さくマガでは仕事のヒントを得るために、さまざまな方にインタビューをしています。今回お話をうかがったのは、八丈島で椎茸生産をおこなう大竜ファーム代表・大沢竜児さん。八丈島の高温・多湿な環境で育つ「うみかぜ椎茸」の特徴や、椎茸栽培をすることになったきっかけ、八丈島の魅力などについて熱く語っていただきました。
大竜ファームのホームページには、さくらインターネットのサーバーをご利用いただいています。ぜひご覧ください。
大沢 竜児(おおさわ りょうじ)さん プロフィール
1970年生まれ。八丈島出身。東京にある生花店で修行後に、山梨県で働く。その後、生まれ故郷の八丈島へ戻り家業の生花店を継ぐ。趣味のクワガタ飼育がきっかけとなり、椎茸の生産を開始。2018年に大竜ファームを設立。
きっかけはクワガタ飼育
ーーまずはじめに、どのようなお仕事をされているのか教えてください。
「大竜ファーム」という椎茸の生産をおこなう会社を経営しています。大竜ファームでは椎茸の収穫体験や、採れたての椎茸が食べられるレストラン「男メシ食堂」も運営しています。
ーー大沢さんが椎茸の生産をはじめたきっかけを教えてください。
趣味のクワガタ飼育がきっかけです。
もともとは生花店を経営していました。二店舗あるうちの一店舗は父、もう一店舗は私が担当していて、そのバックヤードでクワガタを飼育していたんです。
クワガタの幼虫を育てるために、食用ヒラタケの菌床ブロック(キノコの菌を含んだおがくずを固めたもの)を使っていました。温度や湿度によってはキノコが成長することがあります。飼育用のビンのふたを破って生えてくるんですよ。
クワガタのブリーダーは、キノコを生やすことを嫌います。ただ、あまりに立派なキノコが生えてくるので、食用だしな、と思って一度食べてみたわけです。そうしたら、すごく肉厚でおいしかったんですよ。
もしかしたら八丈島の環境はキノコ栽培に向いているのかもしれないと思い、4年かけてキノコの研究をしました。
いろいろな種類のキノコがある中で、なぜ椎茸なのかというと、年間通して市場の取引価格がいちばん安定しているからです。
それで、手間はかかるけれど、椎茸栽培をやってみようと考えました。国内産の菌床ブロックを作っているいろいろなメーカーに問い合わせて、サンプルを取り寄せましたね。
その中でどの椎茸菌が八丈島の気候に合っているのか、実験栽培をしてみました。30種類くらい実験栽培を繰り返して、ようやく4年目でいま栽培している菌に出会いました。それが5年前です。菌床ブロックのメーカーにお願いして、いままで海を渡らせたことがない品種を輸送してもらい、八丈島で栽培しています。
ーー大沢さんは、もともと椎茸の知識があったのですか?
ありませんでした。すべて独学ですね。
ただ、クワガタ飼育をやっていたので、キノコの菌に携わった期間はかなり長いんです。いままでやってきたことの延長という感じで、すんなりと椎茸栽培に取り組めました。基本的な性質はあまり変わらないので、クワガタ飼育の経験がある人ならキノコのこともある程度わかるかもしれないです。
ーー大竜ファームのロゴにもクワガタが描かれていますね。
このロゴは、八丈島の青い海と竜をイメージしています。私の名前が大沢竜児なので、「大」と「竜」の文字をとって「大竜ファーム」と名付けました。竜にクワガタを乗せたのは、この会社はキノコではなくクワガタがルーツだからです。
竜が調子にのったら、クワガタが「お前、初心に戻れよ」と諫めるわけですね(笑)。このロゴを見て初心に戻れるように、という想いを込めて作りました。
八丈島の環境が生み出す椎茸
ーー八丈島で育つ椎茸は、ほかの椎茸と比べてどのような違いがあるのでしょうか。
最大の違いは「おいしさ」です。八丈島の高温・多湿な気候で育てると、キノコが格別においしくなります。朝と夕方に戸をあけて八丈島の海風にさらしてあげると、空気中の濃い塩分もミネラルとして入ります。
ーー椎茸生産で大変なことは何でしょうか。
菌床ブロックは、群馬から船で取り寄せています。輸送中はコンテナの中に入っているので、温度が高くなって菌が死滅することがあります。それを防ぐため、いろいろな策が必要です。菌床ブロックのメーカーさんと、つねに二人三脚で取り組まなければなりません。
生産段階でいうと、間引き作業はすごく大変ですね。だいたい20~30cmある菌床ブロックから、やたらと椎茸の芽が生えてきます。その中からいいものだけを残していくために、かなり間引きをしないといけません。そこには人の手が必要です。
あと、八丈島は高温・多湿なので、キノコの成長がとても早く、あっという間に育ってしまいます。放っておくとすぐに収穫できる状態に仕上がってしまい、廃棄になってしまうので、エアコンで温度管理をして生産調整をしています。
本土なら1週間から10日くらいかかるところ、八丈島なら最短で4日で収穫になります。お客さまからのオーダーに合わせて収穫するのが大変ですね。
ーー成長速度が早いんですね。椎茸生産をしていて、うれしいことについて教えてください。
お客さまから、喜びの声をいただけることですね。併設しているレストランで、椎茸とキクラゲの料理を提供しています。お客さまに椎茸の収穫体験をしてもらい、採ったばかりの椎茸をレストランで食べていただきます。
「こんな椎茸食べたことない」「椎茸の概念が変わる」と言っていただけるのが、スタッフ一同とてもうれしいですね。その声を聞くためにがんばっています。
うちの椎茸は鮮度もいいですし、菌床ブロック自体を無農薬で作っているので、とても安全です。
会社の構想としても、収穫体験ができる観光農園と、レストランの併設が目標でした。最小限の規模でやっているので席数は少ないのですが、うまく機能しています。
ーー大竜ファームの「うみかぜ椎茸」のおすすめな食べ方を教えてください。
「うみかぜ椎茸」は、肉厚で軸が太いという特徴をもつので、軸をつけたまま炭火やトースターなどで炙って食べていただきたいです。お醤油もいいですが、塩をふったほうが、うまみがわかりやすいのでオススメです。非常に水分が多いので、トースターであぶると表面にジュースがしみ出してくるんですよ。キノコ本来のおいしいダシを楽しめますし、贅沢な召し上がり方だと思います。
「椎茸くさくない」のも特徴です。椎茸嫌いの方が苦手に感じる、特有のくさみやえぐみがまったくありません。「椎茸じゃない」と感じるくらい、椎茸嫌いの方も食べられるものだと思います。
料理の幅を選ばず、イタリアンでもフレンチでも、もちろん和食でも、いろいろな分野で使っていただます。うちのレストランでは、ピザやパスタにも使っています。傘が開き気味のものはハンバーグのタネを入れて肉詰めフライにしたりしていますね。
八丈島は「宝島」
ーー大沢さんが思う八丈島の魅力を教えてください。
八丈島は、東京から290キロ南の伊豆諸島の最南端にあります。東京から船で10時間、飛行機で50分程度です。火山島なので白い砂浜はありませんが、砂でにごることがないので、海の中はとてもきれいで透明度も高いです。多くのダイバーの方に来ていただいていますね。ダイビングショップもたくさんあるんですよ。
空気もおいしいですし、水道水も天然水のようにおいしいです。水が豊富なので、作物も非常においしく育ちます。八丈島でしか育たない植物もありますし、特別な緯度・経度にある「宝島」ですね。
まだ見えない魅力もたくさんありますので、これから私たちがもっともっと掘り下げて開発していきたいです。
『ザ!鉄腕!DASH!!』の影響で大量の注文が
ーー多くのテレビ番組で大竜ファームの「うみかぜ椎茸」が紹介されていますが、テレビの反響は大きいでしょうか。
2年前に『ザ!鉄腕!DASH!!(日本テレビ系)』で取り上げていただいたときはすごい反響でした。番組制作会社の方に「放送後、大変なことになりますよ」と言われていて、「そんな大げさな」と思っていたんです。
でも、本当にものすごい注文がきたんです。番組終了後2時間で1000件くらい。それを消化するのに、半年近くかかってしまいました。
実際に番組を見た方が、八丈島に来たこともあります。テレビの取材を受けると、お客さまに「見ましたよ」とお声かけいただけることもあり、知名度が上がるのは確かです。ありがたいことですね。
ーー新型コロナウイルスは、お仕事にどのような影響を与えましたか。
コロナ前と比べて、売り上げは50%ほど下回りました。「うみかぜ椎茸」はお客さまと直接取引をしています。その中でも、飲食店のお客さまが非常に多いんです。そういった飲食店がコロナの影響で、ことごとく休業して注文が止まってしまいました。
八丈島の飲食店、ホテル、スーパーはほとんど網羅していますが、それでもやはり数は減りましたね。生産した椎茸が余ってしまい、インターネットを通じてお客さまに助けてほしいと呼びかけもしました。
併設レストランは、昨年7月にオープンしたのですが、当時はコロナ禍の真っただ中です。最初はどうなることかと思いましたが、レストランのおかげである程度は売り上げをカバーできました。八丈島の観光客も減りましたね。八丈島の島民にとって、観光のお客さまが来てくださることはとてもありがたのですが、医療が脆弱なので、感染者が出た場合はヘリで東京まで運ぶことになります。八丈島でクラスターが出てしまうと大変なので、島民の方々はそういった面は危惧していますね。
農業のDX「IoT化にも挑戦したい」
ーー農業のデジタルトランスフォーメーション(DX)が進んできていますが、大沢さんが考えているDX化について教えてほしいです。
うちのような施設栽培の場合は、IoTの活用が可能だと思っています。
※IoTについては、こちらの「IoTの意味とは?社会が変わる技術の仕組みをわかりやすく解説」でくわしく紹介しています。
事務所のパソコンから外気温、室内気温、湿度などを計測する装置を入れて、「今日は外気温がこれくらいだから室内はこれくらい温度を下げよう」といった作業が自動化できないかと考えています。
温度・湿度管理を事務所のパソコンに集中できれば、同じようなパッケージングでいくつも農場をつくれるかもしれません。また、現場まで行って人の手で作業する必要がないので、人件費の削減にもつながります。将来的にはそういったことに取り組みたいので、いま研究中です。
ーー大沢さんがインターネットを通じて実現できたことを教えてください。
日本全国のお客さまに対して発信ができたことです。インターネットを通じてたくさんのご注文をいただけるのは、とてもありがたいことですね。
テレビに出演したときも、ネット通販で多くのご注文をいただきました。あのときにネット通販をしていなかったら、売り上げはそこまでではなかったと思います。電話回線は一つしかありませんので、注文を受けることも難しいですからね。
大沢さんの「やりたいこと」
ーーさくマガのコンセプトが「やりたいことをできるに変える」なのですが、大沢さんが今後やりたいと思っていることと、それをできるに変えるためにおこなっていることを教えてください。
観光農園を目指してやってきて、レストラン事業まではある程度完成してきました。これから先は、ESGやSDGsについても考える必要があります。いま取り組んでいるのは「キノコの生産が終わった廃菌床ブロックの再利用」です。これを捨てずに、農家に肥料として使ってもらっています。
実験的にやってみたところ、農家の方からは高い評価をいただきました。
会社としても、どう二次利用するかを考えています。そこで考えたのが「養鶏事業」です。廃菌床ブロックを機械にいれてバラして、養鶏場の敷地にしきつめます。キノコの菌はまだ生きているので、鶏糞からでるリンや窒素を吸収してくれます。そうすることで、鶏糞特有のニオイがでないはずです。
現在、商品にならない間引きしたキノコの芽は、数10キロも捨ててしまっています。加工ができないくらい小さい椎茸なのですが、「うみかぜ椎茸」には違いないんですよね。そして、これを鶏が食べることがわかっています。
「うみかぜ椎茸」の廃菌床ブロックを使って、「うみかぜ椎茸」を食べさせた平飼いの健康な鶏を育てたいです。放し飼いにすれば、八丈島に生息しているアシタバやアザミをついばんだりするでしょう。無農薬の廃菌床ブロックには虫が湧くので、鶏が自分で掘って食べることで、動物性たんぱく質も摂取できます。できあがった卵や鶏肉は、ワンランク上のものになるのではないでしょうか。
弊社にはバーベキューレストランもありますので、そこで採れたての「うみかぜ鶏」をお客さまに提供したいですね。そうすると完全なる循環型ができあがります。そこまでやりたいです。
町役場や畜産など関係者の方々にお話して、チームを組んでこの事業に取り組めないかなと思っていて、少しずつ動き出しています。
ーー大沢さん、ありがとうございました!