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「kosei-fulプロジェクト」に見る、SNS連携キャンペーンにおいて必要不可欠な視点

「kosei-fulプロジェクト」に見る、SNS連携キャンペーンにおいて必要不可欠な視点

お疲れ様です! たけもこです。今月で5回目の連載になります。

今回はSNSについて。 実は私、企業のSNSアカウントの中の人をやっています。 Twitter徘徊中は、個人のアカウントも見つつ、企業アカウントも見たりしながら日々勉強です。

SNSを通した企業とユーザーのコミュニケーションにおいて、「反応がダイレクトに返ってくる」ということはメリットデメリットの表裏一体です。

良いクチコミも悪いクチコミも一瞬で広まります。だからこそ、日々の投稿の言葉選びや写真選定はシビアに考える必要があるなと、常々思っております。

最近、SNSを通してのコミュニケーションについて、考えさせられる出来事があったので今回はそのことをテーマにしてみます。

ロリエの「kosei-fulプロジェクト」炎上に学ぶ

先日、花王が生理用ナプキン「ロリエ」シリーズのキャンペーンとして立ち上げた「kosei-fulプロジェクト」。特設サイトの開設や、SNSにシェアできる企画、専用パッケージのを限定商品の発売などが同キャンペーンの内容でした。

実際に「花王 ロリエ」がプロジェクト始動に際して投稿したツイートがこちらです。

そして9/7に、プロジェクトを終了すると発表。

「生理を”個性”ととらえれば私たちはもっと生きやすくなる。」

このコンセプトメッセージがSNS上で物議を醸しました。「生理は個性」という文脈に多くのネガティブなコメントが寄せられたのです。

タブーをオープンにする。

生理について、社会全体の理解を深める。

表現やアプローチこそ最適ではなかったかもしれませんが、同キャンペーンが目指しているビジョンは素晴らしいと思います。そして、こういった動き自体を批判しているコメントは、私が見る限りではありませんでした。

それでも炎上してしまった今回の出来事からはSNS視点でも考えるべきポイントがありました。SNSが同キャンペーンにおいてどう影響したかについて考えていきます。

でも、その前に、まずは同キャンペーンのテーマである生理についてまとめておきたいと思います。

生理の話

各々、悩みを抱えながら付き合わなければいけない生理。

楽しみにしていたイベントと被ったり、ダイエット中なのに食欲が止まらなかったり、汚してしまったシーツや衣類を手洗いしたり、シンプルに腹痛頭痛腰痛に苦しんだり。多種多様な格闘を繰り広げているのです。

ちなみに私の格闘内容は毎回症状が異なります。箸が転んだだけでもイラっとするときもあれば、無限の空腹に襲われて夜中にカップラーメン2つ食べたこともあるし(厳密に言うと、ラーメンと焼きそば)、腕をつねったって眠さに勝てないときもありました。

しかし、3年前くらいから低用量ピルを服用するようになって、肉体的にも精神的にも本当に楽になりました。たとえ箸が転んでも、微笑みながら拾えるくらいには。ピルにはこの場を借りて御礼を言いたい…。

格闘の内容は個人差が大きく影響するにも関わらず、表にはとても見えづらい。

人は経験から想像しようとする生き物です。自分の生理は重くて、相手は軽い、もしくは生理の経験がない場合、「生理がつらい」は伝えづらいという場面も多くあると思います。

本当に休まなければいけない状態にあるのに「生理」という理由では相手に伝わらないから、無理をする。こんなの誰も幸せになりません。

でも、そもそもなぜ伝えづらいのでしょうか。

私は生理についてそこまで深く考えたことはないのですが、これを機に考えてみようと思います。

タブー感の正体

私は自分を振り返ってみて、2つの理由があると思いました。

1つ目は「恥ずかしい」という感覚。

1つ目の感覚の原因は、正直よくわかりません。社会の雰囲気と言ってしまえば簡単ですが、もしかしたら生物学的なことも関係しているんだろうか、なんて思ったりもします。だから私は、今の時点で「恥ずかしい」という感覚自体が悪いことだとは言えません。

ただ、「恥ずかしい」という感覚の弱い人が、周りの「恥ずかしい」という雰囲気に抑圧されることで生きづらくなることがあるなら、問題だと思います。

タブーに対してオープンでもいいじゃない、という”選択肢”をつくることには意味があると思います。

2つ目は「具体的なほうが伝わるから」。

こっちに関しては、アップデートの余地があります。

たとえば、転んで怪我をしたとしましょう。

学校や仕事を休むために怪我のつらさを人に説明するとき、何を伝えますか?

・傷口をみせる

・歩けない、少しでも動かすと痛むなど、症状を伝える

・転んだ時の状況を伝えて想像させる

・全治〇週間など、規模の具体的な根拠を示す

など、いくつか思いつくと思います。

しかし、こと生理になると、伝えられる情報の幅が狭まるんですよね。

たとえば生理とは関係なく、ベースに何か悩みがあって、生理がそれを悪化させて心が辛い。という状態にあったとして、原因に生理が関係していると自分では分かっていても、ベースの悩みも関わってくるので人に伝えづらかったり。生理は日常に複雑な形で関わっていることも多いと思います。

そういえばこの間、親知らずを抜いたんですけどね。抜糸直後と生理期間はなるべく被らないようにしたほうがいいって話を聞きました。こういう地味~な制限も課してくるんですよね
(そういえばこの間、親知らずを抜いたんですけどね。抜糸直後と生理期間はなるべく被らないようにしたほうがいいって話を聞きました。こういう地味~な制限も課してくるんですよね)

自分でも理解しきれていないことを、人に伝えるのは難しい。

私も「生理痛」とはストレートに言わず「頭痛」、「腹痛」など、ぼかした表現を使ったことがありますが、この理由こそが、2つめの「具体的なほうが伝わるから」です。

先述の通り、人は経験から想像しようとする生き物です。情報は具体的なほうが、自分の経験を脳内で検索しやすく、想像もしやすくなります。生理で気分が落ち込んでいる少々複雑な事情を伝えるより、頭痛や腹痛という誰しも1度は経験のある格闘のほうが、より伝わりやすいと思ってしまうのです。

(実際生理による身体への影響って複合的なことも多いから、嘘ではないし)

問題は、「生理痛」という表現で相手の苦労…、先ほどの表現で言うと格闘、が想像しづらい状態にあることです。ここが世の中に理解されていれば、2つ目の理由は多少解消されるはずではないでしょうか。

つまり、「格闘」は別に隠すことでもなんでもない。むしろオープンにしたほうが、理解してほしい側も、理解したい側にとっても前進できるはずだと思うのです。

そういった意味で、生理について、社会全体の理解を深めることを目指している同キャンペーンの姿勢は素晴らしいと、私は思いました。

ロリエのkosei-fulプロジェクトはなぜ炎上したのか

姿勢は時代とマッチしているのに、なぜ炎上してしまったのか。

同キャンペーンに寄せられたコメントを見た上での私の解釈ですが、共通して感じたのは「ウンザリ感」です。

なぜ無理やり「キラキラ」を演出しなければいけないのか。

生理はつらい。つらいものをそのままつらいと言ってはいけないのか。

ほしいのは考え方ではなく、具体的な改善に向けたアクションだ。

ここまでですでに述べたように、女性はもうすでに日常のさまざまな場面で生理と格闘中なのです。血みどろの格闘を「キラキラ」の演出で隠さないでほしいし、つらさを人にわかってほしいし、具体的な解決策がほしい。

そして、最近社会では声をあげる動きがチラホラと見え始めています。

例えばイギリスの生理用品メーカー「Bodyform」は、生理用品のCMでは青く表現される血を赤い、そのままの色で演出しました。

(画像:Bodyform/YouTubeより)
(画像:Bodyform/YouTubeより)

これは、「生理のタブー視」をなくすことを目的に、同社が展開する「ブラッド・ノーマル(#bloodnormal)」キャンペーンの一環としてYouTubeに公開された動画です。


Blood Normal

この動画が公開されたのは2017年。

日本も、そろそろ、大きなアクションをとるブランドが出てもいいのではないか…。

そんなタイミングでの出来事だったからこその、「ウンザリ感」だったように思います。少なくとも、世の中にリアルを見せていこうという思いきりは感じられませんでした。

そのメッセージはリアルな会話に溶け込むか

生理とキャンペーン炎上の背景を確認したところで、SNSの話しにうつります。

すでに答えは書きましたが、一連の流れを追う中で再認識した、SNS連携の企画において絶対に抜け落ちてはいけない視点とは

「そのメッセージはリアルな会話に溶け込むか」

ということです。 今回のキャンペーンについて調べるにあたり、Twitter上で「生理 個性」をキーワードを検索すると、たくさんのツイートがヒットしました。

見ている中で特徴的だなと思ったのは、広告自体への意見と共に「自分の経験」が添えられていること。

・腹痛、腹痛でのたうち回る

・生理休暇が遠慮なく取得できる社会になればいいなと思う

・鎮痛剤で対処していたけど、知らない間にいつのまにか病気が進んでいた

・生理が近くてニキビがやばい

・お気に入りショーツがゴミ箱行きになる

などなど。

「わかるわかる」と思いながら、生理にまつわるさまざまな経験や意見を見ているうちに、ある光景を思い出しました。

高校の女子トイレです。

休み時間に仲のいい子同士で

A「今回の生理重い…」

B「大丈夫? 薬もってる?」

A「飲んだ飲んだ。さすがに体育見学するわ」

B「ほんとだるいよね~」

上記のような会話は割と日常的におこなわれていました。 休み時間には腹痛に苦しむ友人の背中をさすり、私もまたさすられたりしていました。

友人間では、共感と具体的な改善アクション(もしくはアクションしようとする意思)が発生します。 この会話こそがリアルな”生理”です。

そしてSNSを絡めた企画を実施する際は、このようなリアルな会話に溶け込めるかという視点が重要だと思っています。なぜなら、SNSを通して語られるユーザーの声と、リアルな会話は同じ…。いや、むしろSNSのほうがリアルなことすらあるからです。

SNSは、「自分の経験」というリアルな話がコンテンツとして飛び交う場所なのです。

今回の企画を、先ほどのリアルな会話に当てはめて考えてみます。

A「今回の生理重い…」

B「大丈夫?でも、生理も個性と受け止めたら過ごしやすくなるんじゃないかな?」

A「うん。でもさすがに体育見学するわ」

B「生理も天然石みたいにありのままを魅力的に感じられたらいいよね」

もちろん、友人から直接発せられるメッセージと、ブランドが発信するメッセージで意味合いも、タイミングも異なりますが、仮にAを消費者、Bをブランドとして考えても、成立しないように思います。

とはいえ、友人にブランドメッセージをそのまま言わせる状態は無理やり感がすごいので、企画の情報をシェアすることを想定して会話に当てはめてみます。

A「今回の生理重い…」

B「大丈夫?どこかのブランドが、生理も個性と受け止めたら生きやすくなるって言ってたよ」

A「うん。でもさすがに体育見学するわ」

やっぱり、溶け込む気はあまりしません。 SNSが拡散の役割を持っている以上、企画にSNSを盛り込むのであれば「誰かにシェアしたくなるか」という観点は絶対に必要です。

そして、「誰かにシェアしたくなるか」を考える1つの基準として、「日常の会話に溶け込むか」という点があると思います。toC(消費者)向けのキャンペーンにおいては特に。

「日常の会話」を徹底的にイメージする必要があるし、さらにイメージの段階で、企画側の理想は一切採用してはいけないのだと思います。ここのイメージがずれてくると、当然実際の企画への反響へもズレが生じてきます。

また、すべてのユーザーがきちんとメッセージを読みこんで理解しようと努めてくれるわけではない、という前提が必要です。

企画の背景にある思いが熱ければ熱いほど、伝わらなければ悔しいと思います。だからこそ、言葉は本当に丁寧に選ばなければいけません。

特にTwitterという狭いフィールドで伝えられる情報なんて、ごくごく一部ですから。一瞬の勝負…。

タイムラインにひょっこりと現れた投稿は、ユーザーにとって、普段通っている道に現れたクリボーのようなものです。

スルーして飛び越えていく人もいれば、意義を唱えて踏みつぶす(言い方は悪いですが、クリボー用です)人もいるし、クリボーの生い立ちを知って感銘を受ける人もいる。

SNSとは、ブランドの理想と、消費者のリアルがダイレクトにぶつかる場所なのだと、改めて感じた一件でした。ただ、だからこそ正しいアプローチをおこなえば、消費者にとことん寄り添ったメッセージを伝えられるとも思います。

そして、正しいアプローチの仕方を知るために、毎日SNSを見る、自分で発信してみる、という基本は馬鹿にできません。やはり各SNSにはそれぞれの温度感があるし、言語化されていない部分もまだまだあると思います。

「SNSを通したコミュニケーション」という表現を冒頭にしましたが、もはや媒体は関係ないのかもしれません。ユーザーが屋外広告を写真に撮って、SNSに投稿すれば、広告のフィールドはSNS上に成り得るからです。

全ての広告はSNSの存在を前提に考えるべきなのだと思います。

今回はだいぶ長くなってしまったのに、最後まで読んでくださって本当にありがとうございます(T_T)

それでは、また来月お会いしましょう!

執筆

竹本萌瑛子(たけもこ)

熊本県出身。現在はヤフー株式会社にてデジタル広告を扱う部署に所属。 SNSやイベントなど、マーケティングコミュニケーションを軸とした業務に従事する一方で、モデル・タレント・ライターなどパラレルワーカーとしても活動中。 X(@moeko_takemo)で、自身の野球少女時代の写真をユニークなコメントと共に投稿。大きな反響を呼んだことをきっかけに、活動範囲を拡大している。
Instagram : https://www.instagram.com/moeko_takemoto/

編集

川崎 博則

1986年生まれ。2019年4月に中途でさくらインターネット株式会社に入社。さくマガ立ち上げメンバー。さくマガ編集長を務める。WEBマーケティングの仕事に10年以上たずさわっている。

※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。

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