
ChatGPTをはじめとする生成AIを、日々の業務や調べものに活用する人は増えています。では、そのAIを使って、自分のアイデアを実際のサービスやアプリとして形にするには、何が必要なのでしょうか。
2026年7月3日、滋賀県大津市のインキュベーションオフィス「TOKIZA」で開催された「Shiga AI Makers ― エンジニアじゃないやつ、大歓迎!」は、その入り口を体験するためのイベントです。
対象は、日頃からコードを書いているエンジニアではなく、「自分でサービスをつくってみたいけれど、何から始めればいいかわからない」という人たち。参加者はトークセッションやワークショップを通じて、AI時代のサービスづくりに欠かせない考え方や進め方を学びました。
本記事では、イベント当日の様子とともに、開催に込められた想いをご紹介します。

澤 健太(さわ けんた)さん プロフィール
株式会社リーフワークス 代表取締役
2010年、23歳で創業。「最高の学び場を創り、人と社会をアップデートする」をミッションに掲げ、クラウド事業やEC事業、インキュベーション事業を展開。エンジニア出身の強みを活かし、プロダクト開発と組織づくりの両面から事業を成長させる。M&Aによるグループ経営や地域発スタートアップ支援にも取り組み、人が育ち、挑戦が生まれる社会の実現を目指している。

小田島 太郎(おだしま たろう) プロフィール
さくらインターネット株式会社 クラウド事業戦略本部 AI事業推進室 開発グループ マネージャー
SI業界、手品業界を経てウェブ業界に携わる。2020年からさくらインターネット勤務。
AIでサービスをつくる時代に、必要になる力
前半のトークセッションには、「TOKIZA」を運営する株式会社リーフワークス 代表取締役の澤 健太さんと、さくらインターネット株式会社 AI事業推進室の小田島 太郎が登壇しました。
まず話題になったのは、「AIで何ができるのか」というテーマです。生成AIやLLM(大規模言語モデル)の普及によって、これまで専門的な知識や開発経験が必要だったサービス開発にも、誰もが挑戦しやすくなっています。
具体例として紹介されたのが、小田島が個人的に開発した京都弁変換サービス「Kyotify」。ついカッとなって口走りそうになった言葉を入力すると、京都弁ならではのやんわりとした言い回しに変換してくれるという楽しいツールです。AIを活用することで個人開発でも形にすることができ、さらに、以前であれば数百万円規模の予算が必要だったサービスも、現在は生成AIによって手軽に試作できるケースがあるといいます。

一方で、登壇者のふたりが強調したのは、「AIがすべてを解決してくれるわけではない」ということでした。重要なのは、AIに何をつくらせたいのかを整理し、的確に伝えることです。
「プログラミング能力というより、言語化能力が問われる時代になってきている」そんな言葉が印象に残るセッションとなりました。
AI活用が進むほど、仕様書の価値は高まる
トークセッションで繰り返し語られたのが、仕様書の役割です。
生成AIによってサービス開発のハードルは下がりました。しかし、どんな人にどのような価値を届けたいのかが整理されていなければ、AIを活用しても思い描いたサービスにはたどり着けません。
登壇者は、家づくりの設計図を例に仕様書の役割を説明しました。小屋を作る程度であれば細かな設計はそれほど必要ありませんが、人が暮らす家を建てるとなると、事前の設計が欠かせません。例えば部屋数や間取りは、建てた後で変えようとすると壁を壊すような大掛かりな工事が必要になります。さらに、コンセントの配置や風呂・トイレ・台所などの水回りには物理的な制約もあるため、あらかじめ計画しておく必要があります。
サービス開発においても、
- どんな人が使うのか
- どんな機能が必要なのか
- どのように利用されるのか
こうした内容を事前に整理し言葉にすることで、AIや開発者との認識をそろえやすくなります。アイデアを具体的なサービスへと変えていくうえで、仕様書は重要な土台になるのです。
10分で仕様書をつくる。プロの思考プロセスを実演
イベント後半には、参加者からその場で集めたアイデアをもとに、登壇者がわずか10分で仕様書を作成するデモがおこなわれました。

小田島が選んだテーマは、「ビッグデータを分析し、質問に対して回答や提案をおこなうサービス」です。ユーザー像の設定から必要な機能、分析方法、運用面までを整理しながら、短時間でサービスの全体像を組み立てていきました。単に「何をつくるか」だけでなく、「誰のためにつくるか」まで掘り下げていくプロセスが紹介されました。
一方、澤さんは、「アーティスト名を入力すると、ライブ情報の検索からチケット予約まで支援するサービス」をテーマに仕様書を作成。印象的だったのは、いきなり仕様を書き始めるのではなく、まずAIとの対話を通じて実現方法や課題を整理していたことです。AIを壁打ち相手として活用しながら考えを深め、その内容を仕様へ落とし込んでいく様子が紹介されました。

参加者も挑戦。AIとの壁打ちでアイデアを具体化
いよいよ、参加者自身が「つくりたいもの」をテーマに仕様書づくりへ挑戦。
ワールドカップ優勝国予想アプリや、地域の人材・スキルを可視化するサービスなど、テーマはさまざまです。参加者はAIとの対話を通じて、「誰のためのサービスなのか」「どのような課題を解決するのか」「どんな機能が必要なのか」といった要素を一つひとつ具体化していきました。
最後には、完成した仕様書を数人の参加者が発表。最初は漠然としていたアイデアが、AIとの対話を経て具体的なサービス像へと形づくられていく様子が共有されました。参加者それぞれの視点や発想の違いも見られ、会場は大いに盛り上がりました。

30分でここまでできる。仕様書からプロトタイプ生成を実演
ワークショップの締めくくりには、登壇者のふたりが作成した仕様書をもとに、実際にAIを活用してアプリを生成するデモもおこなわれました。
仕様書をAIが扱いやすいMarkdown形式へ変換し、そのまま生成AIへ入力。短時間で動作するプロトタイプが形になっていきます。
画面上に実際のアプリが表示されると、仕様書がサービスとして立ち上がるまでの過程がわかりやすく示されました。
「ここまでであればプログラミングを一切しなくても到達できる」という説明に、会場からも驚きの声があがりました。


(画面左はチャットAIとのやり取り)
AI時代だからこそ、人と人のコミュニケーションが重要になる
イベントの最後、小田島は、仕様書を「エンジニアとエンジニアではない人が共通認識を持つためのコミュニケーションツール」だと語りました。AIによって実装のハードルは下がりつつあります。しかし、サービスの目的や価値、利用者の課題までをAIが自動的に決めてくれるわけではありません。
何を、誰のために、なぜつくるのか。その問いを整理し、言葉にしていく力こそが、AI時代のものづくりを支える土台になります。
Shiga AI Makersは、この土台を参加者が実際に手を動かしながら学ぶ機会となりました。
AIをきっかけに、新しい挑戦が生まれる場を目指して
今回の会場となった「TOKIZA」は、新しい事業や挑戦を後押しするインキュベーションオフィスです。滋賀を拠点に活動する人たちが集い、それぞれのアイデアや挑戦を育てる場として運営されています。
Shiga AI Makersもまた、単なるAI勉強会ではなく、「まずはやってみる」ためのきっかけづくりを目的として企画されました。
澤さんは次のように語っています。
「最近ではバイブコーディングなど、AIを使って何でもつくろう、自動化しようという流れが広がっています。ただ、その一方でAIの“使いこなし度”に差が開いてきている印象があります。ChatGPTやGeminiを使ったことはあっても、その一歩先、二歩先に進む方法がわからない。そんな方に向けて、まずはAIで何ができるのかを知り、実際に手を動かして体験してもらいたい――そうした想いから今回のイベントを企画しました。」

また、小田島は、「やって終わりではなく、普段の業務や会社の経営など、次につなげてもらいたい」と話します。

AIを学ぶだけでなく、自分のアイデアを持ち寄り、実際に試してみる。Shiga AI Makersは、そんな挑戦の第一歩を後押しする場でした。
今回の体験をきっかけに、参加者のアイデアがどのように育っていくのか。今後の取り組みにも注目です。
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執筆
月野 笑里
2023年2月にさくらインターネットへ中途入社。デマンドジェネレーション領域のマーケティング担当を経て、現在はさくマガの編集や「さくらのユーザ通信」などのメルマガを担当。
※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。
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