「デジタル経営」を掲げ、いち早く翻訳ディスプレイを導入した西武鉄道。DX成功の鍵とは?

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アフターコロナで、再び増加に転じた訪日外国人観光客。2023年8月には215万人以上と、新型コロナウイルス感染拡大前である2019年の同月比の8割を超えている(参考:日本政府観光局「訪日外客数(2023年8月推計値)」)。日本政府は2030年の訪日外国人観光客数6,000万人を目指しており(参考:観光庁「これまでの議論の経過について」)、今後も増加していくことが予想される。

西武鉄道株式会社では、外国語での問い合わせ対応の効率化、品質向上のため、西武新宿駅に翻訳対応透明ディスプレイ「VoiceBiz® UCDisplay®」(TOPPAN株式会社製)を導入した。2023年7月の試験導入から11月の本導入にいたった経緯、現場での活用状況、今後の展開について、運輸部スマイル&スマイル室 インバウンド施策担当の矢島綾乃さんに話を聞いた。

矢島綾乃(やじま あやの)さん プロフィール

西武鉄道株式会社 運輸部 スマイル&スマイル室所属。インバウンド施策を担当する。

外国人観光客増加で翻訳ディスプレイの導入を決断

中長期計画に「デジタル経営」を掲げ、DX人財育成体制の強化や乗客への乗車ポイントサービスの開始など、さまざまな施策をおこなう西武鉄道。2023年11月1日に西武新宿駅で本導入したのが、翻訳対応透明ディスプレイ「VoiceBiz® UCDisplay®」(以下、翻訳ディスプレイ)だ。

これが導入されたのは、同駅の特急券売り場横にある「外国のお客さまご案内窓口」。翻訳が必要となる煩雑な問い合わせ、英語以外の言語による問い合わせが発生した際、駅係員が翻訳ディスプレイのある窓口に誘導し、円滑なやり取りができる仕組みだ。

 

「目線の先にある翻訳ディスプレイに、各々の話した内容が日本語と外国語で表示されます。視線が下を向かないため、お客さまの表情を見ながら自然に会話できるのがメリットです。他製品とも比較検討した結果、画面の大きさ、対応言語の多さ(12言語)、精度の高さなど総合的に判断し、この翻訳ディスプレイ導入を決めました」

 

使い方はシンプルだ。窓口に移動後、外国人観光客は画面の指示に従い、使用言語を選択。発話のタイミングでボタンを押し、駅係員とやり取りする。2023年7月の試験導入を経ての本導入となったが、試験段階から駅係員の間で好評で、本導入後も大きな課題やトラブルなくスムーズに活用されているという。

 

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お客さまの顔を見てやり取りできるのが一番の利点

これまで、いろいろな翻訳ツールを活用してきたという西武鉄道。新型コロナウイルス感染拡大前には西武ツーリストインフォメーションセンター新宿に外国語を話せるスタッフが常駐し、必要時に対応していたという。1人1台支給されているタブレットには翻訳アプリが入っており、どこでも外国人観光客に対応できる体制が整えられている。

 

「西武新宿駅など、外国人観光客が多い駅の係員は、英語対応にある程度慣れているため、翻訳アプリを使わないケースも多いようです。ただ、問い合わせ内容は、鉄道に関することだけではないんですよ。エンターテインメント施設のチケット売り場の場所やホテルへの行き方、荷物の宅配はどこで頼めるのかなど、駅係員自身がまず情報を調べたうえでなければ答えられない質問も多いんです。

普段から英語での対応に慣れている駅係員も、調べた情報をすぐに英語でお伝えできないこともあります。さらに、スペイン語やフランス語となると、より難易度が上がります。こうした背景から、ツールを活用して誰でも対応できる状態を作ってきました」

 

アフターコロナのインバウンド回復により、外国人観光客が急激に増加。今後もますます増えていくことが見込まれる。窓口に専任スタッフを常駐させずとも、円滑に外国人観光客とコミュニケーションが取れる環境を整備するために、翻訳ディスプレイの導入検討が進められた。現在も翻訳アプリを活用し続けているが、あえてコストをかけて翻訳ディスプレイ設置を決めた背景には、先に述べた「顔を見て話せる」というメリットが大きかったという。

翻訳ディスプレイが設置されている窓口(提供:西武鉄道株式会社)

試験段階で大きな課題はなく、駅係員も好意的に受け止めていたと振り返る矢島さん。ただ、実際に鉄道駅で導入するにあたっては、細かな機能のアップデートが必要だった。

 

「乗車券の名前や、沿線駅の近隣にある施設名など、特有の単語が多くあります。これらは翻訳エンジンに標準搭載されていないため、本導入時に問題なく使えるよう、事前登録をおこないました」

 

本導入にあたり、音声翻訳と同じ12言語でのキーボード入力も可能となった。これは、発話でのコミュニケーションが難しい外国人観光客でもスムーズにやり取りできるよう搭載された機能だ。12言語のなかには日本語も含まれているため、発話が困難な日本人客との筆談にも活用できるという。

 

「もともと筆談機はありましたが、外国語の筆談は、お客さまに入力いただいてからこちらで翻訳する作業が必要で非効率でした。翻訳ディスプレイでは、外国語・日本語でキーボード入力した言葉がすぐ互いの言語に翻訳されるため、よりスムーズなやり取りが可能となりました」

 

利用開始前の画面に言語ボタンを表示し、タップしてもらうことでその言語での操作説明が表示される仕様も、本導入に向けて追加された機能だ。試験時に上がった駅係員からの要望を受け、アップデートされたものだという。

 

「試験時は、何も表示されていない透明なディスプレイがあるだけでした。そのため、どう使い始めたらいいのかわからず、何も操作せずにそのまま話し始めてしまうお客さまもいたと聞いています。お客さまが使われる言語で操作説明が表示されるようになったことで、滞りなく活用していただけるようになりました」

現場社員に「DXの当事者」になってもらうことが、DX成功の鍵

取材したのは本導入から1か月後。現在、翻訳ディスプレイでの案内数は1日20件ほどで、前述のような鉄道に関することではない問い合わせ時におもに活用されている。翻訳ディスプレイを介して母国語でやり取りができる安心感からか、寄せられる質問が以前よりも多岐にわたっていると矢島さんは語る。

デジタル経営を掲げ、タブレットの配布や翻訳アプリの導入など、これまでもさまざまな施策をおこなってきた西武鉄道。そのためか、今回の導入に対する現場の反応は好意的だったという。その理由の1つとして、矢島さんは試験導入を挙げる。

 

「ただのトップダウンではなく、試験時に出てきた現場の意見を吸い上げ、本導入する際のアップデートにつなげました。そのステップがよかったのではないかと思います。

また、デジタルデバイスの導入によって受けられる恩恵を、現場社員がこれまでの経験で実感していることも大きいと考えています。

弊社では数年前から業務改善アプリを入れており、2017年からは駅係員による介助が必要なお客さまの情報を、アプリの通信機能でやり取りできるようになりました。以前は鉄道専用電話で降車駅の係員に、介助が必要なお客さまの乗車車両を伝達していたため、鉄道専用電話の場所まで移動しなければ伝えられない、降車駅の係員にすぐつながらないといった課題があったんです。アプリにより、ミスなく円滑に伝達ができるようになったという経験は、DXに対する心理的抵抗感を薄めたと思います。会社が導入しようとしているものが、自分たちの仕事の手助けになるという認識を持ってくれているのかもしれません。

導入前にヒアリングをして意見を反映したり、実証実験や事例の積み重ねによって効果を実感してもらったり。こうして現場社員に『DXの当事者』になってもらうことが、DX成功の鍵になると思います」

 

現在は西武新宿駅のみに導入されている翻訳ディスプレイ。今後は、同駅の使用頻度や使い勝手を見ながら、外国人観光客の利用が多い他駅への展開も検討していく予定だ。導入判断についても、各駅係員の意見を聞いていきたいと矢島さんは言う。

また翻訳ディスプレイは、西武鉄道だけではなく西武グループの別業態への導入にもいたっているという。

 

「西武グループが運営する志賀高原プリンスホテルにも翻訳ディスプレイが導入されました。西武新宿駅を視察して便利さを実感したようです。グループ横断での取り組みにつながったことは喜ばしいですね。今後も、社員の業務効率化やお客さまの利便性向上のため、さまざまな施策をおこなってまいります」

 

西武鉄道株式会社

 

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