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こんにちは、トイアンナです。私は幼少期からオバケが苦手で、今でもトイレの花子さんが怖くてトイレを超速で終えますし、シャンプー中も目をつぶれません。
そんな激ヨワ人間としては、できればホラーに触れずに生きていきたい……ものですが、感動するヒューマンドラマは大好物。そして、ヒューマンドラマには人の死がつきものです。
ざっと考えただけでも『おくりびと』『プライベート・ライアン』『この世界の片隅に』のどれも、死があってこその生に惹きつけられる物語ですよね。
そして、名作の中には「ヒューマンドラマかつホラー」という難しいジャンルがあります。代表作は『シックス・センス』や『ジョーカー』。このあたりは、ちびりそうになりながら、なんとか最後まで視聴しています。
17年たっても夢に出るくらい怖くも感動した『なつみSTEP!』
そんな自分にとって、忘れられない作品があります。2003年、17歳のころに視聴した『なつみSTEP!』というショートムービーです。あまりに心動かされたものの、同時に怖すぎて、いまだに夢に出ます。
冒頭で散々脅しましたが、ホラーが苦手な人でも大丈夫。まずは動画をご覧ください。
公式に当時よく使われていた規格「Flash」で作られた原本があるのですが、最近のパソコンでは見られないことも多いので(心苦しいながら)非公式のYouTubeも掲載します。
「え、普通のほのぼのムービーじゃん?」
と、思った方も多いのではないでしょうか。私は思いました。
ただ、視聴していただくと途中で「ん?」とひっかかるカットも少しまぎれていたように見えませんか。
なんとなく「ああ、この子は彼氏とケンカしたのかなあ」というところまでは察知できるのですが、ムービーに彼氏がちゃんと登場しないので、あまり関係なさそうに流れていってしまいます。
ですが、何度か繰り返し再生していくと、さらに違和感が増していきます。
なんで、こんな夜遅く到着してるのに、外は青空なんだろう?
かわいい猫が振ってる旗は、なんで黒丸なんだろう?
最後の景色、ちょっと不穏じゃない?
……と、違和感を積み上げていくと、なんかイヤな予感がしてくるんです。
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(ネタバレ)『なつみSTEP!』の世界観
ここから先はネタバレなので、気になる方はスクロールして下をご覧ください。
なんとなく察知できたとおり、『なつみSTEP!』は死後の世界です。
主人公のなつみちゃんは、23:36分に死去。
作中に駅のホームと迫りくる電車のシーンがあります。ちゃんと見ると、ホームの柱にある時計が23:36分を指しています。なつみちゃんは、ここで電車に飛び込んだと考えるべきでしょう。
で、冒頭のここ。看板に分かりづらいフォントで「死」と書かれています。この爽やかな草原のエリアは、三途の川っぽいスポットなことがわかります。電車が魚の形をしているのは、三途の川を泳いでいるからか。見送ってくれた猫たちが振っていた旗が紅白ではなく白黒だったのも、忌日を表しているからですね。
こっそり電車を抜け出して怒っている運転手さん。よく見ると背景に死神の鎌が映っています。かわいい系の猫ちゃんは、死神だったようです。
みんなとお別れしている看板。読みづらいフォントですが、上は「Ten59」下は「Gi59」と書かれています。
天国と地獄。
なお、主人公のなつみちゃんが向かっているのは……Gi59の方角です。
彼氏との思い出だった、ペンダントを投げ捨てたなつみちゃん。最後に「さあ、いこっか」と後ろを振り返っているのですが、そこにあるのはどう見ても地獄の門。
と、これだけでは拾いきれないほど大量の伏線がこの映像には含まれています。それなのに最初は「ん? なんかヘン。だけど穏やかでいいムービーだなー」と視聴できてしまうのが、『なつみSTEP!』の怖いところです。もう、ここまで知ったらタイトルも怖い。「STEP!」って、そんな気軽に電車ジャンピンを語るな。
『なつみSTEP!』の急速な広まり
公開された『なつみSTEP!』は瞬く間に有名になりました。今のようにSNSすらない時代、口コミは2chの掲示板で見るか、誰かのテキストで書かれた日記サイト(ブログですらない)経由でしか知られなかったことです。
ですから、2003年ごろにインターネットを好きだった人で、『なつみSTEP!』を知らない人はいないんじゃないでしょうか、ってくらいの有名作品です。「FLASH★BOMB」という現実のイベントで共有されたこの作品は、ネットのスター的作品となりました。
……なのですが、最近私が29歳男性へ「そういえば、なつみSTEP!って動画があったじゃない」と話したところ、リスのように真ん丸な目で「なんすか、それ?」と聞かれてしまったので、慌てて筆を執ったのです。当時の常識、現代の非常識。
Twitterで #なつみSTEP を検索すると、ファンアートが観られます。特に昨年はなつみちゃんの17回忌だったこともあり、ファンアートが多数投稿されていました。ただし、初見でネタバレすぎるので、先ほどのネタバレ部分を飛ばした方は、決して見ないように。
現在、作者のたけはらみのるさん(旧名:NNSJ/読み:ななしじゅう さん)の個人サイトは健在です。Twitterもアクティブですし、今からファンとして拡散したい気持ち、やまやまです。
たとえ最近も、『なつみSTEP!』の映像が夢に出てきて「うおっ!」と言いながら汗びっちょりで目覚めた朝があったにせよ……。ホラーにとって”夢に出る”は賛辞だと信じていますし……。
『なつみSTEP!』の布教を難しくしたFlashの衰退
とはいえ、以前より『なつみSTEP!』を拡散するのは難しくなってしまっています。その背景には、動画再生の規格であるFlashのサポート終了があります。
アドビは長年、簡単に動画を制作できる&観られるシステムであるFlashを提供してきました。2000年代の前半なんて、動画を視聴すればパケットがすぐいっぱいになってしまう時代。(って、今でもそうですかね……)当時、ウェブサイトのちょっとしたアニメーションは、あまりパケットを食わないFlashで作られていたのです。
そんなFlashへ最初に見切りをつけたのは、スティーブ・ジョブズと言われています。Flashは2010年からはiOSに組み込まれなくなり、その後Androidでも読み込めなくなり……。スマホ時代の到来とともに、過去の規格となります。
さらに、プログラミング言語を覚えなくても動画を簡単に投稿できるYouTubeなどのサービスができたことや、もともと指摘されていた脆弱性がアダとなりました。そしてついに2020年、アドビはサポートを終了します。
『なつみSTEP!』のような作品は口伝で残すしかない
Flashは2000年代前半、動画を閲覧する最も簡単な方法でした。そのため、動画作品の多くもFlashで作られています。Flashのサポート終了は、『なつみSTEP!』を始めとする、いくつものネットの名作を見られなくなる危機ともいえるのです。
「恋のマイアヒ」「千葉!滋賀!!佐賀!!!」「もすかう」などは、かろうじてファンがYouTubeへ転載して生き残っています。が、YouTube後の世界ではもう分かりません。
インターネットが普及したら、デジタルタトゥーが残るなんて本当でしょうか。私はむしろ、インターネットのほうがすぐに記録が消えてしまうように思っています。
そして、『なつみSTEP!』のように”そんなの、世代なら誰でも知ってるっしょ”っていうものこそ、布教・拡散を常にしていかないと、いずれサポート終了やサービス移転の結果、世代を超えて伝わらないことに不安を覚えています。
いまならまだ、原本が観られます。YouTubeにも非公式ながらあります。レーザーディスクよりカセットテープより後に生まれた、たった17年前の作品です。いいものは、何度でも宣伝しなくては。ずっと、そんな思いにかられています。