1日目 11:00 鹿児島県枕崎市
おはようございます。現在の時刻は午前11時、曇り空。いま僕は鹿児島県枕崎市にきています。ここ枕崎駅は本土最南端の終着・始発駅ということで、まさに南の果てといった雰囲気がムンムンに漂っているわけなのです。
さすが最南端の終着駅ということで、駅にはそういった最南端を誇示する看板がたくさんあります。駅舎も最近になって建てられたのか、妙に綺麗です。ちなみに無人駅です。
ここから最北端の稚内駅までいくと3099.5kmある、みたいな看板もあります。まさかそんなヤツいないと思いますが、例えば青春18きっぷなどでここから稚内まで行ったらなかなか大変そうです。
さて、どうしてそんな南の果てである枕崎にやってきたのか、そこにはなかなか複雑な事情があるのです。少々ややこしい話ではありますが、是非ともきいてください。
皆さんは現在ご覧になっているこの「さくマガ」というWEBメディアをどのようなサイトだとお思いでしょうか。トップページを眺めると分かるのですが「働き方」的なインタビュー記事が並び、ビジネス的なコラムや連載記事が並んでいると思います。
トップバナーには「やりたいこと」を「できる」に変えるWEBマガジンと書かれています。つまり、そういった前向きなビジネスパーソン的な傾向がやや強いのかもしれません。
けれども何を隠そう、さくマガ開設1発目、こけら落としの記事は、僕が書いた「鹿児島から青森まで車を運転して高速道路SAのラーメンを全部食べる」というものでした。どこかビジネスパーソンでしょうか。
ビジネスパーソンのインタビューや連載が並ぶ中で一人だけラーメンですよ、ラーメン。僕だけラーメン。これじゃあ、あまりに僕、バカの子みたいじゃないですか。
そんな、なぜかラーメンの記事ではじまった「さくマガ」も着実にビジネス系の記事を積み上げていき、なんとかラーメン記事の毒を中和しつつ1周年を迎えたとのことでした。一時期は「さくマガはラーメン情報サイト」と心ない揶揄をされたこともありましたが、そんな過去はとっくに消え去り、素晴らしい連載陣、ライフスタイルや働き方の記事を積み重ね、着実にいい感じのサイトになったわけです。
そして1周年を迎えるにあたり、編集長より、また記事を書いて欲しい、と依頼があったわけなのです。よーし、おれもビジネスパーソン的な記事を書くぞ、それとも「これが僕の働き方っすね」みたいに腕組みで登場してインタビューに答えるか、とワクワクしたのです。そこで編集長から記事に関する提案がありました。
「またラーメンの記事でお願いします」
こいつ狂ってんのか。
もっとこう、俺にも「モチベーションを高めるチームマネジメントの方法」みたいな記事を書かせろよ。
「Withコロナをどうやって生きるか」みたいなのをドヤ顔で書かせろよ。なんだよ、またラーメンって。さくマガってラーメン情報サイトなのか? え、もしかしたら本当にラーメン情報サイトなの? え、マジ!? ラーメン!?
そんな紆余曲折があり、このたび、ラーメン情報サイト「さくマガ」にラーメンの記事を寄稿することになったのでした。本当は「これがWithコロナを生き抜く僕のやり方」みたいなのをドヤ顔で書きたいのですが、ラーメンになりました。
そこでいろいろと考えました。さくマガといえば生粋のラーメン通が集まるラーメン情報サイトです。そこに掲載されても恥ずかしくないラーメン記事となるとなかなか難しいものです。こりゃ困ったぞ、本当に頭を悩ませました。
そんなおり、ある情報が目に留まりました。
昨今のコロナ禍は経済に大きな打撃をもたらしました。それは旅行・観光業界において顕著でした。そんな状況を打破しようと、JR各社は様々なサービスを展開しています。その中でもJR九州が打ち出した「みんなの九州きっぷ」に着目したのです。
これは、土日の休日(11月3日を除く祝日も可)の2日間有効の乗り放題きっぷで、JR九州内の列車乗り放題、特急も新幹線も乗り放題で10000円! おまけに指定席も6回まで乗れる、という何かがぶっ壊れているとしか思えない価格設定の切符なのです。
例えば、九州新幹線で博多から鹿児島中央まで普通に行きますと、それだけで10640円ですからね。これだけで完全に元が取れてしまうわけです。
もう、これを使って九州内を旅して、2日間でどれだけご当地ラーメンを食べられるか挑戦するしかない。それで猛者どもひしめくラーメン通も納得するだろう、そう思い、この乗り放題きっぷを購入したわけなのです。
下調べの結果、以下のご当地ラーメンに挑戦することになりました。
- 博多ラーメン(福岡県福岡市)
- 長浜ラーメン(福岡県福岡市)
- 久留米ラーメン(福岡県久留米市)
- 大牟田ラーメン(福岡県大牟田市)
- 佐賀ラーメン(佐賀県佐賀市)
- 玉名ラーメン(熊本県玉名市)
- 熊本ラーメン(熊本県熊本市)
- 佐伯ラーメン(大分県佐伯市)
- あごだしラーメン(長崎県北部)
- 宮崎ラーメン(宮崎県宮崎市)
- 鹿児島ラーメン(鹿児島県鹿児島市)
- かつおラーメン(鹿児島県枕崎市)
- まぐろラーメン(鹿児島県いちき串木野市)
なかなかそうそうたる顔ぶれです。これらを2日間でどれだけ食べられるか。ということで、さっそくかつおラーメンを食べるべく、感染対策を十分に講じた上で鹿児島県、枕崎市までやってききたわけです。ということでさっそく、ラーメンを食べていきましょう。
ラーメン001 かつおラーメン(鹿児島県枕崎市)
「かつおラーメン」は、飲業組合枕崎支部有志が、枕崎の名物を作ろうと研究を重ねたものです。枕崎名物であるカツオをふんだんに使ったスープとDHAが入った麺、工夫を凝らした具など、体にも頭にも「オイシイ」ラーメンとのこと。
さて現在は午前11時というお昼ごはんにはうってつけの時間なのですが、かなりタイトなスケジュールを余儀なくされています。これには少し特殊な事情があります。
まずはこちらの地図をご覧になっていただきたいのですが、ここ枕崎市の特殊なロケーションに注目してください。枕崎市を訪れる人の多くが鹿児島市から移動してくるわけですが、鹿児島中央駅からでる列車は、グルっと指宿市のほうを周ってきます。
これがなかなか大回りで時間がかかる上、本数も少ない。
枕崎駅の時刻表を見ていただけると分かりやすいと思うのですが、上り下りともに本数は6本のみ。しかもダイレクトに鹿児島中央駅と結ばれているのは3本なのです。これでは一番早い列車に飛び乗っても枕崎に到着するのは昼過ぎになります。
そういった事情もあって、枕崎を目指す場合、ほぼ最短距離でダイレクトに突き進んでくれる路線バスを利用することになります。
それでも片道で2時間ほど、料金は1240円くらいですが、どう考えてもバスのほうが早いみたいなのです。スマホの乗換案内アプリもそう告げてくれています。
そんなこんなで、早朝から鹿児島中央駅に降り立ち、乗換案内が案内したバスを待っていたわけなんです。
このバスに乗れば10時には枕崎に到着するから、そこからラーメン屋を探して移動して11時の開店と同時に入店、食べて駅に急いで戻れば12時の鹿児島中央駅行きのバスに乗って帰ってくることが可能、と効率的なプランを練っていたのです。
しかしながら、そのバスがいくら待っても来ない。本当に来ない。全然来ない。カケラも来ない。来る気配すらない。どうなってるんだと、こっちだってタイトなスケジュールでやってんだぞ、バスはまあ、ある程度は遅れるの織り込み済みなんですけど、さすがに30分待っても来ないのはおかしいと思い始めます。
そこで、バスの運営会社にちょっとキレながら電話しました。こないじゃないかと、どうなってるんだと。そこで驚愕の事実が発覚するのです。
「そんな時刻のバスはもともと設定されていない」
とのこと。
「え、新型コロナの影響で減便したとかではなく?」
「はい、もともとありません」
「でも、乗換案内にでているんですけど」
「じゃあそっちが間違っているんでしょう」
ということで、僕と乗換案内アプリは存在しないバスの幻を見て、ずっと来ないはずのバスを待っていたのです。いつまで待っても来るはずのないバスを待つ、ちょっとしたホラーだろ。
そんなこんなで鹿児島中央駅バス乗り場で呆然と立ち尽くすこと1時間、やっとこさ実在するバスがやってきて、予定より1時間遅れて11時に枕崎市に降り立ったのです。本当にあの幻のバスはなんだったんだ。
現在、枕崎駅前で11時、鹿児島中央駅に戻るバスは12時、あと1時間しかありません。これを逃すとかなり時間がずれ込み、この後の予定が大幅に狂います。
目指すラーメン屋はここ枕崎駅から徒歩で15分くらい。そうなると往復で30分、ラーメンを注文して食べるのに30分、かなりタイトなスケジュールだ。行列するような店だったらその時点でアウトだな。そう考えながら走り始めます。
うおおおおお、急げえ、徒歩で15分のラーメン屋、走れば6分くらいでいけますからね。急げば急ぐほど時間的余裕が生まれる。往復12分ならその分を食べる時間にあてられる。もう汗だくになりながら走りましたよ。
あった。マジで7分で到着した。行列もできていない。間に合う、間に合うぞ。いける。いけるぞ。
あじひろ(枕崎市)
枕崎市松之尾町
営業時間 11:00~20:00
定休日 不定休
素材にこだわった「かつおラーメン」が評判。お年寄りにもうれしいあっさり味が人気。
人間やればできるもんだな。本当に間に合ったぞと店を眺めるのですが、何やら様子がおかしい。なにやらひっそりしている。おそるおそる近づいてみます。
「都合により休業」
うおおおおおお。
もともと不定休ということなので仕方ないことですが、前情報によると老夫婦が切り盛りされているお店、ということで、もしかしたら新型コロナの影響もあるのかもしれません。
こうなればB案です。ピックアップしておいたもう一店舗に行くしかありません。駅のほうに戻る形になりますが、急げばまだ間に合います。
うおおおおお、いそげえええ!
途中ふと、なんで僕はこんなにまで枕崎の街を走り回ってるんだろう、という率直な疑問が沸き上がってきますが、急ぐしかありません。
おかしい、地図によるとこの辺にあるはずなのに影も形もない。ラーメン屋の影も形もない。カツオバーガーの旗とソフトバンクを応援しようの旗しかない。
ラーメン屋の気配というか、匂いすらしない。どうなってるんだ。もう時間がないんだ。どうなってるんだ。もう一度、確認するように地図を見ます。
「閉業」
店がなくなっとるやんけ。
これは完全に僕の確認ミスですね。なくなった店の幻を見て枕崎を彷徨っていた。
もうこうなると完全にタイムオーバー。鹿児島中央駅に戻るバスの時間です。というか、ここまでくると「かつおラーメン」の店を見つけられる自信がない。
「僕はなにしに枕崎に来たんだ。2時間バスに揺られて走り回ってそのまま帰る、なんなんだこれ」
トボトボと枕崎駅へと戻ります。
さきほどは急ぐあまり気が付きませんでしたが、枕崎駅から少し離れた場所、バスターミナルになっている場所には観光案内所みたいな建物があります。
そこに舞い戻ると、枕崎の全てを知る人みたいな佇まいで案内所の職員と思わしきおじさんが仁王立ちしていました。
ダメもとで話しかけてみます。
「かつおラーメン食べに来たんですけど、店が閉まっていたりなくなってたりで食べられなかったんです」
そう告げると、枕崎の全てを知る人が教えてくれました。
「新型コロナの影響かもねえ、ちょっとまちな、今調べてやる。お、ここから大通りまで行って右に曲がった先ならいけるな」
なんと、営業している「かつおラーメン」を出す店を教えてくれたのです。しかも、その店の場所は先ほど走り抜けた場所。なんで気が付かなかったんだろう。
行くかどうか。どうするべきか。
時間的にはちょっと厳しい。でも、タクシーで行って大車輪の勢いで食べてタクシーで戻ってくれば間に合うのでは。ここまで来て「かつおラーメン」を食べないのはやはりどうかと思う。いくしかない。タクシーだ、観光案内所の前がタクシー待機場所だ。そこから行くしかない。行くぞ、へいタクシー!
だああああああああああああ、さっきまでたくさんタクシーいたろ。なんでこのタイミングでもぬけの殻なんだよ。ダメだ、走る、走るしかない。
「なんで枕崎の街を走り回ってるんだろ」
本当に率直な疑問でした。
だいとく
鹿児島県枕崎市折口町
11:00~16:00(15:30オーダーストップ)
18:00~21:00(20:30オーダーストップ)
不定休
仕出し料理や宴会も扱う、枕崎名物料理のお店。かつおラーメン以外にも日本最南端終着駅弁当(要予約)や枕崎船人めしスペシャルなど。ラーメン専門店ではないが負けないラーメンを出すと研究を重ねた。
本当にさっき走り抜けた場所にあった。しっかりと「かつおラーメン」とも書いてある。なんで気が付かなかったんだろう。
お店は、店の入口に消毒液を置き、しっかりと感染症対策を施していました。店に入ると、お昼時ということで6席ほどのテーブル席はほぼ満員、一つだけ空いていた座敷に座りました。
具だくさんという印象。気持ちがいいほどに澄んだ透明スープ、その上にはカツオの切り身の天ぷらと、ヅケが乗っている。スープはこれでもかというほどに爽やかで、かなりカツオの風味が効いている。あっさりなのに旨味が強く、たぶんこのスープでご飯3杯くらい食える。麺も普通の麺よりしっかりしていて、それでいてそこまで主張が強くないのであっさり味のスープとバランスが取れている。何より、上に乗っているカツオが美味い。麺を食べて天ぷらとヅケを味わう。時間が経過すると切り身にあっさりスープの味が移っていき、全く飽きることなく味わっていける。このラーメンの中にふんだんにカツオの要素を入れて、それでいてくどくないようにトータルバランスを取っているところに並々ならぬ努力を感じる。あと、付け合わせの漬物がうれしい。これを合間に食べることで口の中がリセットされるので、スープの口当たりの新鮮さを何度でも楽しむことができる。完全に美味い。
もう完全にバスには間に合わないけど、食べるという選択をして良かった。そんな味わいだった。
さて、時間がぽっかりあいてしまった。12時のバスを逃したことにより、次のバスまで1時間半の空き時間ができてしまった。JRのほうもその時間の列車はないようで、やはりバスのほうが早いみたいだ。乗り放題きっぷを買ったのに、ここまで全くJRに乗っていない。どうなってるんだ。
とにかく、時間をつぶすしかないので、駅などを撮影して過ごす。それでも5分もすれば見終わってしまう。
駅の近くに風呂があったので入った。散々走り回って汗だくだったので最高の風呂だったし、サウナがなかなか良かった。
まちの湯ひとっ風呂
枕崎市東本町
9:00~22:30(土曜~23:00,日曜~22:00)
第2・第4木曜休日
サウナ・水風呂・電気風呂・ジェットバス・気泡浴・鍵付きロッカー・マッサージ機
入浴料金 大人(中学生以上)420円
それでもまだずいぶんと時間を余らせていたので、あとはただバスターミナルみたいな場所にあるベンチに座ってボーっと過ごした。
「うまくいかねえなあ」
朝っぱらから幻のバスを待ち、枕崎の街を走り回り、目当ての店が閉まっていたりなくなっていたり、おまけにバスを逃して1時間は待ち、なかなか噛み合わないなあとイライラするんですが、なんか、駅前なのに妙に静かなこの場所にいるとそういったことがけっこうどうでもよくなってくるのです。
枕崎の空は高くて、吹き抜ける風は秋のそれで、目の前には肝心な時にもぬけの殻なタクシー乗り場で運転手さんが笑いあっていて、部活帰りと思わしき中学生たちが自転車で駆け抜けていくのです。
なんかこの時間を拾いに枕崎に来たのかもしれない、そんなことを考えていたら、お目当てのバスがやってきていました。
バスの乗客はまばらだった。どうやら来た時に乗ったバスとは異なり、ほとんどの停留所をすっ飛ばしてダイレクトに鹿児島中央駅まで行くバスだったらしい。来るときは2時間かかったが、1時間半くらいで戻れるようだ。これは助かる。
鹿児島中央駅へと戻ってきた。朝方に幻のバスを見たあの場所だ。朝と違って人々の行き来が増えて活気がでてきている。てか、駅に観覧車があるとめちゃくちゃ都会の駅みたいな印象を受ける。
さて、ここで鹿児島ラーメンを食べるぞ、と決意するのだけど、その前にするべきことがある。
JR九州管内の主要駅の駅前にはアミュプラザと呼ばれる商業施設がある。(小倉、博多、長崎、鹿児島、大分※宮崎はこの秋オープン予定)。まず鹿児島中央駅にきたらこのアミュプラザ鹿児島に寄らねばならない。
さて、2日間乗り放題切符を買って、もう初日の午後3時だというのに、まだ一度も乗っていない「みんなの九州きっぷ」だが、この切符を各アミュプラザのインフォメーションで提示すると500円の商品券がもらえるというサービスがついている。
これらは各施設で貰えるので、乗り放題を駆使して5か所でもらえば2500円分の商品券となる。10000円で2日間乗り放題だけでもバグとしか思えない値段設定なのに商品券までついてくる。お得すぎてどうかしている。
切符を見せることでいとも簡単に商品券を貰えてしまった。おまけに、商品券を使える店リストも貰え、そこに「鹿児島ラーメン」の店もあったので、一石二鳥とばかりに向かった。
ラーメン専門 こむらさき アミュプラザ鹿児島店
鹿児島県鹿児島市中央町
月~木 10:00~20:30(オーダーストップ20:00)
金・土・日・祝・祝前日 10:00~21:00(オーダーストップ20:30)
年中無休
昭和25年創業、伝統的な鹿児島の味
ラーメン002 鹿児島ラーメン(鹿児島県鹿児島市)
鹿児島ラーメンは豚骨をベースとした半濁スープにストレート麺を基本としているが、それ以外は各店がアレンジを加えて個性を競い合うという特徴がある。
つまり「鹿児島ラーメン」という総体は存在しない。逆に、そういった独自の発達を遂げていった店ごとの個性を楽しむのが鹿児島ラーメンの楽しみ方という意見もある。
店の前には女性従業員が立っていて、手の消毒をしないと入れてくれない。テーブル席の真ん中は透明の板で仕切られていて感染症対策にかなり気を使っているという印象だ。
まず目を惹くのが大量に投入されたキャベツと、細かく切り刻まれたチャーシューだ。よく混ぜてから食べるように注意書きがしてあったのでよく混ぜて食べた。食してみてわかったのだが、これは完全に混ぜることを前提に作られているものだ。
まず、ストレートの細麺を味わうが、混ぜているので必ずキャベツと絡む。そのキャベツはよくスープを含んでいるので、その歯ごたえと味わいで麺をサポートする。そして、鹿児島黒豚のチャーシューが、見ためから想像もできないほど柔らかく、おまけにこちらも細切れになっているので、完全にラーメンをサポートする存在として投入されている。つまり、チャーシューだけ味わうのではなく、あくまで麺とスープの脇から働くよう、細切れにされているのだ。全体として塩味をベースにして爽やかでバランスの取れた味に仕上げられており、普通盛りなのにかなりの量がある。食べきれるか心配だったが、ペロリと食べてしまった。商品券を利用してこれを480円で食べられるのはお得というほかない。
15:52 鹿児島本線上り 串木野行き
鹿児島中央駅から串木野駅へと移動する。ここでついに、ついに、乗り放題切符を使う時がきた。ここからが本当の乗り放題の旅だ!
車内は部活帰りの高校生で溢れていた。近くに立っていた男子高校生がめちゃくちゃ先輩の悪口を言っていたのが印象的だった。
串木野駅に到着した。
めちゃくちゃのどかな雰囲気が漂う駅だった。
ラーメン003 まぐろラーメン(鹿児島県いちき串木野市)
いちき串木野市は、人口3万人のほどの都市で、市内中心部にある串木野港は遠洋漁業の起点であり、まぐろの水揚げ量が多いという特色があった。
しかしながら2000年ごろから漁業そのものが斜陽化していく中で、なんとか特産品を作ってPRしていこうと、市内の飲食店店主や食品関連会社、地元飲食業組合が集まり開発した。それがまぐろラーメンだ。
枕崎で起こった悲劇のようにラーメン求めて街中をあちこち走るような事態は避けたかったので、駅のロータリーに待機していたタクシーの運転手さんにおススメのまぐろラーメンの店を聞いてみたのだけど、方言がめちゃくちゃすごくて半分くらい何を言っているのか分からなかった。
中国料理 味工房 みその
鹿児島県いちき串木野市北浜町
<土日>
昼11:00~15:00(OS 14:30)夜17:00~22:00(OS 21:30)
<平日>
昼11:30~15:00(OS 14:30)夜17:00~21:30(OS 21:00)
不定休
ラーメンを基本にした誰にでも親しまれる味が魅力です。風味豊かな素材を活かしたこだわりの味を、お手頃価格でお楽しみいただけます。
なんとか方言を解読し、たどり着いたのがこの店である。
なんだかひっそりとしている。まさか臨時休業か、と思ったが、たんに昼の営業が終わり、夜の営業前の準備中のようだ。17時から営業再開するようで、いまは16時30分、30分も待てば開くようでほっとした。
しかしながら、このラーメンや特有の「お昼と夕方の間に閉店する」問題はしっかり考えていかないととんでもない足止めを食らうことになりそうだ。結局、枕崎でバスを逃さなかったとしても、同じくらいここで足止めを食らうことになっていたわけだから。
店の前で仁王立ちすること30分。続々と、どこかで休憩していた店の従業員の人たちが車でやってきて店の中へと入っていった。仁王立ちする僕の圧があまりにすごかったのか、17時よりちょっと早く店を開けてくれた。
店の前には手指消毒液が置かれ、店員さんはかなり強固なフェイスシールドを装備していた。店構えから想像できないほど奥行きが広くて、奥にはかなり広い座敷があった。
僕はカウンターに座ったので座敷の感染症対策は確認できなかったが、あの広さならそうそう密にはならないだろうなと思う。家族で休日の夕食を食べるのに適した造りだと感じた。
ラーメン屋には珍しく「小」という設定があったので後々の展開を考えて小にしてもらった。これは女性と、ラーメンを連続で食べる記者にとってなかなか優しい設定だと思った。まず、麺の上に置かれた3切れのマグロのヅケに目が行く。そして、同時に「わざび」が出されていることにも注目だ。あと、ここまで3杯、鹿児島のラーメンを食べてきたが、必ず漬物が添えられている事実に気づく。これは鹿児島県の特徴なのかもしれない。澄んだスープに中麺のちぢれ麺、見た目からも分かるようにスープはかなりあっさり目に仕上げられている。おそらくマグロを使ってだしを取っているであろうスープはまだその正体を見せない。上に乗せられたマグロのヅケを箸で摘まんでみて驚いた。ただのヅケかと思っていたが、スープや麺から熱をもらうことで裏面は熱されて変色し、かなり深い味になっている。ヅケにスープの味が移り、スープにヅケから旨味が染み出している状態だ。麺を食べると、あまりにあっさりなスープを補助するようにシャキシャキのもやしが添えられており、この歯ごたえが心地よい。そして、添えられていたワサビを半信半疑で投入してみたところ、一気にラーメン全体の味わいが立体的になった。スープの中に隠れていたマグロの旨味、ヅケから染み出した旨味が一斉に出てきて調和を持って味を演出してくる。それをつなぐ役割が「わさび」だ。ただ、ラーメンに串木野の特産であるマグロを乗せました、では留まらない深い味わいがそこにあった。美味い。あと、カウンター席から厨房が丸見えだったのだけど、そこで作られていたチャーハンがめちゃくちゃ美味そうだった。
食べ終わり、そそくさと店を出て駅までの一本道を歩く。駅から続く大きな通りであるけど、車通りはそう多くない。途中、一台の銀色の軽自動車が追い抜いて行ったのだけど、爆音で浜崎あゆみをかけていた。
「あ、浜崎あゆみ」
と思ったのだけど、それから数分して別の軽自動車が僕を追い抜いていったのだけど、その車も爆音で浜崎あゆみをかけていた。
「また浜崎あゆみ」
もしかして、いちき串木野市では浜崎あゆみが流行っているのだろうか、遠ざかる「輝きだした」の歌声を聞きながら、平成の歌姫に想いを馳せ、その軽自動車を見送った。
13:36 鹿児島本線 川内行き
駅に到着してしばらく待つと、川内行きの普通列車がやってきた。土曜日だというのに部活帰りの高校生が車内にはけっこういて、やはり高校生は先輩の悪口を言っていた。もしかしたら、鹿児島の高校生は日常的に先輩の悪口をいっているのかもしれない。
川内駅に到着した。ここで九州新幹線に乗り換える。なにせ乗り放題だから。
18:19 九州新幹線上り さくら570号新大阪行き
いやはや、本当に新幹線まで乗り放題とは嬉しい。ちなみに、今回の「みんなの九州きっぷ」はJR九州の新幹線乗り放題なので、鹿児島中央から博多までの新幹線乗り放題となります。
ただし、博多から小倉までの新幹線はJR西日本の管轄なので、同じ福岡内ですがその部分だけは乗り放題の対象外です。
さて、これに乗って熊本を目指しましょう。
新幹線って本当に文明の利器で、椅子の座り心地はいいわ、電源は使えるわ(一部車両は使えない)、速いわで大変な騒ぎですよ。ボーっとしていたらあっという間に熊本に到着しました。
19:03 熊本駅
ラーメン004 熊本ラーメン(熊本県熊本市)
九州とんこつをベースにして独自に発展したものが熊本ラーメンといわれている。場合によっては豚骨だけでなく鶏ガラもブレンドして濃厚でまろやかなスープを形成している。麺は中太のストレート麺で、焦がしたり揚げたりしたニンニクのチップやマー油がトッピングされていることが特徴だ。
熊本駅は市中心部からはやや離れた位置にある。中心部に行くには路面電車などを利用するが、今回の旅のように「ご当地ラーメン」を食べる目的なら特に中心部まで出る必要はない。
駅には熊本の特産品を販売する「肥後よかモン市場」という施設がある。ここが土産物や特産品の販売に留まらず、食事処や居酒屋まである盛りだくさんの場所で、もちろん、何店か熊本ラーメンを出す店もある。ここで食べてしまえばいい。駅直結の施設なのですぐに次の地に旅立つこともできる。完全に一石二鳥だ。
ただし、先ほどの「マグロラーメン」からそう間隔があいていない。さすがにまだ満腹で、今出てきても全部食べきれる自信がない。
ということで、どこかで時間をつぶして満腹が紛れるのを待つしかないのだ。そうなると、どういった場所で時間を潰せばいいか。そうだ、熊本、あそこしかない!
湯らっくすにやってきた。
湯らっくす
熊本県熊本市中央区
24 時間営業
入浴料金 590円~
サウナ好きの聖地としての呼び声が高い
湯らっくすは日本中のサウナ好きから聖地としてあがめられる場所だ。熊本に行ったのに湯らっくすいかなかったわ、みたいなことをサウナ好き仲間内で公言したらちょっとバカにされる、そんなレベルのサウナだ。何より圧巻なのは各種のサウナを司るように中心に陣取る水風呂で、男湯で170cm、女湯153cmを誇り「日本一深い水風呂」といわれている。阿蘇の水を使った飲める水風呂、それが尋常じゃない深さで存在している。水風呂が深いということは、リラックスした態勢で体が水に包まれるのはもちろんのこと、「深い=水量が多い」なので、ちょっとやそっとでは温度が上がらない。常に冷たい、という極上の水風呂を演出している。
湯らっくすは熊本駅から車で5分とのことで、タクシーで行くのがベストですが、熊本駅を出るところの信号がめっちゃくちゃ待ちが長くて、そこだけで5分くらいかかって、ワンメーター上がりそうになるタイミングがあります。現に、行きはめちゃくちゃ長い信号待ちで、帰りはそうでもなかったのですが、タクシー料金が2メーター違ってました。
ちなみに、ぜんぜん余談なのですが、湯らっくすの前で、サウナツウっぽい青年と初心者っぽい青年が話していて、ツウっぽい青年がしきりにサウナの魅力を熱弁しているのですけど、初心者には響かない様子。「お前な、近所に湯らっくすがあるってのは、サウナツウからしたら近所にエルサレムがあるようなもんだぞ」と、比較的サウナが好きな僕にもあまり響かない口説き文句を繰り出していました。
初心者はサウナにあまり興味がないどころか、むしろ怖がっているふしがあり「体を温めて水風呂とか心臓止まるだろ。嫌だよ、救急車で搬送されたりとかしたら怖いよ」
とかブルってました。「そんなことめったにねえよ」とサウナツウが言ったところで、本当に救急車がやってきて、湯らっくすの中へと入っていきました。誰か搬送されたみたい。
それに初心者が完全にブルって「帰ろう」とか言い出して、ツウが「お前エルサレムを目の前にして帰るのか、ありえんぞ」と、これまたあまり響いてこないことを言っていました。
さて、サウナにて完全に体が生き返り、少し空腹感も出てきました。さすがエルサレムです。そのまま熊本駅に舞い戻り「肥後よかモン市場」で熊本ラーメンを吟味します。
天外天 熊本駅店
熊本県熊本市西区
営業時間 11時00分~23時00分
市内中心部に本店を構える人気店が満を持して熊本駅に2号店をオープン。
カウンター席のみの縦長な店構え。席は2席ずつプラスチックの板で仕切られていて感染症対策もばっちりだった。店員さんも口元のシールドみたいなものをつけていた。
まず目を惹くのが、表面にまぶされたパウダー状の何か。どうやらこれはローストしたニンニクをパウダー状にしたものらしい。それが大量にかかっている。ニンニクと聞くと尻込みする人もいるかもしれないが、このパウダーからはニンニク特有の臭みのようなものは感じない。スープに溶け込んで濃厚な味わいを演出している。スープは豚骨をベースとしているおそらく鶏ガラもブレンドされており、濃厚でありながらしつこくなく、むしろあっさり目な印象だ。ただ、そこにローストニンニクパウダーが混ざってくるので、かなりさっぱり、かつ味わい深いものになっている。なにより、パウダーによってスープにとろみがつくので、これが比較的しっかりしている中太麺によく絡み、絶妙の味わいを演出している。最高に美味い。替え玉を前提に作られているのか、麺の量はやや少なめに設定されているように感じた。現に、隣の席の女性はガンガン、替え玉を頼んでいた。僕も行きたかったけど、さすがに満腹だ。
さて、ここからは北上していきながら、玉名、大牟田、久留米、とご当地ラーメンが続く。どうやら豚骨ラーメンのルーツである久留米から南下しつつ熊本ラーメンまで味が伝わってきたフシがあるのでそのルーツを辿るラインになりそうだが、なにせ、時間的にも、空腹度的にも本日はあと1杯が限界そうだ。
そうなると、宿泊を考えた動きをしなければならない。玉名、大牟田、と決して小さな町ではない。決して玉名や大牟田のことを悪く言うつもりはないが、やはり不安だ。ダメだ、玉名や大牟田じゃだめだ。信頼できない。そうなると、やはり久留米が一番大きい街なんじゃないだろうか。信頼できるんじゃないだろうか。宿泊施設が見つかりやすいんじゃないだろうか。
決して悪く言うつもりはないが、やはり玉名や大牟田はちょっと信頼できない。ということで、久留米に移動することにした。
20:38 九州新幹線 つばめ346号 博多行き
新幹線に乗る。なにせ乗り放題だし。
自由席に乗り込んだのだけど、車内は閑散としていてほぼ貸し切りに近い状態だった。ちなみに、各駅に停まるタイプのこの「つばめ」の車両は各席に電源が付いていないので注意されたい。
21:08 久留米駅
新幹線車内で本日の宿を予約した。当日の予約であってもGOTO割引が適用できるらしく、なかなか安く宿泊することができた。乗り放題きっぷで安く移動し、GOTOで安く宿泊する、なかなかお得な旅を実践している。
ただ、大きなミスを犯してしまった。予約したホテルは「西鉄久留米駅」の近くにあるホテルだ。降り立ったのはJR久留米駅なのだけど、まあ、JRの駅と西鉄の駅、同じ久留米だしそんなに遠くないでしょ、と気楽に予約したのだ。そしたらアンタ、めちゃくちゃ遠いじゃねえか。めちゃくちゃ歩くじゃねえか。
こんなの絶対に罠だよ。同じ久留米駅を名乗っていいわけないだろ、とどんな聖人でもいいたくなる距離を歩き、ついに本日の宿へ到着となった。ただし、このまま就寝とはいかない。ラーメンを食べなくてはいけない。
なぜ、無理してでも宿泊地でラーメンを食べなくてはならないか。それにはラーメン屋の一般的な営業時間が関係してくる。多くのラーメン屋は昼前の11時に開店することが多い。言い換えると、そこまでラーメンを食べることはできないわけだ。
そうなると、ここ久留米で、今日は疲れたし、満腹だ、明日でいいや、とホテルで眠ってしまった場合、明日はラーメン屋が開店する11時までこの街に足止めされてしまう。多少無理して今日のうちに食べておけば、明日は早起きして移動することができる。これは天と地ほどの違いがある。早速、文字通り重い体を奮い立たせ、ラーメンを食べに行くことにした。
ラーメン005 久留米ラーメン(福岡県久留米市)
久留米ラーメンの特徴は、なにより豚骨だろう。九州各地に広がる豚骨をベースとしたラーメンのルーツとされる。基本的には白濁の豚骨スープにストレート麺の組み合わせで、博多ラーメンに比べてやや太めの麺を用いる傾向がある。
大栄ラーメン 本店
福岡県久留米市
営業時間
11:00〜15:00
17:00〜21:30
水曜日定休
昭和48年創業、老舗の味。
お店自体は繁華街からちょっと裏に入った分かりやすい場所にある。周囲を有料駐車場に囲まれているのでポツンと建っている印象だ。のれんには「昭和48年創業老舗の味」とあるが、建物自体はかなり新しいので、建て替えたか、移転したのだと思う。
店内は、けっこう伝統的な中華料理屋的な佇まいをしている。特に、真っ赤なカウンターテーブルがなんとも中華料理屋っぽい。もともとそうなのか、それとも感染症対策なのか分からないが、カウンターと厨房の間は半透明のシートで仕切られていて、なかを窺い知ることはできなかった。
小の設定があったのでそれを注文した。ここまで、あっさりめのラーメンが続いていたわけで、熊本ラーメンも豚骨独特の臭みを抑える形で発展してきたラーメンだった。ここにきて元祖ともいえる豚骨が登場してきたので、やはり若干の臭みを感じる。これが、おお、豚骨だ、と実感させてくれる。久留米ラーメンは、継ぎ足していって日々少しずつ完成に近づいていくスープも一つの特徴だ。創業時から徐々に変化してきたであろうスープは、なんともいえない深みがある。ラーメン全体としては、濃厚なのにどこか素朴で安心する味わいだ。夕ご飯としてガッツリ食べよう、というよりは飲んだ時の締めに一杯、にマッチする味だ。そういった意味で「小」という設定があるのかもしれない。不思議なもので、一口目に感じたとんこつ独特の臭みも、すぐに気にならなくなり、それが深みに感じるようになる。あとからあとから濃厚な旨味が追いかけてくる感覚に近い。これは安心する味だなあと実感しながら、スープまで一気に飲み干してしまった。
といったところで、1日目はおしまい。旅の記録はこちら。
移動とラーメン屋の営業時間との兼ね合いが予想以上に難しく、難易度が高かった。明日一日で何杯食べられるのか、そう考えながら久留米の夜は更けていった。
2日目 6:30 福岡県久留米市
昨日は幻のバスを見たり、ラーメン求めて町を彷徨ったり、JR久留米駅と西鉄久留米駅間を歩いたりとなかなか散々な感じだった。思った以上に「乗り放題」の恩恵にもあずかれなかったので、今日こそはガンガン乗っていきたい。
ただし、あくまでも乗り放題なのはJRの列車なので、ここ西鉄久留米駅からJR久留米駅まで歩かなければならない。またあの距離歩くのかよ、と絶望していたら、目の前にバスが停まっていた。
「JR久留米駅行き」
いけるやん! 今日はついてるぞ! とバスに駆け寄ったら、僕の目の前で発車していった。ちょっとくらい待ってくれても良さそうなのに、無慈悲にも出発して行ってしまった。たぶん、今日の旅もこんな感じなんだろうな。
7:00 JR久留米駅
またもやけっこうな距離をあるいてJR久留米駅に舞い戻ってきた。昨日の夜に降り立った時は、酔っぱらった若者が暴れていて治安が悪そうな感じだったけど、早朝ともなればなかなか爽やかな雰囲気がする。それに、今日は天気が良さそうだ。
ただ、朝の空気はもう完全に秋のそれで、少しだけ肌寒い。周囲を見ても秋の装いといった人が多い。そんな中で、完全に夏みたいな恰好で歩いているので、僕だけ季節感のない小学生みたいになっている。
さて、これまで九州の鉄道駅を何個か訪れてきたが「九州地方の駅、だいたい駅の前に車輪を置きがち」である。九州の駅ではけっこうな確率で大きな車輪がモニュメントとして置かれている。だいたい、鉄道開通記念とか、かつて走っていたSLに思いを馳せたものだ。
久留米駅には車輪ではなく、巨大なタイヤのモニュメントがある。直径4mで、世界最大級、ここ久留米がゴム産業発祥の地ということで置かれているようだ。
駅構内に入り、みどりの窓口までやってきた。僕が持っている「みんなの九州きっぷ」はJR九州の路線乗り放題なだけでなく、6回まで指定席に乗ることができる。
けれども、昨日を振り返ってみて、まったく指定席に乗るチャンスがなかった。こりゃ積極的に使っていかないと使い切れないぞ、ということで、指定席を入手することにした。
窓口で「みんなの九州きっぷ」を見せて列車を指定することで指定席券を出してくれる。僕の前に並んでいたご夫婦も「みんなの九州きっぷ」を使っていた。けっこう使用する人が多いみたいだ。
鳥栖で乗り換えて長崎まで行く特急の指定席を購入した。ちなみに、指定席を使うと、もとの「みんなの九州きっぷ」のほうには「1回指定席使ったで」という印として星マークが付けられる。撃墜マークみたいでかっこいい。
さて、ここでなぜ長崎までいくのか説明しなければならない。長崎へはもちろん「あごだしラーメン」を食べに行く。ここで近場を攻めずに遠くに移動するのには訳がある。昨日も説明したように、これはラーメンを食べる旅だ。つまり、ラーメン屋が開店していないとどうしようもない旅なのだ。
多くのラーメン屋が早朝からの営業をおこなわず、昼前ぐらいに開店する。だから早起きをして数を稼ぐという荒業が使えない。だから、昼前まではなるべく移動に充てる必要があるわけだ。
7:27発 鹿児島本線上り 快速 門司港行き
休日ということで、通学や通勤の人は少なく、ホームには旅行と思わしき人が多かった。しかも、会話などを聞いていると「みんなの九州きっぷ」の利用率がかなり高い気がした。この秋の九州旅行のマストアイテムだ。
7:33 鳥栖駅
ものの6分ほどで鳥栖駅へと到着する。ここで特急に乗り換えて長崎を目指す。
7:40発 長崎本線 下り 特急かもめ5号 長崎行き
なんか九州を走る特急って戦闘力高そうなデザインが多いよね。
ラーメン006 あごだしラーメン(長崎県平戸市)
あごとは「とびうお」のことだ。つまり「とびうお」からだしを取ったラーメンということになる。おもに長崎県の平戸市で食べることができるご当地ラーメンだ。
本来なら平戸市に行って食べるべきなのだろうけど、平戸市の場所がここ
めちゃくちゃJRから外れているのでまた「乗り放題」を発揮できない事態になってしまう。なんか一部は島っぽいし、めちゃくちゃ行くの大変そうだ。仕方ないので、長崎市内で「あごだしラーメン」を出す店を探すこととした。
それにしても長崎市に行くのはじつに16年ぶりである。16年ともなると記憶もおぼろげだが、長崎駅の駅舎だけはしっかりと覚えている。16年前とは思えないほど近代的な駅舎で大きな屋根が印象的だった。16年ぶりの長崎駅、実に楽しみだ。
9:30 長崎駅
特急に揺られているとあっという間に長崎駅に到着した。
僕は、終端駅の「もう終わりだぜ」と線路が終わっている光景がかなり好きで、いつも撮影してしまう。長崎の終端もなかなかいい。それは他の剛の者も同じようで、けっこう熱心に撮影する人が多かった。
いやはや、16年ぶりの長崎駅ですなーと駅の中を歩くが、妙な違和感が全身を包んだ。
「僕の知っている長崎駅と違う」
駅の光景も、場所も、雰囲気も、匂いも、何から何まで記憶の中の長崎駅と違う。もしかしてまた何か幻を見せられているのではと急いで駅舎の外にでた。
あー、なるほど。
長崎駅の横では、もう一つ駅みたいなものを建設していた。おそらくこれは開業を控える長崎新幹線の駅だ。新幹線の駅を造るのと同時に、従来の長崎駅も高架化し、少し離れた場所に移転しているっぽい。さきに在来線のほうだけ移転開業したという形だろう。
そして新しい駅から古い駅に向かって延々と長い通路が設置されている。これがまあ、本当に長い。
仮設みたいなこの通路、古い長崎駅のホームだな。たぶん、元あったホームを仮設通路として使っているんだろう。
やっぱりそうだよな、ここは古い長崎駅なんだ。このホーム通路は過渡期にある今しか通れない貴重な体験なのかもしれない。新しい長崎駅から古い長崎駅まで、けっこうな距離を歩かされることになってしまった。ちなみに天気は曇りで、長崎は今日は雨ではなかった。
これだよ、これ。これが思い出の中の長崎駅だよ。
古い長崎駅もフェイク駅みたいな形でそのまま存在しており、駅前商業施設も普通に営業していた。まったく変わることのない長崎駅がそこにあった。
ただ、ここにはもう列車は来ない。ホームも通路になってしまった。ただ、新しい駅できているのに、古い駅もそのままってなんだか面白いな。
さて、時間は朝の9時30分、当然のことながらラーメン屋は開いていない。やはり昼前の11時に開店するようだ。狙っていた「あごだしラーメン」の店は、詳細に調べてみるととっくに閉業していたようだが、まあ、もうそういうのは慣れた。いちいち驚いたりはしない。
Bプランとして、限定メニューで「あごだしラーメン」を出す店に狙いを絞ってある。そこもやはり11時開店なので、1時間半ほど時間を余らせてしまった。
そういえば、16年前に来た時もまともに長崎を観光していない。今回もラーメンだけ食べてとんぼ返りとなりそうだ。そんな事情もあって、ここで見ておかないと一生見ないかもしれないと、長崎観光を決意した。
長崎駅前から出る路面電車に乗る。路面電車はけっこう路線が多く、市民の足としてかなり便利な存在だと思う。本数も多く、あまり待つことなく次々とやってくる。
平和公園にやってきた。
何を隠そう、僕の誕生日は長崎原爆の日と同じだ。いつも誕生日にテレビをつけると見える光景がある。それを見に来た。
よし。しっかりと見た。
そろそろラーメン屋が開店する時間なので、またもや路面電車に乗って長崎駅前へと舞い戻る。
らーめん家 政
長崎県長崎市
営業時間 11:00~1:00(日曜日は22:00まで)
定休日 無休
東京・吉祥寺の家系ラーメンの流れをくむ店。限定であごラーメンを出している
うお、店の前にめちゃくちゃ人がいる。まさか並んでいるのか、と恐ろしくなったがよくよく見ると全部、バス停でバスを待つ人々だった。本当に長崎駅から徒歩1分のド駅前にある。まだ開店にはちょっと時間があるようで、店の前で仁王立ちしていたら、その圧に負けたのか、ちょっと早く店を開けてくれた。
店内は10席ほどのカウンターのみの細長い形。食券を買って奥から座っていく。
まず、黄金色の澄んだスープが目を惹く。このスープを味わってみると濃厚な魚介の味わいがわっと口の中に広がる。それに負けないためには力強い麺が必要となるが、しっかりと力強く存在感のある麺が鎮座しており、なんとも頼もしい。オーダー時に麺の固さをお好みで選べるようになっており「普通」をオーダーしたが、若干、柔らかめよりの設定に感じた。ただ、好みの問題だが、あまりに麺が固いと力強いゆえに主張が強くなりすぎるので、スープとの調和を考えるとこれでベストなのだと思う。あごによる魚介系の味わいは、一般的な魚介系スープに加えて繊細な甘みがあるように感じる。それが器の中で麺や具と共に綺麗に調和がとれているので深い味わいになっている。ただ、そう考えると、どんぶりのふちに置かれた大きな海苔だけが大きすぎて口の中に残ってしまい、他との調和を乱しているようにすら感じるので、もう少し小さいか少ないとベストに感じる。魚介系のラーメン好きにはこの「あご」の味、はまると思う。
どうやらお昼時だけなのかフルタイムなのか分からないが、ラーメンを食べるとご飯かおにぎりが無料でついてくるサービスがあるのだけど、後々の展開を考えてそのサービスを断ったら「え? マジで? そのデブさでご飯辞退?」って微妙な空気になってしまった。
さて、ここで長崎駅の時刻表を見ていただきたい。
長崎駅から博多へと行く特急は、概ね1時間に1本の間隔で組まれている。11時17分の特急を逃すと、次は12時16分だ。11時17分のやつに乗れると理想的な展開だが、ラーメン屋が11時オープンでは、さすがに17分の特急には乗り込めないだろう。諦めて12時16分のやつに乗るぜ、と思ったが、ここにきて11時17分の特急に乗れる目が出てきた。
まず、開店前の僕の仁王立ちの圧によってちょっと早めに開けてもらえたわけだ、おまけに一番に飛び込んだので、最初に作ってもらえて、比較的早くラーメンが出てきた。
さらに出てきたラーメンはこの日最初に食べる食事で、おまけに美味かったからペロリと一瞬で平らげてしまった。さらには食券制なので会計の手間もない。つまり、めちゃくちゃ早く食べ終わってしまったんです。
店を出たのが11時14分。特急が出発するまであと3分。普通なら間に合わないのですが、ここはド駅前のラーメン屋、もう目の前に長崎駅が見えている。おまけに乗り放題切符なので購入する時間も必要ない。間に合う、間に合うぞ。
ちなみに、この「ラーメン家 政」ですが、開店前に仁王立ちしていたのは僕だけでしたが、開店と同時にあっという間に満席になり、店を出る頃には外に10人くらい並んでいました。かなりの人気店のようです。
走れば1分で行ける。そうなれば11時15分だ。間に合う。17分の特急に間に合うぞ。うおおおおお。
間に合ったああああ。11時15分。いけるいける。
だあああああああ、これフェイク長崎駅じゃねえか。
本物の長崎駅に行くにはこの長い通路を走らなくてはならない。さらに奥に長崎駅がある。忘れてた。絶対に間に合わん。
ヘロヘロになりながら走ったけど、やっぱり間に合いませんでした。目の前で出発していきやがった。うまくいかないもんだな。
次の特急まで1時間ほどぽっかりとあいてしまったので、フェイク長崎駅にあるアミュプラザで「みんなの九州きっぷ」の特典である500円券をもらい、お土産などを物色した。お得すぎるだろ、これ。
12時16分発 長崎本線 上り 特急かもめ20号 博多行き
ショッピングを楽しんでいるとあっという間に1時間が経過したので、余裕をもって長い通路を歩き、特急に乗り込んだ。
13:35 佐賀駅
博多まで一気に行く特急だったが、途中の佐賀駅で降りた。もちろん、佐賀ラーメンを食べるためだ。
ラーメン007 佐賀ラーメン(佐賀県佐賀市)
久留米ラーメンにルーツを持つラーメン。やや太めで柔らかい麺。スープは豚骨だが、塩分や脂を控えめに仕上げることが多い。トッピングに生卵を乗せることが多い。
佐賀ラーメンの名店ともいえる店が一駅隣にあるようなので、ちょっとまって普通列車に乗り込み、1駅戻る。
13:42 長崎本線下り 普通 早岐行き
なんかめちゃくちゃ揺れる列車だった。ものすごく左右に揺さぶられながら、あっという間に到着した。
13:47 鍋島駅
めちゃくちゃ味のある駅舎だ。目指すラーメン屋は線路を超えた駅の反対側にあるようで、まあ、反対側と言っても小さな駅だ、楽勝だろうと思っていたら大変なことになっていた。
めちゃくちゃ線路が広い。
めちゃくちゃ広いもんだから、それを超える陸橋も長いし、高いしで大変なことになっていた。鍋島駅のこと舐めてたわ。
どうやら旅客の駅としてはそうでもないけど、併設する貨物の鍋島駅がなかなかの規模らしく、このあたりの貨物の拠点みたいになっているようだ。駅の裏だから楽勝だろと軽く見ていた数分前の自分を殴ってやりたい。
ラーメン屋を目指して歩く。
僕は取材中、なにかあると写真を撮り、それを見返して記事を書くのだけど、まれに、なんでこれを撮ったんだろう、と理解できない写真が紛れ込むことがある。
この写真もまさにそれで、いくら思い出そうとしてもなんでこの写真を撮ったのか分からない。思い出さないと重大な事実を漏らしてしまうかもしれない。思い出せない。本当になんなんだこの画像ってちょっと腹を立てながら画像を拡大した。
真空断熱タンブラーが置かれている。けっこう高価なやつだろ、これ。なんでこんなとこにって写真撮ったんだった。思い出さなくても全く問題ない事実だった。
ラーメンもとむら
佐賀県佐賀市
営業時間 11:00~20:30
定休日 水曜日
佐賀ラーメンのルーツである一休軒鍋島店の流れをくむ名店。
結局、けっこうな距離を歩くことになり、汗だくで目的の店に到着した。ひっそりとしている。悪い予感がする。
Oh……。
メッセージから見るに、店主が体調を崩されたのかもしれません。残念ですが、仕方がないことです(この記事を書いている2020年10月現在、代替わりして変わらぬ味で店が再開されたという情報を入手しました)。
べつに仕方がないことなので、折れた心を繋ぎなおして歩き始めます。もう1店舗、別のラーメン店が2.4kmくらい先にあるようです。タクシーは捕まらない感じなので、歩いていきます。
とにかく真っすぐな道路をただただ歩いていきます。
とにかく歩いて歩いて、そろそろ街外れ、みたいな雰囲気の場所に目当ての店がありました。
幸陽閣
佐賀県佐賀市
営業時間 11:00〜16:00(L.O.15:45)
定休日 月曜日
佐賀ラーメンを代表する名店の一つとして知られるお店。長年親しまれた名店だったが閉店、移転して焼肉店としてオープンしたが、客からの要望に応えてラーメンも出すようになるが、併用は大変なので、結局、ラーメン店に戻ったという経緯の店。だから外観がラーメン屋っぽくない。
到着すると、かなりの行列で店の外で待つ人がたくさんいた。かなりの人気店のようだ。特に店から指示があるわけではないが、感染症対策の一環として待つ人が店の中で待機して密になることがないよう、ノートに名前を書いて自主的に外で待っているようだった。
もう昼時も過ぎてしまったのだけど、それでも待つ人は多く、結局、入店まで30分くらいかかってしまった。
店内はテーブル席と座敷席のみでカウンターはなし。ぜったいに焼肉屋だったろ、これという内装をしている。食券制。
麺が柔らかい。その柔らかい麺がスープをしっかりと吸っていて絶妙な味わいを演出している。そしてそのスープなのだけど、濃厚な豚骨でありながらまろやかな味わい。たぶん、このバランスが大切なのだろう。このお店はメニューに替玉も大盛り設定もない。かならず麺とスープが同じ比率で出される。それはこのバランスが崩れないことを意味している。トッピングされている生卵も、最初は崩さずに食べて、中盤以降から崩してみると、よりまろやかになりつつ、コクがプラスされるので完全に別物になる。これがとにかくうまい。そして、麺を食べ終わった後もスープを飲むと、もうひとくち、もうひとくち、とつぎつぎ飲みたくなるスープであることに気が付く。人を病みつきにする良くない成分が入ってるんじゃないかと疑いたくなるほど病みつきになる味だ。ちなみに、隣のテーブルの若者が「ここは替玉も大盛りもないからな、足りないときはライスをつけるしかないぜ」と幸陽閣攻略法を熱弁していた。
ちなみに、僕の後にもたくさんのお客さんがやってきて、しかも日差しが強くなってきたので外で待つのがちょっときつくなってきたらしく、ほとんどの人が店内で待つような感じになっていた。
それがタイマンの喧嘩を見守るオーディエンスの人垣みたいになっていて、ラーメンを食べる僕の一挙手一投足を見守っていたので、ちょっと落ち着かなかった。
これだけ立て続けに色々な店で食べていると、あれ、食券だったっけ、後払いだっけと訳が分からなくなってくる。ここはもともと焼き肉店だったので、食券制の店でありながら、おそらくレジだったであろう場所が残っていたので訳わからなくなってしまい、金払うぞーってそこでしばらく待っていた。だんだん精神的な疲れが出てきた。
15:30 佐賀駅
佐賀ラーメンを堪能し、佐賀駅へと舞い戻ってきた。ここから特急で一気に博多まで行けてしまうけど、その前に、昨日取りこぼした玉名、大牟田を攻略しなくてはならない。そう、昨日、お前らが信頼ならないと口汚く罵った玉名、大牟田だ。
15:36発 長崎本線上り 特急 かもめ20号 博多行き
15:53 鳥栖駅
早朝にも乗り変えた鳥栖駅へと舞い戻ってきた。九州地方の各方面に赴く場合、車であろうが鉄道であろうが、鳥栖を避けて通ることはできない。それくらい交通の要となる場所だ。
16:55 玉名駅
鳥栖から1時間ほど普通列車に揺られて「玉名駅」へとやってきた。信頼できないだのなんだの、お前らがあれだけ悪辣に罵った玉名駅だ。よくもまあ、あんな酷いことがいえるもんだよ。着いてみるとなかなかい雰囲気の駅じゃないか。
さっそく、駅の外に出てみる。
これはお前らが正しかったかもしれない。少なくとも夜中にここに舞い降りたら、けっこう泊まる場所に苦労したと思う。
駅の脇から伸びる商店街みたいな道路を歩いて目当てのラーメン屋に向かう。
ラーメン008 玉名ラーメン(熊本県玉名市)
玉名ラーメンは熊本ラーメンのルーツともいわれている。濃厚なとんこつスープに中細ストレート麺、焦がしニンニクがトッピングされるのが特徴である。この焦がしニンニクは最初からトッピングされているのではなく、好みに合わせて店員に乗せてもらう形が多い。
玉名ラーメンの認知度を向上を目的として「玉名ラーメン協議会」に市内のラーメン店16店が参加しており、食べ歩きスタンプラリーなど積極的にイベントをおこなっている。
さて、時間は午後5時、多くのラーメン屋が夜の営業を始める時間だ。狙っている店はネット情報によると17時より夜の営業を再開するらしいので、完全にベストタイミングだ。
駅からけっこうな距離をあるき、飲み屋さんとかがちょっと建ち並ぶ地帯にその店があった。
玉名ラーメン 千龍
熊本県玉名市
営業時間
11時30分~14時00分
17時00分~23時00分
定休日 火曜日
ラーメン激戦区玉名の中でもその実力が光る屈指の人気店。ラーメンだけでなくチャーハンも美味いとの情報あり。
おかしい。ひっそりとしている。もう17時も超えて営業再開しているはずなのに、ひっそりとしている。それもそのはずだ。
4月1日より、夜の営業が18時からに変更になっている。
なるほどなるほど。
1時間待つのは全然かまわないのですが、そうなると後々の展開においてかなり致命的な感じなるので、近くにあるもう一つの人気店に行くことにしました。
桃苑
熊本県玉名市
営業時間11:00~翌1:00(営業時間短縮措置あり)
定休日 火曜日
玉名ラーメン御三家と呼ばれる3店の一角。
店内はとても広く、余裕をもって大きなテーブルが置かれており、ソーシャルディスタンスが保たれている。おそらくこれは感染症対策というより、もともとこういった余裕を持ったレイアウトなのだと思う。
カウンターみたいな仕切りに全方向が囲まれている場所に冷蔵のドリンク入れが置かれており、どうやってあそこに入るんだろうと気になってしかたがなかった。
店内は休日の夕方ということもあって、ほとんどのテーブルが家族連れで埋まっており、ワイワイキャッキャッと楽しげな雰囲気が溢れ出ていた。
前情報通り、ラーメンが出てきた後に店主と思わしき人がタッパーを小脇に抱えて「にんにくは?」とたずねてくる。ここでお好みの量だけ焦がしニンニクを入れてくれるわけだ。まず、スープのほうだが、濃厚なトンコツという印象だが、そこまで思いっきりトンコツというわけではない。ここ玉名は、ちょうど熊本と久留米の間くらいの位置だが、ラーメンの味わいもそうみたいで、久留米ラーメンの王道的トンコツと、熊本ラーメンのトンコツなんだけどけっこう離れている感じの中間といった味わいだ。投入される焦がしニンニクはスープの深みをより感じさせる役割があるけど、これがおそらく個人によって好みが異なるため、後から入れてもらうスタイルになったのだろう。麺は個人的にはやや固めに感じたが、例えば柔らかくて太い麺はスープとの調和を重視するが、こういった固くて細い麺は、スープと激突し、そこで新しい美味さを作り出すことができる。そういった意味では衝突しながらの調和なのだ。これは完全に病みつきになるやつで、例えば玉名で生活して遠い地に引っ越した人など、知らない街で唐突に食べたくなる味なのだと思う。美味い。
18:01 新玉名駅
新玉名駅にやってきた。ここは九州新幹線のみが停車する駅で、いうなれば新幹線専門の駅だ。在来線の乗り入れはない。しかも玉名駅と新玉名駅はもはや別次元というレベルでめちゃくちゃ距離が離れている。
何もない荒野にポツンと新幹線駅があって、その周辺にいくつかの大型商業施設がある。そんな駅が九州新幹線には何個かある。そういった意味ではここ新玉名駅は九州新幹線の代表的光景ともいえる。
さて、ここで一つ、釈明をしなくてはならない。この旅は九州のご当地ラーメンを制覇する旅で、玉名ラーメンのあとは大牟田ラーメンを制覇するつもりだったのだけど、どうやら、空腹度的にも、時間的にも大牟田ラーメンを攻め落とすことができそうにない。
というか、2日間乗り放題の切符なのに、もう2日目の夕暮れだ。かなり展開的に厳しい。想定以上に徒歩を強いられたり、行列に並んだりしたのが原因だ。
よって大牟田をパスし、このまま一気に博多まで行く。
ラーメン009 大牟田ラーメン(福岡県大牟田市)
久留米ラーメンをルーツとしたラーメンが、玉名ラーメン、熊本ラーメンと南下していった流れに従って大牟田ラーメンも久留米ラーメンをルーツにしたと感じるかもしれないが、意外にも全く別のルーツを持つ。
戦後間もないころ、炭鉱によって栄えた大牟田には全国から様々な人が来ていた。「岡山から来た」という電動製麺機を携えた4、5人の素性不明の男たちが大牟田駅前で屋台を構えたのが始まりと言われている。その特徴は、太い麺と濃い味、ということで味わい的にも久留米ラーメンルーツとは大きく異なる。
18:17 九州新幹線上り つばめ336号 博多行き
大牟田ラーメンを味わえなかったことは残念だが、まあ仕方がない。ここから一気に博多に行くため、新幹線に乗り込む。やはり車内は人がまばらで、ほとんど貸し切りみたいな状態だ。ちなみに、各駅に停まるこのタイプの「つばめ」車両は、各席にコンセントが備えられていない。
19:00 博多駅
さすが新幹線は早い。45分ほどで博多駅に到着した。駅を出ると、博多の町並みがとにかく都会で目がクラクラしてきた。夜の街に浮かぶ眩い光たちひとつひとつがギラギラした欲望のように見えた。
19:04 福岡市地下鉄空港線 姪浜行き
欲望の都、博多から地下に潜り、市営地下鉄に乗り込む。ものの数分で目的の駅へと到着した。
19:12 赤坂駅
ここ赤坂駅から少し歩いた場所に、長浜ラーメンの名店がある。
本当にこの先にあるんだろうかと不安になる真っ暗な通りを歩いていく。確かに車通りも多く、建物もたくさんあるんだけど、異様に暗い。
元祖 長浜屋
福岡市中央区長浜
営業時間 6:00〜25:45
定休日 12/31〜1/5
昭和27年創業。ラーメン屋には珍しく早朝より営業。
暗い通りを抜けると、一気の目の前が明るくなる。いわゆる「長浜エリア」という場所で飲食店が建ち並ぶ光景が見に留まる。ラーメン屋はもとより、居酒屋などの店舗が建ち並び、煌びやかな明かりを灯している。
そんな一角に威風堂々と「元祖長浜屋」が存在する。
店の外に券売機が置かれている。ラーメン550円とかなりリーズナブル。替玉も150円だ。ちなみに、この「元祖長浜屋」は替玉システム発祥の店としても知られている。
時間との勝負になりがちな市場近くのラーメン屋ということで、素早く茹で上がる細麺を採用。そうなると食べている途中で麺が柔らかくなってしまうので、麺の量を少なくし、替玉でフォローするというスタイルになったようだ。そこまではわかるのだけど、左下の「替肉」なる存在がちょっと分からない。
時間の関係もあるのか、店内は空いていて、威勢の良さそうな店員さんがズラリと並んでいて、いつでもラーメン出せるぜ! みたいな気迫を醸し出していた。
まず、食券を渡して2分ほどで出てきたのでそのスピードに驚いた。麺の固さをオーダーできるシステムがあるのだけど、必ず「普通」で頼むようにしている。それでも真っすぐな細麺は一般的なラーメンのそれに比べて固いように思えた。それが、比較的柔らかめなスープの中でしっかりと主張していて、味の輪郭を形どっている。何より圧巻なのは、麺の上に乗っている刻み肉だ。これがかなり強い塩味で、めちゃくちゃに美味い。麺やスープを味わいつつ、この肉を一つまみ食べると口の中がリセットされて飽きがこないし、この肉をスープに浸して塩味を浸みださせることにより、まろやかなスープの味わいが徐々に変化していく。完全に「替肉」の意味がわかった。こりゃ、替玉したら替肉もしたくなるわ。後の展開を考えて満腹になるわけにはいかないので、替玉をしてはいけないのだけど、あまりの美味さにペロリ、替玉と替肉を頼みそうになってしまった。とにかく、麺、スープ、肉、ネギがそれぞれ独立して存在しながら互いに影響を及ぼし合う、器の中で完成された出来の良い宇宙みたい存在がこのラーメンにある。
ネットで見た情報では「朝6時から営業」とのことだったが、取材時は「朝4時からやれるとこまで延長して営業」らしい。どこかで「早朝からやるラーメン屋なんてないだろ~」と書いたけど、しっかりとここにあった。
20:01 博多駅
さて、またもや暗闇の中を通り抜け、地下鉄駅へと舞い戻り、そのまま博多駅へと帰ってきた。ここで「博多ラーメン」を食べることにする。間隔があまりに短く、食べきれるか不安だが、このタイミングしかないので食べることにする。
ラーメン010 博多ラーメン(福岡県福岡市)
前述したとおり、同じ福岡市ということで長浜ラーメンも同じ括りで考えられがちな博多ラーメンだが、その特徴は大きく異なる。トンコツ主体の乳白色のスープと極細麺を特徴とする。トンコツスープを長時間にわたって煮込むことで髄のエキスを浸みださせたこってりスープが特徴。
これは完全に僕の個人的な事情で申し訳ないけど、僕の知り合いに、博多出身の男がいる。
この男に「福岡行ったときにこの店で博多ラーメンを食べたよ」と報告すると必ず「そんな店は本物の博多ラーメンじゃない、そんな店で食べてるようじゃだめだ」と言われる。けっこういろんな人がいろいろな店を報告するが、必ず言われるのだ。
だから僕らの中では、博多の人、博多ラーメンにうるさくて面倒くさい、となっており、これは完全に個人の事情で、実際に博多の人がそんな面倒なわけはないと思うのですが、決してそんなことないんですが、まあ、博多の人、博多ラーメンに関してまあまあめんどい。
ということで、完全に決してそんなことはないのですが、博多の民は面倒なので、きっとどの店で食べても「そんな店で食べてるようじゃねえ」と眼鏡をクイックイしながら言われると思うので、駅で食べられる博多ラーメンをチョイスすることにしました。もうあまり時間もないですしね。
博多ラーメン 一杢
福岡県福岡市(博多デイトス地下1階)
営業時間11:00~21:00
最後の一口まで美味しい、新博多系豚骨ラーメン
店内入口には消毒液が置かれている。店内は出張で来たっぽいサラリーマンのグループが多いように感じた。新幹線乗り場にほど近いということもあり、これから新幹線に乗る人が最後の博多の味、とばかりに訪れているような感じだ。
まず見た目が良い。まるで輝いているように見える白濁したスープにぽっかり浮かぶ味玉2つ。半分沈んだチャーシュー、アクセントとばかりにキクラゲでビシッと締める。もう見た目だけでめちゃくちゃ美味そうだ。味わってみる。まずスープだが、これが想像以上に味が濃厚なのに、豚骨独特の臭みみたいなものがない。どこかあっさりで、どこか濃厚。「新博多ラーメン」ってのはこういうことなのかなと思う。おそらくではあるけど、とんこつラーメンにとっつきにくい人でも楽しめるように試行錯誤した結果ではないだろうか。麺はしっかりと細くてやや固い。ただ、本当に固めの細麺かと思うほどにスープを引っ張ってくるので、完全にベストな状態で口に運ばれてくる。美味い。眼鏡をクイックイッさせて面倒なことは言わせない。
さて、ここからは大分を目指すことにする。おそらくこれが最後の列車になるはずだ。時間は21時、大分に到着するころには23時になっているだろう。そこからの列車はちょっと考えられないので、ここで2日間の乗り放題切符はおしまいである。
ただ、帰りの飛行機の兼ね合いもあるので、大分で打ち止めというわけにはいかない。よって、乗り放題切符は終わってしまうが、そこから先も正規の運賃を払って、3日目の旅を続行したい。そのための大分移動だ。
ラーメン011 大分ラーメン(大分県大分市)
調べてみたところ、ご当地ラーメンとしての「大分ラーメン」というくくりは存在しない。けれども、ラーメンに関してはなかなか熱心な土地らしく、店の数も多い。
中には「大分ラーメン」を名前に関する店があるようなので、そこのラーメンを食べることにする。
21:04発 鹿児島本線上り 特急ソニック57号 大分行き
また攻撃力の高そうな特急列車がやってきた。この列車に乗ると23:25に大分駅に到着する。狙うべき大分ラーメンの店は大分駅の駅前にあるっぽい。ただ営業時間がネットの情報によると23:30までとなっている。
一見すると無謀に思えるかもしれないが、この店はラストオーダーの情報が書かれていない。そうなると23:30がラストオーダー時間である可能性は高い。ということは、到着して走れば間に合うんじゃないだろうか。
なんにせよ、1日目に学習したように、宿泊地に到着したらラーメンを食べる。そうしないと次の日に開店時間まで足止めされてしまう。
何もアクシデントがなければ間に合う。23:30分が閉店時間ではなくラストオーダーの時間なら間に合う。走れば間に合う。
真っ暗闇の中を突き進む特急ソニックに揺れらながら、念仏のように唱えます。アクシデントがなければ間に合う。アクシデントがなければ間に合う。
ガタンプシュ―
「前を行く列車がイノシシを轢いたため、安全確認のため停車いたします」
アクシデントがあった。
思いっきりあった。
結局、1時間ぐらいその場で停車していた。
0:25 大分駅
予定よりきっかり1時間遅れて大分駅に到着した。そういやこういった日付を跨いでしまった場合は乗り放題切符的に大丈夫なのだろうか。何も言われなかったから大丈夫なのだろう。たぶん。
(規約を調べてみたら「有効期間の最終⽇に翌⽇にまたがる列⾞をご利⽤の場合は当該列車を下車するまで有効です。」とあったのでOKでした)
12時を超えた大分駅は閑散としており、もちろん、走れば間に合うだとか、ラストオーダーなら間に合うだとか、そういったものを超越して、しっかりとラーメン屋には間に合わなかった。
それどころか、いくら検索しても宿泊場所がない。大分だから大丈夫だろーと軽く見ていたが、本当に泊まる場所が皆無だった。
大分の夜の繁華街は、なぜか音楽が爆音で流れている一角があるのですけど、そこでめちゃくちゃアウトローっぽい強面の人が音楽に合わせてドルチェ&ガッバーナの香水のせいっぽいこと熱唱していてなんだか怖かったです。
さらに進むと、酒に酔った勢いで手を繋いじゃいました、みたいな男女がいて、大声で「なんだかラーメン食べたくなる人の気持ちも分かるよね」「わかるわかる」みたいな、お酒の締めにラーメン食べたくなる現象のこと話してたんですけど、なんだかその光景を見ていて「じゃあラーメン食べたいのにイノシシのせいで食えなかった人の気持ちは分かるのかよ」と無性にイライラしました。
こうして2日目、大分の夜は更けていったのです。
3日目 大分県大分市
やはり、昨日の夜にラーメンを食べられなかったのはかなり痛い。昨日は苦労して見つけた一泊2000円という激安価格のサウナ&カプセルに泊ったのだけど、そのカプセルのフロントで「え? GOTOじゃないの?」と食ってかかっているおっさんがいて、激安2000円でも満足せずに、さらにGOTOまで使おうという強欲さに驚愕したところだった。
そして、そのGOTOが適用されなかったおっさんが、なかなかイビキがうるさいものだから、無意味に朝6時に目が覚めてしまった。目当てのラーメン屋が開店する11時まで5時間ほど、全くやることがない。本当にやることがなかった。
大分ラーメン おめでたい 大分駅前店
大分県大分市
営業時間11:00~23:30
定休日 水曜日
本当に大分駅のすぐ目の前
本当に駅からすぐの場所にある。しっかりと黄色い看板に「大分ラーメン」と書かれている。本当に5時間くらいすることがなかったので、周辺で待機し、約束の時が近づくにつれてジリジリと店に近づいていったのだけど、結局、店の前に仁王立ちすることになってしまった。
見かねた店主と思わしき人が中から出てきて「うち、11時からなんで」と申し訳なさそうに伝えてくれたが、それでも微動だにせず仁王立ちで待ち続けた。
毎度のことだけど、なかなかの圧だったのか、さらに見かねた店主が早めに店を開けてくれて、ついに約束の時となった。
麺は細く固い、このあたりは博多ラーメンの流れを汲んでいるのだろうと思う。そして、これぞトンコツというトンコツ独特の香りがするスープは濃厚で、しかも少しとろみがある。このとろみによって麺にしっかりとスープが絡んでいくので、最後までしっかりとトンコツを堪能できる。博多ではモロにトンコツというものを体感せず、眼鏡をクイックィッされそうだったが、まさか大分でこのようなストレートのトンコツを味わえるとは思わなかった。またチャーシューが圧巻で、けっこう大きくて分厚く、存在感があるのに、食べてみるとめちゃくちゃ柔らかく、口の中で溶けるような感覚すらある。たまたまカウンター席で、店員さんがこのチャーシューをバーナーで焙っているのを目の前で見ていたのだけど、あんなでかいのがまさか僕が頼んだ普通のラーメンに入らないだろ、後から来たおっさんが頼んだやつだろ、と思っていたら本当に入っていて驚いた。味玉に分厚いチャーシュー、大判のノリ、これらを考えると790円という値段設定は完全にコスパが良い。美味い。
さて、ここで大変なことが巻き起こった。こちらを見て欲しい。
これから南下して佐伯方面に移動するのだけど、その特急が11時10分発だ。これを逃すとほぼ1時間後になってしまうので、できれば11時10分に乗りたいと考えていたが、まあ、普通に考えて無理だ。ラーメン屋は11時開店だ。
なぜか、どこかの駅でもこんな状態に陥った記憶を思い出し、九州の主要駅ではラーメン屋の開店にあわせて11時10分くらいに特急が出ることが多いと書きそうになるが、おそらく偶然だろう。
しかしながら、店主がちょっと早く店を開けてくれたこと、ラーメンが思いのほか早く出てきたこと、朝食も食べずに5時間待ったのでペロリだったこと、そしてこの店が死ぬほど駅前にあること、全てを加味すると、11時10分の特急に乗れる可能性がでてきた。
しかも、今日からは乗り放題キップが使えないので、券売機で切符を購入しなくてはならないのだけど、こうなることを見越して既に購入しているという念の入れよう。なにせ、5時間も時間あったからな。
いそげええええ!
急いで店を出てひた走り、大分駅コンコースを爆走する。駅のコンコースを走っていると、自分が牧瀬里穂になったような気分がしてくる。
11:10発 日豊本線下り 特急にちりん9号 宮崎空港行き
間に合った。本当に間に合った。11時オープンのラーメン屋でラーメンを完食して、11時10分の特急に間に合った。時空が捻じれたとしか思えないファインプレーだ。
奇跡の乗車を成し遂げた特急列車は、まるでサンドイッチのように海と山の景色が入れ替わる中を走っていった。車内には旅行でハチャメチャにテンションが上がっているおばさんがいて「私の鬼滅の刃を見る?」「ゲハハハハハハ」みたいに盛り上がっていた。なんだよ、おばさんの鬼滅の刃って。
あまりのうるささにその車両にいた乗客全員が前の車両に移動したくらいだった。まあ、車内はかなり空いていた。
12:12 佐伯駅 (運賃2680円)
特急列車に1時間ほど揺られると、佐伯駅に到着した。佐伯は富永一朗先生の故郷らしく、駅にはたくさんのマンガが展示されていた。
この地で佐伯ラーメンを食する。
ラーメン012 佐伯ラーメン(大分県佐伯市)
佐伯市はここまでの移動の景色でもよく分かったが、山に囲まれた地形だ。古くから、周辺の地域と交流しにくかった。そんな事情もあってか、ラーメンも、周辺地域の影響を受けず、ガラパゴス的に独自の進化を遂げていったという見方がある。
醤油豚骨系のスープ、中太で柔らかい麺が特徴。佐伯人が3人集まれば必ずラーメンの話題になるというほどラーメン熱の高い地域で、ラーメンを出す店も多い。それぞれの店が独自に味を演出しており、佐伯ラーメンはまだまだ進化過程とみる人もいる。
確かに、検索してみると町の規模の割にラーメン店が多い印象を受けた。どこで食べるかなと思案していると、駅前すぐの場所に行列を形成する店があったので、そこで佐伯ラーメンを吟味することにした。
ラーメン白龍
大分県佐伯市
営業時間
11:40~14:00 18:30~21:30
定休日 日曜日
毎週水曜日には「ばさろう麺」というジロー系ラーメンの限定販売をおこなっているという情報アリ
店の間口は狭く、おそらく店内もそう広くはない。店の前には丸椅子が並べられていてそこに並ぶようになっている。ちょうどお昼時ということもあって、かなり待っている人がいた。
その行列の一番後ろに並ぶ。
ここは佐伯駅から徒歩1分、本当に駅の真正面にある店なのだけど、都会の駅前とは大きく事情が異なる。本当に静かなのだ。何も騒音がない静かな空間で、青い空に流れる雲を眺めながらラーメンを待つ。
店の前の猫はアクビをしながら、今日も一日を過ごしている。何も変わらないであろう日常がそこにあった。
行列に1時間ほど並んで、やっとの入店となった。
なんだこれ。めちゃくちゃ美味い。もしかしたらこれまでの人生で食べてきたラーメンで最も美味いかもしれない。ややとろみのある濃厚なスープはやや豚骨醤油寄り、なにより、ニンニクとコショウがの味が効いていて、その刺激が濃厚な味わいをさらに実感させてくれる。スープのトンコツ、醤油、コショウ、ニンニク、それぞれ主張が強いのに、それらが規律良くまとまって味を演出しているかのようだ。麺は太めで、やや柔らかい。麺の固さはオーダーできるけど、この柔らかくて太い麺がスープに負けず、存在感を誇示していく。とにかくトータルバランスが素晴らしく、絶対に依存性のあるなにかが入ってるわーと呟きながら完食となった。同じ市内にこの店があったらたぶん毎日食べてる。行列も納得の美味さ。
完食して店を出る頃には、行列も2倍くらいに膨れ上がっていた。とんでもない名店に巡り会ってしまった。
この時刻表を見て欲しい。ここから最後のご当地ラーメンを食べるべく、宮崎を目指すのだけど、佐伯から南下していくエリアは、日本でも屈指の「青春18きっぷ難関エリア」とされている。
赤字で示された特急列車は1時間に1本くらいのペースで宮崎へと向かっているが、黒字で示された普通列車は3本しかない。
おまけに、そのうち2本は「重岡」という途中駅までしかいかないので、純粋に宮崎県まで行く列車は早朝6時18分の1本のみ。特急に乗れず普通列車乗り放題である「青春18きっぷ」ユーザーはだいたいここで足止めを食らう。
13:08発 日豊本線下り 特急にちりん11号 宮崎空港行き
さて、ここから九州最後のご当地ラーメン、宮崎ラーメンを食べるのだけど、連日のラーメン乱舞が祟ったのか、かなり満腹感が強い。おまけにまだ13時だ。時間的余裕もそこそこにあるので、腹ごなしと時間つぶしを兼ねて、途中の延岡で下車して観光をすることにした。
せっかく来たんだし、ちょっとは観光しないとね。じつに懸命な判断だと思ったのだけど、この選択がこの旅において最大の大誤算になってしまった。
18:47 南宮崎駅(運賃2500円+3690円)
すっかり延岡での観光を楽しんでしまい、そこから特急に乗って南宮崎駅に到着した頃には、どっぷりと日が落ちていた。しっかり観光したのでかなり空腹になってきた。食べるぞ、宮崎ラーメン。
ラーメン013 宮崎ラーメン(宮崎県宮崎市)
豚骨からスープをとる博多ラーメンの流れを汲んでいるが、トンコツ特有のドロッとした濃厚風味ではなく、あっさりとした味わいが多い。ベースのスープに醤油や塩を加えたものを出すこともある。麺は太く、柔らかいのが特徴。ラーメンと一緒にニンニク醤油やたくあんが出されることも多い。
お目当ての店は、ここ南宮崎駅から少し歩くらしい。もうすっかりと夜の帳が落ちた町はなかなかに煌びやかで、道路を通る車の流れも激しい。途中、めちゃくちゃ複雑な交差点を通り抜けて、お目当ての店に到着した。
ラーメンきむら 大淀店
宮崎県宮崎市
営業時間 11:00~21:30
定休日 水曜日
宮崎の人気ラーメン店
ひっそりとしている。このパターンか。
時間は19時、完全に営業時間に間に合うという目論見だったが、おそらく、新型コロナの影響で時短営業になったんじゃないだろうか。まだ店の中にも人がいて、熱気みたいなものも残っているので、19時に閉店だったのかもしれない。
こうなると、もう完全に帰りの飛行機の兼ね合いでアウトで、いまさら別の店を探すわけにもいかず、なんで延岡で観光なんかしたんだよ、時間たりなくなっとるやんけと怒られること必須、でもね、僕はすごいことに気が付いたんですよ。
「宮崎空港にも宮崎ラーメンの店がある」
これはヒットでしたね。どうせ宮崎空港に行くんです。そこで宮崎ラーメンが食べられるならば最高じゃないですか。営業時間は20:30まで、全然間に合う!
ということで、さっそく、タクシーに乗って宮崎空港に向かいました。
宮崎ラーメン 響 宮崎空港店
宮崎県宮崎市
営業時間 11:00~20:10
入魂の一杯「想いを伝える」
泣いても笑ってもこれがラストチャンス。いける!店に明かりが灯ってるドアも開いてるぞ!(そもそもドアがないっぽい)、やった!
「心を込めて準備中」
だめだああああああああああああああああ!
完全に時短営業で終わってしまってる。
ということでここでタイムアップ。ただ、宮崎で何もラーメンを食べないわけにはいきませんので、空港の端の方にあったセブンイレブンでラーメンを買いました。
麺は中太ちぢれ麺、コンビニラーメンとなめてかかっていると大変な目に遭う。まず、麺はしっかりとコシがあり、十分に満足する口当たりがある。おそらく煮干し系と思われる。その味わいは、ここまで九州の、おもにトンコツ系を味わってきた筆者にとって新鮮なものだった。特に醤油の主張が強く、北と南では根本的にラーメンの味の構成が違うんだと実感する。レンジで温めて食べるため、熱々でありながら麺が伸びないようするにはどうしたらいいか考え抜き、二段式という方式を生み出しており、まさに企業努力の賜物といった心遣いだろう。美味い。
ということで、九州ご当地ラーメン旅、これにて終了。結果は以下の通りです。
今回のご当地ラーメンの旅は、僕にとって新型コロナ騒動後、初の取材旅行だった。万全の感染対策を整えてのぞんだ。いかがだっただろうか。
かなり気合を入れて臨んだ取材だったが、蓋を開けてみると散々だった。幻のバスを待ち続けて立ち尽くしたり、バス代が1円足りなかったり、枕崎の街を走り回り、そもそも店が開いてなかったり、西鉄久留米まで歩いたり、目の前でバスが行ったり、フェイク長崎駅に翻弄されたり列車がイノシシを轢いたり、大幅にスケジュールがずれ込んでしまい結局、乗り放題で賄いきれなかったり、挙句には宮崎で喜多方ラーメンを食べる惨劇を演じた。
最初こそは思い通りに進まない取材にイライラしたけど、途中から、まあ、こういうのもいいんじゃないって思い始めていた。
この新型コロナを巡る様々な社会情勢は、皆さんの生活においても様々なことが思い通りにいかない状況を作り出している。楽しみにしていたイベントが中止になったかもしれない。
会いたい人に会えないかもしれない。自分のキャリアが大きく停滞したかもしれない。僕なんかがどうこう言うのも憚られるくらい深刻で重大なことだってあると思う。
けれども、あまり気に病んでも仕方がないのかもしれない。命にかかわること以外は、もしかしたら、まあ、それでいいのかもしれない。
九州各地でたくさんのラーメンを食べた。たくさん列車に乗った。飲食も、交通も、このコロナ禍で大きな打撃を受けた業種だ。それでも、行く先々の人々は、つらい中、苦しい中、折り合いをつけているように思えた。
うまくいかなくたっていいじゃない。こんなにもラーメンが美味しいんだもん。苦しかったりイライラしたり悲しくなったりしたら美味いラーメンを食べる。大丈夫。きっとうまくいく。だってこんなにもラーメンが美味いんだもの。
楽観的すぎるかもしれないが、そう考えることが「Withコロナを切り抜ける僕の生き方」だ。
おわり
※編集部注:お店の情報は実際とは異なる場合があります。また、新型コロナの影響で変更となっている可能性もありますので、ご了承ください。
patoさんが書いた前回のラーメン記事はこちら