さくらインターネットが提供するライブ配信エンジン「ImageFlux Live Streaming」
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130年あまりの歴史を持つ、モータースポーツ。とくにF1を筆頭とするフォーミュラカーレースは、世界中のファンが熱狂する「ドライビングアスリート」の祭典でもあります。多くの日本人レーサーが世界的に活躍するなかで、日本国内でのモータースポーツ人気を盛り上げる取り組みも続いています。
その1つが、2026年に10周年を迎えた女性ドライバー限定のフォーミュラーカーレース「KYOJO CUP」。
このレースのファン体験の拡張に向けたオンボード映像配信に、ピクシブ株式会社とさくらインターネットが共同開発する「ImageFlux Live Streaming」が採用されました。低遅延の映像配信がこれからのモータースポーツをどのようにおもしろくしていくのか――。
今回は、KYOJO CUP事務局の内山秀樹さん、株式会社M-TEC モータースポーツ事業部 執行役員 部長 桜井広和さん(テレメトリーユニットの開発・供給担当)、 ピクシブ株式会社 執行役員 CTO 道井 俊介さん(ImageFlux Live Streaming の開発担当)の3人にインタビュー。取り組みの背景や技術的な挑戦、そして観戦体験の未来について聞きました。

内山 秀樹(うちやま ひでき)さん プロフィール
KYOJO CUP事務局
2017年、KYOJO CUP初年度より参戦選手のマネージャーとして関わる。2019年からは事務局長として大会運営を担当。

桜井 広和(さくらい ひろかず)さん プロフィール
株式会社M-TEC モータースポーツ事業部 執行役員 部長
モータースポーツ領域における車両データ計測、通信システム、映像配信技術の企画・開発を担当。 レース現場での実運用を前提としたテレメトリー、ライブ配信、クラウド活用の実証実験に多数携わり、 技術検証から事業化までを一貫して推進している。

道井 俊介(みちい しゅんすけ)さん プロフィール
ピクシブ株式会社 執行役員 CTO
久留米高専制御情報工学科を卒業後、九州工業大学に編入学。筑波大学大学院博士前期課程修了後、2012年、ピクシブ株式会社にエンジニアとして入社。インフラ、データ基盤に従事した後、ピクシブの画像変換技術を基にした画像変換クラウドサービス ImageFlux を立ち上げる。2020年、ピクシブ全体の技術を統括する執行役員 CTOに就任。
「クルマ対クルマ」から「アスリートの祭典」へ。モータースポーツを再定義
「日本は世界的な自動車大国です。国内に有数の国際サーキットを有し、世界的な自動車メーカーの数も多い。一方で、モータースポーツ文化の盛り上がりは、欧州諸国にはおよびません。じつは世界で活躍している日本人ドライバーがいるのに、国内でそれを知る人は多くないのです」(内山氏)
内山氏によれば、日本のモータースポーツにおける女性ドライバーの比率は2%程度だそう。普通自動車運転免許証の保有数は男女でほぼ同数であるにもかかわらず、女性ドライバーの存在は、長い間ほとんど知られていませんでした。
そのようななかで、モータースポーツをもっと日本で盛り上げたいと考えたのが、元レーシングドライバーの関谷正徳氏でした。同氏はル・マン24時間レースでの総合優勝をはじめ、各種トップカテゴリーで活躍したのちに日本人ドライバーの育成に注力。中嶋一貴氏や小林可夢偉氏など、現在も活躍するトップアスリートを世に送り出しています。
「関谷氏は、モータースポーツをドライビングアスリートの祭典として盛り上げる取り組みに力を注いでいます。そのなかで『スターアスリートが生まれる環境に性別は関係ない』と考え、女性限定のレースカテゴリーとしてKYOJO CUPを設立しました」(内山氏)
KYOJO CUPは、イコールコンディション(同じ仕様のクルマを使う)レースです。ドライバーの技量だけで結果を競う競技で、日本のトップカテゴリー「スーパーフォーミュラ」やポルシェの「カレラカップ」が知られています。
設立から10年をかけて選手の育成に取り組み、2024年大会では過去最高となる37台が参加。同年からスーパーフォーミュラとの共同開催も始まり、ファン層が一気に広まりました。
「男女それぞれのトップカテゴリーイベントとして、認知の拡大に力を入れています」(内山氏)
さくらインターネットが提供するライブ配信エンジン「ImageFlux Live Streaming」
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現場でも、配信でも。レース観戦をもっと楽しむ「映像」を届ける
「モータースポーツの観戦体験には、特有の課題があります。コースの広さによる情報の非対称性……つまり、コース来場客の体験と、配信映像の視聴体験の乖離です」と語るのは、M-TECの桜井氏。
レーシングコースはとても広く、クルマは猛スピードでコースを駆け抜けます。そのため、現地で観戦しているファンが肉眼で見られるのは、コースのほんの一区画になります。
「レースは、野球やサッカーのように、一つの視点からゲーム全体を見渡すことができません。ゴルフのように、選手と一緒にコースを進むこともできません。見えない場所で起きていることを知るには、オンボードカメラの映像やチーム無線などの別の情報を仕入れる必要があります」(桜井氏)
一方、現地に行かず、テレビやスマートフォンなどから観戦する視聴者は、映像や解説などからレース全体を俯瞰して観戦できます。しかしエンジン音や現地ならではの熱狂といった「ライブの楽しさ」は味わえません。
桜井氏は、現場と配信の観戦体験のギャップをデータで埋めるべく、テレメトリーデータの配信に注力してきました。
「いまサーキットに来ているファンはもちろん、知ればファンになる人にも届けたい。たとえばeスポーツやレーシングシミュレーターが好きな人は、じつはとても多いのです。そういう方々に楽しさを届け、同時に、現地にいる人の楽しさも補完したいと考えています」(桜井氏)
桜井氏はKYOJO CUPで、「推しの選手を見たい」というニーズへの対応を進めています。放送局がカメラを選ぶと、どうしても華やかなトップ争いやオーバーテイクのシーンなどに映像が集中してしまいます。しかし観客が見たいのは、必ずしも上位車両のバトルばかりではありません。
「自分の好きなドライバーがどこにいて、何を考えながら走っているのかを知りたい、というニーズがあります。当社では、その声に応えるためのオンボード映像配信システムと、その基盤を支えるテレメトリーユニットを開発・提供しています」(桜井氏)

ImageFlux Live Streamingがレガシーのプロトコルに対応、低遅延ライブストリーミングの実現へ
KYOJO CUPへのオンボード映像配信の実装にあたり、技術的なボトルネックとなったのが、配信プロトコルの問題でした。
M-TECが開発するテレメトリーユニットは、カメラや配信機材の業界標準であるRTMP(Real-Time Messaging Protocol)で映像を送信します。RTMPは1990年代から使われてきた歴史あるプロトコルで、大部分の機材が採用しています。
一方、さくらインターネットとピクシブが共同で開発・提供するImageFlux Live Streamingは、ライブストリーミング特化のブラウザ配信プロトコル「WebRTC( Web Real-Time Communication )」を採用していました。ImageFluxは、受け取った映像をさくらインターネットのデータセンターが持つGPUでHLS形式に変換し、スマートフォンやブラウザで視聴可能にします。当初はその入力プロトコルがWebRTCのみだったため、RTMPで送信するM-TECのテレメトリーユニットとは接続できませんでした。
「RTMPへの対応要望は、サービス立ち上げ当初から多くいただいていました。 RTMP入力に対応できるように開発をおこない、クローズドβ版として提供を始めたのが、2025年になります」(道井氏)
このタイミングが、KYOJO CUPとの連携につながりました。2025年の10月の富士スピードウェイの大会から実証を開始。ハードウェアとソフトウェア間の細かい不一致を一つひとつ確認・修正し、最終的に全車からの安定配信を実現しました。
「配信の遅延は、およそ5秒。F1の公式配信(数十秒)を超えた低遅延配信が実現しています」(桜井氏) ※『F1 TV』との比較
「ピクシブは、お絵かきのライブ配信サービスを開発・提供していました。そのなかで、配信者と視聴者がリアルタイムで絵を描き合うコラボレーションのために、遅延を5秒以下に抑える技術を積み上げてきました。その経験が、そのままモータースポーツに活きています」(道井氏)
現地でレースを観ているファンと、スマートフォンで配信を見ているファンが「同じ瞬間」を共有できる——その体験価値の核心が、この低遅延にあります。

「止まらない配信」でオンサイトとオンラインをつなぎ、モータースポーツを盛り上げたい
低遅延の実現と並走する形で、桜井氏が取り組んでいるのが映像品質の最適化です。
「KYOJO CUPでは、配信に公衆回線を使っています。そのため、サーキットに数万人の観客がスマートフォンを持ち込むと、通信回線の奪い合いが起きやすくなります。さらにレーシングカーは高速で走行しながら基地局をまたぎ続けるため、ハンドオーバー(基地局の切り替わり)が頻繁に発生します。このとき起きやすいのが、映像のブロックノイズです」(桜井氏)
映像配信中 は起動時に設定したビットレートをダイナミックに変更できません。そのため帯域の制限が深刻になると、映像データがサーバーに届かず、映像が止まるか崩れるかしてしまいます。
桜井氏は2026年3月の第2回合同テストでビットレートの最適値を探り、さまざまなパターンを検証。安定性のある数値を探りました。
「ファンの要望を受け入れつつ、実践の環境でないと検証できないことを探ってきました。手応えも掴みつつあります。2026年4月の第3回テストでは全車を対象に、ImageFlux Live Streamingを使ったオンボードカメラ配信を実施する予定です」(桜井氏)
「公衆回線の制約」という課題は、将来的にローカル5Gの整備によって解消するかもしれません。それまでの間は、「限られた帯域をいかに有効に使うか」という地道なチューニングが続きます。
「現地にいる人もスマートフォンで見ている人も、同じ瞬間の映像を楽しめるようにしたいですね。それがファンコミュニティとしての一体感を生むはずです。現場の観客が手元のスマートフォンで確認したデータと、スタンドの観客が見ている風景をそろえ、モータースポーツの観戦体験を向上させたいと思っています」(内山氏)
「動画変換処理に使っているGPUがもつ機能を、画像認識や動画解析にも応用できたらいいですね。配信インフラとAI技術を融合したサービスで、さらにできることは増えると思います」(道井氏)
KYOJO CUPのデータ配信を通して、レースのおもしろさを知ってもらい、ファンを増やしたい。ImageFlux Live Streamingも、日本にモータースポーツ文化を根付かせるお手伝いをしています。
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