「中小企業のDX」をテーマに、中小企業のDXが進まない背景と課題、中小企業がDXを進めるメリットとデメリット、進め方について解説します。
※本記事で「中小企業」についてとくに補足説明なく表現する場合、基本的に中小企業庁の提唱する定義に準拠します。参照データなどで、中小企業の定義が異なる場合は説明を補足し、明示します。
参照:中小企業・小規模企業者の定義|中小企業庁
※DX(読み方:ディーエックス、正式名称はデジタルトランスフォーメーション)とは、既存のビジネスモデルを変革する「デジタル革新」を指す言葉ですが、基本となる定義や具体例をおさえておきたい方は次のコンテンツをあわせてご覧ください。
デジタルトランスフォーメーション(DX)とは? 意味や定義をわかりやすく解説|さくマガ
中小企業のDXが進まない現状と課題
中小企業のDXが進まない現状と課題について解説します。
総務省による令和3年(2021年)版「情報通信白書」内のアンケート調査(※)によれば、回答した中小企業の68.6%で、実に約7割が「2020年度時点でDXに取り組んでおらず、取り組む予定がない」ことがわかります。
「実施していないが、今後実施を検討」する中小企業が17.6%で、2020年時点で実施していない割合を計算すると、86.2%であり、DXに取り組んでいるのは2割程度に留まっている状況にあります。
※ アンケート調査内の「中小企業」の定義は、中小企業庁「中小企業者の定義」をもとに次のように分類されます。
「製造業」、「建設業」、「電気・ガス・熱供給・水道業」、「金融業・保険業」、「不動産業・物品賃貸業」、「運輸業・郵便業」、「情報通信業」は従業員数が300人未満の企業を「中小企業」として分類。「卸売業・小売業」、「サービス業・その他」は、従業員数が100人未満の企業を「中小企業」として分類。
一方の大企業は42.3%がすでにDXを実施しており、懸念の「DXを実施しておらず、実施予定なし」は39.5%で4割程度。企業規模が小さいほどDXの推進に消極的である傾向が読み取れます。
また、日本の地域別に、本社所在地を「東京23区」、「政令指定都市」、「中核市」及び「その他の市町村」として分類した調査結果は、「東京23区>政令指定都市>中核市>その他の市町村の順」で、地方ほどDXの取組みが進んでいないことがわかります。
企業規模と地域の特性を組み合わせて判断すると、地方にある中小企業は推進意欲が低く、都市部に本社のある大企業は積極的に推進している現状であると言えます。
課題の根底には経営層のDXへの理解不足
中小企業に限らず、DXに対する足踏みを招く企業課題としては、一般的に「人材と資金不足」や「変化への抵抗」、「費用対効果」が挙げられます。
「人材と資金不足」は、国の補助金や税制を活用して、外部から必要な人材を調達したり、事業資金から捻出したりすることで解決できる可能性があります。
参照:DX投資促進税制とは?経済産業省や国税庁の出典を示しながら解説|さくマガ
「変化への抵抗」は、DX担当者に任せきりにするのではなく、経営層が全社員に対し、DXを踏まえたビジョンを説明し、理解を得ることで少なくなると推定されます。
「費用対効果」は、デジタル化を積み重ねることで、既存のビジネスモデルを変革して新たなビジネスが生まれるのであれば、費用に見合っていると言えます。しかし、DXは一年で結果が出るものではなく、単純な試算による費用対効果の算出が難しい面があるのは事実です。
そもそも、経営層のDXに対する理解が不足したまま、適切に人材や資金を割り当てず、全社への説明責任を果たさず、見切り発車でDX推進担当に任せきりで進めると失敗してしまう可能性は否定できません。
DXをはじめるには、従来の事業目的やビジョンとすりあわせて「DXによって何を・どこを目指すか」を示すDX戦略を立案し、経営層とDX推進担当で推し進めることで成功すると言われます。
参照:DXレポート2(本文):5.1.3 DX戦略の策定(DX成功パターンの策定)|経済産業省
DXに取り組む先進性のある企業を選出する「DX銘柄」の認定基準のひとつにも「戦略」が含まれています。
参照:「DX銘柄2022」「DX注目企業2022」を選定しました!|経済産業省
つまり、うまくDX戦略を立案できるかが成否をわけることから、DXが進まない企業の根底には「経営層のDXの理解不足」という課題があると言えるでしょう。
中小企業がDXを推進するには?
中小企業のDX推進は、次の流れでおこないます。
- 経営層がDXの理解を深める
- 経営理念をもとにDX戦略を立て、DX推進計画に落とし込む
- 全社員にDXを前提にした新ビジョンを共有する
- DXのための人材を確保し、組織体制を変革する
- 事業の根幹となる業務のデジタル化を推し進める(同時に、その他の業務のデジタル化も推し進める)
- 事業のデジタル化の実践結果をもとにDX戦略を見直す
- 修正したDX戦略をもとに横展開して全社で取り組む
前の項目でも解説した通り、何より「経営層のDXの理解不足」がボトルネックにならないよう、経営層がDXについて理解を深めることからスタートします。
デジタル化の方法論や詳細をすべて把握するといった、現場の担当者レベルの理解は必要ありませんが、「デジタルを“使いこなす”視点」と「デジタル”だからこそ”の視点」を持ち、「デジタルのもたらす新しい価値」を見出せることが重要とされます。
参照:DXレポート2(本文):5.1.3 DX 戦略の策定(p.33) 図5-7 DX成功パターンの策定 |経済産業省
とくに中小企業の場合、経営層がDX推進のためにおこなうべきことを把握し、全社で取り組む姿勢を見せなければ、DX(デジタル革新)によって時勢にあったビジネスモデルを生み出すことはできません。
「DXの必要性」や他社事例として、経済産業省がDXを推進している背景や企業事例を知りたい方は次のコンテンツをあわせてご覧ください。
なぜDXが必要なのか?経済産業省のガイドラインや企業の事例をもとに解説|さくマガ
また、いきなりビジネスモデルを変えるDXはおこなえないものです。
まずは事業の根幹の業務やサービスを見極め、どうしていくかの仮のDX戦略を立て、デジタル化をトライ&エラーで繰り返します。
事業の根幹となる業務だけでなく、部署や部門単位のその他の業務に対するデジタル化をそれぞれ推し進めることも、全社的にDXへの意識が高くなり、結果的にDXを推進しやすくなります。
なお、地道に主要な業務をデジタル化した結果として達成できるのがDXではありますが、戦略なしにむやみにデジタル化してもDXにはならないので、注意が必要です。
DX戦略の定義や立案する方法についてくわしく知りたい方は次の記事をご覧ください。
参照:DX戦略とは?経済産業省の「DXレポート」を中心に解説|さくマガ
中小企業のDX推進に外部コンサルの支援は必須か?
中小企業のDXを推進する際、DX戦略の立案などの上流で外部のコンサルタントの支援を前提にしたほうがよいケースはあると考えられます。
もちろん、外部コンサルタントが要らないケースもあります。
たとえば、ICTが得意分野の情報通信関連企業、創業から10年以内の若い中小企業であれば、あまり意識しなくとも社内の業務のデジタル化が進んでいいます。そのため、経済産業省が推進する「DX認定制度」を活用しつつ、DXに本腰を入れるようにガイドラインに沿ってDX戦略を立てれば、社内の人材だけでDXを進められる可能性があります。
参照:DX認定制度(情報処理の促進に関する法律第三十一条に基づく認定制度)|経済産業省
しかし、それ以外の条件の中小企業の場合、そもそも業種や業務内容がデジタル化に不向きであったり、自前でICT人材を抱えていなかったり、社内人材だけでのDX推進が困難な状況が考えられます。
DXの外部コンサルが必要か否かを判断する指標としてわかりやすいのは「2020年頃に政府提言で通勤の自粛が推奨された際、業務が滞らないようにテレワークやリモートワークに取り組めたかどうか」です。
テレワークやリモートワークは、主要な業務について一定のデジタル化がされていなければ、スムーズにおこなえません。
業務が円滑に進まない、情報セキュリティの問題などの懸念でテレワークやリモートワークができなかった、あるいは今現在、できないようになっている状況であれば、DXのケースも同様に、経営層や社内人材だけで推進するのは難しいと考えられます。
また、経済産業省の「DXレポート」で、できれば企業が自前でICT人材を抱え続けることを推奨していますが、DX推進できるICT人材はどの企業も欲しがるため、中小企業が直接雇用するのは困難で、外部コンサルタントを頼るしかないケースもあります。
もし雇用できたとしても、よりよい待遇を求めて中小企業に留まらない可能性は高いため、DX戦略の立案に関するノウハウが会社に残るように、DX担当者を複数にするなど、人材配置にも工夫が必要です。