第3回目となりました、自称ライター・シマヅの「クソほども役に立たないライター養成講座」。
【過去の連載はこちら】# シマヅの記事
これまで「こういうことばかりしていると仕事がこなくなる」「仕事に際してカネの話が曖昧な案件は要注意」などのお話をご紹介させていただきました。 今回は、仁義なき戦いの繰り広げられるライター界隈で成り上がるため、より具体的なお話をしたいと思います。
ただし!
私はライターとして大成した人物ではないので、基本的に「いま思えば、このようにしておけばよかった…」などの後悔を軸に記します。皆さまの反面教師としてお役立てください。
【高単価でオシャレな“うらやましい仕事”は都心の不動産と同じ】
世界的大企業の協賛がつき、オシャレかつイメージの良い媒体で、著名人と素敵なトークを繰り広げて記事にすれば世に絶賛され、1回の仕事で破格のギャランティがもらえる……そんな夢のような世界があります。私も足を踏み入れたことが無いのですが、あるらしいです。
しかし、そんな案件は都心の不動産と同じで、普通、デビューしたてのライターには入手できません。いまそこに居住している住人が出ていくこともありません。どれだけ羨んでいても無駄なので、考えることをやめましょう。芥川賞かピューリッツァー賞を取ってから、あらためてチャレンジすれば良いのです。
そして、もし貴方がきらびやかな世界に入ることができたなら、ぜひ私を引っ張り上げてください……ワイも、クラッカーにキャビア乗せたの食べながらシャンパン飲んで有名人と小粋な会話をして記事書いて銀行口座にドーン!みたいな世界に行きたいんや……。
ともかく、最初から「条件の良すぎる仕事」ばかり探すのは無駄です。
私は、相当探しました。毎日毎日「ライター 高単価」「豪華パーティ 取材 好待遇」「有名人 インタビュアー 募集」など検索しましたが、Googleの性能が悪すぎるせいで一件も見当たらず。Siriにも「すみません よくわかりません」と言われました。石油王と結婚する方法を聞いた時も同じでした。 結局、夢のような世界を求めても無駄なのです……。
【三本の矢】
「収入がほしい。名前も売りたい。腕も上げたい。だけどなかなか良い条件の仕事が無い」
職業としてのライターに挑戦し、誰もが最初に悩む部分です。以前は筆者もライターとしての先行きが見えないことに焦り、手元の酒が、日ごろのビールから鬼ころしに変わってしまいました。嗚呼、悩みが多くて頭痛が……と悲劇のヒロインを気取っていましたが、いま思えば単に飲みすぎだった気がします。
しかし、「収入」「名前」「腕(訓練)」の3つを同時に満たすお仕事は無くても、どれか1つを満たす物は、なくもありません。まずは、それに着手しましょう。
「あれだけ時間のかかった記事で、この金額か……だが、いい仕事をした気がする!」「納期も短すぎるし、正直、私自身が評価された感じもしないが、少なくとも生活費の足しになる!ありがたい!」などなど。
ライター稼業という戦場で討ち死にする時は、収入なのか、名前を売るのか、経験なのか、常に「なにか1つ」を握りしめた上で、前向きに倒れていきましょう。
いつか、「収入」「名前」「腕」の三要素が揃うはず。当初の、頼りない一本の矢ではヘニャヘニャと折れてしまいますが、三本の矢が一つになれば、ボキッと良い音を立てて折れることができます。
うん、まあ、三本の矢が揃おうとも、ライターなんて媒体にお仕事いただいてナンボの世界ですので、か弱い存在ですけどね。多少は折れにくくなるかな、と。
【ベースとなる収入源】
私が知っているだけでも、専業、兼業、学生、主婦、さまざまな立場でライターをしている人がいます。どんな立場であれ、とにかく重要なのは「最低限の収入を得ること」。親の仕送りやコンビニでのアルバイト代が中心でも構いませんが、とにかく食っていくことが真っ先に重要です。
もしライター稼業一本で生活していくのなら、たとえば、単価が安くて名前の出ない仕事でも量をこなすなど、まずは最低限の収入を確保しましょう(とはいえ、1文字0.03円でデータベースを文に直すキーパンチャーのような仕事の場合、今や、文章を書いているのは人間ではなくAIだったり、「これは商品が品質が良いだから安く嬉しい。最高のよろこび」「品質が良いだから日本顧客のよろこび。安く最高のよろこび」と若干怪しい言葉で★5つのレビューを何件も書くようなグローバルなお仕事だったりするみたいなので、流石に「いちおうライター志望者にふさわしい仕事」を選びましょう)。
新人ライターでも参入できる仕事、それは、いつでも替えが効く仕事だということ。黙々とPCに向かい、記事に名前は掲載されず、発注主の指示のまま、ひたすら文字を連ねる……腐ってはいけません。食っていくためですし、なんだかんだで、文章で稼げるようになったのですから。
兼業ライターや主婦、学生さんなどの場合、ライター仕事の他に収入源があれば、このタイプの仕事は少な目にする、もしくは省略しても良いので、参入しやすいかと思います。
一番危険なのは「収入の見通しが立っていないのに、ライター一本でやっていくため仕事辞めました」みたいな事例。だめです!死にます!私がそうでした!なぜ駆け出しの時期を乗り切れたのか、今でもわかっていません。
若干の貯金があったことと、家から一歩も出ず、モヤシと豆腐で生きていたから、資金が尽きる前の数か月で「どうにか家賃と光熱費と最低限の食費ぐらいは補えるようになった」という奇跡が起きたのですが、ゴリゴリ減っていく預金通帳を眺め、再来月ごろには餓死するかもと怯えながら薄暗くて寒い自宅(光熱費削減のため)でPCに向かうのは、精神衛生上も非常に良くないのでおすすめしません。
まずは土日だけでも良いので、兼業としてライター仕事をやってみて、「もはや兼業では仕事こなせないな」というほどに受注が溜まってから、あるいは、当面は暮らしていける程度の預貯金が出来てから独立してください。
【名刺代わりの記事】
どうにかライター仕事で自炊のモヤシ炒め程度は食べられるようになった貴方に必要なことは、名刺代わりの記事をいくつか仕上げることです。「音楽に強いライター」「ファッション企画の実績がある書き手」「グルメ取材多数」など、自分がどのようなライターか伝わる記事があれば、依頼するほうも頼みやすいってものです。
私の場合、某Web媒体で「マヨネーズは卵白・卵黄・オイルなどが入っているので、トリートメントに良いらしい」「サラダ油でもいけるのでは」という人体実験をして記事を書いたところ、「髪にマヨネーズを塗る人」として、ある情報番組の撮影チームが来てしまったのがキャリアの転機だったのかも知れません(オイルが入っているので、ツヤは出るんです。ただ、ポテサラみたいな臭いが残ります)。
この局面で大事なのは仕事単体のギャランティというより「名前が出ること」です。ペンネームで構いませんし、顔を出すも出さないも問いませんが、次以降の仕事をいただくために「このような記事を書きました」と手元に残る実績づくりですね。
「豊富な金融知識で深い記事を書く人」「子育てママの本音を鋭く描くライター」など、自分の輪郭が浮かび上がり、記事を発注する側も頼みやすくなります。私の場合は「マヨ女」だったので我ながら失敗したというか、もうちょっとオシャレで稼げそうなジャンルに進みたかった、とは思っていますが…。
なかなか自分をアピールする機会が得られない場合、個人ブログを活用してみるのが吉かと。「ひねった角度から男女を切る恋愛ブロガー」「ファニーなイラストで会社あるあるをエンタメ化できる人」など、我はここにありと打ち立てられる場を、どこかに確保しましょう。
【修行と研鑽の日々……こたつ記事よりも、まずは取材記事で訓練を!】
ライター界には「こたつ記事」なる言葉があります。明確な定義はないのですが、「取材をせず、こたつに入ったまま書く記事」という意味を持ち、やや馬鹿にする響きを持ちます。たとえば「いま話題の〇〇についてネットの反応を集めてみました」といったタイプの、まとめサイトと見分けがつかないような記事や、芸能界の話題などを好き勝手に語る、日記だか記事だかわからないような物が、それにあたります。
もちろん、書き手の知見や感性により、上質な記事を仕上げることは可能です。芸能界のゴシップも、離婚訴訟に強い弁護士さんなら鋭いことを書けるでしょうし、独自の観点を持つ恋愛コラムニストなら深みのある見解を世に送り出すことができるでしょう。
が、「こちとら専門知識もなければ、人間的な深みもねえんだよ!」とお嘆きの、私のような人々は、自分の内側の蓄積を吐き出すのではなく、自分の外側から情報を取り入れる―つまり取材記事に力点を置いたほうが良いと思います。
そうすれば、少なくとも「ここはお前の日記帳じゃねえんだ。チラシの裏にでも書いてろ」と言われることはなくなり、面白いか面白くないかはともかく、必要な情報を取材して伝える技術は多少なりとも身に付くはずです。
取材方法はいろいろ。現地に足を運ぶこともあれば、専門家にお話を聞くケースもあり、電話で問い合わせる場合もあれば、資料を取り寄せる方法もあります。ともかく気になる点を調べて記事を書くのですが、毎回、取材したことを伝えきるのは難しいな、と悩む日々が続くことでしょう。たぶん。
「よくわからんが、水曜日が定休日のステーキ店で、ガーリックが効いていて美味いんだな」ぐらいのことは伝えられるようになりますが、「店主の人柄を、どう伝えよう?」とか「ボリューミーな部分を伝えるため、写真を撮る角度を変えてみよう」など、試行錯誤の連続。
そして公開後の反応を見て「なぜ反応が薄いんだ…」「アイキャッチの画像が良くなかったのか」「もっとネタ色を強めたほうが良かったのか」「この媒体だと実用的な情報記事のほうが良いのか」と、布団の上で脚をバタバタさせながら、自分はなんと未熟なのかと悔し涙を流すのです。
ニトリの激安枕を濡らすのです。地獄ですよライターなんて。毎回こんな感じです。
【得意ジャンルと求められるジャンルは、異なることも】
さて、ライターとして取材記事を書かせていただく上で、自分の中で「なんとな~く自分の専門分野かな、と感じるジャンル」という物があると思います。たいていは属性によるもので、「元商社マンが語るデート必勝レストラン」「オタ女子の美少年映画批評」「IT技術者のダークウェブめぐり」などなど。
しかし、ブログと違って、記事を発注する側は自社メディアのニーズに基づいて依頼しますので「デート必勝レストランとかどうでもいいんで、競馬の話を書いてください」「美少年映画批評はブログでやってください。私たちが求めるのは、アラサー女子のワンルームマンション購入講座です」など、さっぱりわかんねえ分野を容赦なく振ってきます。
もちろん門外漢にお仕事を振っていただけるのは嬉しいのですが、ご依頼のメールを読んで「な、なんで私に……いや、嬉しいけど…でも、このジャンルわかんない……」と2分ほど固まってしまうことも。
誰しも、自分の専門分野の仕事だけでやっていきたいものです。私も封神演義の同人誌の話だったらどれだけでも書けます。しかし、そんな仕事は来ないのです。毎度毎度「え……金融商品?まったく予備知識ないのですが…」と逡巡し、天を仰ぎながら「いや、むしろチャンスだ!前向きにとらえよう!」と腹をくくりゼロから学ぶ、そんな自転車操業でなんとか食っています。
なにせ知識のない分野ですから、知ったような口ぶりで語ることはできず、「金融知識ゼロ!投資ド素人ライターがゼロから学ぶ、〇〇入門講座」といった形式で、素人目線で質問して、自分と同じような人々にわかりやすく伝える……とか、そんな感じです。
そのうち、徐々にその分野に詳しくなり多少なりとも芸の幅が広がるので、果敢に挑んでみましょう。とはいえ私は金融関係の記事やったことないです。やったことないですけど「この記事で、こう書いておけば、奇特な人が仕事をくれるのではないか」という打算で金融の話を出しました。さくマガ編集部の皆さまごめんなさい。媒体を営業活動に使いました。ご連絡お待ちしてます。誠意・迅速・高品質を胸に頑張っているシマヅです。シマヅにお仕事をお願いいたします。
……と、このように専門外ジャンルへの挑戦を繰り返していると、「前回、まったく知らない金融の取材をして書いたけど、今回の自動車に関する取材も、同じ要領だな……」と応用が利くようになりますので、徐々に活動の幅が広がっていくわけです。
当然、こたつ記事の5倍、通常の取材記事2倍ほどの手間と精神的負担がかかるので、苦手ジャンルのお仕事をいただくときは覚悟が必要で、「ごめんなさい、せっかくのお話ですが、今回は見送らせてください。やる気はありますし、お話をいただいたことは嬉しいのですが、能力的に無理で、ご迷惑おかけしてしまいます」と辞退させていただく選択肢もある…かもしれません……(そんなこと言ってられない懐事情の時は、「ゼ、ゼニが!ゼニが見える!」と腹をくくって、根性で何とかしてください)。
ともかく専門外分野について書くのは非常に良い機会ですが、なにせ知らねぇ分野なので難しく、ライター稼業で生活して何年も経つ私も、毎回「よ、横文字ばっかりでわかんない……。
専門家にインタビューしろと言われても、何を質問すればいいのか……」「そもそも私の専門って何なんだ……これといって専門家レベルに語れるジャンルなんて無い…」と悶々としております。それでも、どうにか生きています。
ライター稼業。
それは、駆け出しの頃も、そこそこの年数を経てからも、永遠に続く修羅の世界。