モビチェン革命。「ないならつくる!」の精神でglafitが変える移動の未来

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1台の車両で電動バイクと自転車を素早く切り替えて運転する。両方の良いとこ取りを可能にする機器「モビチェン」。「規制のサンドボックス制度」を活用して、2021年6月「車両の区分を変化させることができるモビリティ」として正式認可。2022年12月に出荷開始され、市場と法律が相互に影響を及ぼしながら変化を続ける小型モビリティ界に風穴を開けた。ユーザーからは、「自転車置き場に置ける」「一方通行の道を通れる」といった喜びの声が多数あがっている。モビチェンの企画から製造、販売、サポートまでを一貫して提供するのは、和歌山県に本拠を置く、glafit株式会社(以降 glafit)。発売から約1年を経たところで、代表取締役CEO 鳴海 禎造さんに、モビチェンの開発経緯、現在の成果、そして未来に向けた展望について聞いた。

鳴海 禎造(なるみ ていぞう)さんプロフィール

glafit株式会社代表取締役、和歌山電力株式会社取締役、一般社団法人日本電動モビリティ推進協会(JEMPA)代表理事、内閣府 地域活性化伝道師。

1980年、和歌山県生まれ。大学卒業と同時に自動車販売事業を開始以来、おもにモビリティ関連ビジネスに従事。2017年にglafit株式会社を設立し、自転車型の電動バイクやキックボード型の電動スクーターを開発・販売。規制のサンドボックス制度を使い、2021年6月、国内で初めて自転車と電動バイクの車両区分切り替えを認可されるなど、モビリティ開発にとどまらず、法整備への取り組みや、業界団体(JEMPA)の立ち上げ、ルール作りや啓蒙活動、政策提言などをおこなっている。

モビチェンとは?

モビチェンとは「モビリティ・カテゴリー・チェンジャー」の略。ペダル付き原動機付自転車に取り付けて、自転車との車両区分の切り替えを可能にする。

自転車モードのときには、ナンバープレートが覆われ、自転車のピクトグラムを表示。傍から見て自転車モードで走っていることが明確にわかる。また、このモードのときには、バイクの電源ボタンを押しても、電源が入らないように制御されている。

モビチェン。左・電動バイクモード、右・自転車モード(画像提供:glafit)

ペダル付き原動機付自転車は、モーターを使わず、通常の自転車と同じ状態で走行していても道路交通法上は自転車扱いにはならないが、モビチェン機構を搭載・利用することにより、自転車モードのときは法律上も自転車として扱われる。それにより、「自転車置き場にとめる」「自転車専用道を走る」などが可能になり、一方通行の制限も受けない。バイクモードで走っていて充電が切れたら、自転車に切り替えることもできる。

 

2024年1月現在、モビチェンが取り付けられるのは、glafit製のペダル付電動バイク「GFR-02」のみ。「GFR-02」は、軽量で小さく、工具なしで簡単に折りたためる。エレベーターに載せて部屋に運んで玄関に置く、軽自動車・タクシーに載せて運ぶ、携帯して公共交通機関に乗るなども可能だ。家庭用100Vコンセントでフル充電まで2時間半と充電時間が短いのも特徴。

 

SNSなどで実際のユーザーからの「バイク置き場がないところが多いから、自転車置き場に置けるのがとても助かる」「一方通行のために迂回していた道を自転車モードでショートカットできてうれしい」といった声が響いている。

 

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「サンドボックス制度」を利用して法改正を実現

モビチェンは一見簡単に作れたものに見えるかもしれない。実際には、実現までにいくつものハードルを越える必要があった。それが、現在モビチェンが合法的に車両区分を切り替えられる唯一の製品な理由でもあるという。

 

困難だと知っていたにもかかわらず、glafitはなぜ、モビチェンの開発を手がけたのか。それは、「GFR-02」の先代「GFR-01」がクラウドファンディングを経て、ユーザーに利用され始めたころに遡る。

 

glafitが「GFR-01」を開発したのは、2016年の夏。半年間の準備を経て、2017年5月にMakuakeでクラウドファンディングを開始。8月の終了時の応援購入総額は約1億3千万円にのぼり、クラウドファンディングの当時の調達日本記録を塗り替えた。サポーターは1,300人近くにおよび、製品の到着を心待ちにするメッセージが次々に書き込まれた。鳴海さんは、「当初はクラウドファンディングの実施を断られたこともありましたが、結果的に予想をはるかに超える反響をいただきました」と振り返る。

市場に歓迎された「GFR-01」だが、自転車として使えても法律上は原付バイク。バッテリーが切れて自転車として走行しているときも車道を走らなければならない。「車道を走るのは怖い。自転車レーンを走れたら」という声が聞かれるようになる。鳴海さんをはじめとするglafitのメンバー自身が痛感しているところではあったが、法律の壁が実現を阻んでいた。

 

「法律を変えられないかと思っていたところ、2018年に『規制のサンドボックス制度』が創設されました。イノベーション促進を目的に、実証実験を経て規制の見直しにつなげる制度です。この制度を利用して法改正の要望をおこないました」

 

2019年から地元和歌山市で実証実験を開始。国土交通省・警察庁・総務省など5省庁との調整を経て、2021年6月、「車両の区分を変化させることができるモビリティ」として正式に認可された。

複雑な法規制を満たしながら実現した最適解

glafitでは、実証実験中にモビチェンの試作機をいくつも開発した。

 

「車両区分の切り替えを認めた場合、国側で問題になることを聞いたところ、取り締まりに懸念があるとのことでした。バイクと自転車、どちらとして走っているのか識別できない、バイクとして走っていて違反を指摘されそうになったらその場で自転車に切り替えられてしまうといった可能性がありました」

 

そこで、自転車モードのときはナンバーを覆い、バイクの機能は使えない。乗ったまま切り替えもできないという仕様を提案。試作を繰り返し、最終的に現在のモビチェンが完成した。

停止して両手を使わないと、バイクモードと自転車モードを切り替えられないようになっている(画像提供:glafit)

開発にあたりもっとも苦労したのは、仕様を決めることだったという。

 

「バイクと自転車で別の法律が適用され、微妙に異なるところがたくさんあるんです。たとえば、車両の幅の規定。バイクの幅はミラーを含みませんが、自転車の幅には含まれます。ヘッドライトについても、自転車は暗いときだけ点灯すればいいのですが、バイクは常時点灯していなければなりません。ほかにもいろいろな違いがあります」

 

両者を満たす仕様の範囲を見極め、その仕様の範囲内で最適解と思うものを設計。自転車モードのときだけオン・オフの操作を受け付けるマイコンスイッチを採用するといった工夫を積み重ねながら、実装していった。

 

「じつはたくさんの技を使っています。モビチェンを見てまねても、どこか足りないところが出て、法律の基準を満たせないと思います」

移動が楽しめる環境の整備も手がける

2024年1月現在、「GFR」シリーズは累計で8,000台を超えて出荷されている。販売・サポートを担う販売店は、47都道府県に広がり、500店舗に近づく勢いだ。

 

ユーザーからの反響について、鳴海さんは「地元の和歌山との違いを感じる」という。

 

「都市部と地方では移動についての問題が大きく違うことを改めて感じています。和歌山ではバイクをとめる場所に困ることはありませんし、一方通行もまずないんですよね。車に載せての移動を想定して簡単に折りたためるようにしたのですが、都会では『部屋に持ち込めるから盗難が防げる』と歓迎されたので驚きました」

 

モビチェンユーザーからは、喜びの声と同時に、「納期が長い」「自転車モードのとき、ギアがなくてつらい」「電動アシストにしてほしい」「バッテリーの持ち時間が足りない」「サポートが頼りない」などの指摘や要望も見られる。これについてたずねると、鳴海さんは「非常に真摯に受け止めています」と答えた。

 

「まず、納期は改善されており、現状、即納可能です。ギアと電動アシストについても検討しています。サポートについては、まだ販売店によって知識と経験の差がある状態です。当社のサポートエンジニアを強化して、販売店をサポートできるように進めています」

 

バッテリー容量についても、もちろん検討はしている。

 

「現状で最高密度のものを使っており、このサイズでこれ以上容量をあげるのはかなり困難なんです。『GFR-02』はバッテリーが本体のなかに入る設計なので、これ以上サイズを大きくできません。大きくすることで重くなり、手軽にたためるというメリットが失われる懸念もあります。さまざまな機能のバランスを取りながら、最適解を探っているところです」

折りたたんだ状態。全幅500mm, 全長750mm, 全高600mm(画像提供:glafit)

「GFR-02」のような小型電動モビリティが普及すると、マナーの悪い利用者による問題が増えるのではないかと懸念する声もある。鳴海さん自身、展示会などの来場者から、そういった懸念を聞くこともあるそうだ。

 

「glafitのコンセプトは『移動を、タノシメ!』です。楽しんでもらうための環境づくりも大切だと考えています」

 

そう語る鳴海さんは、業界全体での課題解決や自主規制の推進、行政との連携などを進めるために、一般社団法人日本電動モビリティ推進協会(JEMPA)を設立し、代表理事を務めている。

 

「新しい特定原付をはじめとした小型の電動モビリティが普及するにあたり、業界全体で課題解決に取り組む必要があると思い設立しました。これからの道路環境が目指していくところも含めて提言していきたいと考えています。いまの道路環境のなかで極力事故が起きないように安全啓発をする活動も進めていきます」

 

JEMPAでは、法律上は強制ではない安全基準でも加盟業者には必須とするなど、安全性を担保する施策を実施している。「JEMPAに加盟している企業なら安心」と思ってもらえるようにしていきたいと鳴海さんはいう。加盟企業も順調に増えているそうだ。

笑顔を生む移動の未来を切り拓く

glafitは、鳴海さんが経営していた自動車部品製造・販売会社の新規事業として、2011年に立ち上がった。きっかけは、社員全員で「ほんとうに実現したいことは何か」を話し合った結果だ。それは「将来、自分たちで電気自動車をつくること」。

 

2017年の「GFR-01」のクラウドファンディング成功後に分離独立させた。現在はほかの会社は社員に譲渡し、鳴海さんはglafitに専念している。glafitという名前は、英語のgladとfitを合体させたもの。「多くの人々の生活にフィットして笑顔を生む」という意味を込めている。

 

2024年2月10日現在のglafitの正社員は26名。派遣社員や業務委託を含めて約50名のチームだ。電気自動車はいつかつくるが、それまでに作りたいものがGFRシリーズ、電動キックボードのLOMシリーズ以外にもたくさんあるという。

 

「たとえば、僕の両親が乗るもの。2人とも75歳で、そう遠くないうちに免許返納も考えなければならなくなるでしょう。その後の移動をどうするか。他社からよい製品が出ているので試してみましたが、うちの両親には合わなかったんですよね。高齢者の状況やニーズも多様ですから、もっと選択肢が必要だと思います」

 

「ないならつくる!」の精神で、より安全性の高い高齢者向けのパーソナルモビリティを検討している。

 

和歌山が大好きで、2010年に全国最年少で地域活性化伝道師に認定された鳴海さん。仲間たちとともに、和歌山から移動の未来を拓いていく。

glafit株式会社

 

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