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町工場のお悩みを解決!町工場による、町工場のためのDX「エムネットくらうど」を自社開発

「納期管理や進捗管理に悩みを抱えている町工場は、まだまだ多いんです」と語るのは、大阪府堺市にある「ものづくりサービス業」日本ツクリダス株式会社の代表取締役・角野 嘉一さん。「ありえへん町工場」を標榜し、クライアントから受注したものづくりだけにとどまらず、自分たちの苦い経験からDX化の取り組みとして生産管理システムを自社開発。これまで115社に販売し、町工場の仕事効率化に貢献している。

日本ツクリダス株式会社代表取締役・角野 嘉一さん

角野 嘉一(かどの かいち)さんプロフィール

1978年、大阪府大阪狭山市生まれ。日本ツクリダス株式会社 代表取締役。大学卒業後、自動車買取会社で査定士として従事。その後、父親が営む鉄工所へ入社。2009年に個人事業として日本ツクリダスを創立、2013年に法人化。金属加工、システム開発・販売、デザインなど事業を拡大。2021年に全国中小企業クラウド実践大賞にて「近畿総合通信局長賞」、2022年「大阪ものづくり優良企業賞」を受賞。町工場のデジタル化を推進するべく奮闘中。

わかりやすく作業の進捗を共有することで、課題の解決に取り組む

国道沿いに広がる住宅街の中に、ひときわ目立つブルーの社屋。日本ツクリダス株式会社は一般的な町工場のイメージとは違ったおしゃれな外観だ。

 

業界で課題となっているのは、各部署によって作業工程の把握がまちまちになってしまうということ。

 

「弊社自身もそうでしたが、納期管理や現場の進捗管理などに困っている町工場はまだまだ多いのではないでしょうか。ホワイトボードで管理しているところや、“経営者の頭の中だけ”ですべて把握している、といった場面もよく見られます」

 

角野さんは2013年に独立開業したときから、このような現状を改善する秘策を構想していた。

 

「作業を進める際、たとえば、はじめにどの作業をして次にどんな加工をしてという工程が順序立ててあり、それに沿って進められるとわかりやすいですよね。私たちの業界では、クライアントから図面を受け取った際に優先順位が指示されていなければ、作業がやりやすいモノからつくっていくというのが今までの自然な流れでした」

 

その自然な流れで作った結果、あとから「この作業はあとでもよかったのに」というケースは珍しくない。

 

「町工場の納期管理や進捗管理は、“最新の情報を共有する”ことがなかなか難しいという部分に課題があるんです。ホワイトボードやエクセルで管理していても、更新を忘れてしまうことも多々あります。また、経営者が頭の中で管理してる場合などは、どうしても現場につきっきりで一人で全てのディレクションをする必要があります。そのため、現場を離れて営業などに行きづらいという問題も生じてしまいます」

 

自社のこれまでの経験を振り返るように、そう話す。

すっきりとした青が目に入りやすい日本ツクリダス社屋全景

自社の経験・悩みからたどり着いた「システムの自社開発」

角野さんには、以前勤めていた会社での苦い経験がある。

 

「火災が発生しまして、図面が焼けてしまいました。ところがそれをエクセルで入力して、Dropboxに保存してあったんです。生産管理という概念はまだなくて、受注一覧という形でした。おかげで、自分たちの受注が把握できたんです」

 

これがきっかけとなり、システム化の重要性を痛感。独立を決めたときから、生産管理システムの導入を決めていた。しかし、大きな問題があった。

 

「製造業の中でいろいろな生産管理システムがあるのですが、ほとんどが大きな工場向けのもので、導入費用も500万円からとコストが高く、システムも大掛かりなものばかりで。私たちのように従業員数が10人規模の町工場で使いたい場合はオーバースペックだったんです。使いたい機能が限られているのに、使わない部分のほうが多いシステムを500万で買うかというと、当然躊躇しますよね」

 

そのような状況から、いっそのこと自分たちのような町工場に必要な機能だけが揃ったシステムを自社で開発してみようということになった。

 

「きっと、自分たちと同じような悩みを抱えている町工場がほかにもたくさんあるはずだと思ったんです」

オフィス全景

生産管理システム「エムネットくらうど」を開発・導入

早速、安価に使える生産管理システムの開発に取り掛かった角野さん。独立した翌年にはおおむね完成し、バグの発見と微調整を兼ねて、自社で導入テストをおこなった。

 

「『エムネットくらうど』の特長は操作が簡単なことと、工程の進捗状況が誰でも見られることです。クライアントからの進捗確認の問合せに対して、作業現場まで聞きにいく手間がなくなり、デスク上のモニターを見て回答できます。これは、自分たちが仕事をする上でとても必要としていることでした」

 

進捗を共有するレスポンスの早さは、クライアントの信用度のアップにつながる。また、「エムネットくらうど」を導入し、作業効率をあげたことで完全週休2日制を実現できた。休みは増えたが、売り上げは下がっていなかったという点でも作業の効率化を実感。

 

「人件費の削減もできました。『エムネットくらうど』を導入する前はいわゆるスーパー事務員さんが全体をほぼ掌握していましたが、システムを導入したことで情報共有がしやすくなりました」

 

これまでは、事務職員は1日当たり社員2人、パートタイマー0.5人で稼働。情報の共有がしづらい部分もあり「そのことについてはこの人しかわからない」という状態が起きやすくなっていた。

それが「エムネットくらうど」に移行したあとは、誰がみても今どんな状態なのか把握できるようになり、事実上1日あたり1人の人員で済むようになった。

 

「社内的にはやっぱり、見える化だと思うんです。仕組みを構築してしまえば、指示を出さなくても自分がやるべきことがわかって動ける。とりわけ工程が変わる際の指示を仰ぐ手間がなくなるので、全体の流れが早くなります」

 

こうして、自分たちの課題を解決するために生まれた「エムネットくらうど」。開発後、「自分たちと同じような悩みを抱えている町工場の力になりたい」と、他の町工場にも販路を広げている。導入後の反響はどうだろう。

 

「従来のように、経営者が頭の中で管理する必要がなくなったこと、作業状況の共有が工場全体でわかりやすくできるようになったことで作業効率が上がったこと、そのため取引先の安心感にもつながり、結果的に売り上げも伸びたと喜ばれています」

 

現在、「エムネットくらうど」は東北から九州まで115社が導入している。

「その85%が、従業員数30人以下の町工場さんです。今や『これがなかったら仕事ができない』というレベルにまで評価されています」

製品のサンプル

「エムネットくらうど」は年度内(2022年2月末まで)にチャット機能をアップデート予定

日本ツクリダスは2020年、「驚き」「快適」「満足」「楽しさ」「成長」の5つに象徴される体験ができる“ファイブスターファクトリー”を掲げている。お客さま、協力会社、そして会社のスタッフが、これら5つに象徴されるさまざまな体験ができる会社を目指す。ロゴマークがその象徴だ。スタッフ全員がロゴマークの入ったユニホームを着て仕事をしている光景は、会社が一丸となって、同じ目標に向かう誇りを表している。

 

また、年度内(2022年2月末まで)を目途に「エムネットくらうど」をアップデートする予定だ。イレギュラーが発生したとき、現場の人間がマンパワーで対処する場面が多々ある。それに対し速やかに対処できるように、チャット機能を搭載して、手元の端末で社内のコミュニケーションをとれるようにする。

 

「イレギュラーの無い状態が理想ですが、どうしても発生します。それをうまく解消するためには、人間どうしがコミュニケーションをとりながら対応しないといけません。たとえば『この仕事はこういう問題やトラブルがあって、いま止まっています。どうしましょう』と指示を仰ぐ。あるいは『納期の短縮依頼が来ていますけど、可能ですか?』など、いちいち手を止めて聞きにいくのではなく、その場にある端末で意思の疎通ができるようにということですね」

「エムネットくらうど」のモニター画面

さらに将来的には、町工場どうしのコミュニケーションがとれるプラットホームを構築する構想もある。

「オフ会みたいな形で、エムネットくらうどをご利用されている町工場さんどうしの関係性を築ける、コミュニケーションツールのようなことができたらいいなと思っています」

 

角野さんは、今後も町工場を盛り上げていくために発想を実践し続ける。

 

日本ツクリダス株式会社

 

執筆

平藤 清刀

1962年、大阪生まれ。陸上自衛隊と警備会社勤務を経てライターの世界へ。「地に足をつけて生きる人」を取材することが多い。美味しいカレーと美味しいコーヒーを愛する。

※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。

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