インボイス制度のために個人事業主が対策すべきことは?

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インボイス制度の対策として今、個人事業主がおこなうべきことについて解説します。

 

2023年10月からインボイス制度(適格請求書等保存方式)が導入されます。

本記事では、株式会社SoLabo 代表取締役 田原 広一がお客さまの創業融資や資金調達の相談を多数受ける立場から、記事執筆時点(2022年9月末)でインボイス制度で個人事業主がおこなうべき対策についてご紹介します。

 

 

田原 広一さんプロフィール写真

田原広一(たはら こういち)プロフィール

株式会社SoLabo 代表取締役/税理士有資格者。お客さまの融資支援実績は、累計4,500件以上(2021年7月末現在)。自身も株式会社SoLaboで創業6年目までに3億円以上の融資を受けることに成功。問い合わせゼロのオウンドメディアをWEBマーケティングを駆使し、毎月1,000件以上の問い合わせが取れるまで成長させる。

 

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個人事業主がするべきインボイス制度への対策

インボイス制度で個人事業主がするべき対策について、個人事業主を「課税事業者」と「免税事業者」に分けて解説します。

最初に申し上げておくと、インボイス制度の影響が最もあると考えられるのは「課税事業者」ではなく「免税事業者」です。

課税事業者であれば適格請求書発行事業者の登録さえすれば、問題はそんなに出てこないと思われます。ですが、免税事業者は仕事を取るために、課税事業者を選択し、適格請求書発行事業者の登録すべきケースが出てくるからです。 

免税事業者(年間売上高1,000万円以下かつ課税事業者選択届出書を出していない)

個人事業主の中で、年間売上高1,000万円以下かつ課税事業者選択届出書を出していない事業者は、消費税が免税されている「免税事業者」と呼ばれます。

 

インボイス(適格請求書)は課税事業者でなければ発行できないため、免税事業者の個人事業主の場合、そもそも取引先にインボイス(適格請求書)を発行できません。

 

取引先側から見れば、課税事業者と比較したとき、免税事業者への税負担が増えて見えるため、免税事業者との取引をおこなわない可能性があります。

 

免税事業者が取引を続けるために課税事業者の節税分を差し引いた額で取引に応じるなど価格競争に発展する可能性があります。

 

例えば、個人事業主のタクシーで課税事業者を利用する場合、タクシー代1万円の消費税1,000円で仕入控除で受けられますが、それを免税事業者の立場から見ると、ざっくり計算で税込1万円にしなければ課税事業者に対抗できないことになり、利益が純減します。

 

なお、取引先から個人事業主に対して取引額の減額等の提案をおこなうと、下請法に違反するため、注意が必要です。

参照:下請代金支払遅延等防止法(下請法)|e-Gov

 

既に取引実績のある取引先なら、仕事が急になくなる可能性は少ないかもしれませんが、免税事業者は新規取引を獲得するのが難しくなることが予想されます。

 

免税事業者は税務署に「課税事業者選択届出書」を届出すれば課税事業者になります。

 

免税事業者が課税事業者になったら、当然、消費税納税の義務が発生し、インボイス制度の対応として「適格請求書発行事業者」の登録作業〜経理処理もおこなう必要があります。

 

*インボイス制度導入後6年間(2023年10月1日〜2029年9月30日まで)の経過措置期間中、免税事業者が「適格請求書発行事業者」の登録申請をおこなう場合は「課税事業者選択届出書」の届出は不要です

課税事業者(年間売上高1,000万円超 or 課税事業者選択届出書の届出済)

年間売上高1,000万円超 または「課税事業者選択届出書」の届出済みの個人事業主は「課税事業者」と呼ばれます。

 

課税事業者がインボイス制度に対応するには、適格請求書発行事業者の登録が必要です。

 

インボイス制度の対応で経理処理が煩雑化する可能性があり、これまで消費税を納税した額よりも増加することが予想されます。

 

また、課税事業者がインボイス制度に登録すると「名前」と「住所」がネット上で公表され、取引先が照会しやすいようにデータベースがダウンロードできる状態になります。

参照:インボイス制度適格請求書発行事業者公表サイト|国税庁

 

ペンネームや屋号を登録した場合でも、個人の「名前」の公開が優先されます。

 

なお、ペンネームや屋号は1つしか登録できないので、複数のペンネームをお使いの方は注意が必要です。

参照:複数の屋号や事務所の所在地を公表することはできますか。|インボイス制度適格請求書発行事業者公表サイト - 国税庁

 

高確率で取引先に個人名を伝える必要が出てきますが、個人名が世間にバレると困る場合、取引先に個人名を公開しないよう、取り扱いをお願いするなどの対応が別途必要になります。

 

また、住所を自宅にしている個人事業主の場合、個人の「名前」と合わせれば、住んでいる人の性別や年齢がある程度推測できてしまうため、悪質な勧誘や営業に使われたり、犯罪に巻き込まれたりする可能性があります。

 

事務所として賃貸物件を用意できればよいですが、費用や時間がかかるため、納税地のシェアオフィスやレンタルオフィス、コワーキングスペースなどを探して「バーチャルオフィス」として事務所を構え、登録する住所を別に用意するのも有効な対策になります。

 

なお、バーチャルオフィスは運営会社が信用できるかを確認し、法人登記を含めた住所利用ができること、郵便物などの転送サービスをおこなっているところを選びましょう。

 

例を挙げると、株式会社SoLabo(ソラボ)でも、起業家向けのコワーキングスペースとして、神奈川大学みなとみらいキャンパス内に「QUARTET WORKS」(カルテットワークス)を展開しています。

参照:QUARTET WORKS(カルテットワークス) - 株式会社SoLabo

 

個人事業主の開業届の「納税地」は、原則、住民票のある住居地(自宅)で、納税先をバーチャルオフィスに変更する予定がなければ自宅以外に別の事務所を新設したものとして、管轄の税務署に「納税地以外の住所地・事業所」の届出をおこないます。

 

その他、登録前にインボイス制度への対応や対策を検討するなら、国税庁のリーフレットが参考になります。

参考:インボイス制度への事前準備の基本項目チェックシート(PDF)|国税庁

個人名や住所など公開データの仕様が変更される可能性も?

今後、インボイス制度で公表されるデータの仕様が変更される可能性があります。

 

2022年(令和4年)9月頃から、国税庁の「インボイス制度適格請求書発行事業者公表サイト」上において公開されているデータベースが悪用できてしまう指摘が、インターネット上で散見されるようになりました。

 

その影響か、令和4年9月22日から当面の間として、適格請求書発行事業者の全件データ及び差分データについて一時的に提供を見合わせ、ダウンロードできなくなっています。

参照:ダウンロードページの一時閉鎖について - インボイス制度適格請求書発行事業者公表サイト:お知らせ|国税庁

 

そもそも「名前」だけ同性同名の可能性、「住所」だけであれば過去にお住まいの方の可能性もあり、個人を特定できないことから「個人情報」には該当しません。

 

しかし、個人の姓名や生年月日、自宅の住所などを組み合わせた情報は、特定の個人を特定できてしまう「個人情報」として法的に保護が義務付けられているものです。

参照:個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)|e-Gov

 

企業法人に比べると、特定の個人にひもづきやすい傾向のある個人事業主の個人情報が、ネット上の誰しもがデータベースで取得可能な状態で公開されているのは望ましくない状態だったと考えられます。

 

郵便箱や表札に氏名を出すのがためらわれる時勢を考えると、例えば女性的な氏名を持つ方を中心にインボイス制度の登録が敬遠された場合、インボイス制度そのものが有名無実化する可能性もあります。

 

データダウンロード機能が再開された場合、適格請求書発行事業者の公開データなどの仕様が変更され、ここまで対策としてご紹介した「身バレ」について、そこまで警戒しなくてもよくなる可能性はあるでしょう。

そもそもインボイス制度(適格請求書等保存方式)とは?

先に「対策」について解説しましたが、そもそも、インボイス制度(適格請求書等保存方式)とは何か、個人事業主向けに簡単にご紹介します。

 

個人事業主にとってインボイス制度を一言で表現すると「消費税の課税事業者が登録すると、インボイス(適格請求書)を発行できるようになる仕組み」です。

 

労力がかかるうえに消費税を払うようになるため、正直、個人事業主が対応するメリットは挙げられませんが、ケースによって対応せざるを得ない制度と言えるでしょう。

 

インボイス制度について詳しく知りたい方は、国税庁のウェブサイトで調べるのが一番です。
手始めにリーフレットをご一読いただくのがおすすめです。

参照:インボイス制度の概要|国税庁

 

また、インボイス制度について不明点があれば、国税庁のよくある質問を参照しましょう。

参照:インボイス制度に関するQ&A目次一覧|国税庁

インボイス(適格請求書)とは?

個人事業主にとって、インボイス制度における「適格請求書(インボイス)」というのは、個人事業主が取引先に対し、正確な適用税率や消費税額を伝える請求書のことです。

 

インボイス制度開始前は、個人事業主自身が発行していればどのような請求書でも取引先は仕入税額控除を受けられましたが、インボイス制度開始後は適格請求書でなければ仕入税額控除の申請を行えません。

 

国税庁では正式に次のように説明されています。

 

適格請求書(インボイス)とは、売手が買手に対して、正確な適用税率や消費税額等を伝えるものです。
具体的には、現行の「区分記載請求書」に「登録番号」、「適用税率」及び「消費税額等」の記載が追加された書類やデータをいいます。

 

引用:インボイス制度の概要|国税庁

輸出入管理の「インボイス」とは別物で無関係

ネット上でインボイス制度のインボイスについて調べる際には、輸出入管理のインボイスと混同しないよう、注意が必要です。

 

輸出入管理のインボイスは、荷受人(輸入者)に対して荷送人(輸出者)が発行する貨物の明細書で、税関への提出義務があるものです。

参照:価格の確認|東京税関 - 財務省

 

本記事で解説した消費税に関係する「インボイス(適格請求書)」は国税庁が管轄するもので、輸出入管理のインボイスとは無関係の別の言葉です。

インボイス制度に関する登録作業を進めるには?

インボイス制度に登録することを決めたなら、次の手順で登録します。

  1. 「課税事業者」であるかを確認する
  2. 「適格請求書発行事業者」の登録申請をする

詳しい申請手続きは国税庁のウェブサイトを参照してください。

参照:申請手続 - インボイス制度:国税庁

 

ちなみに、2029年10月以降、免税事業者がインボイス制度の登録を進める場合、「適格請求書発行事業者」の登録申請の前に「消費税課税事業者選択届出書の届出」が必要です。

 

インボイス制度導入後6年間の経過措置期間中、免税事業者は「適格請求書発行事業者」の登録申請だけで問題ありません。

 

なお、インボイス制度が開始される令和5年(2023年)10月1日から登録されている状態にするには、令和5年(2023年)3月31日までに登録申請をおこなう必要がある、という案内があるため、注意しましょう。

参照:<インボイス制度> 登録申請手続は、e-Taxをご利用ください!! (PDF)|国税庁