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DX人材育成のために必要な産学官の連携とは? 注目は全国の高専生

2020年代に入り、日本でもプログラミングの教育必修化されるなど、テクノロジーの人材育成が進んでいます。新たにデジタル庁も発足されます。しかし、外国のIT先進国に比べると、まだまだ課題の残る現状です。今後、どのような人材が求められるのか、そして社会はどのように動くのか――

行政の立場から三重県知事 鈴木 英敬 氏、教育の立場から東京大学 大学院工学系研究科 教授 松尾 豊 氏、企業の立場からセールスフォース・ドットコム 代表取締役会長 兼 社長 小出  伸一 氏が語ってくれました。

(イベント:Salesforce Live: Japan)

DX人材の育成について

フリーアナウンサー 望月理恵氏(ファシリテーター)

フリーアナウンサー 望月理恵氏(ファシリテーター)

望月 理恵氏(以下、望月):まずはデジタルトランスフォーメーション(DX)人材の育成について、世界と日本の現状を松尾先生にうかがいます。松尾先生は東京大学で人工知能を手がける松尾研究室や、日本ディープラーニング協会の理事長として人材育成に取り組む一方、ソフトバンクグループの社外取締役としてグローバル企業経営にも携わっていらっしゃいます。世界のDX人材の育成状況と比べたとき、日本の現状はいかがでしょうか?

 

 

東京大学 大学院工学系研究科 教授 松尾 豊 氏

東京大学 大学院工学系研究科 教授 松尾 豊 氏

松尾 豊氏(以下、松尾):日本はだいぶ遅れていたと思います。ただし、この1-2年でだいぶ前向きな力が加わってきています。たとえば東京大学の学生でも、情報系やデジタルの技術を学びたいという学生がとても増えました。

社会全体のDXが重要となり、AIの分野でもいろいろなスタートアップができたりして、さまざまな成功を目にすることで、みんなが「ちょっとやってみようかな」となってくると思います。

望月:そもそも世界と比べて、日本が遅れた理由はなんでしょうか?

松尾:日本は年功序列です。大企業は歴史のある事業をしているので、なかなか急激な改革ができません。DXの文脈でも、紙でやっていた処理をデジタルにしたといったケースが多いのですが、そもそも破壊的イノベーションのように構造を大きく変えるようなことをやる必要があります。

望月:それは経営者の意識が大事ということですか?

松尾:大きくいうとそうなります。事業に責任を持って、長期的な行動を取れる経営者は少ないんですよね。

創業社長のように自分が事業を作り出してきた経営者は、比較的決断できる方が多いです。しかし下から上がってきた経営者は、これまでの会社の伝統や歴史がありますから、なかなか難しいですよね。

望月:企業側から見て小出さん、いかがですか?

セールスフォース・ドットコム 代表取締役会長 兼 社長 小出 伸一氏

セールスフォース・ドットコム 代表取締役会長 兼 社長 小出 伸一氏

小出 伸一氏(以下、小出):セールスフォースは、創業者がいままでとまったく違うビジネスモデルを立ち上げました。そのときに一番重要になったのが、データを活用する発想です。日本の場合は、いまだにデータは万が一の記録のためです。

ところがアメリカでは、すべての企業がデータをいかに活用するかが、経営戦略の柱になります。こうした意識の違いはありますね。

三重県が取り組むDX

望月:鈴木知事にうかがいたいのですが、三重県版デジタル庁とも呼ばれるデジタル社会推進局が2021年4月に設立されました。外部からもCDO(最高デジタル責任者)を起用していますね。まずは、デジタル社会推進局についてお聞かせください。

三重県知事 鈴木 英敬 氏

三重県知事 鈴木 英敬 氏

鈴木 英敬氏(以下、鈴木):三重県で課題解決できたら、日本中でできると思っていますので、三重県がデジタルを先進的にやっていきます。そのために国、市町村、民間から総勢50名でデジタル社会推進局をスタートしました。

チームのミッションは「あったかいDX」です。「誰一人取り残さない、人に優しいDX」を進めていきます。

「デジタルわからへんねやわ」という地域のご高齢のみなさんにもですね、やってみようかと思ってもらえるような、あったかいDXを進めています。

望月:その中でDX人材の育成プランは、どう考えているのでしょうか?

鈴木:行政でのDX人材は、大きく二種類必要だと思うんです。

一つはデジタル技術を活用して社会の課題を解決する人材。たとえば、コロナやワクチンのことといった社会課題をデジタルの活用で解決できる人材です。

もう一つは、行政サービスを改善する人材。たとえば、申請や許可や相談といった県民のみなさんと関係することに、デジタルを使ってより利便性の高いサービスを提供していける、効率化していける人材です。

三重県は令和2年度から、スマート人材の育成コースを作って、若手職員を中心に公募しました。漁業や農業の人たちと一緒に社会課題を解決するプロジェクトをやりまして、さらにその中から絞り込んで、スペシャリストの育成をしています。

小出:とても素晴らしい取り組みですね。いろいろな地方行政のトップの方とお話しすると、まず人材が不足しているという課題から入ってしまうんですけれども、鈴木知事の場合はそれを理解したうえで、次の手を打っていると感じました。

東京首都圏でもDX人材は不足しているので、地方だけの問題ではなく、国全体の問題ですね。地方と中央で対立した軸ではなくて、お互いに交流したり、コラボレーションしていけば、人材育成もより活性化すると思います。

望月:松尾先生にうかがいます。IT人材の育成を加速させるためには、官民連携そして産学連携がどう重要になってくるのか、それがどう地方の強みに変わっていくのかをお話しいただけますか。

松尾:日本でDXを推進して仕事を効率化していく、人手不足を解消していくことはすごく大事ですが、そもそも日本の強みがどこにあるのかというと、ハードウェアや素材にあります。これらは多くの場合、地方にあるんです。ハードウェアの強みと、AIやディープラーニングを組み合わせることによって、いままでにない製品やサービスが作っていける。多分、これが日本としての大きな方向性です。

注目人材は全国の高専生

注目人材は全国の高専生

松尾:その中で、高専生に注目しています。

高専とは?採用で注目される高等専門学校の特色や高校・大学との違い

高専生は非常にポテンシャルが高いです。私はDCON(全国高等専門学校ディープラーニングコンテスト)を主催していまして、全国の高専にディープラーニングとハードウェアを組み合わせたプロジェクト持ってきてもらっています。

高専チームを企業と考えて、評価額をつけています。今年は福井高専が優勝しましたが、とてもレベルが高いです。企業評価額は、なんと6億円です。

鈴木:今年のDCONで、三重県の鳥羽商船高専は2位でした。鳥羽商船高専は自動給餌システムを開発して、マダイの養殖にも活用されています。高専の子たちの中から、まさに地域の課題解決、新しいビジネスの創出をする人材がたくさん出てきています。

望月:DX人材育成という点で、官民連携についても鈴木知事にうかがいたいです。

三重県 鈴木知事

鈴木:官民連携でDXのプロジェクトをやることで、地域の人たちがデジタルについて交流し、地域の人材を育てていこうとしています。たとえば「クリ”ミエ”イティブ実証サポート事業」。これは、世界中の大企業やスタートアップなどから革新的なビジネスモデルを募集し、実証実験や社会実装の支援をおこなうプログラムです。

企業と行政の連携によるDX人材育成

望月:小出さんにうかがいます。DX人材育成において、企業はどのように行政と連携されていますか?

小出:弊社の事例ですと、大阪府と一緒にIT人材を育てるプロジェクトがあります。オンライン学習プログラムをうまく活用したプロジェクトで、いつでも、どこでも時間を合わせながら自分のペースで学んでもらえるものです。

特徴はですね、その人に対してパーソナライズされたコースにしていくんですね。スキルを上げたい領域があると、カスタマイズしてカリキュラムを組みます。

カリキュラムが終わって、きちんとした技術が習得できて終わりではありません。学ばれた方々のスキルに合わせた就職先を大阪府とわれわれでお探ししています。

人材をさらに育てるためには、就労の先を一緒に考え、エコシステムを広げていく。これにより、DX人材の育つ土壌が広がっていくと思っています。

これからの時代に必要な意識改革&とるべきアクション

これからの時代に必要な意識改革&とるべきアクション

望月:最後にみなさんにうかがいます。行政、アカデミー、企業それぞれのお立場から、これからの時代に必要な意識改革、そしてとるべきアクションはどういったものがあるでしょうか?

鈴木:まずは行政自身がオープンになることです。われわれ自身の意識やアクションをしっかり変えていく必要があります。

そうしていくことで、アカデミーや企業といろいろな連携ができます。連携によってどんどんプロジェクトができて、成功体験を積めると思うんです。行政がしっかりオープンになっていく。それができる制度整える。これが行政の責務だと思いますね。

松尾:デジタル前提で、どう変えていくかが大事だと思います。デジタルの考え方がわかると、世の中の見え方が変わります。

日本企業のDXは、まだそこに至っていないのが現状です。経営者にデジタルを理解してもらうと、新しいアイディアが湧いてくるはずです。

早くそういうモードになってほしいと思っています。これほどチャンスにあふれている時代はないと思うので、新しい未来へ投資してほしいなと思いますね。

小出:今回コロナのパンデミックが拡大したことで、大きな変化点を迎えたと体感した方が多いと思います。

いままでの日本では、トライアンドエラーで徐々に進んでくことが多かったです。しかし、コロナ禍で一気に新たな変化点が生まれました。

そのときにほとんど経営者の皆さんが考えたのは、まずITツールを揃えることです。これはDXを進めるうえでの第一歩ではありますが、まだまだ入り口なんですね。それをサポートしているプロセスや制度の変革がないと、実際にはそのツールが機能しません。

たとえば、素晴らしいITツールを使ったとしても、未だに大量のコピーを取って、そこに印鑑押して、紙をシュレッダーにかけることをやっている。これではDXが加速しません。

企業のトップが自ら企業文化を変え、リーダーシップを発揮することが重要です。

イベント:「Salesforce Live: Japan」 主催:株式会社セールスフォース・ドットコム

 

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執筆

川崎 博則

1986年生まれ。2019年4月に中途でさくらインターネット株式会社に入社。さくマガ立ち上げメンバー。さくマガ編集長を務める。WEBマーケティングの仕事に10年以上たずさわっている。

編集

武田 伸子

2014年に中途でさくらインターネットに入社。「さくらのユーザ通信」(メルマガ)やさくマガの編集を担当している。1児の母。おいしいごはんとお酒が好き。

※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。

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