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カピバラとの出会いはインターネット!私がカピバラマニアになるまで

(温泉につかるカピバラ:筆者撮影)

(温泉につかるカピバラ:筆者撮影)

 

突然だが、私は焼き芋が大好きだ。毎日欠かさず食べている。そして、焼き芋好きが高じたため「焼き芋メーカー」なる専用調理器具を購入し、最高の焼き芋をほおばっては幸せを噛みしめるに至る。

この焼き芋メーカーというのは、サツマイモの型が彫られたスチール製のホットプレートでできている。備長炭を練り込んだプレートでサツマイモを熱することで、まるでプロが作ったかのような、ねっとりホクホクの焼き芋が出来上がるのだ。

ちなみに器具の構造としては、ワッフルやホットサンドメーカーの焼き芋版、と考えてもらえれば分かりやすいだろう。よって、サツマイモに限らずプレートのくぼみに収まる食材ならば、なんでも加熱することができる。

ニンジン、ジャガイモ、ズッキーニ、玉ねぎ、ウインナーなどなど、食材のサイズを調整して収めれば、芯までしっかり熱が通った素材重視の料理が出来上がるのだ。

動物園がYouTubeにカピバラの食事風景を投稿

ある日、私はサツマイモとニンジンを焼き芋メーカーに投入し、しっとり甘ぁい野菜に舌鼓を打っていた。そして、BGM代わりに流していたYouTubeに目をやった瞬間、とある映像に驚いた。

なんと、私と同じ食べ物をモグモグしている動物が映っていたからだ。しかもこう言ってはなんだが、あまり可愛くはない。

(カ、カピバラ…)

サツマイモとニンジンを一心不乱に貪り食うは、世界最大の齧歯類(げっしるい)であり、和名を「オニテンジクネズミ」、漢名を「水豚」と名乗る、あのカピバラであった。

明らかに不機嫌そうな、それでいて眠たそうな、分度器を逆さまにしたような半円形の黒目が印象的なカピバラ。悪態をついたつぶらな瞳の上には、飾り物のようなちっちゃな耳が付いており、ことあるごとにピコピコ動かしている。

全身のフォルムは、ブタのようなイノシシのような丸みを帯びた胴体に、短く細い足が生えている。前足には4本の、後ろ足には3本の指が確認できるが、指の間には小さな水かきがついており、これを使って水中をスイスイ泳ぐ姿はこれまたシュールである。

そんなカピバラを展示するどこかの動物園が、YouTubeを使って彼らの食事風景を投稿していたのだ。

飼育員から配られたサツマイモとニンジンを、ガツガツと食い漁るカピバラたち。中には自分の食べ物がなくなったため、隣りのサツマイモに手を出そうと、いや、鼻を伸ばそうとしたカピバラが、

「ハギュッ!」

と、まるで犬が吠えるような、それでいてしわがれた鳴き声で威嚇されたりもする。

(温泉につかって、頭にミカンを乗っけてるだけじゃないんだ…)

表情など皆無。揃いに揃って全員が同じ顔のカピバラに、興味が湧いた瞬間であった。

一世を風靡した、カピバラの露天風呂

(無表情なカピバラ:筆者撮影)

(無表情なカピバラ:筆者撮影)

 

そもそも「カピバラ」という動物を知ったのは、いつどこでなのかと記憶を遡る。少なくとも最近までは実際に見たことがなかったので、SNSやネットニュース、テレビなどを通じて知ったのではないかと思われる。

全身を茶色い剛毛で覆い、丸く伸びた大きな顔には不機嫌そうな黒目と小さな耳、そして申し訳程度に存在する短い手足を持つカピバラは、いかんせん表情に乏しい。加えて、動物園などでは敵に襲われることもないため、歩く速度も非情にゆっくり。ノッシノッシと威厳たっぷりに地面を蹴る足は、カピバラには失礼だが滑稽で仕方ない。

そんな彼らが日本で一躍スターとなったのは、おそらく「柚子風呂に入るカピバラ」という、珍しくも愛くるしい映像が流れたことがきっかけではなかろうか。その歴史を調べてみると、伊豆シャボテン動物公園にたどり着く。

 

(前略)1982年、冬のある日のこと。たまたま飼育員がお湯で展示場の掃除をしていた時、小さなお湯だまりにカピバラたちが集まって手足やおしりをつけて気持ちよさそうにしている姿を発見!これを見た飼育員は考えました…。『寒くて大好きなお水には入れないけど、暖かいお湯になら入ってくれるかもしれない!』ということで、池にお湯を入れてお風呂を作ってあげるとカピバラたちは喜んで入浴してくれたのです。それ以来、カピバラたちにとって寒い冬の露天風呂は欠かせないものとなりました。

引用:伊豆シャボテン動物公園 元祖!カピバラの露天風呂ヒストリー

 

なんと、冬の掃除中に起きた偶然の出来事がきっかけで、カピバラの露天風呂が一世を風靡したのである。その後、他の動物園でもカピバラと風呂をセットで展示するようになった模様。

打たせ湯の下で気持ちよさそうに目を細めたり、季節によっては柚子やミカンを頭に乗っけて湯船でくつろいだりと、カピバラの行動が恣意的ではないからこそ、我々人間の心を掴んで離さないのである。それから私は、あらゆるSNSでカピバラをフォローし、世界中のカピバラを観察しつつ毎日を過ごしている。

恋焦がれたカピバラとの対面

そもそも都内に住む私は、カピバラのいる動物園へ頻繁に通うのは難しい。よって、YouTubeなどのSNSが私とカピバラをつなぐ唯一のコミュニケーションツールとなる。

ある時、長崎バイオパークの公式YouTubeを見ていると、定点カメラを用いてカピバラが露天風呂につかる様子がライブ配信されていた。

私は仕事の傍ら、そのYouTubeをチラ見していたのだが、5分後に画面を見るも先ほどと比べて変化はない。10分経っても変化が見られない。さらに20分経っても、チョロチョロと打たせ湯の音が響くだけで、カピバラたちは微動だにせず湯船でじっと座っている。

(これは、静止画でいいのでは…)

いつまで経っても定点カメラは、お湯の流れだけを撮影するという厳しい状況が続く。だがこれこそが、カピバラが癖になる理由の1つでもある。

――いいんだ、カピバラはじっとしているからこそ、カピバラなのだ。

1日に何十本ものカピバラ動画を見ていると、そのうち目が肥えてくる。たとえば、カピバラのオスとメスの見分け方をご存じだろうか? カピバラのオスには、鼻筋の部分に黒く盛り上がったコブがある。「モリージョ」と呼ばれるこのコブから出る分泌液を、樹木などにこすりつけることで、自らのテリトリーを主張したりメスへのアピールをしたりするのだ。

さらに普段はのんびりと温厚なカピバラだが、いざとなると時速50キロで駆け抜けることができる。ドスドスと弾丸のようにすっ飛んでいく姿は圧巻である。またオス同士の闘争はかなり熾烈で、どちらかが命を落とすまで続く。そのため不運にも闘いが勃発してしまった動物園は、オスを一頭失うこととなるのだ。

このような「カピバラの意外な生態」についても、SNSでの発信がなければ知らなかったわけで、今のご時世に感謝である。

カピバラに会いに那須どうぶつ王国へ

そして私は、満を持してカピバラに会いに行くことにした。場所は、栃木県にある「那須どうぶつ王国」。

(実際に目の前にいても、あんなに無表情なのだろうか?声を掛けたら、振り向いてくれるのだろうか?)

期待と不安が渦巻く中、とうとう私はカピバラと対面を果たした。彼らの目は、馬や牛のように横についているため、正面から近づくと驚かせてしまう可能性がある。そこで私は一頭のメスのカピバラに狙いを定めると、しゃがんだまま彼女の左側から距離を詰めた。カピバラは微動だにしない。そろりそろりと歩を進める私――。

こうしてついに、カピバラに触れられる位置まで近寄ることができた。

 

(カピバラと筆者)

(カピバラと筆者)

 

右手でそっと背中を触る。その時の感触といったら、未だに忘れることができない。とにかく硬い、まるでたわしの毛のように、硬くて太い毛が生えていたのだ!

そしてこの毛の太さこそが、彼女らが真冬に風呂につかっても湯冷めをしない理由の一つである。ブルブルッと体を震わせ、たわしの剛毛から水滴を飛び散らせる。すると、あっという間に乾いてしまうから驚きである。

ちなみにその後、どれだけ優しく話しかけようが、胴体をユサユサと揺さぶろうが、カピバラは断固として私を無視し続けた。そんな攻防に飽きた頃、私はあることに気がついた。

(やはり、手慣れた飼育員が撮影するYouTubeを見るのが、いいのかもしれない)

なかなか触れ合うことの出来ない生き物との出会いも、インターネットを使えば実現可能な現代。カピバラという一風変わった魅力ある動物を、これからも追い続けようと思う。

執筆

URABE(ウラベ)

早稲田卒。学生時代は雀荘のアルバイトに精を出しすぎて留年。生業はライターと社労士。ブラジリアン柔術茶帯、クレー射撃元日本代表。
URABEを覗く時、URABEもまた、こちらを覗いている。
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