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「やりたいこと」を「できる」に変えるWEBマガジン「さくマガ」をご覧の皆様こんにちは。インターネットでよく分からない文章を日々公開しているpatoと申す者です。
今回、この「さくマガ」に寄稿するにあたり、こんなやりとりがありました。
「何かやりたいことないっすか?」
と「さくマガ」編集部より突然の質問だ。
その質問の趣旨をよく理解していなかった僕は、ちょっとピントのズレた答えを出してしまったのだ。
「そういや高速のSA(サービスエリア)で食べるラーメンってめちゃくちゃ美味いですよね。なんでですかね。是非とも食べてみてその謎を解き明かしたいです」
かなり素っ頓狂な感じだ。ちょっと何を言ってるのか理解に苦しむ。そうしたらこう返ってきた。
「あ、じゃあ鹿児島から青森まで全部のSAで食べてきてくださいよ。それを連載で5回くらいに分けて掲載しますんで」
ちょっと何がどうなったのかいまだによく理解していない。でもたぶん、これが「やりたいこと」が「できる」に変わった瞬間なのだろう。コンセプトどおりだ。たぶん。
本当にこうするしかなかったんだろうか。今でもそう思う。
そんなこんなで、ちょっと理解が追いつかない点がまだありますが、とりあえず鹿児島にやってまいりました。桜島です。
おー、桜島だなーと眺めていたらドーンと噴火したのでビックリしました。なにより周囲の人が噴火に関して全く気にもとめておらず、いたって普通、そういうものかよ、と驚きました。
1995年(平成7年)のことでした。九州自動車道が全線開通し、鹿児島から青森までが一本の高速道路で結ばれることになり九州と本州が一つになったのです。すごいですよね。ずっと高速に乗ったまま鹿児島から青森まで行けるんですよ。
そんな、2000キロを超える長大な高速道路において、やはり休憩施設は外せません。そこで食べる食事はワクワクしてきますし、土産物の売店なども心躍るものです。
今回、そのSA全てでラーメンを食べる、という訳の分からないチャレンジをすることになったのですが、せっかくなので、「最も美味いラーメン」「最も高速SAのラーメンらしいラーメン」を決め、なぜ高速SAで食べるラーメンは美味いのかという謎に迫ってみようと思います。
なんか「高速SAのラーメン」ってイメージがないですか? 特にまずいわけでもなく、かといって絶賛するほどの美味いわけでもなく、けれども、なんだか記憶に残る、みたいなそういうイメージないですか。僕はあります。それがなんなのか、この旅で明らかにしていきたいです。
それにあたり以下のルールを制定しました。
1. 全てのSAでラーメンを食べる
高速道路には二種類の休憩施設があります。それがSA(サービスエリア)とPA(パーキングエリア)と呼ばれるものです。一般的に、サービスが充実しているのがSAといわれていますが、近年ではその境界は曖昧になっています。
かなりサービスが充実していて、SAかよと言いたくなるレベルのPAもあり、そこでもラーメンを提供しているとは思いますが、今回はSAに絞らせていただきました。PA入れたら気が狂うレベルになるので。基本的に50キロに1つの目安で整備されているSAでラーメンが提供されている場合は、それを食べます。それだけです。
2. 残しそうなときはパスしていい
連続でラーメンを食べるわけですから、中には「ちょっと満腹で食べられないな」という場面も出てくると思います。その場合は、非常にもったいないし失礼なので最初からパスをしてよいこととします。逆説的に言うと、頼むということは残さず食べるということです。
3. 交通法規を守って明るく楽しく
当たり前ですが、制限速度など交通法規を遵守します。運転中の画像撮影はご法度ですので、ダッシュボードに固定したスマホによるインターバル撮影を用いています。
それでは、ルールを守ってスタートです。
1日目
10:00 鹿児島IC(鹿児島県) 走行距離 0 km
さて、長い長い高速道路の始点に当たる「鹿児島IC」だが、明確にここが鹿児島ICだぞという場所がないようだ。本来なら料金所なり入口なりの明確な場所があるが、終点であり始点という特性上、料金所はかなり進んだ先にあるようだ。
ただし、この辺が高速道路の始まりだろう、みたいな場所はある。ここを曲がったら高速道路だぞという表示があったので、ここを旅の始点とした。ちなみに移動手段はレンタカーです。
10:21 桜島SA(鹿児島県) 走行距離 22.6 km
すぐに最初のSAがやってくる。「桜島SA」だ。桜島の名前を冠しているが、桜島にあるとかそういうわけではない。頑張れば桜島を望むことができるという位置にある。西郷隆盛の顔出しパネルがちょっとした悪夢かってくらいある。
この雰囲気。これだよ、これ。この雑多な雰囲気の中で食べるラーメンが最高なんですよ。
おまけに、現在は朝の10時半、今日は死ぬほどラーメンを食べることが予想されるため、前日の夜から食事を抜いていました。かなり空腹なので早くラーメン食べたい! もう我慢できない! とケロッグのごとく駆け寄りました。
ラーメン! ラーメン!
ラーメン、なかった……。
メニューは「うどん」や「そば」が中心で「ラーメン」の影も形も存在しない。「ラーメンが存在する場合食べる」というルールなので、存在しないので食べない。初っ端からこんなことになるとは思わなかった。
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とにかく、ないものは仕方ありません。目が回りそうなほどの空腹を携えて、再度、車を走らせます。
新日本プロレスのバスが追い越していった。前日の鹿児島大会を終えてこれから移動するのでしょうか。なんにせよ、すごい速度で爆走していた。
11:28 山江SA(熊本県) 走行距離 98.2 km
桜島ICから1時間あまり、あっというまに宮崎県をかすめ、熊本県入りし「山江SA」へと到着した。山間に存在する比較的小さなSAだ。
ちょっと世界観がよくわからないオブジェが点在する。そんなSAだ。
完全に空腹だ。果たしてこのSAにはラーメンがあるのか。ちょっと小さいSAだし、どうやらセブンイレブンが入っている売店があるようだ。その大半をセブンイレブンが占めていて侵食されて本体みたいになっている。もしかしたらフードコート的なものがないのかもしれない。あったとしてもスナック軽食程度でラーメンないのかもしれない。そんな不安が脳裏をよぎった。そうなったらそもそもこれ、企画倒れになるんじゃないか。
あった。よかった。本当に良かった。企画も成立する。 建物の隅の方にやや狭めのフードコート的な場所があり、そこでしっかりと熊本ラーメンが提供されていた。
ラーメン001 熊本ラーメン 650円
濃厚な豚骨スープに中太麺、これが熊本ラーメンの特徴だ。この山江SAの熊本ラーメンは、濃厚な豚骨であるが麺はやや細いように感じた。特に麺の上に乗せられた「もやし」のしゃりしゃり感が心地よく、濃厚なスープに絡んで美味しかった。空腹も手伝って簡単にペロリである。
■
次のSAに向けて走り出す。まだまだ空腹なのでぜんぜんいけそうだ。
この人吉から八代の間を走る区間は、トンネルが23個連続で登場してくるトンネル地帯としても有名だ。その中には6キロや5キロと尋常じゃない長さを誇るものもある。これらの長距離トンネルの手前にはトンネル通行用に信号機がある。高速道路なのに信号機があるのでちょっとした違和感を覚える。
僕は1995年当時のニュースを薄っすらと覚えているのだけど、たしかこのへんのトンネルが開通したことによって鹿児島から青森までが高速道路で繋がったはずだ。つまりここが最後に繋がった場所。それだけ難所の工事だったのだろう。
23個連続のトンネルが終わると熊本県の八代市の市街地が見えてくる。パッと視界が開けるので印象的だ。
12:24 宮原SA(熊本県) 走行距離 137.4 km
3つめのSA、熊本県内においては2つめとなる宮原SAは混みあっていた。お昼の時間ということでSA自体はけっこうな賑わいを見せていたが、その反面、フードコートはそこまで混んでいる感じではなかった。中央下部の看板に堂々と「熊本ラーメン」と書かれているので仕方がないことだが2連続で熊本ラーメンを食べることになりそうだ。
ラーメン002 熊本ラーメン 680円
同じ“熊本ラーメン”であるが、先ほどの山江SAのものとは大きく異なる。おそらく同じように豚骨スープがベースになっているが、こちらはその白濁した色が茶色くなるくらい鶏がらスープが投入されているようだ。より、濃厚な味わいになっている。さらには、そのスープに負けないように麺も太くなっている。これがスープと絡むことによって、なかなか深い味わいを演出している。とても美味だったが、さすがに短い時間でラーメン2杯はけっこうくるものがある。なかなか厳しい戦いになりそうだ。
■
腹が満たされた感じになりつつ次のSAを目指す。地図によると次のSAは「北熊本SA」である。完全に悪い予感しかしない。名前からいって明らかに熊本に属するSAだ。ということは9割以上の確率で“熊本ラーメン”がでてくるはずだ。さすがに濃厚な熊本ラーメンを短時間で3杯連続はかなりやばい。とんでもないことになりそうだ。
まだ運転を始めて3時間程度だが、本格的に高速道路の景色に飽きてくる。ずっと変わらない景色、濃厚な熊本ラーメンで胸やけ。予想以上に厳しい戦いになりそうだ。
13:41 北熊本SA(熊本県) 走行距離 184.0 km
北熊本SAに到着した。
気のせいかもしれないが、降り立った瞬間に熊本ラーメンの匂いがした。完全に嗅覚が鋭敏になっている。絶対にある。ありやがる。
やっぱりあった。
ラーメン003 熊本ラーメン 700円
気づいてしまったのだけど、高速道路を北上するにつれて650円→680円→700円と同じ熊本ラーメンでも徐々に値段が高くなっている。そして、北上するにつれてスープが濃厚になり、麺が太くなっている。何か理由があるのだろうか。この麺はかなりツルツルしていた。同じ熊本ラーメンでも随分と違うんだなあと実感した。熊本ラーメンはとんこつがベースにあるはずだけど、これは特にとんこつの風味が少なかった。独特の進化を遂げた結果なのかもしれない。これも3連発の成果だ。連続して食べたからこそわかる違いだ。
少し食べるペースが落ちていて、かなりきつい、食べきれるだろうか、とゆっくりと食べていると隣のカップルの会話が耳に入ってきた。
「わたし本当に熊本ラーメン好きなんだなあ」
「佐和子はさ、ほんといつもそれだよね」
「うん、わたし熊本ラーメン大好き! 何杯でも食べれちゃう!」
ゼッタイだな。本当に何杯でも食べられるんだな。言っておくけど、熊本ラーメン3連発、かなりきついからな。3杯でこれだぞ、え? お?
あんなヒョロヒョロの体で3杯食べられるか。おまけに佐和子、ちょっと残しとるし。なんなんだよお前は、と憤りつつ、なんとか完食。次も熊本ラーメンだったら絶対にパスする。
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さて、次のSAめがけて走り出す。ここで大きな認識の変化があった。
「スピード違反しちゃったらどうしよう」
僕はけっこうせっかちな性分なので高速道路で気づいたらスピードが上がっているなんてことがある。だからスピード違反をしないように気を付けようと考えていた。けれども、こういう旅をしてみて分かる。ゆっくり走るのだ。
これは“SAに到着したらラーメンを食べる”というルールのためだ。つまり、いま到着したら食べきれない、という満腹感のためなんとかインターバルをとろうとゆっくり走るのだ。かなり安全に、ゆっくり、移動していく。
14:48 広川SA(福岡県) 走行距離 232.6 km
ついに熊本県が終わり、福岡県入りである。やった、熊本ラーメンじゃなさそう。
なぜだか分からないけど、フードコートはめちゃくちゃ空いていた。もう3時になろうかと時間で、昼食と夕食の谷間の時間だからなのかもしれない。
やった、久留米ラーメンだ!
ついに熊本ラーメン地帯が終わり、久留米ラーメン地帯へと突入した。呪縛が解かれた。
ラーメン004 久留米ラーメン 830円
また北上したことによってラーメンの値段が上がった。こりゃ青森に到着するころには3000円くらいになってるのかもしれない。
やや太めで硬めのストレート麺に濃厚なとんこつスープ、というものが久留米ラーメンの特徴だ。またもや濃厚とんこつか、とちょっと怯んでいたら、意外なほどあっさりな味わいだった。まるで塩ラーメンを食べているかのようなすっきりとした塩味に、あっさりと後を引かない味わい。3連発熊本ラーメンで慣らされていたという事情もあるのだろうけど、かなり新鮮な味わいだった。一気に食べた。久留米ラーメン素晴らしい。
■
広川SAを後にし、またもやインターバルをしっかりととるためにゆっくりと車を走らせていく。福岡や北九州などの大都会が近くなってきたので、交通量もかなり多い。おそらく次の古賀SAが九州最後のSAになるだろう。
16:38 古賀SA(福岡県) 走行距離 291.7 km
古賀SAははちゃめちゃに大きなSAだった。色々と充実しすぎだろうという場所だ。駐車している車の数も多いし、行き交う人も多い。あと、お店も多い。
かなり広いフードコートがある。
博多ラーメンのお店がある。
まさかSAの中で自家製生麺を作っているとは思わなかった。けっこう手間がかかってそうだ。
ラーメン005 博多ラーメン 700円
博多ラーメンの特徴としては、真っ白いとんこつスープに極細麺というものだ。基本的に替玉を前提とした趣のあるラーメンが多い。
ややとろみのあるミルキーなスープ、博多ラーメンとしてはちょっと太いかなと感じるラーメンだったが、全体的にあっさり目に仕上がっているので本日5杯目のラーメンでもしっかり食べきることができた。ただ、王道的な博多ラーメンとは少し違うのかな、と感じた。博多以外で食べる博多ラーメンのごとき印象だ。
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さて、これで九州のSAは終わり、次からは本州のSAを攻めていくことになる。ちょうど福岡県と山口県の境である関門海峡に差し掛かったところで日が暮れてきた。
関門海峡大橋の隣にある「めかりPA」から望む。ちなみにこのPAは絶賛工事中で簡易店舗で売店などの営業を行っていた。工事前はレストランなどもあったようだが、この時は営業していなかった。
と、九州を駆け抜けたところで第1回は終わり。果たして本州ではどんなSAラーメンが待っているのか。果たして食べきれるのか。いつ青森に到達するのか、夕日を眺めながら考えた。
山口県入りした。すっかり日が傾いていて、前に臨む山々がうっすらとオレンジ色に輝いていた。
九州から山口に入るとガラッと景色が変わる。相変わらず山々に囲まれてはいるのだけど、その山々の形が違う。九州は切り立った山で、仙人が住むみたいな形をしたものが多く、山口はゆったりしたものが多い。山の成り立ちが違うのだろうか。
思えば、ここまで食べたラーメンは5杯。普通に3食をラーメンにしたと思えば1日に3杯食べるので、ちょっと頑張って2回おかわりした程度のものだ。なのにこの満腹感はなんだろうか。たぶん間隔の問題なのだと思う。
高速のSAは概ね50キロに1つあるように設計されているらしい。時速80キロで走行したとすると38分くらいで次のSAに到達する計算だ。38分間隔でラーメンを食べる。これは、まあまあの悪夢だ。
ただ、ここ福岡と山口の境の部分はちょっとSAの間隔が空く場所のようだ。なんとかこのインターバルを利用してラーメンを消化すべきである。というか、走行部分がインターバルになるとは思わなかった。
18:52 美東SA(山口県) 走行距離 398.8 km
美東SAに到着する頃にはすっかりと日が暮れていた。古賀SAで博多ラーメンを食べてから2時間以上経過しているので、まあまあお腹が減ってきている。やはりインターバルは大切だ。
お土産物が大充実のSAだ。なぜか宝くじ売り場まで存在する。高速道路運転中に「やっべ! ロト6買わないと!」となった人でも買えるという親切設計だ。僕はこれまでの人生でそういう状況に陥ったことはないけれども。
フードコートに移動すると、そこには「ラーメン花月」が入っていた。全国的に展開するかなり大きなチェーン店だ。
うそだろ、東京でいつも食べてるチェーン店じゃないか。
花月のラーメンはけっこう濃厚なので、今回の旅においては深刻なダメージを負いかねない。おまけに、いつも昼食に食べているものだ。山口県のSAにきてまで食べるのが正解のだろうか。ちょっとだけ困惑した。
ラーメン006 げんこつ花月ラーメン 700円
完全に濃厚。明らかに濃厚。いつもお昼に食べている味だ。麺が太くて固い花月独特のものだが、それに負けないようにスープも濃厚であり、力を力でねじ伏せるみたいな麺とスープの戦いを堪能できる。早い話、味わい深い。完全にいつもの昼食の味で、東京のことを思い出した。なんでおれ、こんな場所でラーメン食い続けてるんだろう、と少し寂しい気持ちになった。美味しいのだけど、この濃厚さはかなり深刻なダメージだ。
さて、すっかり日が落ちてきたが、どの時点で1日目の旅を終了にするのか決めておかなくてはならない。基本的にSAでの車中泊になると思うが、明日も運転してラーメンを食べ続けるのでできればしっかり休みたい。
この旅はSAでラーメンを食べるという鉄の掟がある。寝ている間にラーメンを消化したいので、できれば消化の良さそうなラーメンを食べた後に車中泊と行きたい。寝る前にあまり濃厚なものは勘弁。その点では、ここ美東SAはだめだ。濃厚だ。まだまだ先に進まなくてはならない。
ちなみにこの美東SA、けっこうオシャレな造りになっている。あちこちにオシャレな柱とかがある。
ただ、このトリックアート的なパネルはちょっと意図が分からなかったな。
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すっかり闇夜と化した高速道路を走っていく。途中、中国地方のど真ん中の内陸を走る「中国道」と瀬戸内海側を走る「山陽道」に分かれる分岐があり、別にどちらに行っても到達する場所は同じなのでどちらでも良かったのだけど、なんとなくで「山陽道」を選んだ、すると、すぐに佐波川SAがやってきてしまった。
さすがに間隔が短すぎる。まだあの濃厚ダメージから回復しきっていない。さっきの美東SAから24キロくらいしかない。ラーメンを食べ続ける人のことを全く考えていないSA間隔だ。中国道を選んでいたら違っていたのだろうか。
19:45 佐波川SA(山口県) 走行距離 423.1 km
またもや売店部分にセブンイレブンが入っている侵食タイプのSAだ。こういったタイプのSAはかなり増えている印象を受けた。もう夜の8時を前にしているという事情からか、駐車場にはたくさんの大型トラックが停車していた。おそらく、早めに休んで明日に備えるのだろう。
SAの端っこの方に「シャワーステーション」なる建物があった。どうやらお金を払ってシャワーを浴びるワンコインシャワーみたいなものと、コインランドリーが合体した施設らしい。もちろん一般の人も使えるのだろうけど、ちょっとトラック運転手さんたちの御用達みたいな感じになっていた。だからトラックがたくさん停まってるのか。謎が解けた。
けっこう妥当な値段だし、一日中ラーメンを食べ続けて体中からラード的な臭いが立ち込めている可能性もあったので浴びていこうかと思ったのだけど、そこそこに順番待ちをしている感じなので諦めた。それよりラーメンである。
なぜか心霊写真みたいな画質になってしまったけれども、このフォルムは完全に吉野家。ガチで牛丼食いてえという人生において経験したことのない“牛丼渇き”状態に陥ったのだけど、ラーメンを食べなくてはならないのだ。それがルールだ。
ここ、佐波川SAの売店にはセブンイレブンが入っている。そして吉野家もある。その逆サイドにフードコート的な場所がある。
「それにしても、さっきの花月の濃厚さ……」
ほんの20キロほど手前で食べた濃厚な花月が尾をひいている。食べきれるかなあと不安がっていると、とんでもないことが巻き起こった。
「お?」
「まさか……?」
「うそ……うそ……まじ?」
ついついそう呟いてしまう。
ラーメンがない。
うおおおおおおおおお! ラーメンが! ラーメンがない!
定食中心のお店で、特に海の幸を推してる感じの店ばかりでラーメンの影すら存在しない。
「なんだよ、ラーメンないなら仕方ないわ。ほんと、仕方ないわ、残念、ああ、そうかー、ないのかー」
うきうきと車を走らせた。ほんと、ないなら仕方がない。
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途中、反対車線でアクロバティックな事故を起こしているのを目撃してしまったので、しっかりと気を引き締めなおして運転する。
20:29 下松SA(山口県) 走行距離 465.5 km
下松SAに降り立った瞬間に、なにやら気配みたいなものを感じた。ラーメンがないかもしれないというオーラだ。こう、ラーメンがあるSA独特のヒリついた感じがしない。もしかしたら二連続ラーメンなしもありえるかもしれない。なんだよー、まいったな。そうかー、まいったなー。
普通にあった。オーラとかヒリついた感じとか、全くあてにならない。
しかもラーメンは「ねぎラーメン」か「九州とんこつラーメン」の二択っぽい。九州とんこつはここまで嫌というほど食べてきたので「ねぎラーメン」を選択する。
ラーメン007 ねぎラーメン 730円
「ねぎラーメンってねぎいっぱい乗ってるんだろ」と想像していたよりいっぱい乗っていてビックリした。味わい的にはスープをかなりあっさり目にしてあり、麺も超細麺になっている。ここまで味わってきたものと随分違うので一気に食べきることができた。
ねぎに混ざるようにして細切りにされた鶏肉が入っており、いいアクセントになっている。黒コショウで味付けをしてアクセントをつけているので飽きも来ない。いわゆる、酒を飲んだ後に食べたくなるラーメン、というやつだ。ずっと運転中なので酒は飲めないのだけど。なかなかさっぱりな味わいで良かった。
ちなみに、ここ下松SAは山口県だが、そろそろ広島が近いということで広島カープの勢力圏に入るらしく、カープグッズが売られ始めていた。
■
かなり理想的なさっぱりさで、これならここで寝ても胃にダメージが少ないだろうと考えたが、もうちょっと行けそうな気がしてきた。それは疲労的な意味合いでもうちょっと運転しても大丈夫ということではなく、もう一杯くらいならラーメン食べられそう、という意味だ。
なので、なんとか頑張って車を走らせる。意気揚々と走らせるとすぐに広島県入りし、宮島SAへと到達した。
21:50 宮島SA(広島県) 走行距離 524.1 km
やはり精神的に疲れていたんだと思う。運転距離も500キロを超え、スタートから12時間。ずっとラーメンを食べ続けているわけだ。胃だけが問題、と言い続けていたが精神もすり減っていたのだろう。
一連の流れでは、SAに到着したらまずSA外観の写真を撮影していた。なのにかなり疲れてるのかな、SAにいた猫の写真しか撮っていない。なにやってんだろう。この時の僕、なにやってたんだろう。
いよいよ疲労マックスで運転にもラーメンにも支障をきたしそうなので、一日で広島までいけましたか、あとは車中泊でも、と考えていたら目の前にマハラジャみたいな輝きの看板が見えた。
これ、もしかしてホテルなんじゃないの。
SAの駐車場の片隅にあったそれは完全にホテルだった。「ファミリーロッジ旅籠屋(はたごや)」という全国チェーン店(http://www.hatagoya.co.jp/)らしい。なんと、ここ宮島SAと壇之浦PA(九州方面のみ)、佐野SAにはこのホテルがあるらしく、高速から出ることなく宿泊できるらしい。他にも旅籠屋チェーンではないが、多賀SA、足柄SAにも宿泊施設があるようだ。
これはもう泊まるしかないだろう、ということで駆け込んでみたら奇跡的に空室があった。そこまで部屋数が多いわけではないので、週末や行楽シーズンなどのピーク時はすぐ満室になりそうなので要予約だ。
宿泊人数で料金が変わるシステムらしく、1名で宿泊の場合は5,000円とクソリーズナブルだった。
これが5,000円の部屋かよ。充実すぎるでしょ。
ちなみに、チェックインの際に「目的地をお書きください」と言われたので、「青森」って書いてやろうと思ったが、ちょっとそれは狂ってる感じがするなと「東京」と控えめに書いておいたら「めちゃくちゃ遠くまで行きますね!」とホテルの人が驚いていた。よかった「青森」って書かなくて。
取材でこういったホテルに泊まるとテンションが上がるもので、荷物を置いてうひょー、夜の街に繰り出すぞー、地元の名物を食べるぞー、ってなるわけです。今回の僕もご多分に漏れず荷物を置いてうひょーとホテルから飛び出したのですが、
いけるのはSAのみ。高速内のホテルですからね。外には出られないわけですよ。 そして食べるのはラーメンのみ。ルールですからね。これしか食べられないわけですよ。 これまたなかなか濃厚そう。
ラーメン008 尾道ラーメン 650円
広島県の尾道市を中心としたご当地ラーメンだ。豚の背脂を浮かせた醤油ベースのスープと平打ちの麺が特徴とされている。味わってみると、確かに濃厚な味わいだが同時に正統派の醤油ラーメンであると感じる。若干、麺がやや太いと感じるが、そこまでミスマッチというわけでもない。九州からここまで豚骨系が続いてきたが、やはり個人的感覚としては高速SAのラーメンは醤油系の味である、と確信した。
ここ宮島は完全に広島なので、これでもかというくらいに広島らしい一角がある。
なんとかホテルにも泊まれたので疲労を回復しつつ、ラーメンも消化していき、明日も先に進んでいきたいと思いながら、一日目が終了となった。果たして明日は何杯のラーメンを食べることになるのか。
2日目
5:30
早朝5時半より出発だ。このファミリーロッジ旅籠屋は、無料の朝食が付いていてちょっとしたパンやコーヒーなどが準備されている。是非ともその恩恵にあずかりたかったのだけど、朝食は6時半だったか7時から開始らしいので、諦めた。まだまだ先だ。
ひっそりとチェックアウトする。そもそもここでパンを食ってしまったら後々のラーメンに響く。そう、ラーメン地獄がまた始まるのだ。
朝焼けの中を爆走していく。
それにしても、昨日の夜、無理して宮島SAでラーメンを食べたのは完全に正解だった。ホテルにチェックインした直後に夜の街ならぬ夜のSAに繰り出して食べたのは正解というほかない。なぜなら、あそこで食べておかなかったら寝起き状態で食べることになっていたからだ。あの濃厚ラーメンを寝起きすぐはなかなかハードだ。
6:31 小谷SA(広島県) 走行距離 580.3 km
朝焼けの中、小谷SAに到着した。1時間くらい走行したし、ここらで朝食だ。まあ、食べるものはラーメンなのだけど。
早朝から人が多く活気がある。スタバがあったり、パン専門店が入っていたりとなかなか充実したSAだ。
メニューを見ると、どうやら「尾道ラーメン」と「広島ラーメン」の2種類があるらしい。「尾道ラーメン」は昨日の夜に宮島SAで食べたのでここは「広島ラーメン」をチョイスする。
ラーメン009 広島ラーメン 650円
一言でいってしまうと“濃厚”。完全に“濃厚”。とにかく“濃厚”。たぶんここまで食べたラーメンで一番の濃厚さ。もともと広島ラーメンとは醤油とんこつをベースとした比較的あっさり目のあじわいという印象だったが、ここでは独自のアレンジがあるらしく、かなり醤油寄り、それでいてかなり濃厚という感じになっていた。かなり満足度が高く、これを昼食や夕食に食べれば「いやー満足」となる味わいだが、いかんせん、朝に食べるものではない。
さて、こうして濃厚ラーメンを食べているとフードコートの入口あたりの座席から話し声が聞こえてきた。見ると、エグザイルがそのまま年老いたみたいな、年齢層高めのコワモテ集団が大騒ぎしていた。
「キタキタキタ!」
「おお、キタキタキタ!」
何がキタのか知りませんけど、大声を出してるわけですわ。エグザイルのサングラスの破片から生まれてきたみたいな風貌で、大騒ぎしている。嫌ですよね、こういうの。なんだか怖いですし。
その怖そうな感じから何かのギャンブルに夢中になっている感じがしたんですね。時間的に早朝ですから、日本の競馬とかではないと思います。海外のブックメーカーあたりに多額の金を賭けていてヒートしていたみたいな感じがしたんです。それぐらい無法な感じがした。
「こわいなあ」
とか思ってその様子を眺めていたら、そのうちの一人が言うわけですよ。
「でたでた! ついにキティちゃんでた!」
なんかガチャガチャ的な何かをしていたのか、かわいいキティが出たと大騒ぎしているわけですよ。怖そうな連中が。
「やったな、青タマゴちゃん!」
おまけにそのうちの一人、金のブレスレットしてるやつのニックネームが「青タマゴちゃん」というややカワイイ寄りのものであると判明し、どういう経緯でそういうことになったのか気になって仕方なかった。
さて、淡々と次のラーメン目指して高速道路をひた走るのみである。朝の時間もやや深くなってきて、車が増え始めてきた。ちょっとずつ流れの悪い場所がでてきたりして、プチ渋滞みたいになることもしばしば。
それにしてもかなり体がギチギチだ。昨日から狭い運転席に押し込められてずっと運転しているので、体が固い。ここらでパーッと運動でもして体をほぐしたい気分だ。
7:32 福山SA(広島県) 走行距離 630.8 km
体を動かしたいなあと強く念じながら運転していると福山SAに到達した。このあたりはSA設置の理念通り、だいたい50キロ間隔の設置みたいだ。
画像を見ても分かる通り、絶賛改装工事中のSAだった。一瞬、「休業中ならラーメンを食べなくてもいい」という光明が差したが、画像を見ても分かる通り、誇らしげに「営業中」の看板が掲げられていた。
このSAがある福山市は、バラが有名な街なのでSA内にもバラ園があったりする。こうやってみると、SAってのはけっこう地域性が高く、いろいろなものがある。一つとして同じSAはないのだ。
ドッグランまである。車の中で欲求不満になっている犬を運動させるのだろう。僕も完全に欲求不満なのでここで運動してやろうと思ったが、さすがに犬専用っぽいのでやめておいた。
こういったふざけたスポットもある。恋人たちが薔薇で作られたハート形のモチーフの前でラブラブ記念写真を撮れる場所だ。現に、ドライブデート中のカップルが朝もはようからやってきて撮る撮らないでいちゃいちゃしていた。
「やだあ、恥ずかしい」
「撮ろうよ、記念だし」
「三脚とかないと無理じゃん」
「その辺のおっさんに撮ってもらえばいいよ」
「やだあ、私のスマホ触らせたくない」
こんな会話があった。その辺は別にどうでもよくて、その辺のおっさんとしてはこの画像は極めて重要な情報を含んでいる。
これ。
このSAには「ローズアベニューデリカ」ってのがあるよという案内なのだけど、よくよく見ると「おむずび」「パン」「たこ焼き」「お好み焼き」「からあげ」というラインナップ。そう、これは最重要情報だ。
「ラーメンがない?」
もしかしてここにはラーメンがないのかもしれない。それは大ごとだ。大変だあ。さあ、ここにラーメンなかったら本当に大変だなあ。さっきのSAでのラーメン濃厚だったからまだ残ってるなあ。そうかあ、ないのかあ。
ありました。
それも「大阪王将」だ。
さらにその奥にもさらにラーメン屋があったので、完全にダブルラーメン体制だった。誰だよ、ないとかいったの。あるじゃねえか。それもダブル。夢見させるようなこと言うな!
ラーメン010 中華そば 570円
二店舗あるということで、どちらを食べるかさんざん悩んだのだけど、両店舗を何度も行ったり来たりして検討した結果、大阪王将で食べることにした。その理由はあっさり味っぽいからだ。先ほどのSAからあまりインターバルがないので濃厚なものはマジできつい。そういった理由もあるが、あっさりめの味の方が理想とするSAラーメンに近いと考えたからだ。
食べてみると、やはり期待を裏切らぬあっさり醤油味で、麺の太さも適切、マジで全てがちょうどよかった。もしかしたら、全国にチェーン展開する「大阪王将」のこの味こそが理想のSAラーメンになるのかもしれない。そう思った。胃袋的にかなり苦しいが、あっさり系ならまだまだいけることを再認識したラーメンでもあった。
SA内にはマクドナルドもあった。マジ、マクドナルド食べたいな……。
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さて、気を取り直して車を走らせていく。情報によると次のサービスエリアもそう遠くないが、次からは広島県が終わり、岡山県になるらしい。いったいどんなラーメンが待ち受けているのか。ワクワクしていないけどワクワクしながら車を走らせた。
8:38 吉備SA(岡山県) 走行距離 692.3 km
ついに岡山県入りし、吉備SAへと到着した。そして、降り立った瞬間に分かった。
「ある」
このオーラは絶対にある。
SA内になぜかある五重塔みたいなものを眺めながら建物内へと入っていく。
けっこう大きなSAでお土産物も充実。画像上部に「セブン銀行ATM」っていう案内があるけど、これがとにかく多かった。昔は「あちゃー、金をおろしてくるの忘れたわー、高速降りるまで現金ないわー」と困ったこともあったが、今はかなりの頻度でこのセブン銀行のATMが設置されているので困らない。便利になったものだ。
ラーメン011 醤油ラーメン 750円
あっさりめの醤油ラーメン。こういった味わいが続くのは嬉しい。一瞬だけ魚介系統の味がしたので、これまでとは異なった醤油ラーメンなのかもしれない。麺はやや太い中太麺。ただ、この味わいならもう少し細い麺の方が合うのではないだろうか。あっさりめでくどくない味わいだが、値段が750円と考えると少し物足りない。というか、まだ朝の8時台だというのにもうラーメン3杯目だ。本当に大丈夫なんだろうか。胃袋。
早朝という時間だからだろうか、フードコート内は静まり返っていた。ただ、ずっとミスチルの音楽が流れていたのだけど、隣の青年が突如として「すてえええええええええええーええーええー」と歌い出したのでめちゃくちゃ怖かった。
■
これで岡山県のSAはおしまい。山陽道においては1つしかないらしく、次はもう兵庫県のSAだ。ついに関西まできてしまったことになる。延々とラーメンを食べて鹿児島から関西だ。なにやってんだろ。いや、ラーメンを食べているんだろうけど。
9:45 龍野西SA(兵庫県) 走行距離 756.9 km
兵庫県最初のSAである龍野西SAは緑豊かな場所だった。
緑豊かなスペースがあったりして、完全にWindowsXPみたいになっている。
もちろんしっかりとラーメンもあり、どうやら「龍野醤油ラーメン」と「赤穂塩ラーメン」があるらしい。どちらかを選択しなければならない。
「高速SAラーメンの基本は醤油ラーメンなのかもしれないな」
そんなことを言った舌の根も乾かぬうちに、ただ「あっさりそう」という理由だけで塩ラーメンを選択した。
ラーメン012 赤穂塩ラーメン 700円
なんだろう。ドンブリが六角形というだけでめちゃくちゃ意識高いラーメンに見える。
ここまでで初めての塩ラーメンということもあって、透明なスープにかなり心奪われる。おまけにチャーシューではなく“つみれ”が入っている。スープは王道的な塩ラーメンの味わいだが、やや味が薄いように感じた。かなりダメージを受けている今の僕には嬉しい薄さだが、通常だったらやや物足りなく感じるかもしれない。麺に絡めた場合はやはりスープの薄さが気になるが、つみれを食べると妙にマッチする。麺ではなく、つみれに合わせて作った濃さなのかもしれない。美味しいが、やはりSAラーメンは醤油ラーメンかなと再認識した。
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■
ちょっとラーメンのペースが速すぎる。胃がはち切れそうな勢いだ。このままでは大変なことになりそうだが、僕にはちょっとした打算めいたものがあった。
ついに兵庫県入りし、このまま関西地方へと突入していく。さらにはその後、愛知方面へと抜けていくわけだ。そうなると、これまでとは違って大きな都市が連続する部分を走行することになるわけだ。
高速を走っていれば気が付くことだが、SAは地方にあることが多い。50kmに1つはある頻度と言っても、都市部はそうではない。なぜなら街中を高架道路で通行するような場所はSAほどの広大な土地を確保することが難しいからだ。
ということで、いま現在は50kmに1つ程度のペースでポコポコとSAがあるが、ここからは減るんじゃないか。さらに、そこでルールで許されている“パス”を有効に使えばかなり胃袋に余裕ができる。何事も戦略的に考えることが賢い生き方だ。
そんな僕の戦略とは裏腹に、けっこう短い間隔で次のSAがやってきた。なんなんだよ。
10:52 三木SA(兵庫県) 走行距離 805.2 km
なかなか大きなSAだったが、お昼前の時間ということもあってか、人はあまり多くなかった。
阪神タイガースの勢力圏に入るらしく、ここからはタイガースグッズが売られている。
このSAに入っているラーメン屋はちょっと変わっているようで「世界一忙しいラーメン屋」という名前がついている。なんとなく興味をそそる店名だ。どうやらこれは関西でけっこう有名なラーメン会社がプロデュースするお店らしい。
ラーメン013 世界一忙しいラーメン 850円
あ、これは美味いわ。かなり好きな味だ。
余白の多いどんぶりの時点でかなり意識高いラーメンの印象を受けるが、味の方も意識高い。しっかりとした醤油ベースなのだけど、あっさりでもある二面性、味わった後にほのかに柚子の香りが漂う。これで入っていなかったら本当に恥ずかしいのだけど、絶対に柚子を隠し味にしていると思う。麺もしっかりとしていてスープの味にマッチしたベストな太さと硬さを選んでいる。正直、午前中だけで5杯目なのでいけるか不安だったけど、ペロリといけてしまった。ただお昼前という時間もあったのか、けっこう暇そうなおっさんが作っていたので、「世界一忙しい」わけではないのかもしれない。
そんなこんなで、かなり美味しいラーメンが飛び出し、限界を迎えつつある胃袋を携えて。いよいよ関西へと突入していく。次回はどんなラーメンが待ち受けているのか。
長かった山陽道が終わり、ここからややルート選択が複雑になりそうだった。僕の感覚ではここから中国道へと合流し、名神高速を経由して関西を渡り歩いていく感じだったが、どうやら中国道に合流することなく、新名神という新たにできたルートで一気にいけてしまうらしい。迷うことなくそちらを進む。
11:45 宝塚北SA(兵庫県) 走行距離 838.7 km
新名神に入ってすぐに宝塚北SAがやってきた。上り線と下り線共用のSAでかなり規模が大きい。おまけに、比較的新しいルートのSAなので、かなり新しく綺麗。かなり人がいて活気のある感じだった。
正直、完全に胃袋が限界で、ラーメンがあってもパスしようと考えていた。できればラーメンがないのが理想だけど、これだけでかいんだ、ないはずがない。
ちょっとしたショッピングモールみたいな趣がある。トイレもめちゃくちゃ綺麗で豪華で広かった。
ちなみに画面奥の方にペッパー君がいるのだけど、そのペッパー君をおばちゃんがめちゃくちゃどついていた。関西って怖いね。
ラーメン屋あるかなあ、と探していたらリボンの騎士が出迎えたりしてくれた。調べてみたら宝塚市の観光大使らしい。
けっこう探したがラーメン屋が見当たらなかった。これだけデカいのにもしかしてないの? とちょっと期待する自分がいた。いい加減、あまりに旅の目的を見失いすぎだ。それでも注意深く探す。
あった。
赤い看板のところにしっかりと「NOODLES」って書いてありやがる。どう考えてもラーメンだ。
それも神座じゃないですか。近畿地方を中心に展開するチェーンで、東京にもいくつか店舗があるお店だ。こうやって名店や有名チェーンが高速SAに入るケースがかなり増えているようだ。
本当なら胃袋が限界なのでパスを考えたが、高速SAでの神座を食べてみたいし、メニューに「おいしいラーメン」を謳っているのでどんなものか知りたくなり、食べてみることにした。
ラーメン014 おいしいラーメン 700円
思ってた以上に量が多い。これで700円というのだからかなりコスパが良い感じがする。スープはやや濃厚だけど、麺の太さと柔らかさは完全に好み。ただ一番の特徴は「白菜」。この白菜がスープを覆うほど大量に投入されていて、シャキシャキした歯ごたえが良い。よく味の染みた鍋料理の白菜を延々と食べられる感じだ。さらに、白菜から染み出た甘みがスープに溶けだしていて完全にマッチしている。ただ、本当に量が多いので、完全に胃袋の臨界値を超えた。もうこれ以上は何も食べられない。本当にやばい。
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完全に限界なのだけど、ここからは大きな期待を持てる地帯だ。ここから新名神を抜けていったん名神に合流し、さらに京滋バイパスへと入るルートを取る予定なのだけど、地図を見る限りほとんどSAがない。かなり期待が持てる。
現に、それらのルートには全くSAがなかった。ただ淡々と京都の街などを遠くに眺めながら高速道路を運転していくだけだった。
途中、滋賀県の草津という場所にかなり大きな施設があり、「SAか?」と焦ったけどよくよく見たら「PA(パーキングエリア)」だった。ビックリした。ルールではSAでのみラーメンなので、PAではラーメンを食べない。残念だけど食べない。
結局、次にSAが到来したのはまた新名神に入ってしばらくした滋賀県の土山という場所だった。
13:31 土山SA(滋賀県) 走行距離 944.7 km
前の宝塚北SAからかなりの距離があり、距離にして100kmあまり、1時間40分くらいインターバルがあったのだけど、胃袋の中のラーメンをまったく消化できていなかった。完全にまだまだ満腹だ。
ここ土山SAもなかなか大きいSAだ。
フードコートもかなり規模が大きい。いやー大きいですなーと眺めていたが。ここであることに気が付いた。上の画像を見て欲しい。各店舗の上部に分かりやすく何のメニューがあるのか表示されているのだけど、よくよく見て欲しい。「定食・丼」「うどん・そば」「ちゃんぽん」とある。
「ラーメンがない?」
とても食べきれる胃袋状態ではないので、ちょっと光明が差した気がした。けれども、券売機を見るとそこには衝撃の事実があった。
ある……。
それも、「黄金和風ダシをベースにしたシンプルで懐かしい味わい、黄金しょうゆラーメン730円」だ。かなり好きな感じだが、本当に申し訳ない。無理。絶対に残す。ということでここではこの旅において初となる「パス」を使うことにした。本当に申し訳ない。無理なんだ。すまん。
■
さて、ここでパスをかましてしまったが、連続パスはあまりよろしくない。なんとかラーメンを消化し次のSAでは思いっきり食べたいものだ。
ここからはなかなか難しいルートを通る。このまま新名神を突き抜け、伊勢湾岸自動車道に入り、そこから東名か新東名かに入っていいく。名古屋という大都市を通過するので、おそらくSAはない。ここで一気にラーメンを消化してしまう作戦だ。
名古屋の街が見えてきて、正面にあれレゴランドじゃないの? という特徴的な建物が見えてきた頃に、少しだけ雨がぱらついてきた。
14:45 刈谷PA(愛知県) 走行距離 1023.5 km
途中、どでかい休憩施設があったので立ち寄ってみた。ついにスタートからの走行距離が1000 kmを超えた。
高速道路の休憩施設なのに観覧車があるという凄まじさ。とんでもなくすごい場所だった。ただ、ここの名称は「刈谷PA」だ。PAだ。こんなにでかくてすごいのにパーキングエリアというのだから、もうサービスエリアと境界は曖昧なのかもしれない。
外から見ていて完全にラーメンがある感じだったけど、ここはSAではなくPAだ。ルールでは通過した全てのSAでラーメンを食べる、なのでPAでは食べない。ちょっと小腹空いてたからいけそうだったけどルールだから仕方がない。
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さて、問題はここからルート検討だ。ここからは東名高速を通るか、やや新しい新東名を通るかの二つのルート選択がある。別にどちらを通っても到着する場所は変わらないので好きな方を行けばいいのだが、ここで「SAを避ける」という観点が加わると新たなルートが出現してくる。なぜSAを避けるのかって? 避けなきゃラーメン食う羽目になるだろ。食う羽目になるだろ。なにいってんだおめえ。
手前にある分岐から東名にいくか、その奥の新東名にいくかとなるが、新東名に行くと、分岐してすぐに「岡崎SA」というまごうことなきSAが存在する。
まあ、宝塚北SAから考えてかなりインターバルがあるので、ここ岡崎SAでラーメンを迎え撃つことは可能だけど、先々のことを考えてここはパスしたい。それなら東名を行くのが正解となりそうだけど、東名に行くとしばらくして「浜名湖SA」という巨大な壁がそびえたっている。
結局、どちらを通ってもSAはあるわけじゃん。同じだね、と思うかもしれないが、そうではない。
浜名湖SAの手前に、新東名と東名を行き来するための道路があるのでこれを利用する。そうすると岡崎SAも浜名湖SAもパスできるのだ! なぜパスするかって? いったらラーメン食べなきゃならんだろ。常識で考えろ。
僕はこのルートをノーラーメンルートと名付けた。こんな風に好き勝手なルート使って高速料金とか大丈夫なのかと不安になったが、規定では出発インターと到着インターの最短ルートの倍以上の長さにならなければ基本的にどのルートを通っていもいいらしい。もちろん途中下車はダメ。ということでこのノーラーメンルートは合法なので迷わず行くことにした。
ちなみに新東名は試験運用中らしく、部分的に制限速度が120 km/hに格上げされている場所があった。
■
ノーラーメンルートといえども、全てを避けられるわけではないのですぐにSAがやってくる。あっという間に浜松SAに到着した。このノーラーメンルート、果たして効果があったのだろうか。
15:48 浜松SA(静岡県) 走行距離 1104.9 km
浜松SAはとにかく大きいSAだった。東京に近づくにつれてどんどんSAの規模が大きくなっている気がする。このSAにならラーメンがありそうだ。
途中、一度だけパスを使い、さらにノーラーメンルートで合法的にSAを避けたとはいえ、宝塚北SAから実に4時間ぶりのラーメンだ。完全に腹が減っている。全然いける。
これが浜松SAの案内図。さっそくチェックするのだけど異変が生じていた。そう、一見するとラーメンがない。普通、ラーメンがある店なら写真にでかでかと写しているはずなのに、それがない。ラーメンが、ない。
ラーメンがなかったらどうしようと考えながらも「もしかしたらありそう」という気持ちだけで「陳建一監修中華の達人」に向かうと、ありました、ラーメンと思しき写真が。 ただ、それもちょっと様子がおかしい。よくよく見てみると何かがおかしい。
「醤油湯麺」
タンメンと書いてある。そういえば考えたことなかったけど、タンメンってラーメンなのかな? これまでの人生においてはラーメンだろうがタンメンだろうが関係なかった。食べられれば良かった。見た目がラーメンならみんなラーメンだろう、同じ同じ、くらいに考えていた。けれどもこの旅ではその定義が重要となってくる。
「SAでラーメンを食べる」
これは裏を返せば、ラーメンでないなら食べなくてもよい、むしろ食べてはいけない、食べることを禁ずる、ということである。タンメンはラーメンであるか、その定義は重要だ。すぐにWikipedia(ウィキペディア)を調べた。
中華料理店やラーメン店で提供されることが多いが、野菜が入った塩ラーメンとは製法が異なる。単なる野菜ラーメンとも同義ではなく、一般にこれらとは異なる料理に分類される。(Wikipedia:タンメンより)
タンメンはラーメンではない。
ということで、実に4時間ぶりのラーメンと思われたが、ここでもスルーとなった。完全にノーラーメンルートだ。
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新東名では片側三車線化工事を随所で実施していた。これが完成すれば6車線になるわけで、とんでもない道路が完成してしまう。すごいなあ、でも腹減ったなあとラーメンへの恋しさを実感しながら車を走らせ、次のSAを目指した。
16:36 静岡SA(静岡県) 走行距離 1162.4 km
さらに立派なSAが登場してきた。やはり東京に近づくにつれてどんどんとSAの凄みが増していく。次のSAとかとんでもないことになってるんじゃないか。
さて、延々とラーメンを食べ続ける旅なのに、もう5時間もラーメンを食べていない。完全に空腹だ。とにかくここにはラーメンがあって欲しい。祈るような気持ちで突入した。
あ、一風堂がある。有名な博多ラーメンの店だ。
なぜかここ静岡に来て博多の味が復活してしまった。とにかく、福岡に逆戻りをしたような感覚を覚えつつ、5時間ぶりのラーメンにありついた。
ラーメン015 博多中華そば 860円
博多とんこつではなく博多しょうゆである。これがめちゃくちゃ美味い。極細の麺に超絶な味加減のスープがよく絡む。また、風味がかなり良いし、ほのかに香る何か。たぶんだけど、これも柚子の風味を足してる気がする。完全においしく、理想の味なのだけど、唯一の欠点を挙げるとすると「豪華すぎる」ということか。これぞSAラーメンというラーメンはここまで彩はいらない。なんなら海苔もいらない。もっと素朴な感じだ。そう考えると860円という値段設定も「素朴なSAラーメン」という観点でみると明らかに過剰だ。
■
やっとこさ腹が満たされ、東京に向かって走り出す。東京に近づくに連れてSAが過剰なまでに立派になっていく。こりゃ次のSAとかとんでもないことになってるんじゃないか、そう考えながら車を走らせると、とんでもないSAに到着してしまった。
17:51 駿河湾SA(静岡県) 走行距離 1221.4 km
これはやりすぎだろ。完全に城じゃん。宮殿じゃん。とんでもねえSAだ。
めちゃくちゃ多種多様な店が入っており、蔦屋書店とかまであった。あと、名前の通り駿河湾を見下ろす位置にあり、かなり眺めが良い。
ラブライブの何かも催していた。
ラーメンがこちら。駿州醤油ラーメンという分類らしい。
ラーメン016 駿州醤油ラーメン 750円
おそらく煮干し風味のスープだと思う。その魚介系の味があっさりめに仕上がっている。ただ、普通のあっさり風味と違い、やや濃厚に近い味わいがある。麺はとても太く、その濃厚なスープに負けないようにしているのだろう。パッと見た瞬間に“あおさ”が入ってていいですな! と思って食べてみたら海苔だった。ただ、それはそれで美味かった。山盛りになったネギの風味も良いアクセントになっている。美味しかった。
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このお城みたいな駿河湾SAで新東名のSAは終わり。御殿場から東名高速に合流し、東京を目指す。おそらく、都市部にSAはないの法則により東京近郊になるとSAがなくなり、一気に進めるようになるはずだ。
18:38 足柄SA(神奈川県) 走行距離 1247.5 km
東名高速に入ると一気に車の数が増えてきた。軽い渋滞を経ながら足柄SAに到達する頃にはすっかりと日が落ちていた。ここもかなり立派なSAだ。
なかなか意識高そうなラーメン屋が入っている。
メニューがこちら。
「醤油らぁ麺」「鹽(しお)らぁ麺」というラインナップだ。ここで果たして「らぁ麺」がラーメンなのかという問題が生じてくる。あくまでもこの旅は「ラーメンを食べる」という旅であり、あくまで「らぁ麺」は違うという、いやそんなことはない。こういうのはもうやめよう。これはラーメンだ。
ラーメン017 鹽(しお)ラーメン 880円
ここでは難しい漢字を使用している鹽(しお)ラーメンをチョイスさせてもらった。美味しそうだった。そしてこれがべらぼうに美味しかった。あっさり塩ラーメンってこういうもんだよねという王道的な味わい。澄んだスープが心地よい。麺はやや太めだが、決してスープの味わいを打ち消すものではなく程よいバランス。チャーシューがものすごく柔らかったのもポイントが高い。ただ、やはり高速SAラーメンは醤油だなあという感じ。じゃあなぜ鹽(しお)を頼んだのかと思うかもしれないが、美味しそうだったからだ。そして美味しかった。
ということで、ついに東京に近づいてきたが、ここからは圏央道を通って都心をパスしつつ東北道へと入っていく。おそらく僕の見立てではしばらくSAはない。
■
足柄SAを出ると、やはり大きな渋滞が起こっていた。この地点ではほぼ日常茶飯事に近い渋滞を抜ける。海老名では海老名SAの前で圏央道へと入り、やはり全然SAが存在しない地帯を通り抜けながらひた走った。
東北道に入り、最初のSAである佐野SAに到達する頃には夜も深い時間になっていた。
21:35 佐野SA(栃木県) 走行距離 1424.7 km
足柄でラーメンを食べたのが18時台なので、実に3時間余りSAが存在しなかったことになる。完全に目論見通りだ。
この取材をおこなった当時は、この佐野SAがたびたびニュースで取り上げられていた。経営陣と従業員が対立し、ストライキみたいになった、商品もほとんど陳列されていない、と大騒ぎになったあれだ。それなのでちょっと覚悟して立ち寄ってみたが、普通に日常のSAがそこにあった。どうやら揉めていたのは逆側の東京方面車線のSAのようだ。こっち側は完全に日常だ。
宮島SAで宿泊したあの旅籠屋(はたごや)がここ佐野SAにもあったので、2日連続で泊ってやろうと思ったが、まず、空室か満室かを示す電光掲示板が動いておらず、さらにこのホテルがめちゃくちゃ階段を登った先にあったので諦めた。
必死で登って行って「満室です」と言われたら嫌だからだ。問い合わせの電話もかけてみたが誰も出なかったので諦めた。まだまだ進もう。
ちゃんと土産物とかも売っている。
ラーメン018 佐野ラーメン 730円
佐野ラーメンは透き通った醤油スープという特徴を持つ。画像ではわかりづらいが、麺はやや平べったいちぢれ麺だ。これも佐野ラーメンの特徴だ。麺が少し柔らかすぎる感じがしたが、味自体は王道的な醤油ラーメンのそれで、実に理想の高速SAラーメンの味に近いと感じた。見た目的にも素朴な感じであり、理想に近い。
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旅籠屋には宿泊できなかったので、今日は車中泊になるだろう、ということでもうちょっと頑張って進んでみることにした。
東北道はちょっと不安になってくる闇が続く。それでも高速道路だけは明るく照らされているので先へ先へと進んでいく。宇都宮を過ぎて少ししたあたりに次のSAがあった。
22:45 上河内SA(栃木県) 走行距離 1477.7 km
上河内SAはなかなか立派で近代的な建物だった。2019年の3月にリニューアルオープンしたらしい。もう23時前と夜も深い時間のため人影はほとんどないが、それでも煌々と明かりを灯して営業していた。
常軌を逸してる量、と言って良いほど宇都宮餃子を販売していた。
ここまで18杯のラーメンを食べ、要所要所でお土産物を買っているので、ちょっと手持ちの現金が心許なくなっていた。それでも、どこかで述べたように、最近のSAではセブン銀行のATMが設置されていることが多いので安心である。ここ上河内SAにもあったので意気揚々と下ろそうと思った。
なぜか徹底的に封鎖されていた、画面を見るとATM自体は動いていて「カードを入れてください」とか表示されていたので稼働していると思うのだけど、悪魔を封印しているかのように閉鎖されていた。これを突破して金を下ろす勇気はない。
餃子の街といえどもフードコートにはしっかりとラーメンがある。ただ現金が心許ないし、なによりもう深夜で胃の動きが悪い。ここはパスか……! と思った瞬間、あるメニューが目に留まった。
レモンラーメン……?
レモンとラーメン、あまり聞いたことがない組み合わせだ。ちょっと興味があったし、なにより、画像的にも、説明文にも「あっさり」という感じがする。これまでの旅で「あっさりラーメンは楽に食べられる」という教訓があった。いくら深夜といえどもレモンラーメンならいけるんじゃないか。そんな打算があった。確かにあった。
ラーメン019 レモンラーメン 780円
スープを蓋するかのように輪切りのレモンが鎮座している。それに合わせてかスープも若干ではあるが黄色だ。さっそく食べてみる。あれ、これ、僕の味覚がおかしいのかな。最初に感じたのがそれだった。これは本当に申し訳ないけど、ちょっとラーメンにレモンを入れる意図が分からなかった。完全に合わない。好きな人は好きな味わいというのは分かるのだけど、これは僕には合わなかった。ベースとなる塩ラーメンの味わいとレモンが混ざっておらず、完全に別個に存在しているとすら思えた。
■
レモンラーメンならあっさりだし胃にダメージがないだろうと考えたが、結果として、この違和感がかなりのダメージだった。この後も次のSA目指して運転したが、ずっとレモンの何かが胃と食道に存在していて、完全に大ダメージだった。
23:50 那須高原SA(栃木県) 走行距離 1527.3 km
妙に立派な那須高原SAに到着してもそのレモンの違和感は消えずだった。
ということで、ここ那須高原SAにもラーメンはあり、「白河ラーメン」がいけるっぽかったけど、レモンのダメージによりパスとさせていただいた。今の状態ではたぶん食べきれない。ほんまにあかんかった。
ただ、距離だけは稼いでおきたかったので、さらに前進した。
0:55 安達太良SA(福島県) 走行距離 1593.1 km
安達太良SAに到着したところで深夜もいいところなのでここで車中泊とした。ここでのラーメンは明日の朝食とする。それまでにレモンのダメージから回復しておきたい。
車中泊はまあ慣れたものだが、SAの駐車場内でとった位置が悪かった。
安達太良SAの駐車場にはなぜかウルトラマンがいるのだけど、この自販機で誰かがジュースを購入すると、音楽と共に「ジュワ!」とか言い出す。よくみるとウルトラマンの下の台にスピーカーみたいな穴あるし。これがずっと誰かが購入する度に爆音で流れるので眠れない。車中泊する場合はこの自販機から離れるべきだ。
こうしてウルトラマンに悩まされながら、2日目の旅が終わった。めちゃくちゃラーメン食べた。
3日目
5:45 安達太良SA
ウルトラマンとレモンの夢を見たし、ウルトラマンの声で目が覚めた。完全に寝不足だ。
そして寝起きラーメンである。朝っぱらから店員さんたちがめちゃくちゃ元気良かった。まだレモンの残り香が胃の中にあるが、その元気さに負けてラーメンをオーダーしてしまった。
ラーメン020 安達太良ラーメン 660円
これはかなり理想の高速SAラーメンに近いかもしれない。まず見た目が素朴で良い。ちぢれ麺に決して濃厚ではないさっぱりめの醤油スープ。特にこれと言って飛びぬけた特徴があるわけではないが、全てが標準で、主張しすぎない。奇しくも朝食として申し分のない味わいだった。こういった味わいがおそらく求めている高速SAラーメンなのだと思う。代名詞にしてもいいくらいだ。
快晴だ。空も青く気持ちが良い。まだまだレモンが胃を侵食しているが、それでもかなり気分が良い。道路も空いていてスイスイ進む。あっという間に次のSAに到着した。
6:55 国見SA(福島県) 走行距離 1642.8 km
国見SAはまさにリニューアルの最中らしく大工事をおこなっていた。ほぼ建て替えみたいな工事らしく、片隅にポツンと仮設トイレがあった。他のSAも新しいものがあったし、東北道はこうやって順番にSAの改修を行っているのかもしれない。
この表示に色めきだった。
「売店・仮設トイレ」と書かれている。「売店・仮設トイレ」だ。そう、フードコートとか食堂、レストランとは書かれていないのだ。
「こりゃあ、ラーメンないかもしれないなあ」
期待が高まった。こんなにも軽いものだったのかと思うほど軽やかな足取りで売店へと向かった。ないのは分かり切っているが一応は確認だ。
フードコート、あった。
ラーメンもあった。
めちゃくちゃ狭いスペースにかなり強引にフードコートが設置されていた。絶対にラーメンを食わせてやるぞ、という断固たる意思みたいなものを感じた。
食券を買ってラーメンをオーダーすると、商品の提供を知らせるピーピーなるやつを渡されたのだけど、出来上がった瞬間に「12番の方~」とおばちゃんの大声で呼ばれるという、全くピーピーが活かされない謎のシステムだった。
ラーメン021 喜多方ラーメン 680円
醤油味ベースの澄んだスープが喜多方ラーメンの特徴だ。あっさり目の風味で麺は太いが柔らかい。そういった意味ではこのラーメンは喜多方ラーメンの基本に則ったものかもしれない。かなりあっさりとした味わいであり、本来なら太い麺にスープが負けてしまいそうだが、その麺もかなり柔らかくしてあるのでマッチする。この素朴な味わいが高速SAラーメンの王道じゃないかと思う。
ここにきて大変なことが起こった。40時間あまり延々とラーメンを食っているので、箸を持つ指にタコができたのだ。ちょっと前から、痛いなとか思っていたのだけど、ここにきて徹底的に痛み出した。
なぜなら、けっこう箸がボコボコしてたから。このボコボコがタコを刺激し、そのうち流血しそうな感じになっていた。胃の調子も大切だが、今後は指の調子も見ながら先に進んでいかなければならない。まさかラーメンで指を痛めるとは思わなかったな。
死ぬほど痛む指でハンドル操作をしながら東北道をひた走る。本当に痛い。
8:20 長者原SA(宮城県) 走行距離 1741.9 km
さきほどの国見SAからけっこう距離があったのでインターバルもばっちりだ。どんとこい、ラーメン。ここではおそらく修学旅行だと思うのだけど、ワーッとバスから大量の小学生が降りてきてトイレを占拠していたので、危うく漏らしかけた。トイレ行列に並びながら小学生たちも危機感のある会話をしており、
「漏れる漏れる、漏れちゃうー」
「漏らしたら人生終わりだろ! ギャハハハ」
と盛り上がっていたので、人生終わり、人生終わりと言い聞かせてなんとか耐え忍んだ。
ラーメン022 醤油ラーメン 680円
まず、安い。680円はかなりリーズナブルだ。値段が高くなる傾向にあるSAラーメンにおいて700円を切るのはかなり安い。味の方は、スタンダードな醤油味だが、スープには若干の“とろみ”がつけてある。
麺は普通麺であり、この“とろみ”によってしっかりと絡むので味わいが深くなっている。ネギとノリのアクセントも良い方に働いており、メンマのシャリシャリ感も申し分ない。なんだろう、東北のらーめんが僕の好みにあるのかな。東北道に入ってからヒット連発だ。
9:21 前沢SA(岩手県) 走行距離 1798.4 km
前沢SAは駐車場からちょっと小高くなった位置にあるSAだ。けっこう階段が続くのでその横にエスカレーターがあるのだけど、ラーメンの消化を促すために思いっきり階段を登った。
SAに到着するとまずフードコートのメニューを確認するクセがついてしまった。入口近くで確認する。
もちろんラーメンはあたりまえのようにご健在であったのだけど、それ以上に「タワー・オブ・マエサワ」めちゃくちゃ気になる。1200円もする。なんなんだこれは。
こんなやつらしい。めっちゃくちゃ食べてみたい。ラーメン以外の物を食べたいんだ。本当にラーメン以外の物を食べたいんだ。
ラーメン023 醤油ラーメン 520円
先ほどの長者原SAでの680円ラーメンにも驚いたが、今度は520円である。ここまでくると安すぎて不安になる。またもや透き通った醤油スープになり、麺は普通麺でやや縮れていた。全体的にあっさり目に仕上がっているが、これぞまさしくSAラーメンと言える味わいだった。
具や麺やスープに至るまで、全てが当たり前にそこに存在する。特に仰々しい主張があるわけでない味わい。けれどもそれが心地よい。やはり東北のラーメン、合うな。
肉くいてー。
食べるわけにはいかないので、ラーメンを目指して北上を続ける。もう岩手県に入ったので、目指す青森が近い。あと数個のSAを経れば到達するはずだ。
10:15 紫波SA(岩手県) 走行距離 1850.1 km
このSAも駐車場を激しく工事していた。やはり東北道全体でSAの改修が進んでいるようだ。
先ほどの前沢SAからそう距離がなく、インターバルは不十分だ。そんな状態で追い打ちをかけるように衝撃的ミステイクに気づくことになった。
もちろん、ここにもラーメンはあるのだけど、そんなのは問題じゃない。問題なのはこの「営業時間7時~22時」という表示。これはとんでもないミステイクだ。
もちろん、現時刻は10時なのでバリバリに営業している。僕は漠然と高速SAのフードコーナーは24時間営業、と考えていたが、どうやらここでは22時以降に閉店するらしい。ということは、22時以降にここにくれば合法的にラーメンをパスできたんじゃないか。営業してないなら仕方ないですわーってポロッと書くだけで済んだじゃないか。なにやってんだ。情報収集が甘すぎだ。
ラーメン024 醤油ラーメン 650円
オシャレな器にオシャレな盛り付けで出てきた。高く高く添えられた海苔がなんとも勇ましい。さながらタワー・オブ・紫波といったところか。味わいとしては、少し濃厚な醤油ラーメンといったところか。スープが濃厚だが、麺が細いので若干ではあるが麺が負けている感がある。
ただし、メンマがめちゃくちゃデカくて歯ごたえがある。メンマは完全にスープに勝っている。この辺りが調和しているともっと味わい深いものになりそうだ。そして、このラーメンで完全に胃袋が満たされてしまった。ここからかなり苦しい戦いになりそうだ。
11:09 岩手山SA(岩手県) 走行距離 1898.2 km
盛岡市を抜け、岩手山を眺めながら走っているとその岩手山の名前を冠したSAに到着した。この雰囲気はラーメン、ある!
あった。
セットメニューがお得です!! と煽られているが、セットメニューなんて頼んだら胃袋がはち切れてしまう。冗談じゃない。
ラーメン025 醤油ラーメン 580円
精神的な面でも、もうラーメン見たくない! になりそうな気配があるし、胃袋も限界。よってここはパスで臨もうと考えたけど、けっこうあっさり目な感じがしたので食べることにした。東北に入って何度となく登場してきた透明スープの醤油ラーメンだ。なかなか豪快に海苔が盛り付けられている。タワー・オブ・岩木山といったところか。これで値段が580円と、こちらもかなりリーズナブル。不安になってくる。味わい、麺の具合、チャーシュー、全てが調和した素晴らしいSAラーメンだ。美味い。安い。
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いよいよこの旅も終わりが近い。ついに、八戸方面へと続く道と、青森市方面へ続く道の分岐がやってきた。ゴールである青森インターは近い。ゴールが近いこともあって心情的にかなり穏やかだが、胃袋の方はかなりやばい。先ほど無理をしていったので、ほぼ限界というか臨界値だ。たいしたインターバルもなしに次のSAがきたらやばい。
12:00 花輪SA(秋田県) 走行距離 1954.6 km
たいしたインターバルもなしに次のSAがやってきた。花輪SAだ。秋田県に所属するらしい。微妙に古めかしい建物のSAだ。
もちろんここにもラーメンはあり、それも比内地鶏を使ったものらしく、正常な状態なら完全に食べたいのだけど、いまは無理。絶対に残す。ということで、3度目となるパスを発動させてもらった。申し訳ない。ちなみに、空調が故障しているらしく、扇風機がフル稼働していた。
■
いよいよ、ラストである。手元の地図によると、あと1つ、津軽SAがあって青森インターとなる。ここまでラーメンを食べ続け、運転し続けた地獄みたいな旅もついに終わる。車もご機嫌みたいで、心なしかアクセルが軽いような気がした。
ただ、最後の津軽SAはサービスエリアとして少し深刻な問題を抱えているようだ。おそらくではあるけど、こういった終点に近いサービスエリアは、あまり立ち寄ってもらえないのではないだろうか。特に下り線は深刻で、まだまだ先が長いぞ! という客が存在しない。ちょっと走れば終点で街に出ることが可能。だからなかなか集客できないんじゃないだろうか。
それを証明するように、津軽SAが近づいてくると陸橋ごとに横断幕みたいなのが張られていて「寄ろうよ津軽SA!」みたいに煽ってくる。ただ、段々とその煽りが自虐的になっていた。
「いつでも空いてる津軽SA」
空いてるからおいでよ! と誘い文句だ。
「貸切気分! 津軽SA」
やけくそで自虐してる感じだ。
「津軽SA独り占め!」
もうめちゃくちゃ。自虐が過ぎる。
そんなこんなで最後のSAとなる津軽SAに到着した。津軽SA独り占め! である。
12:51 津軽SA(青森県) 走行距離 2007.4 km
けっこう人がいたので、全く持って独り占めではなかった。
雄大な岩木山を望む景色でめちゃくちゃ眺めが良い場所だ。
もちろん、ラーメンもある。この旅、最後となるラーメンが……。ん?
小さくて読みづらいけど、「和風鶏天中華 750円」と書かれている。そう、中華、である。ラーメンとはどこにも書かれていない。つまりこれはラーメンでない可能性がある。そう、中華うどんかもしれない。
って、その上に「和風ラーメンに鶏天をトッピング」って書いてありますがな。完全にラーメンじゃないか。屁理屈いうな。
ということで、ラーメンであることが確定したのですが、絶対に食べきれないので、最後最後で、それも2連続で申し訳ないですけど、パスでお願いします。ホントすいません! もう無理です!
そして、ついにゴールである青森インターへ! うおおおおお。
ゴール! 高速料金 27,340円(割引あり)
さすが鹿児島から青森まで行くとめちゃくちゃな高速料金だな。
とうことで旅の記録はこちら
総走行距離 2040.4 km
所要時間 51時間
食べたラーメンの杯数 25杯
パス回数 4回
今回の旅で実感したけれども、高速道路の旅はなかなかに孤独なものだ。僕の場合、一人で淡々と鹿児島から青森まできたけれども、例えばこれが恋人同士、仲間同士、家族であっても長い時間、車内という閉鎖空間にいるわけだ。それはある意味では孤独なのかもしれない。
そこにSAという存在がパッと明かりを灯す。同じように旅をする多くの人がそこにいて、その地域の特産品を売っていて、ガヤガヤと騒がしい中で食事をする。その非日常感は、車内での孤独感との対比が大きいぶん、鮮烈に記憶に残るんじゃないだろうか。だからSAではワクワクする。
今回、SAを旅してラーメンを食べて、思い出したことがある。もうどこのSAだったかもわからない。どこの高速道路だったかも、何県だったかも定かではない。けれども少し温度の下がった深夜のSAで母親と食べたラーメンだ。味なんか覚えてない。でも、高速SAのラーメンだったこと、なんだかワクワクしたことだけは鮮烈に覚えている。
きっと、人にはそれぞれ、思い出の味がある。人それぞれのSAラーメンがある。
今日も誰かが旅先へと向かう。仕事中かもしれない。デートかもしれない。帰省かもしれない。結婚相手を親に紹介しに行く途中かもしれない。その旅路は思い出深いものになるかもしれない。その傍らでSAのラーメンはそっと輝き続ける。それはどんな名店にも出せない味なのかもしれない。
理想の高速SAラーメン
安達太良ラーメン 660円(安達太良SA ラーメン020)
最も美味しかったラーメン
世界一忙しいラーメン 850円(三木SA ラーメン013)
おわり