【舞鶴高専】テクノロジーで地域に貢献!日本を未来を担う若者たちの今

舞鶴工業高等専門学校の生徒たちの写真

こちらの記事は、2017年4月にさくらのナレッジで公開された記事を再編集したものとなります。文●山下達也

皆さんは「高専」ってご存じでしょうか?

最近はロボコンやプロコンなどのイベントでも注目されることが多くなっているので、さくナレ読者なら当然ご存じですよね? 高専、即ち「高等専門学校」は、一般的な高校→大学(短大)という進学コースとは異なり、中学卒業後、5年間に渡ってみっちり特定分野(主に工学・技術系)の専門教育を受けられるという高等教育機関(卒業後は短大卒と同等の準学士の学位を取得)。即戦力となる優秀な人材を排出してきたことから、産業界の信頼が篤いことでも知られています。

実は、さくらインターネットの創業社長である田中邦裕も高専出身。京都の舞鶴工業高等専門学校(以下、舞鶴高専)在学中にさくらインターネットを立ち上げ、当時はけっこうな話題となりました。

そんな経緯もあり、さくらインターネットでは、高専生を積極的にサポート。これまでもインターン生の積極受け入れなど、高専生が社会に出て行く橋渡しを微力ながらお手伝いさせていただいております。

田中社長の母校・舞鶴高専へのVPS無償提供もそんな高専応援活動の一環。制限の多い学内サーバーよりも自由なサーバー環境を求める声に応え、2016年度に「さくらのVPS」を実験的に4台提供することとなりました。

今回はそのVPSが舞鶴高専の学びにどう役立ったのかを、同校で電気・情報系の授業を受け持っている古林達哉先生と、その優秀な教え子たちに聞いてきました!

 

テクノロジーの力で地域に貢献

古林達哉先生の写真

――まずは、舞鶴高専についてもう少し詳しく教えてください。この学校ではどういったことを学ぶことができるのでしょうか?

古林先生:舞鶴高専は高専制度が誕生した初期に設立された50年以上の歴史を誇る国立高等専門学校です。全国には51の国立高等専門学校があるのですが、その中でもいち早く「情報」の重要性・将来性に着目し、2004年に「電気工学科」を「電気情報工学科」に改称するなど、「電気」と「情報」を両方こなせる技術者を育成することに注力してきました。

 

――舞鶴高専では教育の一環として、文部科学省が推進している「COC」という取り組みに協力していると聞きました。これは一体どういうものなんですか?

古林先生:COC(Center of Community)とは、「地(知)の拠点大学による地方創生推進事業」のこと。もう少し分かりやすく言うと、現地の大学や高専が、学問の力で地域の課題を解決していきましょうというプロジェクトです。舞鶴高専は2013年に、京都工芸繊維大学と共にその推進校に選ばれ、授業のカリキュラムに「地域志向科目」を採り入れるなど、全校一丸となってこの事業に取り組んできました。また、2015年からはそれをさらに拡大・発展させたCOC+も始まっています。

 

――COC+では具体的にはどんなことをやってきたのでしょうか?

古林先生:京都府から舞鶴高専に提示された「地域の課題」は、言うなれば京都府北部の活性化。京都は観光地として栄えているように思われているのですが、実は多くの人が訪れるのは京都市内や府南部地域だけ。舞鶴や福知山など、京都府北部の周辺エリアはあまり認知度が高くないというのが現状なんです。また、府内に学生さんが多い割に、就職(とくに北部へ)が少ないのです。それを知の力で何とかできないかということに、特にこの2年間取り組んでいます。

今回お話させていただく内容はそのCOC+の中でも電気情報工学科第4学年にて実施している「創造工学」という地域志向科目です。2年目となる2016年度は、学生を4つのチームに分けて、地元支援学校の電動車椅子の改良、LEDイルミネーションによる駅前のライトアップ、舞鶴市内のアクティビティ充実、舞鶴観光情報の提供にチャレンジしています。

 

写真

 

――その中で、さくらインターネットはどんなお役に立てましたか?

古林先生:それら4つの取り組みのうち、「情報」技術がとくに重要だった、舞鶴市内のアクティビティ充実、舞鶴観光情報の提供において、さくらのVPSを活用させていただきました。

前者は、学生がUnityを駆使して作ったアクティビティを楽しんでいただいているようすをWebカメラで中継したり、あそび方のレクチャーを紹介するWebサイトの設置などに使っています。

 

PCの写真

 

後者は、舞鶴周辺の美味しいお店や観光スポットを紹介するWebサイトやアプリを運用するために使わせていただきました。アバターを使ったかわいらしいものから、閉店時間情報も踏まえて、今、やっている近所のお店を紹介してくれるもの、ルート検索機能付きのものまで、さまざまな切り口の情報提供をおこなっています。

 

PCの写真

 

――こうしたことは学内サーバーでは難しかったんですか?

古林先生:はい。学内サーバーはセキュリティの問題もあって、学校のホームページなど一部を除き、外部からのアクセスを遮断しており、こうした学外との連携には使えないんです。さりとて、教材として外部のVPSを導入することもシステム的に厳しく……。どうしても契約が年度をまたいでしまうため、予算を付けることが難しかったんです。

 

——では、無償提供には金額だけでないメリットもあったということですね。

古林先生:とても助かりました。無償提供は今年だけだったので、来年以降どうしようかと思ってしまうほど(笑)。ただ、後ほど学生からお話させていただく「身体活動データ収集・解析支援システムの構築」プロジェクトについては、卒業研究の予算を付けることができたので、1台だけですが、来年度もさくらのVPSの利用を続けることになっています。

舞鶴高専で学ぶ、若きエンジニアの卵たち

COCという活動を通して、地域貢献という実学で技術を学ぶ舞鶴高専生。続いては、電気情報工学科5学年約200名(1学年約40名)の中から、とくに優秀と古林先生がお墨付きを与えた3名の学生さんにご登場いただき、舞鶴での学びについて語っていただきます。

舞鶴高専 電気情報工学科 3年生 山本謙太さん

山本謙太さんの写真

 

「僕が現在学んでいるのは電気系では回路の過渡解析、情報系では数値解析などといった基礎的な範囲です。その上で、課外活動として、プロコン部に所属しているほか、個人の趣味としてUSBデバイスをPIC(ペリフェラル・インターフェイス・コントローラー)で開発するなどといったこともやっています。とにかく今はいろいろなことがやってみたい。舞鶴高専を選んだのも、ここなら電気から情報までまんべんなく学べそうだと思ったからなんですよ。結論としては舞鶴高専を選んで大正解。学生生活を楽しく満喫しています」(山本さん)

舞鶴高専 電気情報工学科 4年生 森本健太さん

森本健太さんの写真

 

「私も山本君と同じく、いろいろなことをやりたくて舞鶴高専を選びました。現在は部活で創造技術研究会に所属し、電気、情報のほか、機械の設計などにも手を出しています。授業では、先ほど古林先生がお話ししたCOC事業の一環としてイルミネーションの製作に参加。ここで課題となったのが、それぞれのチームが製作したイルミネーションを連携させるということ。実は昨年もイルミネーション作りをやったのですが、横の連携がなかったため、ただ好き勝手に光っている状態になってしまっていたんですよね。そこで今年はそれぞれのイルミネーションを無線技術で連携させて統一感を持たせることに成功しました。また、後期は5年生の谷先輩と組んで、『身体活動データ収集・解析支援システムの構築』という研究にも挑戦しています」(森本さん)

舞鶴高専 電気情報工学科 5年生 谷健太郎さん

谷健太郎さんの写真

「私の卒業研究となった『身体活動データ収集・解析支援システムの構築』は、舞鶴市民の健康作りのためにウォーキングを推奨しようというプロジェクト。市役所や地元信金の社員の皆さんにご協力いただいて、ウェアラブル端末とスマホの組みあわせで運動を奨励された人と、そうでない人の運動習慣と成果を収集・解析する仕組み作りをおこないました。この際、吸い上げたデータを保管しておく場所としてさくらのVPSを活用。データのレシーバー作りからシステム構築までひたすら試行錯誤を繰り返したのが大変でしたが、結果として、そうした『情報』の取り扱いに強い興味を持つことができました。今後はこの方面をもっと極めていきたいですね」(谷さん)

ちなみに谷さんは、こうした経験を経て、某国立大学工学部の機械システム系学科への進学が決定。この春から、人工知能の専門家としての道を歩み始めることになりました。なお、さくらのVPSも活用した『身体活動データ収集・解析支援システムの構築』の研究はこれまでも一緒にやってきた後輩・森本さんが継続。学びの成果はこうして先輩から後輩へ引き継がれていくのです。

日本のテクノロジーの未来を担う高専生たち。さくらインターネットはこれからも、そんな彼らを全力でバックアップしていきたいと考えています!!

 

■関連リンク
舞鶴工業高等専門学校

(※上記学生の皆様の学年は2017年2月時点のものです。)

おまけ

繰り返しますが、舞鶴高専はさくらインターネット創業の地(?)。せっかくなので、その“当時”を知る恩師・仲川力先生に若き日の創業者・田中社長がどんな学生だったのかを聞いてみました。

 

中川力先生の写真

 

——高専生時代の田中社長ってどんな学生だったんでしょうか?

仲川先生:彼は私が赴任して2年目の学生だったのですが、PC関連に明るいと言うことで、出来たばかりの電子制御工学科棟の機材設置などを手伝ってもらっていました。そうしたらいつの間にかそこの主のような存在になってしまい、平日は10時ごろまで、土日はオールナイトで入り浸るようになっていましたね。え? 成績ですか? うーん、留年はしませんでしたよ、少なくとも(笑)。

 

——高専生時代の田中社長のエピソードで何か面白いものがありましたらぜひ。

仲川先生:ある日、出張から帰ってきて研究所のPCを立ち上げたら、何もしていないはずなのに動作が不安定になっているということがありました。おかしいなと思ってPC内部を見てみると当時はまだものすごく高価だったメモリモジュールが1枚焼け焦げているんです。すぐにピンときて田中君を問い詰めてみたら、自分用のPCに何かのソフトをインストールするために拝借し、その際、規格が合わなかったとかで燃やしてしまったと白状しました(笑)。

 

——そんな彼が、さくらインターネットを立ち上げるきっかけは何だったのか、ご存じだったりするのでしょうか?

仲川先生:それがよく分からないんです。彼の在学中、1年だけ内地留学のため舞鶴高専を離れていたのですが、戻ってきたらもう“化けて”いました。古いインターネットユーザーならご存じかもしれませんが、かつてはここにwww.apache.or.jp(現・www.apache.jp)があり、田中君がMLを運営し、自らモジュールを作り、マニュアルを翻訳したりしていたんですよ。在学中にベンチャー企業を立ち上げると言い出したときには驚きましたが、これからのインターネットを支えていくのは彼らのような若い力だと考え、なるべく応援するようにしました。

 

——舞鶴高専には田中社長のほかに、そうした学生はいたのでしょうか?

仲川先生:いや、後にも先にもそんな学生は彼だけです(笑)。それだけに彼の存在はとても印象的でした。不在だった1年を除き、在学中はみっちりつき合いましたね。僕のところで卒研もやりましたし、逆に僕の論文を手伝ってもらったり……絶対に忘れられない学生の1人です。ただ、最近、その当時の記憶と比べてちょっと太ってきたように見えるのが気になっています(笑)。忙しいとは思うのですが、健康には気をつけるようにしてくださいね。

 

 

さくらのクリスマスイベント大阪初開催!「さくらの聖夜2017 in 大阪」レポート

ケーキの写真

こちらの記事は、2018年1月にさくらのナレッジで公開された記事を再編集したものとなります。文●法林浩之

さくらインターネットがお送りするクリスマスイベント「さくらの聖夜」もすっかり恒例となりました。従来は東京で開催していましたが、今回は大阪駅近くのグランフロントに移転した大阪本社を会場とし、「さくらの聖夜2017 in 大阪」として開催しました。12月25日(月)の夜という、クリスマスかつ年末の忙しい時期にも関わらず、60名以上の方が参加してくださいました。ありがとうございます! それでは、イベントレポートをお楽しみください!

 

さくらのトップが提言するこれからの働き方

1本目のプログラムは代表の田中邦裕が登壇。「働き方改革疲れへの処方箋」と題して講演しました。

 

田中の写真

 

田中からは、日本ではITエンジニアが人月で計算される工員として扱われているという問題提起や、「働きやすさ」と「働きがい」は別のものであること、働きやすい環境の提供と社員による働きがいの追求を目指した制度「さぶりこ」の紹介がありました。そして最後に田中からの処方箋として、大阪本社オフィスの広大な未施工エリアの写真を例に、効率性ばかりを考えるのではなく、余白を作ることの大切さを訴えました。

 

大阪本社・未施工エリアの写真

 

「さぶりこ」のような施策や余白を作ることを考えるようになった背景には、2010年代の前半に経営の効率化を図ったところ、利益は増加したものの売上高成長率は鈍化し、さらに離職率が高くなり社員数が減ったという過去があります。効率だけを求めても人は幸せになれるわけではないことを示唆する、興味深い話でした。

まりなの担当者が語るまりなのこと

まりなの中の人の写真

 

続いては、カスタマーリレーション部の青木茉利奈&石井姫彩が「まりなの中の人はおじさんではないんだそうですよ?」というタイトルで発表しました。2人は当社カスタマーセンターの公式キャラクター「まりな」の担当を務めています。発表内容としては、まりなの誕生経緯、ツイッターによるお客様対応の様子、テーマ別に体系的かつわかりやすい解説を目指した「まりなの超初心者講座」、さらに将来の野望として、担当者と人工知能による仕事の分担などの話がありました。

 

さくらの聖夜限定で配られたまりなステッカー

さくらの聖夜限定で配られたまりなステッカー

「まりな」というキャラクター名は青木の氏名に由来しており、そういう意味では「中の人」どころかまりな本人による発表だったのですが、実は対外的なイベントでまりなの話をしたのは初めてだったそうです。会場からの質問も多く、関心高く聴いていただけてよかったです。ツイッターをご利用の皆さんはまりな(@sakura_ope)をフォローしてくださるとうれしいです。

執行役員が緊急参戦!バズワード大戦

江草の写真

急きょ登壇した江草

3本目のセッションは、エバンジェリストチームの前佛雅人と横田真俊による「前佛&横田のバズワード大戦2018」を予定していましたが、前佛が都合により登壇できなくなったため、執行役員の江草陽太が緊急登板。「江草&横田のバズワード大戦2018」としてお送りしました。

毎年50回ぐらい登壇している横田

横田の写真

内容としては、技術動向を俯瞰する手法であるハイプ・サイクルの説明、ウェブ開発者の技術トレンドを知るための情報源の紹介、それらを参考に横田が作成した「俺式ハイプサイクル」の解説がありました。また、2017年を総括する上で重要な技術として、Kubernetes、SRE、Mastodon、LPWA、スマートスピーカー、Let’s Encryptなどを挙げました。

2017年の「俺式」ハイプサイクル(横田の資料)

 

バズワード大戦のセッションは前回の「さくらの聖夜」でも実施しましたが、その年のIT/インフラ業界の動向を振り返ることができ、年末のまとめとしてとても良いプログラムでした。

ケーキも出たよ!たこ焼きも出たよ!懇親会&LT大会

本編終了後は、セミナールームからオープンエリアに移動して懇親会です。お食事や飲物の他に、さくらの聖夜特製のクリスマスケーキもお出しし、田中が自分の似顔絵に入刀するシーンが今年も現出しました。さらに今回は、当日になって田中が「たこ焼きを焼きたい!」と言い出し、自ら材料の調達から仕込み、たこ焼き器での製造までをおこない、参加者の皆さんに振る舞いました。

 

田中の写真

たこ焼きの準備に勤しむ田中

さらに、懇親会と並行してLT大会をおこないました。大阪本社のセミナールームやオープンエリアでイベントを開催したコミュニティの方々を中心に、各コミュニティでの取り組みや技術のことなどを発表していただきました。また、当社からもエバンジェリストチームの三谷公美が登壇し、最近運用を開始した石狩データセンター3号棟の様子を紹介しました。LTの一覧は以下の通りです。(発表順、敬称略)

 

三谷の写真

石狩データセンターの近況を紹介する三谷

おわりに ~編集長、引き受けました~

LTには筆者も登壇しました。内容はさくらのナレッジの紹介ですが、あわせて、このたび筆者がさくナレ編集部に加わり、編集長を務めることを報告しました。私が編集長になったからといってさくナレが急に大きく変わるわけではなく、むしろ今までと変わらず「ITエンジニアに役立つ情報を全力でシェア!」を体現する媒体を目指してやっていきます。これからもさくらのナレッジをよろしくお願いします!

それではまた、次回のイベントでお会いしましょう!

 

法林の写真

 

IT企業における「New Normal」を目指して 〜「さくらの夕べオンライン 新型コロナウイルス対策ナイト」レポート

タイトル画像

こちらの記事は、2020年6月にさくらのナレッジで公開された記事を再編集したものとなります。文●法林浩之

2020年6月1日(月)に「さくらの夕べオンライン 新型コロナウイルス対策ナイト」を開催しました。新型コロナウイルスの影響により、IT企業もワークスタイルやビジネスのやり方などに急激な変化が起きています。今回のイベントでは、新型コロナウイルスに対するIT企業各社の取り組みをご紹介し、あわせて参加者の方々から質問をいただいてのディスカッションをおこないました。イベントの模様をお伝えします。

 

新型コロナウイルスに対する各社の取り組み

イベントの前半は、さくらインターネット、日本IBM、ラックの3社に、それぞれの取り組みをうかがいました。

リモートワーク前提企業への転換:さくらインターネット

さくらインターネットからは、執行役員ならびにエバンジェリストである横田真俊が発表しました。

当社の取り組みは「従業員」「社会」「お客様」の3つの視点に分けられます。従業員に対する取り組みでは、まず基本スタンスとして「在宅勤務を含むリモートワークを、さくらインターネットの働き方の風土の前提とする」方針への転換を掲げたこと、それを実施できた背景に「さぶりこ」をはじめとする労働環境や制度の整備があったことを挙げました。具体的な施策としては、オフィス勤務の制限、Zoomなどを用いたオンラインミーティングの徹底、電話窓口の休止などがあります。しかしデータセンターは物理的な作業があり無人では運用できないので、衛生面に配慮しつつ入館を継続しています。

 

横田の資料の画像

 

次に社会への取り組みとして、新型コロナ情報まとめサイト向けのサーバ提供や、Folding@home(タンパク質の分析をおこなう分散コンピューティングプロジェクト)へのインフラ提供といった活動を紹介しました。最後にお客様に対する取り組みとして、Tellusオンライン講座の無料提供、法人向けテレワーク推進支援プログラムを紹介しました。Tellusオンライン講座は6月末(予定)まで無料で受講できますので、興味のある方はこの機会にどうぞ。

状況適応からNew Normalへ:日本IBM

続いては、日本IBMにてデベロッパーアドボケイトを務める戸倉彩さんが発表しました。

IBMでは、新型コロナウイルスの拡大に伴う変化を時間の経過に応じて「混乱」「慣れ・状況適応」「New Normal」の3段階に分け、各段階ごとにテーマを決めて取り組みを推進しています(下図参照)。本イベントの開催時点では「慣れ・状況適応」の段階にあります。

 

戸倉さんの資料画像

 

具体的な対応方針は「勤務形態」「本人および周囲が感染した場合」「出張」「イベント/会議」の4項目について定めてあり、例えば勤務については必要最小限の社員のみ出社する体制を7月まで継続する予定です。また、対外的な取り組みとしては、研究支援コンソーシアムの設立や、迅速なリモートワーク導入のソリューション提供などを行っています。

さらに、2018年から実施しているCall for Codeグローバルチャレンジ(差し迫る社会問題をコードで解決しようというコンテスト)において、2020年のテーマに新型コロナウイルスが急きょ追加されました。ただいま応募受付中です(7/31締切)。グローバル最優秀チームには20万ドルの賞金が出ます。

最後に「コロナ対策エンジニア」コミュニティの紹介がありました。業種や職種の壁を越えて集まった参加者が情報共有・発信・トレーニングをおこなっており、それを通して自らのスキル向上や社会貢献を目指しています。

詳しく知りたい方は、戸倉さんにより公開されている資料や、日本IBMのウェブサイトにおける「新型コロナウイルス対策へのIBMの取り組み」というコーナーをご覧ください。

 

 

24時間365日対応拠点の在宅勤務化:ラック

各社の取り組みの最後に、ラックの内田さんが発表しました。ラックではJSOC(Japan Security Operation Center)という24時間365日体制のセキュリティ監視拠点を運用していますが、こちらの新型コロナウイルス対策が主な内容です。ちなみにJSOCのメンバーは総勢200名以上おり、24時間対応ということでシフト制で勤務しています。

JSOCの対応としては、3月27日から全運用業務を対象に在宅勤務を開始し、これを顧客に案内しました。そして、その後もこの体制を維持しつつサービスを継続しています。実際にどこまで在宅での業務に切り替えられたかという報告もあり、4月1日の時点では5割強だったのが、5月下旬には80%以上にまで伸ばすことができました。現在も出社して対応している業務としては、顧客のデバイス管理(機器のアップデートなど)や電話対応などがあります。

 

内田さんの資料画像

 

在宅勤務への切り替えに際しては、リモートデスクトップなどの用途にTeamViewerを導入しました。導入理由は、約200名が同時接続できるVPN装置を用意するよりも早期に導入できる、RDPより軽い、コピー&ペースト禁止などのセキュリティ対策ができる、などです。とくにJSOCのメンバーは大量のログ監視などをおこなうためにプログラマブルなマウスを使用して超高速な操作をおこなっており、RDPでは画面切り替えが追いつかないとのことです。また、JSOCから顧客に電話する業務にはAmazon Connectを導入しました。これを使うと複数人から同じ電話番号で発信できるので、カスタマーサポートに使用する電話番号を一本化できます。6月以降は自宅以外の場所でのリモートワークもできるように検討中で、そのために覗き見防止ブロッカーを導入予定とのことです。

ディスカッション

後半は質疑応答を中心とするディスカッションをおこないました。その中からいくつかを紹介します。

 

――リモートワークを進める上で、従来は想定していなかった悩みや課題はありましたか?

横田:自宅の椅子が仕事をするのに合っていないという人が多かったですね。会社の椅子は結構いいのを使ってるんですが、みんな知らなかったようです(笑)。

内田:JSOCのメンバーは横長の大きなモニターを使っているんですが、在宅勤務でノートPCだと作業効率が大きく落ちるという声が多かったです。たまたまモニターの買い替えの時期だったので、希望者には払い下げて自宅用に提供しました。

戸倉:オフィスでは気軽にできていた雑談がなくなり、情報共有の機会が失われました。エンジニアには雑談は重要だったんだなと気づかされました。対策として定期的に「雑談タイム」というミーティングを設定しています。

 

JSOCのオフィス。ディスプレイを横に2台並べて作業する姿が見える(出典:https://www.lac.co.jp/service/operation/)

――在宅勤務で個人の回線を使う場合、情報漏えいなどのセキュリティ対策はしていますか?

内田:まず、社員は持ち出し専用PCを使用し、そこには情報を保存しないようにします。通信回線は暗号化されており、さらにコピペやファイル転送の禁止、二段階認証の利用といったこともおこなっています。TeamViewerは動作が比較的軽く、iPhoneのテザリングでも業務できているようです。

戸倉:通常の業務もセキュアな環境でやっていたので、今回のために特別に何かしたというのはないですね。ただ、在宅勤務特有のセキュリティ問題としては、私がPCを使っているところを子供が見に来るのでショルダーハッキングの危険性があるんです(笑)。対策として出社時と同様に画面をロックしたり指紋認証を使ったりしてます。

横田:弊社も普段から対策はしているんですが、今回の事態でVPNの利用が急増して設備を圧迫するおそれが出てきたので、VPNをできるだけ減らして、ゼロトラストに準拠した仕組みに切り替えようとしています。

 

――テレワーク体制を始めるにあたっては、セキュリティ問題、機材問題、費用問題の3つの壁があり、導入に踏み切れない企業も多いように思いますが、敏速な対応ができた秘訣はありますか?

横田:以前からテレワークの準備ができていたことが大きかったと思います。それから、役員層のマインドが一番の壁でしょうね。上層部がやると言えば導入は早く進むでしょう。

内田:ISMSを制定している会社は多いと思いますが、今回のような事態はISMSのルールに記載してないケースが多く、そこも障壁になると思います。弊社は私が責任者だったので速攻で改定しました。それから、機材問題が意外に大変でした。社員に持ち出しPCを提供しようにも、この事態のせいかレンタル業者に在庫がないんですよ。社内の余剰PCをかき集めて初期化してなんとか対応しました。

戸倉:テレワークも含めて、これからDX(デジタルトランスフォーメーション)が加速するだろうと思っています。これから導入したい会社はまずロードマップを作って、できるところからやっていくのがよいでしょう。IBMのウェブサイトにも事例などの情報をたくさん載せているので、ぜひ見てください。

 

ディスカッション中の写真

 

――来たるべきNew Normalの世界はどんなものになると思いますか?

横田:20年前ぐらいに「コンピュータが発達するとこういう社会になる」というような漫画を見た覚えがあるんですが、その通りの世界になりつつあるような気がします。ITの力をもう少しうまく使った働き方が実現できるのではないかと考えています。

戸倉:IBMでは、New Normalに関して4つのキーワードを掲げています。顧客との関係強化、コスト削減、省人化の加速、リスク態勢の強化です。とくに顧客との関係強化については、デジタルを活用したリレーションシップの構築が重要になると見ています。省人化の加速というのは、要するに自動化できるところはしていくということですね。クラウドネイティブのような流れもその1つです。

内田:ここ数か月、在宅勤務してみて、クラウドにアクセスすればほとんどの仕事が回るので、出社する必要がなくなってきています。つまり、エンドポイントとクラウドで業務が完結して、働く場所を選ばなくてよくなりつつあるということです。これに慣れてしまうと、以前の形にはたぶん戻れないんじゃないですかね。もしかしたらこれがNew Normalなのかも?と思ったりしてます。

おわりに

新型コロナウイルスの影響で、IT業界のみならず、社会全体が大きな変革の時を迎えています。今回登壇した各社の取り組みからは、コロナウイルスを単なる制約や障壁とだけとらえるのではなく、それを前提条件とした上で新しい何か(ツールや仕組みなど)を生み出そうという、前向きな姿勢が感じられました。こうして作り出されたものたちが、これからのNew Normalの世界を形成していくのだろうと思いました。

そして、New Normalに向けての動きは、ITイベントについても例外ではありません。さくらの夕べは2011年の開始以来、基本的にずっと会場で開催してきましたが、本イベントの1週間前に実施した「さくらの夕べ Tech Night #1 Online」、そして本イベントと、ようやくオンラインイベントの開催にこぎつけることができました。当日もたくさんの方にご覧いただき感謝しています。映像アーカイブも残っていますので、発表やディスカッションの模様をより詳しく知りたい方は、そちらをご覧ください。

 

 

また、これからも継続的にオンラインイベントを開催していく予定です。以下のコミュニティ/グループのいずれかで告知する可能性が高いので、よろしければ登録をお願いします。

それではまた、次回のイベントでお会いしましょう!

 

 

「請求書が作れない」瀕死のフリーランスを助けてくれたDX

「請求書が作れない」瀕死のフリーランスを助けてくれたDX

 

フリーランスライターになった初月。私は泣いていた。

原稿が書けなかったのではない。請求書の作成が、できなかったのだ。

経理作業が苦手すぎて逃げていた

フリーランスライターは、自分で営業も経理もする。そして、ライターは得てして「経理」が苦手な人が多い。私もその例外ではなかった。

どれくらい苦手かというと、会社員時代の経費精算すら溜め込んで経理部門に叱られるくらいだった。経費精算をしたくないがあまりに、自腹を切ったこともある。

だが、いくら経費精算からは逃れられても、「請求書の送付」からは逃れられない。請求書を送付しなければ、どんな仕事も無報酬になる。事務作業が苦手すぎて廃業しました……なんて、バカにも程がある。

しかし、私は真剣に廃業を考えるくらい、追い詰められていた。お取引先の経理担当者からは「また間違えたんですか」とため息が聞こえるようなメールが届いた。

何度もリテイクをお願いされて、こちらも心苦しい。ここまで無能さを発揮したことは、さすがにない。たった1枚の書類が作れず、私は呻いていた。

DXから程遠い場所にいた経理作業

DXから程遠い場所にいた経理作業

そして、2015年……私がフリーランスライターになった当時、経理作業の多くはDXからほぼ遠い場所にあった。当時の典型的な請求書送付作業は、以下の通りである。

  • 請求額を確認する
  • 請求書をExcelで作る
  • 印刷する
  • 印刷した請求書に、印鑑を押す
  • 送付状とあわせて封筒へ入れ、郵送する

あ、アナログ……!!

原稿のすべてがWordで納品できるようになった時代においても、請求書だけは、とんでもなくアナログだったのだ。当時の私はプリンタすら持っておらず、いそいそとPDF保存した請求書のデータをコンビニまで持っていき、印刷していた。

2年目までに、印鑑の画像をスキャンし、Excelへ貼るという「発明」を思いついた。

「捺印したExcelをPDF保存するので、メールで送らせてほしい。どうせ郵送しても同じデータが紙になって届くだけ」と伝えたが、伝統的企業の答えは「郵送でない請求書は受け付けられない」と、そっけないものだった。

非DX環境で生まれる「ポカミス」

非DX環境で生まれる「ポカミス」

フリーランスライターにとって、経理で恐ろしいのは「ポカミス」の数々だ。ここから、私の黒歴史を書いていこう。

  • Excelを印刷するとレイアウトがずれて、1枚だったはずの紙がなぜか2ページで印刷される。こればかりはExcelのせいにしたい。許されたい。
  • 印鑑の陰影が上手に作れず、請求書の再送付依頼が届く。二度もこんな作業を繰り返すことに苦悩する。切手代もムダになった。
  • 執筆業など、一部業種に発生する「源泉徴収税」の計算ミスにより金額修正。請求書を作り直して送付しなおし。切手代もムダに(ry)

はっきり言おう。請求書を送る期日である月末が来るたび、私は発狂していた。ライターという職業に満足している。仕事は毎日楽しい。それなのに……それなのに経理業務が苦手すぎて転職を考えたい!

年始には確定申告が重なることもあり、経理業務が増加。現実逃避に転職サイトを見つめたこともある。

まるで過去の罪過のように話しているが、今月も取引先へ、200円多く振り込んでしまった。私のポンコツぶりは、今日もトラブルを引き起こしている。

経理業務のDXがコロナ禍で始まった

そんな私を救ったのは、コロナ禍だった。

多くの企業がテレワークを実現。請求書の送り先だったオフィスは閉鎖された。そして、多くの企業からお問い合わせが届き始めた。

 

「誠に申し訳ございませんが、来月よりご請求書をPDF形式でのメール送付に変更したく、お手続きいただけますでしょうか」

「します! お手続き、します!」

 

私は喜んで飛びついた。何しろ、2時間の作業が20分になるのだ。その分、2本追加で原稿を書ける! 請け負える執筆案件も増え、稼ぎも増えた。私は水を得た魚のようだった。

DX未対応の企業と取引を中止する判断

DX未対応の企業と取引を中止する判断

 

そして、私はさらに一歩踏み込んだ判断をする。

 

「このタイミングで、ご請求書を郵送しなければいけない会社とは、お取引を一度止めよう」

 

この決断は、苦渋を伴った。というのも、大手で伝統的な企業ほど、郵送による請求書送付を好んだからだ。大手企業からの発注実績は、ライターとしても見栄えがいい。だから、フリーランスとして生きていくには大手との経歴が欲しいものだ。それでも、経理業務負担は私が背負いきれないものとなっていた。

当時すでに私にはマネージャーが2名おり、経理業務のほとんどを担当してくれていた。だが、そのマネージャー陣が何度も請求書を三つ折りにして封筒へ詰める作業は、本当に必要なのだろうか? という疑問も拭いきれなかったのだ。

 

「いつもお世話になっております。大変恐縮なお願いではございますが、今後PDFでのメール送信にてご請求のお手続きをとってもよろしいでしょうか。弊社では郵送への人員が避けず、今後メールでのやりとりが可能なお客さまのみお取引を継続するはこびとなりました」

 

というメールを書いたときは、手が震えた。今後、何社との取引が停止してしまうのか。想像するだけで憂鬱になった。

DXを強行したフリーランスへの温かい反応

ところが……「経理でDXを強行した」私に対する企業の反応は予想外のものだった。

「助かります。こうやって要求してくださるフリーランスが多数いらっしゃれば、社内制度を変える口実ができます」と、喜んでもらえたのだ。

そう、現場の担当者だって、とうの昔から「経理作業をDXしたい」と思っていたのだ。だが、DXには大きな制度変更が必要となる。担当者だけの言い分では通らない案も多かった。そこで、取引先のプレッシャーを必要としていたのである。

「それでは、PDF形式で、メール送付によるご請求書でお取引いたします」と、号令が出た。郵送による請求書は廃止された。

新型コロナウイルスがまん延してからは、むしろ郵送での請求書を求められる機会がなくなった。私は、生き延びたのだ。

さらなる経理業務のDXを目指して

さらなる経理業務のDXを目指して

大手企業すら、経理業務のDXへ協力してくれた。次に変化すべきは、私たちだった。そもそも、Excelで手作りした請求書を「DX」と呼ぶなど、ちゃんちゃらおかしいのである。

当時、各種会計ソフトは自動で請求書を作る機能を導入していた。事前に売上がいくらになるか記入しておけば、ワンタップ/ワンクリックで請求書を送ることができた。しかし、売掛金を事前に入力する手間から、私は長らくExcel請求書に頼ってきた。

DXを後押ししてくれたのは、私のマネージャー陣である。

「今月上がるはずの売上を事前に入力しておく」手間を背負ってくれたお陰で、私の請求書は月末にワンタッチで送付されるようになった。

金額の入力ミスはなくなり、請求書が再送となるトラブルは激減。現在では月に1件、手直しがあるかないかである。

フリーランスを救った経理DX

同じような苦しみを抱くフリーランスが多いことは、多数聞いている。特に飲食店経営者には、デジタル業務が苦手な者も多い。

確定申告ではすべての経費を「雑費」にして計上している方もいると聞く。何なら、確定申告すら無視している業者が多いことも知っている。それもこれも、手続きがやっかいだからだ。

経理業務の急激なDXは、数多のフリーランスを救っている。副業解禁の流れもあって、副業ライターとして活動する後輩たちも増えてきた。

そこでいかにかつての非DX経理が苦痛だったかを語る老害しぐさは、やめておこう。その代わりに彼ら・彼女らの負担を軽減するツールを紹介していく、よき先人でありたい。

 

デジタルトランスフォーメーションの最初で全部終わった話

デジタルトランスフォーメーションの最初で全部終わった話

 

「これからはデジタルトランスフォーメーションだ!

 

以前勤めていたブラック企業では経営方針発表会という、なんか公民館みたいな場所に集められて偉い人の話を3時間も聞き、最後に集合写真を撮って解散するというクソイベントが年に4回もあった。あまりに多いので「経営方針発表会 頻度」で調べたことがある。

会社がメインでやっていることはずっと「電波がすごく遅いWi-fi端末を高齢者に売る」という業務なのだが、一体年に4回も何を発表することがあるのか。無いだろう。役員たちも「とにかく気合だ!」みたいなうっすい話しかしない。みんな聞いてないけどスマホをいじったりすると、いつも社長室にいる何の仕事してるか不明の人に激詰めされるので、ただ生産性を下げる無のイベントとなっていた。激詰めとは、泣くか吐くまで怒られるという意味です。

 

「やりがい」「成長」って言葉が飛び交う。やりがいも何も言葉巧みに遅いWi-fiを売るだけだし、そういう力が成長していくだけだ。もっと昇給とかキャリアパスとかの話をしてほしかった。

ただ、社長だけは毎回違うことを話していた印象がある。僕もさすがに社長の話は一応ちゃんと姿勢を正して聞く。デジタルトランスフォーメーション? なんだそれは。

気になったのでちゃんと聞いていたが、要約すると社長は「とにかくデジタルだぜ!」みたいなことしか言ってなかったので、帰社してから自分で調べた。ちなみにこのイベントは3時間とられるので、残業が普段+3時間されます。

デジタルトランスフォーメーションとは?

一言でいうと「進化したデジタル技術を浸透させることで人々の生活をより良いものへと変革すること」らしい。

デジタルトランスフォーメーション(DX)とは? 意味や定義をわかりやすく解説

 

この「変革」というのが大事で、具体例を示すとよくZOZOTOWNの例が挙げられる。

「服は店頭で試着して買うもの」という概念をデジタルで覆した好例だ。人気ブランドを取り揃え、送料無料(当時は)や簡単な返品方法など、それまでほとんどギャンブルに近かった「服の通販」を当たり前にした。

デジタルを用いて、変革する。素晴らしいことだ。

また調べていくと、デジタルトランスフォーメーションをするためにはその前に段階があるとのことだった。

 

デジタイゼーション→デジタライゼーション→デジタルトランスフォーメーション

 

なんか似たような単語が並んでよくわからなかったが、デジタライゼーションは「個別の業務や製造プロセスのデジタル化」、デジタイゼーションは「アナログ・物理データのデジタルデータ化」を指していた。

デジタルトランスフォーメーションをするためには長い道のりがあるらしい。知れば知るほど、粗悪なWi-fiとウォーターサーバーを売っている弊社と一体何の関係があるのだろうかと思う。

しかし本当にデジタルトランスフォーメーションをするのだとしたら、まずはデジタイゼーション(アナログ・物理データのデジタルデータ化)をするのだろうか。

まあ関係ないだろうなと思い、言葉巧みに粗悪なWi-Fiを売りつける業務に戻った。

タイムカードの電子化

タイムカードの電子化

 

社長が言ったことは絶対! のスピード感だけはある会社だったので、翌月、出退勤表(タイムカード)をタブレット入力にして、電子で管理するという施策がなされた。デジタイゼーションだ。すごい、ちゃんとやろうとしている。

1フロアに1つタブレットがちょこんと置かれ、出勤と退勤はここに社員番号を入力してボタンを押しなさいとの指示が下った。

それまで、出退勤は月ごとに紙で管理していた。「日付」「出勤時間」「退勤時間」「上司のサイン欄」だけのシンプルな紙。名前欄が無くて余白に書かせるというエクセルレベル1みたいなシートが毎月配られていた。

今までどんな時間働いても残業代が支払われないのでこんな表でも成立してきていた。1つ問題があるとすれば人数の多い会社ではあったので、上司にサインを貰うために行列が出来ることだった。

 

当時の上司である鹿島(カシマ)さんは画数が多いからかカタカナで「カシマ」と次々サインしていき、後半は筆が乱れてほとんど「カシス」になっていた。

出勤:8時 退勤:0時 確認:カシス とびっしり書かれた表を眺め、本当にこれで給料が支払われるのだろうかと不安になりながら総務部へ提出し、翌月末にすごく低い給料が振り込まれる。

タブレットの導入によって、行列とこれらの不安が解消されるのだろうか。喫煙所で役員共はこれをデジタルトランスフォーメーションだと言っていた。それはデジタイゼーションですよとか言ったら一撃で嫌われそうだなと思ったので黙って聞いていた。

それでもあの紙よりはマシだろう、期待して月初の出勤をする。

現場は大混乱

現場は大混乱

 

大混乱が発生した。

タブレットが安物なのかアプリが変なのかものすごくタッチの精度が悪く、昔のデジカメのタッチパネルみたいな押しにくさ。さらにこの会社に何人入る想定で設定したのかわかんないけど、社員番号が8ケタもあるので押し間違いが多発し、タブレットは大混雑していた。

当時の僕は課長代理という立場にいた。管理職だからという名目のもと、低い給料で月350時間の勤務を命ぜられ、さらに課長の面倒ごとをすべて押し付けられ、ミスもすべて自分のせいになるというすべてのハズレくじを集約したようなポジション。

出勤時間を過ぎた。行列は収まらない。やっと順番が来た奴が焦ってボタンを押し間違える。そもそも普段使われることのない8ケタの社員番号を覚えていない人間が多すぎる。全員がイライラしている。上司の怒号が響く。課長からメールが届く「タブレットはお前に任せる」。

 

しかしまだ、地獄は始まりに過ぎない。

行列がはけたところで自分の出勤を登録するためタブレットを操作した。タブレットには大きく時刻が表示されていて、俺は08:07にボタンを押した。その結果

 

「出勤を登録します」

08:30 出勤」

「はい / いいえ」

は???

どうやら30分単位での計算しかされないらしく、1秒でも過ぎたら30分になるらしい。俺はどうせ残業させられまくるから別にいいんだけど、残業が禁じられていた派遣社員たちがすごく困惑していた。

その混乱をしばらく眺めていた課長は「タブレット責任者」と書かれた謎の紙を印刷して、俺のホワイトボードに貼ってきた。

 

「これ……30分働いてないことになるんですか……?」

 

派遣社員たちがタブレット責任者になった俺に恐る恐る聞いてくる。

知らない。俺もさっき同じ目に遭ってる。お前らと同じ立場。会社はこんな出退勤システムを思いつく人間で溢れているが、作れる奴は1人もいない。「1分でも過ぎたら30分になるように」とオーダーしてどこかに作らせたのだ。

唯一知ってそうな総務部の偉い人に内線をするが、おそらく全フロアで大混乱が起きているのだろう。内線は一向に繋がらなかった。みんなの出勤時間のメモをとり、後でなんとかするとだけ伝え業務に戻る。

早すぎたデジタルトランスフォーメーション

早すぎたデジタルトランスフォーメーション



そして17時。派遣の人たちが一斉に帰る時間なのだが、変わらずすごい行列が出来ていた。そして来週からタブレットを増台するという大本営発表がなされた。いらねえから撤去しろ。弊社には早すぎた。カシスに戻せ。隣のフロアからも俺のところに人が来る。「タブレット責任者の方ですよね?」違う。知らない。俺のところに来るな。タブレット責任者ってなんだ。

結局そんな混乱で手が回らなくなり、その日は日付を超えて0時半に退勤ボタンを押した。その瞬間

 

「退勤を登録します」

「17:00 退勤」

「はい / いいえ」

 

は?????????は?????

この会社は何時間働こうが残業代が出ない。だから会社的には別にこれでも問題ない。今までの紙にも、社員が何時に出退勤したと書かれていようが、支払われる金額は変わらなかった。

ただ、23時に退勤して23時と書いて出すのと、23時に退勤してるのに17時で「はい」を押させるのは無限の隔たりがある。なんだこのタブレット。悪魔とはこれを考えたやつのことだ。

同僚が「どうせ変わらないじゃん」と気にせずボタンを押したが、それは飼いならされすぎている。絶対おかしいって、みんなちゃんと怒って、みんなで変革ではなく革命を起こすべきなんだよ。

だが、押さないといけない。僕がこの会社に所属している以上、押さなかったら明日面倒な目に遭うのはタブレット責任者の自分だ。押さないといけないのがすごく悔しい。

 

2回喫煙所に行って、日付が変わったスマホの時刻表示を一瞬見て、17時の退勤に「はい」を押した。

それから毎日、「はい」を押すたびにより深く会社のことが嫌いになっていった。タブレットのせいだと俺は思っているが、その月は退職者が多かった。2か月後、タブレットは撤去されていつもの紙に戻った。弊社にデジタルトランスフォーメーションは早すぎたのだ。

そしてまた経営方針発表会があって、全社員が仕事を中断して公民館に集められ、社長の「タブレットは精度が悪かったから改良している。デジタルだぜ」という話をぼんやりと冷めた目で聞いていた。この集まりをデジタルにすればいいのにと思いながら。

 

株式会社リーヴォン~手づくりすれば、生活はもっと楽しくなる

株式会社リーヴォン 取締役 結城浩太さん

株式会社リーヴォン 取締役 結城浩太さん

こちらの記事は、2017年3月にさくらのナレッジで公開された記事を再編集したものとなります。文●山下達也

さくらインターネットが注目するスタートアップ企業を紹介。今回お話をお伺いした 株式会社リーヴォン は、DIYを「レシピ」にするというユニークな発想で話題のWebサービス「DIYREPi(ダイレッピ)」を立ち上げた注目スタートアップです。その狙いとは?

今どきのDIYはお父さんだけのものじゃない!

――株式会社リーヴォンでは、現在、Webサービス「DIYREPi」を運営中ですが、まずはこのサービスについて教えてください。

DIYREPiは、DIY(Do It Yourself)の総合コミュニティーサイト。料理のレシピサイトのようにDIYのレシピを掲載しているほか、質問・掲示板機能などを使ってユーザー同士が知識と知恵を共有できるようにもしています。

DIYREPiのサイトイメージ

――どうして「DIY」という市場を選んだんですか? やっぱり結城さんのご趣味がDIYだったりするんでしょうか?

いえ、実は「DIYREPi」は、これまで全くDIYをしたことがないメンバーで作りました。弊社の代表取締役の古橋がインテリア好きなのですが、彼がちょっと興味を持ってDIYをやってみようと思った時に、作り方を教えてくれるサービスがほとんど存在していなかったのがきっかけとなっています。

私も古橋も、かねてよりWebサービスを自分で立ち上げてみたいと考えていたので、これはチャンスだと思いました。今や、インターネットではあらゆるジャンルで、多くの企業が情報サービスを展開しており、割り込む余地がほとんどありません。でも、DIYの分野には当時、そういったサービスが見当たらなかったのです。

 

――でも、DIY=日曜大工って、インターネットが苦手なおじさんたちの趣味というイメージがあります。それってサービスとして成立するんでしょうか?

いえいえ、実は今のDIYのメイン層は、30~40代の主婦なんです。「日曜大工」と言うと木製の家具作りを想像してしまいがちですが、今どきのDIYはその枠に留まらず、雑貨やアクセサリーづくり、手芸や洋裁など、幅広く「ものづくり」のことを示しているんですよ。

また、ゼロから何かを作りあげるだけでなく、100均アイテムにちょっと手を加えてあげるような“プチDIY”も流行っています。

 

――今や、DIYはお父さんのものだけではなくなっているんですね!

そうして作りあげたものをブログやインスタにアップするのが最新のトレンド。二子玉川に有名なDIY作業スペースがあるんですが、そこに行くと女性がとても多くて驚かされますよ。しかも、場所柄もあってか、富裕層のお客さんがとても多いんですね。ビジネス的にも有望だろうと感じました。

 

結城浩太さんの写真

――なるほど。しかし、であるならば、いずれは競合も増えてくることになります。実際、同時期にいくつかのサービスもスタートしているようですが、それらと比べた際の「DIYREPi」の強みはどこにあるのでしょうか?

「DIYREPi」最大の特長は、レシピ共有とコミュニケーション機能に加え、ECサイト「DIYREPi Online」を併設していること。ユーザーが投稿したレシピに「DIYREPi Online」で取り扱っている商品がある場合、自動的に紐付けられるようになっています。

現在「DIYREPi Online」では約1600品目のアイテムを取扱中。今はまだ工具が中心なのですが、今後は段階的に材料なども増やしていく予定です。ユーザーからは材木のカットサービスを提供して欲しいという声が上がっているのですが、これも近日中に対応予定となっています。

 

――「DIYREPi」なら、気に入ったレシピを見つけたら、材料を手に入れるところまでワンストップでいけてしまうということですね。

そうですね。最終的にはそこを目指したいと考えています。あと、もう一つ、大きな強みと言えるのが、我々がDIYの素人だったこと。確かに作り始めは知らない事が多くて苦労させられたのですが、そんな初心者が作ったサービスだからこそ、DIYをこれから始めようと考えている人にも楽しんでもらえるのではないかと。

 

――「DIYREPi」を初めて、業界に何か変化はありましたか?

まだサービスを開始して半年程度なので、大きな変化は起きていないと思うのですが、提携している企業様には「こんなサイトはなかった。DIY業界の発展にはこうしたサイトが必要だ」と言っていただけました。

また、たくさんのDIYブロガーさんが「DIYREPi」にレシピを投稿してくださるようになりました。今後、「DIYレシピ」という言葉が当たり前になり、さらにDIY=「DIYREPi」となれるように社会変化させていきたいです。

日本のDIYを世界へ、世界のDIYを日本へ

――「DIYREPi」がサービス開始して約半年ということですが、その手応えはいかがでしょうか?

実はまだ、目的としていたシステムが完成していないため、大きく告知などはしていない状況です。ECサイトなど基盤となる部分が完成したところで、一気に攻勢をかけたいな、と。ただ、それにも関わらず、既に多くのユーザーさんが「DIYREPi」を活用してくださっているのはとてもうれしいですね。

 

――どんなレシピが人気なんでしょうか?

今は、100均アイテムを使ったDIYが人気ですね。シンプルな箱を買ってきて、それをアレンジして自分好みにカスタマイズするといったレシピがよく参照されています。

 

――サービス開始してみて分かった”想定外”などはありましたか?

思った以上にスマホユーザーが多かったのは想定外でしたね。実は計画初期に、GoogleのキーワードプランナーなどでDIYを検索する人の属性を調べたりしたのですが、そのときはPCユーザーの方が圧倒的に多かったんです。

それでサイトはPCを中心に作成し、最後にそれをエイヤッとスマホ対応させたのですが、蓋を開けてみると、スマホでアクセスするユーザーが7割という結果に(苦笑)。当初のスマホページが分かりにくい構造になっていたため、多くのユーザーを逃してしまっていました。慌てて昨年末に改修したものの、これは大きな読み違いでしたね。

 

――でも、そのおかげかサイトはとても見やすくまとまっていますよね。

ありがとうございます。当初から女性ユーザーを意識していたこともあり、デザインにはすごくこだわっています。DIYマニア向けの機能性よりも、初心者が親しみやいような、使いやすさや優しさを優先しました。また、自分のDIY生活を発信しやすいよう、SNSとの連携機能もしっかり用意しました。

 

結城浩太さんの写真

――今後の目標について教えてください。

現在、DIYを始めようとする際の壁は、「作り方が分からない」「工具・材料を買いに行くのが面倒くさい」「作る場所がない」の3つ。このうち、「作る場所がない」以外は「DIYREPi」で解決できるようにしています。そこで、今後は最後の「作る場所がない」を解決するために、リアルショップを作って、作業スペースの貸出やワークショップなどを行いたいと考えています。

また、世界と繋がっているインターネットの強みを活かし、最終的には日本のDIYを世界に発信し、世界のDIYを日本に広める活動もやっていきたいですね。既成品があふれる世の中ですが、手づくりの良さはその物を作る人の思いが込められている部分にあると思います。

「DIYREPi」が掲げる「手づくりすれば、生活はもっと楽しくなる」というコンセプトに沿って、DIYの魅力を一人でも多くの方にを伝え、DIYを始めるきっかけになればと思っています。

 

――都心のDIY愛好家に取っては確かに場所の問題は大きいですよね。アンテナショップ、期待しています!

そして、株式会社リーヴォンとしては、「DIYREPi」に留まらず、それ以外の分野にも進出していきたい。リーヴォン(Re:evon)という社名は、ReBorn(生まれ変わる)と、Nova(新星)を組み合わせた造語で、新たな世界を生み出し続けていくという意味が込められています。もちろん、現時点では「DIYREPi」に全力投球していくつもりですが、将来的にはいろいろなことをやっていこうと考えています。

 

■関連リンク
株式会社リーヴォン
DIYREPi

 

財産ネット株式会社〜勝率8割の株為替予報サイト「兜予報」で業界の常識を変える

財産ネット株式会社 代表取締役 荻野調さん

財産ネット株式会社 代表取締役 荻野調さん

こちらの記事は、2017年3月にさくらのナレッジで公開された記事を再編集したものとなります。文●山下達也

さくらインターネットが注目するスタートアップ企業を紹介。今回は、流行りのフィンテック分野で活躍するスタートアップ、財産ネット株式会社を紹介します。大金飛び交う証券取引の世界で、同社代表・荻野さんが見出した“勝機”とは?

日本の金融業界がテクノロジー面で遅れているというのは誤解

——財産ネット株式会社の事業内容についてお伺いする前に、まず荻野さんがどういう経緯でこの会社を興すことになったのか、からお聞かせいただけますか? なんでもかなりユニークな経歴をお持ちだそうで……。

荻野調さんの写真

ユニークかどうかは分かりませんが、大学にはたくさん行きました。最終的に修士を3つ、博士を1つ取得しています。学校に通いながら働いていたので、最低限の出席日数でどうやって単位を取るか、を考えているような学生でしたね(笑)。20代の前半は大学で勉強しながらフルタイムで働いていましたよ。

 

——その頃から金融関係のお仕事をされていたんですか?

いいえ、当時はネットワークエンジニアとしてコンサルタントの仕事をしていました。その頃(90年代後半)の日本はちょうど「ブロードバンド」がやってきた時期で、その立ち上げに関わっています。まだISDNの64Kをブロードバンドと称していた時代に、1.5Mbpsのケーブル回線を持ち込むという事業で、アメリカから持ち込んだ機材を日本で動くようにするといった作業をしています。

その後、2000年に務めていた会社が他社と経営統合することになり、そのタイミングでソニーに転職。当時のソニーは新規事業を積極的に立ち上げていた時期だったこともあり、10億円規模の新規事業立ち上げを1年に1プロジェクトというペースでやらせていただきました。データセンターの立ち上げ事業だったり、コンシューマー向けの製品を企画したり、後は企業合併などにも携わりましたね。

 

——それはすごい!

ただ、正直、大企業ならではのペース感に物足りなさを感じたというか、もう少し色々やりたくなってベンチャーキャピタルに転職します。2社合わせて8年半ほどいましたね。在籍中に約1万の事業計画書を見て、実際に100弱に投資して、30くらいはIPO(新規上場)やM&A(事業買収)にこぎ着けています。

その後、紆余曲折あって2011年にグリーへ転職。同社のグローバル事業立ち上げから事業開発部や子会社を率いた後、2015年に財産ネット株式会社を起業しました。

 

——財産ネット立ち上げの狙いを教えてください。

実のところ起業時に事業内容に対するこだわりはさほどありませんでした。ただ、ちょうどフィンテックブームが来ていたこと、そこにタイムマシンモデル(編集部注:米国で成功したビジネスをいち早く日本に持ち込むこと)を適用しやすいことが、この業界を選ぶ決め手となりました。

 

——「タイムマシンモデルを適用しやすい」というのは、日本の金融業界が米国と比べて遅れているということですか?

そこはちょっと説明が必要ですね。フィンテックブームと言うと、よく誤解されるのですが、国内金融業界はかねてよりテクノロジーに投資し続けてきた業界で、その点で遅れているということはありません。証券取引所の高速取引やセキュリティ性の高さなどはIT業界と比較しても最高水準と言えるでしょう。

一方、インターネットを利用して消費者にサービスを届けるというネットビジネスの観点では遅れている面も見受けられます。アパレルや靴などを扱う一般消費財のネットビジネスでは常識となっているマーケティング技術やノウハウ、顧客へのモチベーションの与え方といった考え方が、金融分野では理解されておらず、活用もされていないのです。そして我々は、そこに大きなチャンスがあると考えました。

株為替予報サイト「兜予報」の勝率はなんと8割!?

——そんな財産ネットの具体的な事業内容について教えてください。

主軸となるのは「兜予報」という、兜町アナリストたちの個人的な見解をお届けする無料メディアですね。企業のIR、PR情報が株価にどう直結するか、それは現在の株価に織り込み済みなのかといった見解や、昨日の値動きは何が原因だったのかなどといった解説を各アナリストの視点でまとめたものです。

「兜予報」サイトのイメージ

——もう少し詳しく教えていただけますか?

IR、PR情報を含む、全ての経済ニュースはそれが株価に織り込まれるまでに時差があります。ソニーやトヨタなどの大型株の場合は、この時差がわずか3〜5分程度しかないのですが、いわゆるデイトレーダー銘柄の場合は約1時間程度の余裕があるんです。「兜予報」はその滞空時間を利用してユーザーに情報を提供することで、実際の取引の参考にできるメディアとなります。

具体的には、IR、PR情報をクロールした中から、ネタになりそうなものをキュレーションし、それに対して参加アナリストがポジティブ、ネガティブの投票をおこなう事で“指針”を発信します。この際、アナリストの投票が外れているとどうしようもないのですが、「兜予報」では独自のシステムを開発することで、統計的に勝率をアップ。個々のアナリストの勝率はせいぜい6割くらいで、実際それが限界だと思うのですが、それを十数人集めると統計的に8割くらいまでに高められるのです。

 

——8割ですか!? それは、言うなりに買っているだけで儲かってしまいそうですね……。私も自分なりに専門分野があるので、たまに株価の上がり下がりを予想するのですが、全く当たらず、株には手を出すまいと思っています(苦笑)。

実は株価って、自分の専門分野の方が外しやすいんですよ(笑)。例えば、一昨年の秋にある会社が「画期的なウェアラブル端末を開発」というリリースを出したのですが、それは、その周辺に詳しい人には失敗するとしか見えないものでした。ただ、株価はその後2時間で、約10%ほども向上。もし「売り」に走っていたら大損ですよね。

ただ、実のところ、その玄人判断は正しくて、報じられたウェアラブル端末はその後、鳴かず飛ばず。中長期的には詳しい人の思ったとおりの展開となりました。でも、その“正しさ”は、その日、その瞬間の株価という観点では重要ではないんです。

 

——なるほど。そう言われてみるといろいろと思い当たることがありますね。

そしてこの話は、IT株だけでなく、あらゆる分野に言えること。株式取引をするトレーダーはプロであれ素人であれ、ほとんどが事業構造や製品・薬効等をよく知らずに売買をおこなっています。ゲームのことを知らずにゲーム会社の株を買い、自動車のことを知らずに自動車会社の株を買っているんです。そういう人たちがポジティブに見えるものに「買い」を入れ、ネガティブに見えるものに「売り」を入れる。「兜予報」の役目はそれを可視化するということですね。

荻野調さんの写真

——現状の「兜予報」に対する評価を教えてください。

証券会社への送客が利益となります。ここで重要なのは一般的なネットビジネスと比べて、証券取引の客単価が非常に大きいこと。1取引で少なくとも数十万円のお金が動きますから、リターンもそれに応じて大きくなります。ECでは客単価数千円の売上の約1割が粗利となり、さらにその中から経費を差し引いた2〜3%が利益に過ぎないわけですから比較になりません。

ちなみに証券業界の広告収入を狙ったビジネスはこれまでも活発におこなわれていましたが、そのほとんどは口座開設のアフィリエイトを狙ったもの。でも、証券会社からしてみれば、そうして口座を作ってもらっても、その9割はほとんど取引を行うことなく消えて行ってしまうんです。それでは肝心の手数料収入が取れませんよね?

その点、「兜予報」は、実際の取引発生までをコントロールするというサービス。その点がこれまでの送客ビジネスとは根本的に異なっています。ユーザーにとっても、1クリックで取引画面まで行けるので、利便性という点で大きなメリットがあります。

 

——WIN、WIN、WINというのは良いですね! 最後に、そんな財産ネットが今後、どのような展開を考えているかを教えてください。

「兜予報」を運用していく中で、蓄積された株式売買に関するビッグデータを活用していくことを計画中です。株価の推移については、皆さんデータをお持ちなんですが、どうして株価が動いたのかについての情報を切り出せている企業はほとんどありません。既に、それを利用した株価の変動時間を予測するアルゴリズムが完成しているので、機関投資家向けに販売を予定しています。将来的にはそれをさらに進化させ、利幅や、ポジティブ/ネガティブのシグナルも分析できるようなものに育てていきたいですね。

また、「兜予報」の仕組みは、証券市場があるところならどこでも適用可能。つまり、証券市場の数だけチャンスがあるということです(笑)。それぞれの国の事情に通じた人材の確保が必要となるため、我々単独で拡大していくのは難しいのですが、そこは現地の証券会社と組むかたちで上手くやっていきたいですね。実際、すでに米国版の「兜予報」を始めるべく、交渉を開始しています。

 

■関連リンク
財産ネット株式会社
兜予報