かつてはビジネスには、「PDCA」が大事だ、と言われました。PDCAとは、計画(Plan)して実行(Do)、評価(Check)して改善(Action)する一連の作業のことです。野村総合研究所によるとこんな定義です。
PDCAサイクルは、Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)の頭文字を取ったもので、1950年代、品質管理の父といわれるW・エドワーズ・デミングが提唱したフレームワークです。(*1)
ところが、この言葉が提唱されたのは1950年代です。インターネットの登場により、世の中の動きはどんどん早くなり、このPDCAサイクルだと間に合わない時代になってきました。
では新しい時代のキーワードは何でしょうか。
「今は『DC→DC→DC→』の時代になった」というのは、Googleやマッキンゼーなど12もの会社で働いた尾原 和啓さんです。「Do(実行)、 Check(評価)」が何よりも重要だというのです。『どこでも誰とでも働ける――12の会社で学んだこれからの仕事と転職のルール (ダイヤモンド社)』をみてみます。
少し前までは、プラン(計画)を立ててドゥ(実行)し、結果をチェック(検証)して次のアクション(改善)に結びつける「PDCA」サイクルを何度も回せば最適な答えが見つかるといわれていました。しかし、すでにこのアプローチは周回遅れになりつつあります。プランづくりに時間がかかりすぎるという致命的な問題があるからです。
ネット時代にふさわしいのは、とにかくどんどん実行してみて、あとから軌道修正を図るDCPAです。より正確には、DC→DC→DC→……とドゥとチェックを短期間で何度も繰り返して、とにかく答えを見つけること。(*2)
引用:尾原 和啓 著,2018年『どこでも誰とでも働ける――12の会社で学んだ“これから”の仕事と転職のルール』ダイヤモンド社
私はマレーシアに住んでいますが、「とにかくやってみる」人が多いと感じます。やってみてダメだったらやめる。まるで「Do」「Stop」の繰り返し、です。
学校やショッピングモールでは「ソフトオープン」といって、工事途中でも営業を開始してしまいます。しかも、サービスを開始したと思ったらやめてしまうこともあります。
政府はパンデミックのすぐ後に、行動追跡アプリを発表して、アップデートし続けています。「失敗してもいいから、とにかくやる。ダメならやめる」のサイクルが、日本より速いのです。
ランダムに試行回数を増やすのが勝負を分けるのは、どのアイデアが役立つかはわからないからです。試している間に社会情勢の方が変わってしまう。だから、とにかく数を打つしかないのです。
DX時代は「行動したほうが強い」
デジタルトランスフォーメーション(DX)時代は、入念に準備するよりも、早く行動した方が強い。これはありとあらゆるところで感じます。
「なんだかよくわからないけど、やってみる」人が利益を得る時代です。仮想通貨やYouTuberをみていても同様です。東南アジアにいると、実に時代が移り変わるスピードの速さを実感します。
その背景には、今までの常識がガラッと変わってしまう社会の形態があると思います。グラブという配車アプリが登場したら、あっという間にタクシーを使う人が減ってしまいました。このサービスでは、登録者が持つ自家用車をタクシーのように、ネットから利用できてしまうのです。
その後このサービスは多方面に拡大し、今や買い物からテイクアウト、保険の加入、支払いまで何もかも提供するようになり、多くの加入者を集めています。
「よくわからないから、リスクがあるかどうか見極めてからやってみよう」と様子見していると、起業家だけでなく消費者も、利便性を損ねてしまうのです。
1990年代、インターネットの創世記には、まだまだパソコンやインターネットを教える仕事や雑誌が成立し、私自身もパソコン雑誌で編集者として働いていました。
当時はまだまだ「インターネットってどう使うの?」「パソコンは何に役立つの?」と思っている人たちが、大多数だったのです。
しかし今や大きな需要があるとはいい難く、仕事として成立するのか難しいところです。このように時代に合わせて、人の意識や必要な仕事がどんどん変わっていきます。
準備しすぎると動けなくなる
技術の進化だけではなく、社会情勢が大きく変わることも起こり得るでしょう。
2020年に起きたパンデミックも大きな教訓となりました。私はパンデミックの前まで観光業にいたのですが、マレーシアでは3月に予定されていた大型イベントが突然中止になり、その後も観光予算は大幅に減らされ、全てが計画通りに行かなくなりました。
いかに早く「ニューノーマル」に合わせて働き方と自分を変えられるかが、明暗を分けました。古い仕事にこだわっていた人ほど、身動きできずに困ってしまうのです。時代を問わず、ときにはプランをしっかり立てすぎることにこだわる人ほど、後戻りしにくくなってしまいます。
行動した「量」が大事になる時代です。先述の尾原さんはマッキンゼーやリクルート、Googleなど12回の転職を経験し、その行動で身につけたスキルこそが「インターネット時代にふさわしい働き方」だと話します。
「頭でっかちにならず、まず行動すること」が大事なのです。
「頭でっかちになってしまう」理由として「失敗したら怖い」という考えがあると思います。「考えずに行動したら、失敗するのでは」「失敗したら批判されるのでは」と思われるかも知れません。
しかし実は現代は、リカバリーもしやすい時代であることにお気づきでしょうか。
今は失敗しても大丈夫な時代です
日本から来る人には、先のマレーシア 流の「ソフトオープン」や「走り出してから考える」やり方に批判的な方もいます。「もっとサービスがきちんとしてから、オープンすべきだ」というのです。しかし、失敗が許される環境では、みんながどんどん、Do-Checkを繰り返すことができるので、その分、遠くに行けるようになるのです。
尾原さんはあらゆることでDoのコストが下がっていると指摘します。
昔と比べていまは取り返しのつく世の中になっています。自分の人生を会社に預けていた時代には、会社での失敗は即、仕事人生の終わりを意味しましたが、いまはいくらでも逃げ道があります。
引用:尾原 和啓 著,2018年『どこでも誰とでも働ける――12の会社で学んだ“これから”の仕事と転職のルール』ダイヤモンド社
特にソフトウエアの世界はアップデートを繰り返すのが当たり前です。「完璧になること」がほぼありえない世界だからです。リリースする頃には世界のルールの方が変わり、また運用を続けるうちにもどんどんルールが変わるからです。
こんな時代には、むしろリスクをとって失敗を恐れずに、Do Checkを繰り返し、失敗から学んでいったほうが、ずっと遠くに行けるのでしょう。
そのためにもう1つ重要なことは、社会の側も失敗や挑戦を受け入れることではないでしょうか。例えば、初期のYouTuberが批判されたのは記憶に新しいところです。何か新しいこと、グレーゾーンにあることに挑戦した人や失敗した人を叩くばかりでは、クリエイティブな価値観は生まれません。
人々がある程度寛容になっていくことで、技術が生まれやすくなる土壌ができ、挑戦しやすい社会が生まれるのです。
ぜひ、リーダーのポジションにある人だけでなく、一人ひとりがそのような価値観に、少しずつでもシフトしていただければと思います。
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執筆
のもときょうこ
早稲田大学法学部卒業。損保会社を経て95年アスキー入社。雑誌「MacPower」「ASAhIパソコン」「アサヒカメラ」編集者、「マレーシアマガジン」編集長などを歴任。著書に「日本人には『やめる練習』が足りていない」(集英社)「いいね!フェイスブック」(朝日新聞出版)ほか。編集に松井博氏「僕がアップルで学んだこと」ほか。2013年ごろから、マレーシアの教育分野についての情報を発信している。
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※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。
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