さくらインターネット
さくマガ公式SNS
お問い合わせ

tenki.jpを支える技術基盤──ALiNKインターネットが語る気象データ配信とマルチクラウド戦略

IT・デジタル関連の最新情報や企業事例をいち早くキャッチ
>>さくマガのメールマガジンに登録する

台風が近づく朝、緊急地震速報が鳴った瞬間。多くの人が反射的にスマートフォンで気象情報を調べる。その代表的なサービスの1つがtenki.jpだ。同メディアは一般財団法人日本気象協会と株式会社ALiNKインターネット(以下、ALiNK)が共同で運営し、年間PV数は約53億にのぼる(2025年3月~2026年2月実績)。

tenki.jpの開発・運用を担い、この国内有数の規模を持つ配信基盤を技術面から支えてきたALiNK。気象情報は即時性と正確性が強く求められる分野で、とくに災害の際には爆発的なアクセスが押し寄せる。限られたリソースのなかでその負荷に耐え、公共性の高い情報を「速く、確実に」届けるために、どのようなサービス設計をしているのか。

ALiNK共同創業者のひとりで、2026年5月から同社の代表取締役社長に就任した松本修士氏に、気象データ配信の難しさと、さくらインターネットを主軸としたマルチクラウド戦略について聞いた。

松本 修士(まつもと しゅうし)さん プロフィール

株式会社ALiNKインターネット 代表取締役社長。『Yahoo! 天気情報』の一エンジニアとして気象情報サービスに携わったのち、株式会社ライブドアを経て、2006年に ALiNKインター ネット共同創業者の池田洋人氏が参画していた前身企業に合流。2013年のALiNKインタ ーネット創業から現在まで、tenki.jpの技術基盤の設計・開発・運用を担う。

年間約53億PV!「絶対に止められない」気象メディアの宿命

ALiNKの起点は、2000年代初頭の『Yahoo! 天気情報』にさかのぼる。当時、『Yahoo! 天気情報』のプロデューサーだった池田洋人氏(現:代表取締役会長)とエンジニアだった松本氏が出会い、さまざまな防災情報も取り込んだ、気象情報サービスのフルリニューアルに取り組んだ。その後、松本氏はライブドアでオープンソースを駆使した低コスト運用を経験し、2006年に池田氏らの事業へ合流。2013年にALiNKを共同創業した。

ALiNKが開発・運用を手掛けるtenki.jpは、数ある気象・防災系サービスのなかでも、長い歴史と信頼性を持つ国内有数のメディアとして知られる。そのサービス特性がもっとも色濃く出るのが、トラフィックの動き方だ。松本氏は、同サービスのトラフィックの急増には、大きく2つのタイプがあると説明する。

「1つは『台風型』です。台風接近のニュースがあると、数日かけて徐々にアクセスが増え、通過するとスッと消える。台風一過そのものの挙動です。そしてもう1つが『地震型』です。緊急地震速報が鳴った瞬間、ユーザーが一斉にスマートフォンを見る。直前のアクティブユーザーが数えるほどだったところに、瞬間的に1,000倍規模のアクセスが集中します」

とくに後者は、地震と同時に発生するため予測が難しい。そこでALiNKは、サーバーのスケールアウトでトラフィックのスパイクに耐える環境を構築している。数年かけてサービス規模は拡大してきたが、現在も基本的なアーキテクチャーは維持しているという。

「私たちの情報は、災害が起きたときこそ確実に届けなくてはいけない。だから『落とさないための設計』を考えています」

IT基盤に最適な国産クラウドサービス「さくらのクラウド」
>>サービスサイトはこちら

市区町村数×更新回数でデータ量が増大。膨張する計算量を内部設計で対処

「悩ましいのが、『計算量の増大』です。気象データそのものの細分化を背景に、処理する情報の量がどんどん増えています」

気象庁が発表する府県予報(一次細分区域:142区分)に加え、民間気象会社では市区町村単位・1時間単位のピンポイント予報を提供してきた。こうした高精度な気象情報の普及にともない、ALiNKが扱うデータは年々細分化・大容量化している。

「以前は府県予報を使っていました。現在は、市区町村単位、およそ1,900区分のピンポイント予報を1時間ごとに更新しています。更新する地点と頻度が増えたことで、処理量はおおよそ100倍以上になっています。

計算量の増大に追いつくために、さまざまな手法を検討しました。GPUを使った並列処理を模索するなど、プログラムのリファクタリングを積み重ねた結果、最終的にたどり着いたのが『C言語』でのガリガリコーディングでした(笑)。市区町村ごとの予報は並列化で処理していますが、1,900区分をすべて同時に走らせるとデータベースへの接続が一気に増えてしまうので、いくつかの単位で束ねて処理しています。ハードウェアの資源やコネクション数の限界とにらめっこしながらの、泥臭いチューニングです」

瞬間的な高負荷と高頻度な更新を受け止めるには、言語選定まで含めた最適化が必須だという。

この並列処理を、さくらインターネットのサービス群が支えている。tenki.jpのインフラは、「さくらのクラウド」「さくらの専用サーバ PHY」「さくらのウェブアクセラレータ(CDN)」を主軸に、部分的にAWS(Amazon Web Services)を組み合わせたマルチクラウド構成をとっている。

「さくらインターネットのサービスは円建てで、固定費ベースで設計できるのがうれしいポイントです。検討段階でも概算が出しやすく、トラフィックが急増しても転送量課金の不安が小さい。『どんと来ても大丈夫』という感覚は、社内の財務面でのコミュニケーションコストや心理的な負担をかなり減らしてくれます」

一方、AWSのサービスは、他ユーザーが利用していない余剰インスタンスを活用できるスポットインスタンスを利用し、低価格でバッチ処理を回す用途に使っているという。

「いわば計算資源の『元気玉』ですね。細かな余剰インスタンスを集めるもので、バッチ処理との相性がよく、落ちてもリカバリーできる設計をしておけば、コストを大幅に下げられます」

ImageFluxでコストを削る──WebP動的変換の効きどころ

画像配信のコスト最適化では、画像変換・配信サービス「ImageFlux」を活用している。tenki.jpの一部コンテンツや画像などは、さくらのクラウドの「オブジェクトストレージ」に保管。利用状況に応じて、配信の際に動的にImageFluxを通し、WebPに変換するという。

「配信時に動的変換することで、ストレージもCDNの転送量も抑えられています。JPEGとPNGの得意な領域を両取りでき、圧縮してもきれいに見えるのがよいですね。とくに、雨雲レーダーや衛星画像のスライダー表示は『パラパラまんが』のように画像を連続表示する形式で読み込むため、1枚あたりのサイズ削減がそのまま全体の負荷軽減につながります。スマートフォンでのUXも向上しました」

長期運用を見据えたインフラ選定──国内クラウド活用の理由とは

松本氏が、言語選定をはじめとする低レイヤーの最適化にこだわる背景には、気象情報サービスならではの運用要件がある。日々大量の気象データを処理しながら、高い可用性を維持し続けるためには、性能だけでなく長期的な運用コストやインフラの安定性も重要な判断材料になる。

「tenki.jpは、多くのユーザーに利用いただいているサービスです。だからこそ、安定して情報を届け続けられる基盤づくりを大切にしています」

tenki.jpでは、コストの最適化と安定運用の両立を進めるなかで、さくらインターネットのサービスを活用しているという。

「短期間のPoCであれば、正直どのクラウドでも費用対効果に大きな差は出ないでしょう。しかし、3年以上の長期運用で利益を出そうとするなら、総合的な安定性とコストパフォーマンスを真剣に見極める必要があります。そう考えていくと、円建てで見通しが立ち、専用サーバーという選択肢まで取れるさくらインターネットのサービスが効いてきます」

オンプレミスかクラウドネイティブか、国産クラウドか海外クラウドか。どちらか一方に振り切るのではなく、目的に応じて組み合わせ、使い倒していく。松本氏の話からは、そうしたエンジニアリングの思想が一貫して伝わってきた。

「さくらインターネットのサービス群は、厳密なパッケージ化がされていません。ユーザー自身が、自分のやりたいことに合わせて環境を構築できる。そこが、長く付き合ううえでの強みだと思っています」

サービスを止めず、迅速に、正確な情報を届け、そのサービスを低コストで持続すること。相反しがちな要素を両立するため、ALiNKはクラウドサービスの物理領域に踏み込んだ検討を続けている。その取り組みの裏側には、さくらインターネットの国産クラウドサービス群も活用されている。

株式会社ALiNKインターネット

国内クラウドの強みは?海外クラウドと徹底比較
>>資料をダウンロードする

執筆

コークス 柴佑佳

合同会社コークス・コンテンツパートナーズ代表。「ただしく、よみやすく、わかりやすく」文・理をつなぐブリッジライター 。 高専出身、開発者、メディア編集記者などを経て独立し、技術系取材を中心に活動中。

※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。

すべての記事を見る

関連記事

この記事を読んだ人におすすめ

おすすめのタグ

さくマガ特集

働くすべてのビジネスパーソンへ田中邦裕連載

みなさんは何のために働いていますか? この特集では、さくらインターネットの代表・田中が2021年から2022年にかけて「働くすべての人」へ向けてのメッセージをつづりました。人間関係を良好に保つためのコミュニケーションや、必要とされる人になるための考え方など、働くことが楽しくなるヒントをお伝えします。

さくらの女性エンジニア Real Voiceインタビュー特集

さくらインターネットでは、多様なバックグラウンドを持つ女性エンジニアが活躍しています。この特集では、これまでの経歴や現在の業務内容、めざすキャリア、ワークライフバランスのリアルなど、さまざまな角度から「さくらインターネットの女性エンジニア」を紐解いていきます。

転職組に聞く入社理由「なぜ、さくら?」

さくらインターネットには、有名企業を何社も渡り歩いてきた経験豊富な社員がいます。本シリーズでは『転職組に聞く入社理由「なぜ、さくら?」』と題し、これまでのキャリアや入社理由を紐解きながら、他社を経験しているからこそわかる、さくらインターネットの魅力を探ります。

Welcome Talk「ようこそ、さくらへ!」

さくらインターネットには、さまざまなバックグラウンドを持つ仲間が次々と加わっています。本シリーズ『Welcome Talk「ようこそ、さくらへ!」』では、入社直後の社員と同じ部署の先輩による対談を通じて、これまでの経歴や転職理由、関心のある分野や取り組みたいことについてざっくばらんに語ってもらっています。新メンバーの素顔とチームの雰囲気を感じてください。

若手社員が語る「さくらで始めるキャリア」

さくらインターネットで社会人としての第一歩を踏み出した先輩たちのリアルな声を集めました。若手社員のインタビュー、インターンの体験談、入社式レポートなどを通じて、キャリアの始まりに役立つヒントや等身大のストーリーをお届けします。未来を考える学生のみなさんに、さくらのカルチャーを感じていただける特集です。