DX戦略とは?経済産業省の「DXレポート」を中心に解説

DX戦略とは?経済産業省の「DXレポート」を中心に解説

 

「DX戦略とは」をテーマに、意味や重要性、DX戦略の立て方、事例について経済産業省の「DXレポート」を中心に解説します。

なお、DX戦略について知る前に、デジタル革新を指すDX(デジタルトランスフォーメーション、略称:ディーエックス)の定義、具体例をおさえておきたい方は次のコンテンツをあわせてご覧ください。

デジタルトランスフォーメーション(DX)とは? 意味や定義をわかりやすく解説|さくマガ

また、なぜDXが必要か、なぜDXを経済産業省が推進しているのかを知りたい方は次のコンテンツをあわせてご覧ください。

なぜDXが必要なのか?経済産業省のガイドラインや企業の事例をもとに解説|さくマガ

DX戦略とは?意味と重要性

DX戦略は、DXを推進する際に「何・どこを目指してDXするのか」を羅針盤のように示す指針を意味します。

経済産業省による「DXレポート2」においては、DX戦略は従来の事業目的やビジョンとすりあわせて立案することにより、「DX成功パターン」として新たなビジネスモデルや、DXに必要な具体的な取り組み施策が検討できるようになるものと定義されています。

参照:DXレポート2(本文)|経済産業省

 

なお、DX戦略が重要視される例としては、東京証券取引所に上場し、DXに取り組む先進性のある企業は「DX銘柄」と判定されますが、基準のひとつに「戦略」が含まれます。

参考:経済産業省の「DXレポート」とは?

「DXレポート」は、経済産業省の「デジタルトランスフォーメーションの加速に向けた研究会」がDX推進の施策のひとつとして、日本国内の企業のDX推進するべく、知見をまとめた報告書の名称です。

「DXレポート2」では、企業がDXにどう取り組むべきか、具体的な方法論を紹介していますが、専門用語が多く、ITに不慣れな方が読み解くのは難しい内容です。

「サマリー」で要点のみ、「概要」でスライド式でグラフィカルに、「本文」では文章中心にまとめられていますが、基本的には同じ情報が記載されています。なお、「DXレポート2」は、2022年7月時点の最新版といえます。

参照:デジタルトランスフォーメーションの加速に向けた研究会の中間報告書『DXレポート2(中間取りまとめ)』を取りまとめました|経済産業省

 

「DXレポート2」の追補版として「DXレポート2.1」がありますが、あくまで「DXレポート2」の内容を補足する情報だけを掲載するものです。

「DXレポート2」までの過去ログは次で確認できます。

経済産業省が推奨するDX戦略の立て方

経済産業省が推奨するDX戦略の立て方

 

経済産業省が推奨しているDX戦略の立て方を簡単にまとめると、次のとおりです。

参照:DXレポート2(本文):5.1.3 DX 戦略の策定(p.32)|経済産業省

  1. 経営理念に基づいた事業目的やビジョンを明確にして仮のDX戦略を据える
  2. 組織戦略と事業戦略と推進戦略を立てる
  3. DX推進に必要な段階ごとのアクションをまとめる(DXフレームワークの活用)
  4. 「DX成功パターン」を取捨選択して組み合わせてDX戦略をブラッシュアップする

DX戦略は、最初に立案しただけで終わりではなく、実践して結果を踏まえたブラッシュアップをするまでの繰り返しが重要であるため、途中のDXの進め方もあわせて解説します。

1.経営理念に基づいた事業目的やビジョンを明確にして仮のDX戦略を据える

まず、DX戦略を立てる前に、経営理念に基づいた「事業目的」や、企業としてどういう価値を提供していきたいかの「ビジョン」を明確にします。DX戦略はあくまで経営戦略の一部に過ぎないため、事業目的やビジョンから離れたDX戦略を立ててしまうと、その時点でDXは成功しません。

なお、事業目的やビジョンから落とし込んで、DXの目的として「何をしたいか、どこを目指すか」を文章で表現し、仮のDX戦略として据えます。

この後の過程で実践と検討を経れば、DX戦略の内容も修正することになるので、最初は叩き台になりそうな「こういう新たな価値を創り出せるとよいな」という経営者の展望で構いません。

 

▲出典:DXレポート2(本文):5.1.3 DX 戦略の策定(p.33) 図5-7 DX成功パターンの策定 |経済産業省

▲出典:DXレポート2(本文):5.1.3 DX 戦略の策定(p.33) 図5-7 DX成功パターンの策定 |経済産業省

 

ちなみに、図にもある「DX成功パターン」は、DXレポート内でも説明されるとおり、DXの成功事例をパターン化して取り組みやすくしたものです。

いわば「DX成功パターン」はDX戦略を立てるノウハウそのものですが、さまざまな実践と検討を重ねて具体的に出力された「DX成功パターン」は、DX戦略を構成するひとつの要素になるため、説明の中で定義を混同しないように注意が必要です。

2.組織戦略と事業戦略と推進戦略を立てる

続いて、DX戦略そのものと別に「組織戦略」と「事業戦略」と「推進戦略」を立てます。DXは外部のベンダー企業やDXコンサル企業に一から十までお任せして実現できるものではありません。

組織戦略で「どういう体制でDXをおこなっていくか」、事業戦略で「既存の事業とどう折り合いをつけていくか」、推進戦略で「どういう順番で、全社に展開していくか」を決めて、前者で取り組んでいく必要があります。

 

戦略名

概要

備考

組織戦略

経営者、IT部門、業務部門が対話し、どういう方針があり、どういう体制で意思決定を行っていくか、DX推進時に必要な共通認識を持っておく。

DXの成功事例を検証した結果、経営者・IT 部門・業務部門が協調して推進している共通傾向がある。

事業戦略

既存事業の効率化と新事業の創出を両輪で進めるため、資金や人材のリソース配分を決める。

同時並行ではあるが、既存事業の見直しによって余力を生み、新事業の創出にあてることになる。

推進戦略

DXの施行を行う重点部門を見極めて選定し、スモールスタートする。

重点部門で成功事例を作り出してから組織全体へ横展開し、同時にDX を推進する上での課題を明らかにして対応する。

いきなり全社展開せず、段階的に取組みに広げる。

アジャイル(短期間でトライ&エラーを何度も繰り返す開発手法)のようにDX を推進させる。

 

▲出典:DXレポート2(本文):5.1.3 DX 戦略の策定(p.34) 図5-7 DXに向けた戦略の立案・展開 |経済産業省

▲出典:DXレポート2(本文):5.1.3 DX 戦略の策定(p.34) 図5-7 DXに向けた戦略の立案・展開 |経済産業省



 

なお、DX戦略は組織戦略を立てる際、対話して共通認識をつくる中でも、ブラッシュアップされます。組織戦略に関連して補足説明すると、DXを推進する人材は、外部のベンダー企業に任せるのではなく企業が自ら確保するべきと示されています。

参照:DXレポート2(本文):DX 人材の確保(p.27)|経済産業省

事業の目的やビジョンと直結するDX戦略の狙いや、業務内容への理解度が高い内部の人材は、システムへの落とし込みの「構想」の点で、外部の人材よりも優位にあるのは事実です。ただし、内部の人材だけでDXを実現させようとするのは無謀といえます。

内部の技術者の能力が及ばない場合、システム構築時に十分なセキュリティ対策ができず、DXを進めた結果、サイバー攻撃などの事件、情報漏えいなどの事故が発生するリスクがあります。そのため、外部の専門家の意見も取り入れられるようにするのも重要です。

内部の人材が主体的に取り組み、必要があれば外部の専門家に相談できる組織戦略を立案しましょう。

3.DX推進に必要な段階ごとのアクションをまとめる(DXフレームワークの活用)

DXはゼロからいきなりできるものではありません。「デジタル化」の段階を少しずつ経て、ビジネスモデルを革新するまでに至ったものがDX(デジタル変革)と呼ばれます。DX推進には段階を経るため、段階ごとにアクションをまとめる必要があります。

もし現時点で、業務で使用・取得する様々な情報をデジタルデータとして用意できておらず、業務を部分的にでも「デジタル化」できていないと、DXに至るまでの道はまだまだ遠いものだと思ってよいでしょう。

なお、段階について解説する前に、ここで「デジタル化」とは何か、定義をおさえておきます。

デジタル化(デジタル技術を用いた単純な省人化、自動化、効率化、最適化

引用:令和3年版 情報通信白書:デジタル・トランスフォーメーションの定義|総務省

総務省の「デジタル化」の定義は、上でご紹介したように「デジタル技術を使って、業務において人の労力を省くこと、自動でおこなわれるようにすること、効率的にすること、ベストな状態に調整されていること」を指します。

例えば、ただ単に印刷した紙資料をPDF形式のデータにしただけでは「デジタル化」とは呼べません。しかし、PDF形式のデータにした情報を全社で共有し、他の社員が必要なときに閲覧できるようにするとします。

そして「この情報はどこにある?」という社内での問い合わせと回答のやりとりをなくせたなら、ひとつの業務過程(プロセス)の「デジタル化」がおこなえたといえます。

「デジタル化」をおさえたら、「DXの構造」を知って、「DX推進に必要な段階」をおさえましょう。

 

▲出典:DXレポート2(本文):5.1.3 DX戦略の策定(p.34) 図5-8 DXの構造|経済産業省

▲出典:DXレポート2(本文):5.1.3 DX戦略の策定(p.34) 図5-8 DXの構造|経済産業省

 

「DXの構造」を示す研究や定義は他にもあります。しかし、DX推進に際しては上の図に示すとおり、「デジタルトランスフォーメーション(DX)」と「デジタライゼーション」と「デジタイゼーション」の3つの段階で示されます。

先ほどの紙資料の例を出すと、紙資料をPDF形式のデジタルデータにすることは「デジタイゼーション」にあたります。

PDF形式のデータを全社で共有し、他の社員が必要なときに閲覧できるようにして社内のやりとりをなくすなど、ひとつの業務を省人化・自動化・効率化・最適化することは「デジタライゼーション」にあたります。

もし、その他すべての業務でも「デジタライゼーション」をおこなって、組織を横断的に、全体の業務や製造の過程で「デジタル化」されれば、「デジタルトランスフォーメーション(DX)」は目前です。

顧客にとっても価値を見出せるビジネスモデルの変革をおこなって初めて「デジタルトランスフォーメーション(DX)」と呼べる段階になります。DXを推進したいと思っている業務・製造の過程が、3つの段階の中でどの位置付けにあるかを確認し、それぞれで必要なアクションをまとめます。

このとき、「DXフレームワーク」を活用するのがおすすめです。なお、フレームワークとは、意思決定や問題解決、戦略立案などに使われる考え方の「型」や方法論のことを指します。

 

▲出典:DXレポート2(本文):5.1.3 DX 戦略の策定(p.35) 図5-9 DX フレームワーク|経済産業省

▲出典:DXレポート2(本文):5.1.3 DX 戦略の策定(p.35) 図5-9 DX フレームワーク|経済産業省



 

DXレポートで紹介される「DXフレームワーク」は、3つの段階における必要なアクションをまとめたものです。チェックリストのように捉え、前の項目の「推進戦略」と一緒に取り組むと、アクションの不整合や過不足が起きにくくなります。

「DXフレームワーク」を活用して「DX成功パターン」としてまとめると、下の図のようになります。

 

▲出典:DXレポート2(本文):5.1.3 DX 戦略の策定(p.36) 図5-10 DX 成功パターンの例:製造プロセスのソフトウェア化|経済産業省

▲出典:DXレポート2(本文):5.1.3 DX 戦略の策定(p.36) 図5-10 DX 成功パターンの例:製造プロセスのソフトウェア化|経済産業省

 

DX成功パターンとしてまとめられる前の検討内容は挙げられていませんが、DX 成功パターンの例の事情を逆算して推定すると、次の通りです。

  • 事業目的やビジョンに「職人のプロダクトで顧客に喜びを提供する」という主旨を掲げる
  • 仮のDX戦略として「プロダクトの製造から提供までを低コストにおさえて生産性をあげる」と設定。計画の詳細を詰めてブラッシュアップしていった結果として「製造のデジタル化により、職人が遠隔で顧客に近い拠点でプロダクトを製造できる。製造・保管・配送のコストを圧縮して提供し、大量生産にも対応しやすくする」というDX戦略に変化したものと推定される。
  • 現状はほぼ未着手で「紙ベース・人手作業」が主流である

仮のDX戦略から対象を「業務のデジタル化」に絞り、DX成功パターンに詳細な課題内容にしているものと思われます。まず、「製造装置の電子化(デジタル化)」を挙げ、人手作業からの置き換えをおこないます。

次の「製造プロセスのソフトウェア化」の段階として、製造過程で重要な「職人の技術」をデジタル化します。今までは実際に試行錯誤するしかなかった製造を、シミュレーションして時間短縮します。

最終的に、配送のコストや時間の懸念を解決するアクションとして「製造の遠隔化」を追加しています。

製造の遠隔化まで至れば、デジタル変革は間近です。以前までは製造場所から配送の費用と時間がかかったものが、全国に遠隔で操作できる製造拠点を置けば、配送料が安く、タイムタグが解消されるビジネスモデルとなり、顧客の価値を提供できるようになります。

4.「DX成功パターン」を取捨選択して組み合わせてDX戦略をブラッシュアップする

注意したいのは「DX戦略」は、「DX成功パターン」などのデータの改善点に基づき、頻繁に見直す必要がある点です。DX戦略は「指針」ではありますが、一度決めたら変更しないものではありません。

「DX成功パターン」にあるDX対象にも、製品・サービス、業務、プラットフォームがあり、それらを取捨選択して組み合わせ、また新たなDXを見出せるよう、常にDX戦略もブラッシュアップしていく必要があります。

追補版である「DXレポート2.1」では、DX戦略は市場動向に合わせて頻繁に見直す必要があり、過程のデータから確度の高い改善点を都度判断する必要があると補足されています。

DX戦略の事例はどう調べる?

DX戦略の事例はどう調べる?

 

DX戦略の事例が知りたい場合、実際にDXに認定された同業の事業者の事例を参考にしましょう。

DX推進ポータル DX認定制度 認定事業者の一覧|IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)

*実際の申請書をダウンロードし、事業者別に確認できます(Word形式・読み取り専用)

*DX戦略だけでなく、DXの詳細もあわせて公開されます。また、Word形式の文書内に文章でまとめるのではなく、該当の情報があるURLを掲載している企業もあります。

例えば製造業のDX戦略事例を知りたいなら、認定事業者の検索スペースに「製造業」と入れて検索すると、製造業の企業法人の一覧が表示されます。

申請書が画面右にある「ダウンロード」リンクをクリックすると、ファイルがダウンロードされます(ZIP形式)。

ZIPを解凍して開くと、Word形式の文書があるため、開くとパスワードを入力する欄が表示されるので、左の「読み取り専用」をクリックして内容を確認できます。