管理職になっても、部下と同じ業務を受け持つ、部下を通じて最前線に触れる、などやりかたはいくらでもある。できるかぎり最前線の空気に触れにいくことが大事なのではないか。

でも実際問題、管理職になり、涼しいデスクで冷たい飲み物を飲みながらときどきツイッターを眺めつつ仕事をする環境に置かれたら、心と体を削られる最前線に戻りたい/居続けたいと思わないのが普通の人間の思考である。それに抗って、「最前線において現役でいつづけてやる!」という意志を持ち続けることがポイントなのだ。

トップガンのトム・クルーズはそのいい見本だ。僕らも『マーヴェリック』鑑賞後は「今日から俺はやるぞ! 現役でいくぞ!」という気概にあふれている。ただ一日二日と時間が経つにつれ、やっぱトムにはなれない…という現実に打ちのめされてしまう。そのときは『マーヴェリック』を接種して気合を入れ直してみてはどうか。

最前線でいるためには地道な努力が必要である

最前線でいるためには地道な努力が必要である

▲出典:『トップガン』公式 Twitter

 

むろん、最前線で営業マンとして居つづけるためには、努力が必要である。営業のスキルや経験や実績は積み重ねてきたものがある。それに加えて年齢を重ねても最前線にいるためのプラスアルファの努力が求められるのだ。トム・クルーズはトップガンで最前線にいるためにパイロットとしてのスキルと不屈の魂を武器にしている。

劇中ではあまり語られていないが最高のパイロットで在り続けるために、ランニングや筋トレ、アンチエイジング、マッサージ、針灸、フライトシミュレーターなど若い世代と同等かそれ以上のトレーニングを続けているはずである。

僕らには、トム・クルーズのような超人的な努力はできない。だが、若い頃と同様の密度をもって日々の仕事に当たることが、若い世代と戦えるベースになる。トップガンでもあったように、「そろそろ前線を退いたらどうだ? 管理職のポスト空けるぞ」的な誘惑に耐えることも必要になる。同僚からも指摘されるだろうし、心身の衰えから自分の心の声が言ってくることもある。

そこに打ち克つのは難しいけれども、それらをシャットアウトして日々の仕事に向き合うことはできる。『マーヴェリック』でもあったように、周りの声にはとりあえず反骨してみてはどうだろう。反骨した手前、やらなければならなくなるし、意志は強固になる。そうやって自分を追い込むことが現役でい続ける秘訣なのである。

若い世代との付き合い方を考える

現役であり続けるためには自分より若い世代との付き合い方も考える必要がある。現役でいられない…と考え始めるきっかけは能力や体力の衰えとともに、若い世代とのギャップもあるからだ。といっても無理にヤング感を出して若者に近づいても拒否されるだけである。因縁のあるイキってる若手がいたらなおさらだ。

自分たちが若い頃そうだったように、一般的に若者は年寄りが好きではない。いちいちうるさい。説教くさい。昔話ばかり。とはいえ長年営業として働いてきて得られるものは、スキルと実績と経験だけだ。それを武器として戦うしかない。ところがそれらを若者に伝えようとすると若者たちからは、ウザがられてしまう。

なんというジレンマだろう。そして、残念ながら居場所を失ってしまう。管理職として一線引いたポジションで生きていくか、不貞腐れて孤立するかである。だが、先述のとおり営業という仕事は最前線にいてこその仕事である。ではどうすればいいのか。

『マーヴェリック』はこの問題について明確な解決策を示している。トム・クルーズは劇中において最前線で居場所を保ち続けている。神話クラスの実績と経験とスキルを持ちつつだ。トム・クルーズはあえて一匹狼というスタイルをつらぬいている。不貞腐れてドトールでお茶をしているクソサラリーマンとは違う。あえて最前線にいながら周りとつるもうとしない生き方である。

説教もしない。経験も積極的に伝えようとしない。そのためウザがられない。プラス現役では撃墜経験のある唯一のパイロット、という神話があるため一目置かれる。「なんか近づきにくいけれどスゴい人」的なポジションをゲットして最前線/現場に居場所を得ていたのがトップガンのトム・クルーズである。

我々もあえて経験や実績を語らないようにしよう。語りたい気持ちを抑えよう。古来、先輩たちは語りすぎであった。本物の実績と経験があれば、勝手に誰かが語って伝説や神話になっている。他人から語られるような本物の実績と経験を積むように常日頃から努力を重ねる、といった地道な話になってしまうけれども。

実力を語らないことで神話にする

実績や技術は口で語らないようにする。劇中においてトム・クルーズは常に超絶プレイを実際に見せつけることで若者に実力を見せている。語らずに見せる。効果は抜群である。「これが伝説の…」という驚きをもたらしてくれる。

営業マンは技術を語りすぎる傾向がある。書店などで著名伝説の営業マンが執筆したビジネス本がたくさんあるように、語りたがりの目立ちたがりの人種なのだ。トムにならって、《あえて》語らないようにしてみる。最近の若者は賢い。よく世の中や周辺を見ている。SNS世代はサプライズを求めている。スゴイ先輩でもダメ上司でもSNSのネタにしている。

普段は無口で何を考えているのかわからない先輩が、ここぞ、のタイミングで経験と実績に裏打ちされた営業スキルを見せつけたら、若者のぐっと心を掴むだろう。一目置かれて最前線で居場所を確保できるようになる。ピンチのときに反目していた若手とお互いをかばい合って墜落するような激熱展開もあるかもしれない…(ネタバレしそうなのでこのへんでやめておきます)。

不安はある。現場で何も語らない一匹狼スタイルを貫いていて、実力をわかってもらえるか? 伝わっているだろうか? 実力を発揮する機会は訪れるだろうか? という不安だ。それは過度に心配する必要はない。現場にいれば実力を発揮する機会は必ずある。

本当にまじめに仕事に取り組んでいれば、積み重ねてきた経験でピンチにも対応できるし、長年培っていたスキルは裏切らない。大丈夫かな…と不安を覚えるなら今から取り組みかたを変えれば良い。不器用な人はピンチのときにどう対応するか予めまとめておくのも良い。とにかく日頃からあらゆる努力をしておくことだ。努力をしたくないのなら不貞腐れていればよい。普段からサボっていて無駄に時間を浪費してきている人間がトム・クルーズになれるわけがない。憧れる権利もない。

技術で自分を活かそう

技術で自分を活かそう

▲出典:『トップガン』公式 Twitter

 

『トップガン』と『トップガン マーヴェリック』のあいだには30年以上の月日が流れている。その間の技術の進歩はすさまじいものがあった。インターネットやスマートフォンは30年前には浸透していない

。最新テクノロジーを使っている戦闘機は技術の発達の恩恵をもっとも受けているジャンルだろう。第二次大戦の頃の日本軍の戦闘機はレーダーなどの機器がないため、太平洋上で会敵することも、基地へ帰投することも至難の業だったと聞いたことがある。技術の発達した今では考えられない。

トップガンのトム・クルーズは60歳である。おじさんだ。彼が現役でやってこられたのは戦闘機のハイテク化が進んだ時代であったことも大きい。トム・クルーズがいかに超人的な能力をもっていても、ゼロ戦が飛んでいた1940年代に60歳まで戦闘機のパイロットでいるのは不可能である。技術の革新と発達があってこそのトップガンなのだ。

もちろん、劇中では伝説のパイロットとされているので、「自動操縦楽でいいわー」「離着陸も30年前より簡単だわ―」「弾も良く当たるわ―」という描写はない。でもスクリーンの外では、自動化に頼っているトム、効率化したトップガンはまちがいなく存在している。

このように、実績や経験に頼ることなく、最新のテクノロジーを仕事に取り入れていくことが現役でいられる最大の秘訣だろう。営業ならば足で稼ぐ営業時代は終わっている。そもそも、足で稼ぐような体力まかせの仕事のやり方では若手には勝てるはずがない。足で稼ぐどころか足手まといになる。体力任せの現場にベテランの居場所はないのである。

だったら? 積極的にテクノロジーをつかってみよう。体力では勝てないベテランこそテクノロジーにすがるべきなのだ。営業マンだったら、営業支援システムや顧客管理ソフトを導入したり、アポ取りをアウトソースしたり、体力を使わない仕事のやり方はいくらでもできるようになっている。

DXを活用すれば、潜在的なニーズをもった見込み客を見つけて効率的にアプローチもできる。戦闘機のトップガンになれなくても、営業のトップガンにならなれるのだ

トップガンにはなれなくても…

僕らはトップガンのトム・クルーズにはなれない。新鋭戦闘機には乗れない。でも彼のように年齢を重ねたオッサンになっても新鋭戦闘機に乗り続けてやるマインドを持つことはできる。

最前線で働き続けるためには何が大切かといえば、愚直に自分の仕事を追究すること、そしていつまでも現場にいるという信念をもつこと、積極的に新しい技術を活用することだ。それがあれば加齢にともなう体力の衰えを超えられると新旧トップガンを通じてトム・クルーズは教えてくれている。

もちろん、技術と経験は無駄にはならない。撃墜されてピンチに陥っても、たまたまあったかつて乗りこなした旧型の戦闘機を乗りこなして任務を達成する姿を見せることでトムは身をもって僕らに教えてくれている(ネタバレ気味)。以上。