4回目を迎えた、自称ライター・シマヅの「クソほども役に立たないライター養成講座」。
鋭い視点から社会を斬るでもなく、深い知見から導かれた提言を世に問うでもなく、「いまさら他の仕事もないし、どうにかモノカキとして食っていこう」という低い目標点を設定し、高さ3cm程度のハードルに日々つまずきながら生きている、ライターのシマヅです。
本日も己の黒歴史(過去の失敗事例や悩み)を脳内で紐解き、「この辺は要注意」「ああすれば良かった」とメモを取る、精神的に地獄のようなお仕事をしているので、思わず発泡酒に手を出してしまった朝7時。
そんなわけでシリーズ第4回「取材記事を書いてみよう」です。ライターになることを視野に入れている方にも、ライターに仕事を発注しようとお考えの方にも、何かの参考になれば幸いです。
取材その0:取材グッズを揃えよう
まず、取材以前の話として、準備を整えます。
取材内容によりますが、戦うために必要な装備品は大体以下の通りです。
・デジカメ
・ICレコーダー
・メモとペン
・事前にメモしたもの
・ノートPC(私は持って行かないことが多いです ※後述)
上記が、多くの媒体で主流の「ライターが、文章と写真を納品」スタイルの装備です。今後は、動画レポートを同時納品するような方式が増えるかも知れませんので、そうした場合は自撮り棒や、動画編集ソフト入りの端末を追加するなど、工夫しなければならなそう。
もしそうなったら、底辺ライターの私にはキツイ出費……。よし、酒をやめて貯金しよう!(発泡酒グビー)
道具の使い方は自分のスタイル次第ですが、私の場合、会話中にPC画面に向かって長い文章を入力するなんて高等技術はできません。メモも同様です。
しかし、数字や固有名詞、特に重要な発言については「水曜日が定休日なんですね。月曜日は大盛り無料デ―だから男性客にオススメ、と……」「サワダさんのサワ、は、難しいほうの澤、ですね」「そんな裏話があったなんて!」と確認しながらメモしたほうが後が楽ですし、ミジンコレベルの脳みその私でもできるので簡単だと思います。
ICレコーダーで全て録音するのは、のちほど確認するためには便利なのですが、3時間かけて取材したものを3時間かけて聞き直す必要が出てくるので、「インタビューそのもの」を重視するタイプの記事以外では、メモを中心に原稿構成することを推奨します。
と、偉そうに書いておきながら恐縮ですが、私の場合、飲食店取材の際は、酔ってわけわかんなくなるケースがあります。お話をうかがい、写真撮影も味の感想メモも完了、店の雰囲気や特別メニューの情報もメモしたらあとは普通の客として打ち上げ的な感覚で大量に飲酒しちゃうから。
時折、翌日になって領収書を確認したら、お店にお支払いする額が原稿料に迫っており「はて、手残りはいくらか?」と疑問に感じることもあります。でも、いいんです。美味しいお料理と酒をいただいたんですから。
ただ、泥酔した際のメモに「イケメン 尻 美味しい」とだけ書いてあるのを翌朝発見した時は頭を抱えざるを得ませんでした。どんな経緯でメモしたのか全くわからないし、単語から察するに、少し書き方を間違えたら大変なことになる要素の気がする。
あとでICレコーダー聞いてもその会話が入っていない。「店長、どんな話しましたっけ? こういうメモが残ってるんですが……」と後日質問するような勇気もないですし、お店にもわざわざ時間を割いていただくわけで迷惑になるでしょう。
飲食店の取材時は、大量飲酒をしたくても我慢しましょう。取材は家に帰るまでが取材です。
取材その1:まず、多少は調べよう
取材に取り掛かる上では、多少の予備知識が必要です。
取材相手に対する礼儀という面もありますが、リアルな話をしてしまうと「ネタ探し」と「かぶる」のを避けるためです。ネットで話題の〇〇に行ってみた……という取材をする場合、既に有名な店などは100回ぐらい取材を受けているので「濃厚スープのこだわり」「歯ごたえ重視のバリカタ細麺」「替え玉無料」「高菜を入れると風味が豊かに」など、あらゆる情報が書かれまくっています。
もちろん、そういう基本情報は伝えなければならないのですが、それだけだと読者にとって新しい物が何もない記事になってしまいますので、かぶらない切り口を考えるわけです。
「いつも行列の人気店にスムーズに入れるかも……狙い目の曜日・時間帯とは⁉」「あの有名店に、自宅で煮玉子を作るコツを聞いてみた!」など、今までの記事に無かったような気がする物を考え、脳内で構成を考える作業が、まずは必要です。
そして大抵、脳内構成通りにはいかないので、あとは、取材しながら考えましょう。
取材その2:段取りの設定が一番たいへん
編集部から、この日にここで取材してくださいと指定される案件(発表会レポートなど)はともかく、たいていの取材は、ライター自身が取材の段取りを考えます。
実は、これが最大のハードル。新聞や週刊誌の記者さんも、文章を仕上げるまでには何か月も張り込みをしたり、人間関係を築いてインタビューに応じてもらえるルートを作るなど「取材の段取り」に命を懸けるわけです。
Webを中心に活動するライターも同様で、取材申し込みのメールや電話を無視されるのはいつものこと。
そりゃ大物ジャーナリストから「田原総一朗です。大臣、『朝まで生テレビ!』で、日本の明日について語っていただきたい」と申し込まれたならともかく、「シマヅです。大臣、私に、日本の明日について語っていただきたい」と申し込まれても、大臣は応じませんよ。どこの大臣だか知らないけど、たぶん無理です。
ここで肝に銘じるべきなのは「悪意で無視しているのではない」ということ。人も企業も、いろんな仕事で忙しいのです。本業が忙しくて時間とれない、取材の申し込み殺到で対応しきれない、逆に取材慣れしてないからどうすればいいかわからない、などなど。
特にWeb媒体は、記事広告の営業(取材・掲載の見返りに広告料をとる手法)と間違われたり、ライター、ブロガー、ユーチューバーなどの中には、どうも、色々と揉めている人が結構いるようで、「Webの取材? 来るな! ウチは、そういう奴らは信用してねぇんだ!」というような対応をされることもあります。
ですので、誠心誠意、ご迷惑をお掛けすることもなく、変な趣旨ではないことをご説明した上で、お店側の都合のいい時間帯を指定してもらい、取材に漕ぎ付けます。
書き手は、面白い物を書くことばかり気にしてしまうのですが、編集者や媒体運営者が一番恐れるのは、取材相手との無用のトラブルです。何かを追及するため揉め事があっても突き進め、という方針が打ち出されている時を除けば、取材対象と揉めて来る人は、編集部にとっても迷惑の種でしかありません。
ともかく、少なくともアイツに頼めば仕上がってくる、揉めることも誤った情報を書いてくることもない、と一任できる程度の実績を積んでいくことが大事です。面白いか、反響があるか等は、その先の問題です。
取材その3:媒体、読者層、キャラに合った構成を考えよう
たとえばIT技術について取材する場合、技術者向けの媒体と、初心者向けの媒体では、取材や会話の内容も異なってきます。
また、同じ初心者向けでも、ビジネスマンが読者層なら「週末の10時間で習得! クラウドサービスを仕事に役立てる実践講座」、女子大生向けなら「サークル仲間の予定をスマホで共有しよう!」のような内容になるでしょう。いまの女子大生、そんなぬるいもの読むかどうかはともかく。
ともあれ、編集者(サイト運営者)と意見交換の上、「30代の男性読者が多いので、その層に向けて」「真面目過ぎる媒体なので、あえてエンタメ枠で」など、方向性を相談しましょう。それによって、取材スタンスも書き方も変わってきます。
ただ、設立間もないメディアの場合、運営側も媒体特性や読者層を手探りなことは少なくありません。もっとエンタメに寄せるべきか、実用性を重視すべきか、バズらせるため毒のあるネタをブチ込むか、信頼度のため慎重さを重視するか……これは媒体とライターの共同作業です。
私は、さくマガにおいて「クズ枠」を自認し、多様な働き方による社会のあり方を語る仕事などは他の記事に任せ、「なんかライターとかいう仕事、クズはクズなりに食っていけるみたいだ!」という希望を皆さまにお届けする、その心構えで取り組んでおりますが、本当にこれでいいのか確証が持てません。
毎回、方向性を迷いながら書いているのですが、このコーナーあと1回でいったん完結なので、正解を見いだせないまま完結しちゃうんじゃねえか。この方向でいいのか。
もっとビジネス寄り、あるいはライフスタイルに一石を投じる内容のほうがいいのか、一体どうすれば……。いや、自分で考えろって⁇ おっしゃる通りです。今日はいつもより酒が進むわ。
……まあ、そういうわけで、ライター稼業は正解がわからないまま暗中模索の日々を送るしかないわけですが、キャラに合ったスタンスを考えるといいんじゃないですかね、ということは言えるかな、と。
自動車の記事を書くことになったけど予備知識が無い、女子高生の流行を書くことになったけど全くわからない、そういう時は、無理して知ったかぶりをするよりも「予備知識ゼロの私が初歩から学ぶ〇〇」という書き方のほうが、同じように予備知識ゼロの読者に伝わるものが書けます。女性の流行について女性が書くなら「女子目線」で、男性が書くなら「女性の流行がわからないので、聞いてみた」のスタンス。
逆に、得意分野について書くときは、読者がついて来られる範囲内で、思う存分に暴れまわれば良いのではないでしょうか。その分野にこだわりを持つライターとしてのキャラ確立もできますので。
取材その4:完成原稿をイメージしながら取材しよう
すべての物事には複数の要素があります。お店の紹介をするときにも「地酒の種類が豊富」「刺身が絶品」「粋で気の良い大将」「女将さんが和服美人」「路地裏の隠れ家的な佇まい」などなど。
そんな中から、特にフィーチャーしたい要素を考えながら取材させていただくのですが、途中で方向性が変わることもしばしばあります。
地酒自慢の店として押そうと思ってたけど、和服美女の女将さんがいる路地裏の隠れ家、のほうがいいかな……と。
その場合、撮る写真や質問事項の比重も変わってきますので、完成版の原稿をイメージしながら取材することが大事です。
特に写真については、文字数と画像の比重を考えておく必要があります。 飲食店を紹介するなら、ひたすら文字で解説するよりも、美味しそうな写真が何よりも雄弁です。
しかし、現代人は付随する情報を楽しんでいる部分もあるので、「銚子漁港から直送された鮮度抜群の魚」「蔵に直接交渉しないと買えない地酒」「仕込みに2日かかる絶品の煮込み」など、写真だけでは伝わらない情報を文字で追加していきます。
難しいのが1対1での対人インタビュー。ある程度の画像点数を準備しようとすると、同じ人物・同じ構図・同じ表情を何枚も撮っても仕方ないので、インタビュー時の雰囲気が伝わる「動き」が必要なのです。……そして、人は、ろくろを回してしまうわけです。
さらに、大きなろくろを回してしまうわけです。
座ってインタビューさせてもらう場合、こうなってしまう気持ちはわかるんですが、「角度を変える」「全身を入れる」「胸から上を入れる」「アップにする」「PCや資料をのぞき込んでもらう」「立ってもらう」「笑顔を撮る」などの工夫は、最低限必要です。
カメラを向けて笑顔を作ってもらうのはモデルさんでもない限り難しく、特に真面目な男性の場合は絶望的に難易度が高いので、そういう時は、碇ゲンドウ司令のポーズをやってもらうという手があります。
さあ、残すところあと1回となった当シリーズ! 手元のネタ帳に書いた要素を見るに「どう考えても1回じゃ終わらねえ」という分量の問題はあれど、次回「ライター稼業の明日」をお楽しみに!