人工知能(AI)の急速な発達で「AIに奪われる仕事」や「AIでなくなる職種」といった話をたびたび目にするようになった。何十年も前からあった話題だが、最近のAIの発達からリアル感や切迫度は急激に上がっている。僕も人間なので、「AIが発達しても今の仕事は大丈夫」と信じたい。だが現実を直視して「近い将来には多くの仕事がなくなると考えて備えておこう」というのがこの文章の趣旨である。
自動車を買ったときに思ったこと
僕は営業という仕事をしている。四半世紀も営業をやってきているので、多少の愛着はある。残念ながら営業という仕事も他の職種と同じようにAIで滅亡しそうである。感覚的には数年以内に。
すでに、AIに取って代わられる兆候はある。数年前、奥様に土下座をして、マイカーを買い替えた。以前は各ディーラーを歩き回って、クルマの選定をしたが、今回はほぼ自宅で完結した。各自動車メーカーのホームページを見たり、インターネットで情報を収拾したりすれば十分だったのだ。
ホームページは良くできていて、クルマの外観や内装の色変更も可能でさまざまな角度から確認することができる。動画でチェックもできる。営業トークに乗せられて余計なオプションも付けることなく、見積も簡単に出してくれる。クルマの名前で検索すれば、実際のユーザーの声も拾えてしまう。つまり自宅でクルマを購入する際に必要な情報はすべて入手できた。営業職との接触は最小限だった。
このように、営業機会が少なくなれば営業職の数も少なくなる。残念ながら時代の流れである。これが出来るようになったのは技術の発達である。各自動車メーカーのホームページ等、ネット上から得られる情報量がリアルに遜色ないものになったからだ。ディーラーで実車をチェックしなくても、ホームページ上でほぼチェックできる。
実際にディーラーに行く際には、事前にネットで確認しきれない部分をチェックするだけでいい。僕の場合は、座り心地とか運転のフィーリングとか、そのあたりの触れてみないとわからない点を実車で確認しただけだった。営業トークらしい営業トークを受けずに「これにする」のひとことで終わってしまった。
もちろん契約までに細かい調整はあったが、車を購入するステップの大部分は自宅で済ませてしまった。営業職泣かせである。これからAIが発達して、ユーザーに合った提案ができるようになれば、営業職は必要なくなるだろう。ディーラーの営業職は、ネットに疎いシニア層をメインターゲットにして、そこに活路を見出して頑張ってもらいたい。
今、この瞬間にAIに滅ぼしてほしい仕事
僕は基本的に、AIや技術革新でうばわれると予想されている仕事に同情している。これまで世の中のために存在してくれてありがとうと言いたい。本音をいえば、できるだけ延命してもらいたいとさえ思っている。
しかし、例外もある。今、この瞬間にでも滅ぼしてほしい。官公庁の入札だ。仕事で何回も官公庁の事業の入札には参加しているが、本気で今この瞬間にも、入札事業はAIに取ってかわってもらいたい。
なぜなら、毎回のように、ほぼ同じ内容の仕様書を作成して、かつ、無意味に担当者の数だけ多く、かつ、案件によってはプロポーザル提案書を紙ベースでの提出を求められ、かつ、その紙ベースの提案書を15部用意、かつ前回とほぼ同じ内容の仕様書を担当者が読み上げるだけの説明会に参加必須だからである。
仕様の細かな変更があるとか、血の通った(笑)説明会をするとか、ならまだしも、ほぼ同じことを繰り返している官公庁の入札業務はAIに取ってかわられたほうが、コストも時間も削減できて税金の無駄遣いを減らせる。
人間の感情や欲が介在しなくなるので、談合や賄賂といった不正もなくなるはずである。不利益を被るのは、担当している役人たちくらいだが、彼らは、民間とちがってクビになるようなことはないだろう。AIで処理した入札の書類に最終的な決裁書類に印を押す仕事は残っている。
営業の仕事はなくなる。
今、僕らが携わっている仕事の大半はAIに取ってかわられるものだと覚悟しておこう。残念ながら僕が四半世紀も続けている営業職も時間の問題だろう。AIのほうが人間より正確で、うっかりミスもなく、眠らずに365日24時間同じ集中力をもって仕事を続けられ、あらゆるハラスメントの問題とも無縁だ。
サービスを受ける側に立ってみれば、AIに仕事を任せたほうが安心である。先日、出張に行ったときに乗ったタクシーの運転手がおじいちゃんで、運転がかなり怪しかった。寝不足だったのかもしれない。信号が赤から青に切り替わっても、仏像のように微動しないので、「運転手さん! 青! 青!」と声をかけたくらいだ。
ときどきニュースで話題になる「恐怖! 逆走車」も、高齢ドライバーの認知能力の衰えが原因の一因とされている。車の運転については、特に安全の観点からは、AIがより高度に発達した高度な自動運転が実現されたほうがいいだろう。
営業という仕事は、人間レベルの自動運転が開発されるよりも早い段階にAIに替えられてなくなるだろう。なぜなら、顧客目線で考えた場合、顧客のニーズに合った効果的な提案をする点で人間はAIに勝てないからだ。
顧客のデータから傾向や思考を予測して、顧客自身が考えてもいない潜在的なニーズを引き出して、そこを突いた提案をAIならできるはずだ。人間の営業職、ベテラン営業職やある一定のレベルに達している営業職なら顧客のニーズを正確にとらえて提案をすることはできるが、AIには精度の面でかなわない。
それに人間には感情や欲望があって、たとえば「ノルマを達成しないと死ぬ!」段階にまで追い詰められたギリギリの営業職が、顧客の立場に立たずに、もっと効果的な提案をしかるべきときにできるとわかっていながら、営業成績や自分のノルマを優先して、自分本位の提案をすることがある。
または、調子の悪いときや気分の悪いときは「モチベーションが上がらないから」といって喫茶店で半日時間を潰してしまうこともある。AIは正確で勤勉で、営業職のようなムラがない仕事をする。勝てるわけがないのだ。そう遠くない未来には、どんな業界でもAI営業職が主力になっていて、僕たちの考えていること、望んでいることをビッグデータから正確に割り出して、的確な提案営業をしているようになる。そのとき、いま営業職で生きている人間は何ができるのか。各自考えておいたほうがいい。
絶望的な話になってしまうが、希望はある。今携わっている仕事(営業にかぎらず)がAIに取って代わられても、上位3パーセントくらいのトップの人間なら生き残れる。なぜなら、AIを信じない特異な人、あるいは「AIは血が通っていないからどうにも好きになれない。
多少のミスは人間の味。やはり人間はいいな」と考える人が、少数派となっても存在すると思われるからだ。他方で、テレビ番組『マツコの知らない世界』で紹介されるような、くだらないことを突き詰めている奇人も生き残れる。トップレベルになるか、個性を突き詰めるかすれば、AIに取って代わられずにサバイブできるのだ。
世の中の流れに目を凝らしていくことが大事。
とはいえ、トップを狙うのも個性を突き詰めるのも、いばらの道、狭き門である。やはり大勢はAIに取って代わられるのだ。だったら、「仕事は奪われるもの」という前提から覚悟を決めておけばいい。必要以上に悲観的になる必要はない。昔から(僕が子どもの頃から)「将来なくなる仕事」的な話は結構あるものなのだ。そういった不安を煽るコンテンツはなくならないのだ。
AIに仕事を奪われる問題はこれまでもあった。そのたびに人間は乗り越えてきている。産業革命やIT革命のときだって多くの仕事が機械やITに奪われている。産業革命は知らないが、IT革命の際も素晴らしい営業ツールが開発されて営業職は駆逐されると覚悟していたが、現実はどうだろう? 営業職の仕事は多少変化したが、極端に仕事の内容は変化をしていない。なにより、営業職の人間が激減してもいない。それどころか、営業職を積極的にしている業種すらある。
大事なことは、楽観的にも悲観的にもなりすぎないことだ。そして、現状を冷静に判断して目をこらしていれば、AIと生きていく方法は見つかる。たとえば、営業職でAIが活用されていても、AIに決められたくないという反発から人間へ回帰することを望む人も出てくるはずだ。僕なりにAIが営業職から仕事を奪ったあとのことを考えている。AIにはない人間の強みや長所を活かす営業の在り方だ。
人間は失敗をする、見落としをする。AIにはあり得ないミスをするのは人間のマイナスポイントだ。だが、これをAIにはできない人間のストロングポイントとみなすのはどうだろうか。営業職なら、顧客に対して的確な提案や見積はAIに任せて、人間ならではの失敗を活用した営業トークを展開するのだ。
たとえば次のように。「一見すると、ワタクシがお勧めしたA案のほうがお得に見えますが、実は見た目の錯覚でございまして、実はAIがおすすめするB案のほうがお客様にとって利益のあるものなんですよ」と言ってみる。A案がいかに人間の錯覚や思い込みであるのかを説明することで納得してもらう。
僕は食品会社の営業なので、安全安心の食材について提案をする機会が多く、食中毒の恐怖について話をするのだけれども、人間である強みを活かして、あえて食中毒になってみて恐怖をつたえるのは人間でしかできないことだと考えている。AIは失敗しない。人間はミスを犯す。そのミスを営業に活かしていくのである。
『ジョジョの奇妙な冒険』を参考にする。
現在のAIは「お題に合わせてAIが絵を描いてくれる」「潜在的な顧客を抽出してくれる」というサービス的なものが多い。つまり法人や企業が提供するサービスを利用するというカタチだ。これからはAIの差別化がなされていくのではないかと予想する。個々の人間が各々で使えるAIを所有するのだ。用途によって、生活用、仕事用、社交用といったAIを人間が所有する未来だ。
個人それぞれが所有しているAIを教育してカスタマイズしていく。クセのあるAIが生まれる。イメージとしては『ジョジョの奇妙な冒険』に登場するスタンドだ。それぞれがクセ・個性のあるスタンド=AIをもって、本体=人間の代わりに働いてもらうのだ。
スタンドのようにスタープラチナやザ・ワールドのような汎用性が高く、あらゆる条件下で戦闘力を発揮するタイプを目指すもよし。特異な条件でしか発動しないスタンドや特殊すぎて使いどころのわからないスタンドを目指すもよし。当然、高額なAIと量産型AIでは性能が違ってくるし、経験を積んだAIと新人AIでもかわってくるだろう。旧型と新型ではどちらが優れているかは、いうまでもない。
これはAIにまったく詳しくない僕の想像するAIとの近未来なので笑い飛ばしてもらえば結構だ。僕が言いたいのはAIに仕事を奪われる! とネガティブかつ受け身にならずに、AIを使役して自分のために働かせてやるぞ! と世の中の変化をポジティブに受け止めていこうということだ。
未来がどうなるかわからないけど、ジョジョ第二部のボス「カーズ」のように「考えるのをやめた」状態になってはいけない。
執筆
フミコ・フミオ
大学卒業後、営業職として働き続けるサラリーマン。
食品会社の営業部長サンという表の顔とは別に、20世紀末よりネット上に「日記」を公開して以来約20年間ウェブに文章を吐き続けている裏の顔を持つ。
現在は、はてなブログEverything you’ve
ever Dreamedを主戦場に行き恥をさらす
Everything you've ever Dreamed : https://delete-all.hatenablog.com/
2021年12月にKADOKAWAより『神・文章術』を発売。
※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。
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