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デプロイの最後の壁を壊す――「国産版Vercel」はどう生まれた?HANAMIIがさくらとともに描く新しい開発体験 

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生成AIの普及により、ソフトウェア開発は一部のエンジニアだけのものではなくなりつつある。誰もが「つくれる」時代が訪れる一方で、サービスをユーザーに届けるための最終工程――デプロイには、依然として専門性の壁が残っている。 

この“ソフトウェアのラストワンマイル”をどうにかできないか。現場で生まれたそんな疑問が、人づてに共有され、議論が重なり、かたちになったのが国産サービス「hanamii」だ。  

開発元である HANAMII株式会社の代表取締役会長 兼城駿一郎さん、代表取締役社長 柴田啓祐さん、CTO 龍利典さんに、生成AI時代における開発とデプロイの新しい関係、国産クラウドを提供するさくらインターネットとの連携について話を聞いた。 

AIが「つくる」を民主化した。では「届ける」は? 

「ChatGPT」や「Claude」といった生成AIの普及によって、ソフトウェア開発はエンジニアだけのものではなくなった。コーディング作業を生成AIに任せることで、すべての人が自分の「欲しい」をつくれる世界になりつつある。 

起業家が自社の業務フローに合わせたツールを自作し、営業担当者が顧客向けのデモアプリを自前で仕上げ、自治体の担当者が地域課題をソフトウェアで解決する。現場の当事者が開発者になれれば、これまで外注が難しかった課題へのアプローチも可能になるだろう。 

しかし、「機能ができた」の先の工程には、まだ一定の専門知識が必要になる。サービスをインターネットで公開し、ユーザーがアクセスできる状態にする「デプロイ」作業だ。デプロイは、ソフトウェアをユーザーに届けるためのラストワンマイルにあたる。 

この作業を自動化する国産サービスが「hanamii」である。hanamiiを開発するHANAMII株式会社(以下、HANAMII)は、ソフトウェアエンジニアが集まり2025年11月に設立した会社で、すでに資金調達フェーズに進んでいる。 

>>hanamiiの詳細をみる 

エンジニアの素朴な疑問「どうして日本にはデプロイツールがないんだろう?」 

柴田さんは、エンジニアとして長年「新しいアプリケーションをつくって、世に出す」ことに関わってきた。もちろん、生成AIによって起きたコーディングの変革にも立ち会っている。生成AIでアプリを自作した際に「誰でもつくれる時代になったが、誰でもリリースできるわけではない」と気づいたという。 

「米国にはVercelのようなサービスがあるのに、日本にはない。なぜだろう? と思ったんです」(柴田さん) 

Vercelは、米国発のデプロイプラットフォームだ。GitHubと連携し、コードをプッシュするだけでアプリケーションがWeb上に公開されるもので、エンジニアはインフラ構築やサーバー管理の煩雑さを意識せずにリリースできる。 

「私自身も、個人の開発ではVercelを使っています。しかしビジネスの場面では、企業のセキュリティー基準や日本の法令、商習慣、サポート体制などにマッチせず、利用を見送るケースがありました。手動のデプロイはとても手間のかかる煩雑な作業です。結果的に日本では、デプロイがソフトウェア開発の『最後の壁』になっていました」(柴田さん) 

柴田さんは2025年10月、北海道のクリエイティブコンベンション「NoMaps」に参加した際に、兼城さんとさくらインターネットの担当者の3人で、この課題について語り合ったという。兼城さんも、まったく同じ課題感を持っていた。 

このときの議論をきっかけに、関係者のあいだで構想は具体化していった。兼城さんからさくらインターネット社長 田中へ話が共有され、さらに同社が主催したパートナーカンファレンスの場で柴田さんから改めて提案。そこに同社執行役員 横田が加わり、プロジェクトとしての体制が整っていったという。 

「いろんな人がリレーのようにつないでくれて、気づいたら形になっていた感覚ですね」(柴田さん) 

HANAMII 代表取締役会長の兼城さん(左)がさくらインターネット社長の田中(右)に構想を伝えたときの一枚。この日をきっかけにプロジェクトが急速に動き出した 

「私は7~8年ほど、スタートアップを支援する事業を続けています。そのなかで近年、生成AIでプロトタイプを自作した起業家から『リリースするところだけ手伝ってほしい』と相談されることが増えていました。柴田さんに『どうして日本にはVercelみたいなものがないんでしょうね』と聞かれて『そうですよね、じゃあ一緒につくりましょう』と返答。その場で出資を決め、新会社を立ち上げることになりました」(兼城さん) 

こうして関係者の紹介や再提案が重なり、構想は急速に具体化。 文字どおり「トントン拍子」で話は進み、同年11月にはHANAMII設立に至った。その後さくらインターネット側から、同年12月開催のSAKURA AI Conferenceへの出展の打診があり、準備が十分とは言えない状況ながらも参加を決断。この挑戦が結果的に出会いを生み、深津貴之さん(株式会社THE GUILD 代表)からの出資にもつながった。 

「設立から1か月。まだ企業のロゴもなく、事業計画も固まっていない状態でした。そんなとき、ブースに来てくださった深津さんに『国産Vercelで誰もがアプリをデプロイできる環境をつくりたい』とお話ししたところ、そのまますぐに投資を決定いただけました」(柴田さん) 

なぜいままで「国産版Vercel」は存在しなかったのか 

Vercelは2015年にリリースされ、世界中のエンジニアが利用するサービスだ。一方で、日本のビジネスシーンでは同様のサービスが生まれていなかった。 

「これまで、ソフトウェア開発はエンジニアがするものでした。そのため、実情としてデプロイは『手間がかかって面倒だが、できて当たり前』の作業だったのだと思います。『コードはできた、ローカルでは動いている、それで何をすればいい?』という課題が顕在化したのは、生成AIのブレイク以降です」(龍さん) 

龍さんはその課題を解決するため、hanamiiに「エンジニア向け」と「非エンジニア向け」のそれぞれに向けたデプロイ機能を搭載している。 

「hanamiiには、zipファイルをアップロードするだけでアプリがリリースされる機能があります。これは非エンジニアの事業者にとって、とてもシンボリックなものだと思います」(龍さん) 

2025年当時さくらインターネットは、デジタル庁が公募した「デジタル庁におけるガバメントクラウド整備のためのクラウドサービスの提供-令和5年度募集-」において、 2025年度末までに提示されたすべての技術要件を満たすことを前提に 、ガバメントクラウドサービス提供事業者として 条件付きで採択されていた1。政府認定のセキュリティー基準を満たす国産の物理インフラを持つさくらインターネットと、ソフトウェアによる課題解決を得意とするHANAMII立ち上げメンバーがパートナーシップを結び、hanamiiを構築することになったのだ。 

「私たちはスピード開発を強みとし、さくらインターネットが安定性・信頼性を担保する。健全な役割分担だと思います。非常にありがたいパートナーシップを築けています」(柴田さん) 

エンタープライズ要件への適応、実証実験も順調 

hanamiiは現在、エンタープライズ向けの機能実装を進めている。金融、医療、行政など、厳密な規制のある業界に向けた要件適用も検討中だという。 

「私がみらいスタジオとして支援していた顧客企業のデプロイ部分の課題を、HANAMIIが引き受ける形で実証実験や検証を進めています。スタートアップのお手本のようなランディングですね(笑)」(兼城さん) 

「開発者にはGitHub連携による本格的なCI/CDパイプラインを、非エンジニアにはzipファイルをアップロードするだけでデプロイが完了するシンプルなインターフェースを提供。企業のIT部門の方の承認を経てアプリが公開されます。つくる人と承認する人の双方が簡単に、安心して使える『アプルーブエクスペリエンス(Approval Experience)』を意識しました」(柴田さん) 

開発から承認、公開までのフローや、請求書払い対応、セキュリティーチェックシート対応なども、日本の商習慣を熟知した日本人エンジニア起業家ならではの製品仕様といえる。 

大量ソフトウェア時代の「新しい常識」をエンジニア起業家はどう見ているか 

柴田さんは「全人類がエンジニアリングできる社会になったとき、全人類がリリースできる仕組みが必要です。日本にその仕組みをつくることで、日本の産業界を支援できると考えています」と語る。一方で「管理しきれないほど大量のソフトウェアが乱立する時代が来る」とも考えている。 

「ソフトウェア開発コストが下がれば、個人・企業・行政などあらゆる主体がアプリケーションをつくります。かつてのVBAマクロやExcelシートの氾濫と同じ状況がまた起きるでしょう。そのとき、インフラはきっと『1アプリ=1サーバー』ではなくなるでしょう」(龍さん) 

hanamiiは今後、複数のアプリケーションを同一サーバー内で管理するような仕様を見込んでいる。将来的にはAIがインフラ管理を担う「to AIインターフェース」も視野に入れているという。兼城さん、柴田さん、龍さんは、これが大量のソフトウェアが次々にリリースされる世界における「新しい常識」になると考えている。 

「私はいま、2000年代初頭に起きた『誰でもホームページを自分でつくれるようになった時代』の再来を感じています。インタラクティブなアプリケーションを誰でもつくれて、誰でも公開できる。事業者はコードやインフラ、サーバーの構成を意識せずに、『課題の解決』に集中できるんですよ」(兼城さん) 

兼城さんが支援するアントレプレナーシップ教育のなかでも、学生が「家族の不便を解消したい」や「地元の課題解決を支援したい」といった想いから、新しいアプリケーションを開発しているという。 

「ソフトウェアを通して社会を良くしていきたい」という想いのもとに集まった仲間を、兼城さんは「HANAMIIのファミリー」と呼ぶ。 

「先日、株主や投資家、さくらインターネット、ユーザーのみなさんを集めたお花見イベントを東京都内で開催しました。ビジネスマッチングやエンジェル投資家同士のディスカッションで大いに盛り上がりました。今後も継続的に実施し、コミュニティを形成していきたいと思っています」(兼城さん) 

お花見イベントには、さくらインターネットから執行役員 横田と担当社員 新発田も参加

hanamiiは、課題に取り組むすべての人にとっての「必要だから、つくる」を支えるサービスになる。誰もが新しいアプリケーションを簡単に発表できる時代が来れば、次の「ラストワンマイル」が見えてくるだろう。それを最初に見つけ、解決するのは、特別な技術を持つエンジニアだけではないのかもしれない。 

>>さくらインターネットのスタートアップ支援の取り組みとは? 

  1. 技術要件およびセキュリティー要件への対応を進め、2026年3月27日にさくらのクラウドは2025年度にデジタル庁が募集した「令和8年度ガバメントクラウド整備のためのクラウドサービス」に採択されました。  ↩︎

執筆

StudioKOKS

「ただしく、よみやすく、わかりやすく」文・理をつなぐテクニカルライター 。 高専出身、開発者を経てフリーライターとして独立し、メディア編集記者などを兼業しつつ技術系取材を中心に活動中。

※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。

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