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AIでペットボトルを自動選別。DXで目指す循環型社会の実現

いったんは役目を終えた「もの」から、再び資源を創り出す「静脈産業」。この業界でもDXを進めようと奮闘する人たちがいる。熊本市東区にある石坂グループは循環型社会の構築を目指し、リサイクル事業や廃棄物処理事業に取り組む企業だ。県内最大級のリサイクル工場では、廃棄物の処理から再生原料への加工、出荷までを一貫しておこなう。ペットボトルの選別ラインでは、純国産AI搭載の廃棄物自動選別ロボットも稼働する。彼らが目指すDXについて、石坂グループ環境事業本部 環境事業部、経営管理本部 経営管理部 部長の石坂 繁典さんに話を聞いた。

石坂 繁典(いしざか しげのり)さん プロフィール

1985年生まれ。熊本県出身。有価物回収協業組合 石坂グループ 環境事業本部 環境事業部 部長、経営管理本部 経営管理部部長。Rita Technology株式会社 イノベイター。

あらゆる廃棄物を再資源化する静脈産業

石坂グループは熊本市東区に本社を持つリサイクル企業だ。熊本市全域から出るゴミの回収、工場での処理、そして再資源化までを自社でおこなっている。廃棄物から回収できるすべての材料を扱うことが、石坂グループの自慢のひとつだと石坂さんは話す。

 

「リサイクル業界は分業体制の企業も多く、たとえばペットボトルや鉄くずなど、それぞれ単独の資源を扱う専門業者が一般的です。石坂グループでは、ガラス、木材、金属、ペットボトル、古紙など、リサイクル可能な材料すべてを扱っています」

 

1980年から熊本市委託事業を受託し、40年以上地元でリサイクル事業に取り組んできた。

 

「熊本市内で回収したごみを、単に燃やしたり埋め立てたりするのではなく、再利用可能な原料にすることが私たちの仕事です。そうした資源の循環システムが、地域の生活インフラとして機能している事実も会社の誇りですね」

 

経済活動を人間の循環器系に例え、ものを供給する側の企業は「動脈産業」、廃棄物処理などを担う企業は「静脈産業」と呼ばれている。動脈から流れてきたものが、静脈を通じてスムーズに還元されることが循環型社会の実現には不可欠だ。SDGs が国際目標となったいま、静脈産業の発展が社会的にも求められている。

リサイクル業界の労働環境を改善したい

リサイクル業界は慢性的な人手不足やスタッフの安全確保など、さまざまな課題を抱えていると石坂さんは指摘する。

 

「IoT技術を活用して、ごみの回収や処理で起きる事故から社員を守りたい。それがDXを取り入れようとした動機です」

 

スプレー缶やカセットボンベなどの危険物、近年はリチウムイオン電池がごみ収集の現場で爆発する火災事故が多発している。廃棄物処理の現場では、火災以外にも事故のリスクを日常的に抱えているのが実情だ。「5K(危険、汚い、きつい、暗い、臭い)」が常態化する労働環境を改善するため、模索し続けている。

 

個人がごみを直接工場に持ち込めるシステムの整備、タブレットを使った配車システムなど、DXで何かできないかと試行錯誤を重ねてきた、と石坂さんは振り返る。

 

「さまざまなことを試しましたが、システムありきのDX化はスタッフの混乱を招き、現場の負担が増えるだけだと感じました。業界的にもITに不慣れな人が多いので、まずはバックオフィスから改革を進めようとDX専門部署を設けて、社内のシステム整備を地道に続けています」

 

社内のDXには、IPO準備企業でDXを推進した経験を持つ同級生が力を貸してくれている。

 

志を同じくする同業他社の仲間にも協力を求めた。新潟県の破砕機メーカー「ウエノテックス」と共同で、2018年3月に「Rita Technology(リタテクノロジー)」を設立。代表の上野 光陽さんと石坂さんは10年来の付き合いで、業界の未来を語り合ってきた関係だという。

 

リサイクル業界の労働環境を改善し、若い世代の人たちが地元で活躍できる職場をつくりたいという想いがある。「利他」の精神で創業した同社では、電通やコナミなど異業種から転職してきた若手エンジニアも働く。

 

2019年には、日本初となる国産AIを搭載した廃棄物選別ロボット「URANOS(ウラノス)」を発売。ベルトコンベアを流れるペットボトルをカメラやセンサーでとらえ、ラベルの有無や色をAIが瞬時に判別、ロボットアームが最適な選別ラインに振りわけるユニット式のロボットだ。

ペットボトルの選別ラインで稼働するURANOS

ロボットアームがペットボトルをつかみ、素早く選別していく

URANOSを導入したことで、これまで7人でおこなっていたペットボトルの選別作業が3~4人で可能になった。明らかにリサイクルが不可能な状態のものを排除するなど、初期の選別はロボットが自動でおこなうため、作業するスタッフの負担も軽減したという。

フレーク状に加工され、再生原料として出荷される

静脈産業で集めたデータを動脈産業で活用

Rita Technology では廃棄物から得られるデータを収集し、メーカーに還元するビジネスにも取り組む考えだ。

 

「省人化・省力化も自動化のメリットですが、データ収集ができることもURANOSの大きな強みです。たとえば、ペットボトルの中に飲み残しがどれくらいあるかなど、URANOSが処理した廃棄物の内容を記録することができます。静脈産業で集めたデータを動脈産業へフィードバックすることで、メーカーなどで商品開発に活かしてもらう。資源だけではなく、データも静脈から動脈へ循環するビジネスモデルを確立したいと考えています」

 

食品ロスを減らす取り組みはメーカーや小売など動脈産業でもおこなわれているが、廃棄物処理の現場では毎日何がどれくらい廃棄されているか、食品ロスの実態を目にするのが日常だ。人間の肌感覚だけではなく、機械が収集した客観的データそのものに商業的価値がある、と石坂さんは考える。静脈産業の側から廃棄物のリアルなデータを提供し、動脈産業でそれを活用してもらう。循環型社会の早期実現に向け、データ販売事業にも参入する方針だ。

廃棄物処理工場の完全自動化を目指す

石坂さんが目指すのは、廃棄物処理施設の完全自動化だ。しかし、URANOS実用化に向けて繰り返してきた開発テストを振り返ると、越えるべきハードルはまだ多いという。

 

「工場の自動化を検討する段階で、海外製の機械も選択肢にありました。けれどもAIに廃棄物のデータを覚えさせるためのコストだけでも年間約2,000万円と高額なうえに、反応速度も求める水準には及ばなかった。だったら自分たちで理想のロボットを開発しようと、Rita Technologyを創業しました。

リサイクル工場で扱うペットボトルは、輸送コスト削減のため圧縮された状態でやってきます。四方から押しつぶされた状態のため形も複雑で、AIに認識させたりロボットアームでつかんだりすること自体も難しいです。開発にはソフト面でもハード面でも課題がたくさんありました」

効率的に輸送するため、ペットボトルは圧縮されて搬入される

「そもそもAIは、学習量が多いほど精度が上がるわけではなく、4万回学習したAIより2万回学習したAIのほうが実用面で優れていることもあります。最適な学習ラインを探るために条件を変えながらテストを繰り返し、アームの反応速度などハード面との調整も同時におこなうなど苦労がありました。工場のすべての工程を自動化するには、クリアすべき課題はまだまだ多いと感じています」

向きや形はランダムな状態だ

開発の手間やコストを惜しまなかった理由は、当初から他業種への販売ありきの計画だったからだと石坂さんは明かす。

 

「URANOSの機体はユニット式。ユーザーの環境に合わせてハード面から設計します。AIに対象物のデータを学習させれば、廃棄物処理以外にも転用可能なロボットです。

いまはロボットとプロジェクションマッピングを組み合わせて、ゲーム感覚で作業できるシステムの開発も進めているところです。東京に一極集中しているIT人材に、地方でも活躍できる環境を提供できるといいですね。リサイクルの分野でも先進的な仕事ができるということを、若い人にも知ってほしいと思っています」

 

スタート地点は、静脈産業で働く人たちの負担軽減、いわば「守りのDX」だった取り組みが、新たな価値を生む「攻めのDX」へとつながっていた。

 

執筆

桑原 由布

1987年生まれ、熊本県出身。フリーライター、編集者。企業、観光、医療などをテーマに地元で暮らす人たちを取材している。趣味は写真撮影、生きがいは愛猫たちと過ごす時間。

※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。

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