【弁護士が解説】テレワークの普及が企業の労務管理に与える影響は?

DX化により遠隔コミュニケーションの技術が発展したことは、各企業におけるテレワークの普及へ大幅に貢献しています。とくに2020年以降、新型コロナウイルス感染症の流行をきっかけとして、テレワークの普及率は急速に上昇しました。

 

テレワークで働く従業員については、労務管理に関して、オフィスで働く従業員とは異なる配慮が必要になります。

今回は、テレワークの普及が企業の労務管理に与える影響について、人事労務・法律の観点からまとめました。

テレワークの普及状況に関する統計データ

国土交通省が毎年公表している「テレワーク人口実態調査」を参照すると、とくにコロナ禍となった2020年・2021年において、テレワークが顕著に普及したことがわかります。

テレワーカーの割合は増加傾向。首都圏では42.3%

出典:「テレワーク」実施者の割合が昨年度よりさらに増加!~令和3年度のテレワーク人口実態調査結果を公表します~|国土交通省

上記のグラフは、雇用型就業者※のうち、テレワークをしたことがあると回答した人(=テレワーカー)の割合の推移を表したものです。

※雇用型就業者:収入のある仕事をしている人のうち、法人・団体における以下の職業を本業としていると回答した人

(1)正社員・正職員

(2)派遣社員・派遣職員

(3)契約社員・契約職員

(4)嘱託

(5)パート

(6)アルバイト

全国平均の数値を見ると、2019年の調査時点におけるテレワーカーの割合は14.8%にとどまりますが、2020年の調査時点では23.0%、2021年の調査時点では27.0%と上昇しています。

首都圏(東京都・埼玉県・千葉県・神奈川県)に限ると、2019年の19.1%から、2020年には34.4%、2021年には42.3%と上昇傾向が顕著に表れています。

コロナ禍収束後も、テレワークの継続が見込まれる

出典: 「テレワーク」実施者の割合が昨年度よりさらに増加!~令和3年度のテレワーク人口実態調査結果を公表します~|国土交通省

上記のグラフは、テレワークの継続意向に関する分布を表したものです。

 

雇用型就業者のテレワーカーのうち、テレワークを継続する意向があるのは89.4%と非常に高い割合を示しています。

また、新型コロナウイルスの感染が収束したあとでも、テレワークを継続する意向があるのは84.0%と、こちらも高い割合を示しています。

 

上記のデータによれば、将来的にコロナ禍が収束したとしても、テレワークを積極的に活用して働く方が増えていく可能性が高いといえるでしょう。

企業規模が大きいほど、テレワークの普及率が高い

出典:「テレワーク」実施者の割合が昨年度よりさらに増加!~令和3年度のテレワーク人口実態調査結果を公表します~|国土交通省 p.4 

上記のグラフは、企業規模別のテレワーカーの割合の推移を示したものです。企業規模が大きいほど、テレワーカーの割合が高いことがわかります。

 

テレワークの実施には、リモートで仕事を可能とするためのシステムの整備などが必要です。規模の大きな企業ほど、DX化をはじめとしたシステム面での体制整備をおこなう体力があるため、テレワークにもスムーズに対応できたと考えられます。

問題になりやすい労務トラブル

テレワークで働く従業員は、会社の目が直接届くところで働いていないため、労務管理における特有の難しさがあります。

 

とくに、以下に挙げる労務トラブルは、テレワークで働く従業員との間で問題になりやすいので注意が必要です。

残業代について、会社と従業員の主張が食い違う

会社がテレワークで働く従業員の労働時間をきちんと管理していないと、残業時間に関する会社と従業員の認識にズレが生じる可能性があります。

また、会社の把握していないところで休日労働や深夜労働がおこなわれ、あとから割増賃金を請求されるといった事態も想定されます。

 

残業代に関するトラブルは、オフィスで働く従業員との関係でも問題になることがありますが、テレワークで働く従業員との関係ではより一層注意を払うべきでしょう。

仕事と生活の区別がなくなり、長時間労働が常態化する

テレワークで働く従業員は、自宅に居ながらいつでも仕事に取り掛かることができるため、仕事と生活の区別が曖昧になりがちです。

 

「出勤」や「退勤」といった概念がなくなった結果、起きてから寝るまで働きっぱなしになり、長時間労働が常態化してしまうケースもあります。

こうした事態は、人件費(残業代)が増加するだけでなく、従業員の健康管理の観点からも大いに問題です。

上司が過剰に部下を管理しようとして、パワハラに発展する

部下が本当に働いているかどうか不安なためか、あまりにも頻繁に進捗確認の連絡を入れるなど、過剰に部下を管理しようとする上司がいるようです。

 

もちろん、部下の業務状況を適切に管理することは、上司の大切な役割です。しかし、業務上必要な範囲を超えて過剰に部下を管理しようとすると、違法なパワハラに発展する場合があります。

テレワークを認める会社が講ずべき労務管理上の対策

上記のような問題が発生しやすいことを踏まえて、従業員にテレワークを認める会社は、以下のような労務管理上の対策をおこなうことが推奨されます。

時間外労働・深夜労働・休日労働をできる限り抑制する

労働基準法37条では、従業員が以下の労働をした場合、会社は割増賃金を支払う必要があると定められています。

(1)時間外労働

   法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超える労働

(2)深夜労働

   午後10時から午前5時までにおこなわれる労働

(3)休日労働

   法定休日におこなわれる労働

時間外労働・深夜労働・休日労働が、テレワークで働く従業員の判断で自由におこなわれてしまうと、会社が負担する人件費が大幅に増大するおそれがあります。

労使協定(36協定)で定める時間外労働と休日労働の限度時間を超え、違法状態が発生してしまうことにもなりかねません。

従業員の健康管理の観点からも、長時間労働が常態化することには大きな問題があります。

そのため、テレワーク中の時間外労働・深夜労働・休日労働を許可制とするなど、従業員の労働時間を抑制する対応を検討すべきでしょう。

また、以下のような方法を適宜用いて、テレワークで働く従業員の労働時間を適切に管理することも大切です。

・メールなどによる始業、終業の連絡

・勤怠管理システムによる管理

・社内システムのログイン、ログアウト履歴による管理

など

管理職向けの管理マニュアルを作成・配布する

テレワークで働く部下に対してどのように接するべきか、どうやって業務状況を把握・管理するかといった点は、管理職にとっても悩ましいポイントです。

個々の管理職の判断に任せていると、過剰な管理によるパワハラや、反対に管理不行き届きに繋がりかねません。

 

会社全体として、テレワークで働く従業員に対する管理のマニュアルを作成し、管理職に配布することは有力な選択肢です。明確な管理指針を示すことで、管理職も戸惑うことなく部下に対応できるようになるでしょう。

従業員向けの目安箱を設置する

テレワークの導入は、多くの企業において手探りでおこなわれています。どんな企業であっても、最初から完璧なテレワークの仕組みを構築することは不可能です。

 

より良い形でテレワークを実施するためには、実際にテレワークで働く従業員からのフィードバックを踏まえて改善に取り組むのがよいでしょう。

たとえば、匿名で意見を送信できる目安箱のような仕組みを設けて、テレワークで働く従業員の意見を吸い上げることが考えられます。