モニター越しのリモート接客で、掃除機の販売台数が25%アップした。ぶなしめじのリモート販売の実証実験では、お客さまの満足度は約9割を越えた。店舗スタッフがリアルに接客せずとも、高い数値を叩き出せたのはなぜなのか。クリエイティブとデジタルソリューションで接客DXを進める株式会社ビーツ 代表取締役社長の上野山 沢也さん、Digital開発グループ チーフディレクターの山本 周さん、事業開発本部 副本部長の荒井 康太さんに話を聞いた。
上野山 沢也(うえのやま たくや)さん プロフィール
1973年生まれ、大阪府出身。1995年入社。家電メーカー、通信キャリア、食品メーカー、化粧品メーカーの店頭ツール、イベントなどリアル領域でのクリエイティブ実務に従事。2012年代表取締役就任。2018年、デジタルソリューションの開発に着手、2020年から順次リリース。現在、クリエイティブとデジタルを組み合わせた店頭・接客DX支援をおこなっている。株式会社ビーツ 代表取締役社長(現職)。
山本 周(やまもと しゅう)さん プロフィール
1988年生まれ、東京都出身。2013年入社。家電メーカーを中心としたプロモーション業務の企画制作に従事。2022年より店頭・接客DXサービスの顧客開拓・導入支援に従事。事業開発本部 Digital開発グループ チーフディレクター(現職)。
荒井 康太(あらい こうた)さん プロフィール
1981年生まれ、東京都出身。大学卒業後の2004年、ベストプロジェクト(現・株式会社ビーツ)に入社。通信キャリア、家電メーカーを中心としたプロモーション業務の企画制作に従事。2022年から新規事業開発グループリーダーでサービスと顧客の開発に従事。事業開発本部 副本部長 兼 新規開発グループ グループリーダー(現職)。
販売台数25%アップを実現したリモート接客
優れたデザインと機能で人気が高い家電メーカーのダイソン株式会社。リモート接客を導入し、掃除機の月間販売台数は25%アップした(未実施店との比較)。売り場に立ち止まったお客さまにリモート接客システム「えんかくさん」のオペレーターが声をかける。動画や静止画を使い、お客さまの疑問に細やかに対応する。
都内に7店舗を展開するスーパーマーケット三浦屋。青果コーナーのかごに盛られたぶなしめじの山は一見ありふれた光景。違うのは、背後のモニターから笑顔でスタッフが呼びかけることだ。ミスズライフの新商品「ぶなクイーン」のリモート販売の実証実験では、販売数は約5倍・購入率は約7割・満足度についてはおよそ9割を実現した。「ぶなクイーン」の特長やレシピを紹介しながら認知度を高め、購買を促進した。
リモート接客システム「えんかくさん」を提供する株式会社ビーツ。46年にわたり、店頭の什器や造作物、スペースやインショップのデザイン、映像制作もおこなってきた。しかし従来のツールを使うだけでは、お客さまが抱える様々な課題に対応できなかった。
解決のためにデジタルプロダクトの領域に踏み込んだ。SaaSビジネスをスタートし、クラウドサイネージやAIカメラによるPOP表示など、店舗のDXを手がける。蓄積されたマーケティングとセールスプロモーションの知見、そしてテクノロジーで販売・接客のデジタルソリューションを提供する。
「人の圧?」店舗スタッフとお客さまの微妙な距離感
お客さまは矛盾に満ちている。やたらと声をかけてほしくはないけれど、ベストタイミングで声がけしてほしい。
よくあるスーパーの試食販売。店頭のホットプレートのソーセージを、小さな子どもは喜んで受け取る。しかし大人になると、素直に手を出さない人も多いのではなかろうか。返報性の法則を無意識に感じるのか、無駄使いを避けたいのか、すすめられると逃げていく。
大阪府和泉市の観光案内所では、リモート接客を導入後、来所者数が2倍になったという。ずっと人が立っていると入りにくい。無人だと気軽に入れる。パンフレットを手に取るだけでも良い。不思議なことに「人がいなくなると、人が寄ってくる」のだ。
なぜそのような奇妙なことが起こるのか。上野山さんは”人の圧”ではないかという。
「人が立っていると、そこに”人の圧”を感じてしまうのだと思います。リモート接客ではそんな圧を感じませんし、リモートとはいえ生身の人が対応してくれます。ちょうど良い距離感なのかもしれません」
リモート接客の「えんかくさん」は、モニター越しにスタッフが声がけしてくれる。お客さまがボタンを押したりモニターに呼びかける”ひと手間”は必要ない。このひと手間は、お客さまにとって意外と高いハードルだという。
「声がけは『えんかくさん』の大きな特長です。お客さまは売り場に立っているだけでいいのです」上野山さんが強調する。
リモート接客が解決する、売り手と買い手のアンマッチ
家電量販店でモヤモヤを感じたことはないだろうか。スタッフがカタログを広げ説明してくれる。ページをめくるのに時間がかかり、ときにはカタログがないこともある。なかなか本質の質問にいきつかず、回答はしてくれたけれど、満足できる商品情報は得られなかった。消化不良のモヤモヤ感で、購入せずに帰宅する。
一方、リモート接客はリアル店舗のようなスタッフの一押しはないが、購入率は高く満足度も高い。荒井さんが理由を説明してくれた。
「接客の質の向上があると思います。リアルのスタッフは残在庫や値引きで購入を促します。一方、リモート接客は画像や映像で比較しながらしっかり説明できます。お客さまが納得されることが購入率の高さにつながると考えています」
上野山さんによると、リモート接客に向いている分野があるという。それは、くわしい説明が必要な商品や販売側の高い知識が必要な商品だそうだ。しかし、高度な知識をもつスタッフが、必ずしも全店舗にいるわけではない。
時と場所のアンマッチもある。都心の量販店ではスタッフが過剰で手持ち無沙汰になっている。一方、郊外の店舗では、質問したくてもスタッフが少ない。
量販店のスタッフは、特定の商品専門ではなく、周辺業務や付帯業務もおこなっている。商品知識にバラツキもある。時間帯や季節的に混雑と閑散の波があり、人手不足の中、ピークに合わせた人員配置も難しい。
リモート接客のメリットは、高度な商品知識をもつスタッフの接客を、限られた店舗から広げたことだ。いままで機会損失だった、店舗とお客さまの場所や時間、知識差のアンマッチを解決してくれる。
リモート接客は、画面越しといえど生身のスタッフが対応し、お客さまそれぞれに異なる疑問やモヤモヤを解決してくれる。売り手と買い手の欲求を相互に解決してくれる方法だ。
恵比寿ガーデンプレイスでは、リモート接客を道案内に活用している。モニター上に表示される地図に、スタッフがタッチペンを使って赤い線で道順を示す。同じ目線で情報共有できるので、お客さまの理解も早く、納得感も高い。
リモート接客でも実現できる”共感”
販売で大切なポイントは”共感”。上野山さんはそう話す。
「受付の自動化はできますが、売ることの自動化はちょっと難しいかもしれません。販売には共感が必要です。リモート環境ならアバターによる接客・販売もできそうだけれど、広がらない。生身の人間の対応だからこそ、神経の通った会話が生まれ、共感が生まれるのだと思います」
受付やサポートセンターの対応はフローが決まっているが、販売はそうはいかない。スタッフのいい回しひとつでお客さまの反応は変わり、購買率も変化する。
リモート接客は、モニター越しに生身の人が対応してくれる。圧を感じるリアルな人でもない、体温を感じないアバターでもない。ちょうど良い距離感がお客さまにとって心地良いのかもしれない。
なぜ買わなかったのか?データが残るリモート接客
リモート接客のメリットについて山本さんが話してくれた。
「売り場では、接客しながらメモをとるわけにはいきませんよね。リモート接客の場合、お客さまの属性や会話、反応をデジタルデータで記録し共有できます。そのデータは導入企業さまの財産になる。ビッグデータとして蓄積し、効率的にPDCAを回せます。販売状況、店舗や季節の違いなどさまざまな切り口から分析できます」
リアルの接客現場で、すべての情報を記録するのは難しい。お客さまの疑問は? どんな質問をされて、どんな回答に満足されたか? データの共有にも課題がある。
一方で大切なポイントは「なぜ買わなかったのか?」だ。上野山さんが話してくれた。
「商品を購入した人の理由はわかりやすいです。しかし、購入しなかった人の理由は極めてわかりにくい。リモート接客ではお客さまの見た目や年齢、属性と接客内容の相関関係をデータで残せます。モニターに映したスライドへの反応の良し悪しや接客時間、なぜ売り場から離脱されたのか。データをもとに推測し、改善できます」
「購入にいたるラストワンマイルを革新する」ビーツが目指す世界
リモート接客が生み出す新しい価値は何だろうか。上野山さんに目指す世界を聞いた。
「お客さま、そして働き手一人ひとりに親切に寄り添えること。情報やコミュニケーションの質を高められるのが、リモート接客のポイントだと思います」
リモート販売のオペレーターは自宅でも仕事ができる。なぜなら、コールセンターでリアルのスーパーバイザーが管理しフォローするように、リモート接客では、自宅やコールセンターなど多箇所のオペレーターをリモートで管理しフォローできるからだ。
「リモート接客なら、オペレーターは日本のどこにいても、専門知識を活かせます。障がいがあり自宅から出ることが困難な人たちも、会社の受付ができます。結婚や出産のライフイベントで離職した人も、経験と知識はなくなりません。一旦会社を離れても、知識という資産はその人の中にある。リモート接客では知識や技能を必要なときだけ提供できます」
上野山さんが目指すのはシームレスに繋がる世界だ。
商品知識を持っている人がリモート接客を介して、全国各地の売り場でアドバイスできる。いままで情報を得られなかった地域でも、同じ情報を得られる。スキルの高いスタッフの案内で、難しい商品の理解度も上がる。
「リモート接客という新しいコミュニケーションで、質の高い説明や販売を可能にすること。お客さまの細かいニーズに応えていくこと。それがこれからのビジョンです。お客さまにもサービスの提供側にも寄り添うような仕組みを作ること。世の中にリモートによる接客・販売支援の仕組みを広めることで人手不足やCX向上などの課題解決に役立ちたい」上野山さんはそう話す。
株式会社ビーツは「購入にいたるラストワンマイルを革新する」世界の実現を目指し、リモート接客という新しい価値を生み出している。