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「請求書が作れない」瀕死のフリーランスを助けてくれたDX

「請求書が作れない」瀕死のフリーランスを助けてくれたDX

 

フリーランスライターになった初月。私は泣いていた。

原稿が書けなかったのではない。請求書の作成が、できなかったのだ。

経理作業が苦手すぎて逃げていた

フリーランスライターは、自分で営業も経理もする。そして、ライターは得てして「経理」が苦手な人が多い。私もその例外ではなかった。

どれくらい苦手かというと、会社員時代の経費精算すら溜め込んで経理部門に叱られるくらいだった。経費精算をしたくないがあまりに、自腹を切ったこともある。

だが、いくら経費精算からは逃れられても、「請求書の送付」からは逃れられない。請求書を送付しなければ、どんな仕事も無報酬になる。事務作業が苦手すぎて廃業しました……なんて、バカにも程がある。

しかし、私は真剣に廃業を考えるくらい、追い詰められていた。お取引先の経理担当者からは「また間違えたんですか」とため息が聞こえるようなメールが届いた。

何度もリテイクをお願いされて、こちらも心苦しい。ここまで無能さを発揮したことは、さすがにない。たった1枚の書類が作れず、私は呻いていた。

DXから程遠い場所にいた経理作業

DXから程遠い場所にいた経理作業

そして、2015年……私がフリーランスライターになった当時、経理作業の多くはDXからほぼ遠い場所にあった。当時の典型的な請求書送付作業は、以下の通りである。

  • 請求額を確認する
  • 請求書をExcelで作る
  • 印刷する
  • 印刷した請求書に、印鑑を押す
  • 送付状とあわせて封筒へ入れ、郵送する

あ、アナログ……!!

原稿のすべてがWordで納品できるようになった時代においても、請求書だけは、とんでもなくアナログだったのだ。当時の私はプリンタすら持っておらず、いそいそとPDF保存した請求書のデータをコンビニまで持っていき、印刷していた。

2年目までに、印鑑の画像をスキャンし、Excelへ貼るという「発明」を思いついた。

「捺印したExcelをPDF保存するので、メールで送らせてほしい。どうせ郵送しても同じデータが紙になって届くだけ」と伝えたが、伝統的企業の答えは「郵送でない請求書は受け付けられない」と、そっけないものだった。

非DX環境で生まれる「ポカミス」

非DX環境で生まれる「ポカミス」

フリーランスライターにとって、経理で恐ろしいのは「ポカミス」の数々だ。ここから、私の黒歴史を書いていこう。

  • Excelを印刷するとレイアウトがずれて、1枚だったはずの紙がなぜか2ページで印刷される。こればかりはExcelのせいにしたい。許されたい。
  • 印鑑の陰影が上手に作れず、請求書の再送付依頼が届く。二度もこんな作業を繰り返すことに苦悩する。切手代もムダになった。
  • 執筆業など、一部業種に発生する「源泉徴収税」の計算ミスにより金額修正。請求書を作り直して送付しなおし。切手代もムダに(ry)

はっきり言おう。請求書を送る期日である月末が来るたび、私は発狂していた。ライターという職業に満足している。仕事は毎日楽しい。それなのに……それなのに経理業務が苦手すぎて転職を考えたい!

年始には確定申告が重なることもあり、経理業務が増加。現実逃避に転職サイトを見つめたこともある。

まるで過去の罪過のように話しているが、今月も取引先へ、200円多く振り込んでしまった。私のポンコツぶりは、今日もトラブルを引き起こしている。

経理業務のDXがコロナ禍で始まった

そんな私を救ったのは、コロナ禍だった。

多くの企業がテレワークを実現。請求書の送り先だったオフィスは閉鎖された。そして、多くの企業からお問い合わせが届き始めた。

 

「誠に申し訳ございませんが、来月よりご請求書をPDF形式でのメール送付に変更したく、お手続きいただけますでしょうか」

「します! お手続き、します!」

 

私は喜んで飛びついた。何しろ、2時間の作業が20分になるのだ。その分、2本追加で原稿を書ける! 請け負える執筆案件も増え、稼ぎも増えた。私は水を得た魚のようだった。

DX未対応の企業と取引を中止する判断

DX未対応の企業と取引を中止する判断

 

そして、私はさらに一歩踏み込んだ判断をする。

 

「このタイミングで、ご請求書を郵送しなければいけない会社とは、お取引を一度止めよう」

 

この決断は、苦渋を伴った。というのも、大手で伝統的な企業ほど、郵送による請求書送付を好んだからだ。大手企業からの発注実績は、ライターとしても見栄えがいい。だから、フリーランスとして生きていくには大手との経歴が欲しいものだ。それでも、経理業務負担は私が背負いきれないものとなっていた。

当時すでに私にはマネージャーが2名おり、経理業務のほとんどを担当してくれていた。だが、そのマネージャー陣が何度も請求書を三つ折りにして封筒へ詰める作業は、本当に必要なのだろうか? という疑問も拭いきれなかったのだ。

 

「いつもお世話になっております。大変恐縮なお願いではございますが、今後PDFでのメール送信にてご請求のお手続きをとってもよろしいでしょうか。弊社では郵送への人員が避けず、今後メールでのやりとりが可能なお客さまのみお取引を継続するはこびとなりました」

 

というメールを書いたときは、手が震えた。今後、何社との取引が停止してしまうのか。想像するだけで憂鬱になった。

DXを強行したフリーランスへの温かい反応

ところが……「経理でDXを強行した」私に対する企業の反応は予想外のものだった。

「助かります。こうやって要求してくださるフリーランスが多数いらっしゃれば、社内制度を変える口実ができます」と、喜んでもらえたのだ。

そう、現場の担当者だって、とうの昔から「経理作業をDXしたい」と思っていたのだ。だが、DXには大きな制度変更が必要となる。担当者だけの言い分では通らない案も多かった。そこで、取引先のプレッシャーを必要としていたのである。

「それでは、PDF形式で、メール送付によるご請求書でお取引いたします」と、号令が出た。郵送による請求書は廃止された。

新型コロナウイルスがまん延してからは、むしろ郵送での請求書を求められる機会がなくなった。私は、生き延びたのだ。

さらなる経理業務のDXを目指して

さらなる経理業務のDXを目指して

大手企業すら、経理業務のDXへ協力してくれた。次に変化すべきは、私たちだった。そもそも、Excelで手作りした請求書を「DX」と呼ぶなど、ちゃんちゃらおかしいのである。

当時、各種会計ソフトは自動で請求書を作る機能を導入していた。事前に売上がいくらになるか記入しておけば、ワンタップ/ワンクリックで請求書を送ることができた。しかし、売掛金を事前に入力する手間から、私は長らくExcel請求書に頼ってきた。

DXを後押ししてくれたのは、私のマネージャー陣である。

「今月上がるはずの売上を事前に入力しておく」手間を背負ってくれたお陰で、私の請求書は月末にワンタッチで送付されるようになった。

金額の入力ミスはなくなり、請求書が再送となるトラブルは激減。現在では月に1件、手直しがあるかないかである。

フリーランスを救った経理DX

同じような苦しみを抱くフリーランスが多いことは、多数聞いている。特に飲食店経営者には、デジタル業務が苦手な者も多い。

確定申告ではすべての経費を「雑費」にして計上している方もいると聞く。何なら、確定申告すら無視している業者が多いことも知っている。それもこれも、手続きがやっかいだからだ。

経理業務の急激なDXは、数多のフリーランスを救っている。副業解禁の流れもあって、副業ライターとして活動する後輩たちも増えてきた。

そこでいかにかつての非DX経理が苦痛だったかを語る老害しぐさは、やめておこう。その代わりに彼ら・彼女らの負担を軽減するツールを紹介していく、よき先人でありたい。

 

執筆

トイアンナ

ライター。外資系企業に勤めてのち、独立。恋愛とキャリアを中心に執筆しており、書籍に『モテたいわけではないのだが』『確実内定』『やっぱり結婚しなきゃ!と思ったら読む本』など。

※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。

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