久しぶりの遠出だ、と楽しみにしていたのに、いざ当日になると雨ということがある。世の中には「雨男」、「雨女」というジャンルが存在して、出かける時にやたらと雨を呼ぶ人々がいるのだ。例外も多々あるけれど、基本的にどこかにお出かけとなると、人は晴れていることを望む。
北海道は梅雨がないと言われている。そんな時期に私は2週連続で北海道に行ったのだけれど、2週連続で記録的な雨だった。晴れ渡る青い空を見たかったのだけれど、取り壊しの決まった団地の壁みたいな空の色で、アスファルトが凹むのではないかという雨が降っていた。
そんなことがよくある。数年前にあるプロジェクトに関わらせてもらった。そのプロジェクトが主催する親子キャンプは、10年間一度も雨が降ったことはなかったそうだ。ただ私が関わった年に台風で中止になった。私は雨男のようだ。
「雨男」「雨女」なんて偶然の産物。ただ偶然をその日に起こすという意味では、選ばれし人間なのかもしれない。「神の子」と言ってもいいかもしれない。急にカッコいいではないか。雨男、雨女にはマイナスなイメージがあるけれど、「神の子」だと急にプラスな感じだ。
エルニーニョ現象
エルニーニョ現象というのを聞いたことがあると思う。エクアドルとペルー沖の海面水温が異常に上昇することだ。例年クリスマス頃に起きることもあって、スペイン語で「神の子」を意味する「エルニーニョ」と名付けられた。
エルニーニョ現象の逆は「ラニーニャ現象」。海面水温が異常に低下することだ。「エルニーニョ」には少年という意味もあり、「ラニーニャ」は少女という意味がある。季節になるとエルニーニョ現象とかとニュースなどで耳にする機会も多い。
「エルニーニョ」なのか、「ラニーニャ」なのか、その最前線に行きたいと思った。今はインターネットで簡単にわかる。過去のデータと比べて判断するので、むしろインターネットの方が向いていると思うけれど、自分で確かめたい。百聞は一見にしかずと言う。書を捨てよ町へ出ようとも言う。ということで、書を捨てよガラパゴスへ出ようということになったのだ。
ガラパゴスでわかるエルニーニョ
「エルニーニョ」か、「ラニーニャ」か。それはガラパゴスで水温を計るとわかる。ガラパゴスとは、エクアドルに属する諸島で100を超える島と岩礁から成り立っている。
一度も大陸とつながったことない「海洋島」であり、南米大陸とは1000キロも離れているため、独自の生態系が形成されている。古くはNHKの「生きもの地球紀行」などで見たことあるのではないだろうか。
ちなみに日本も島国ではあるけれど、昔は大陸とつながっていたので「大陸島」である。日本だと小笠原諸島が「海洋島」となる。
「エルニーニョ」になると海面水温が上がり、海水が蒸発するので、雨が多くなる。寒流が運ぶプランクトンが減るのでイワシなどの魚が沿岸部から減る。
そのためガラパゴスに暮らし魚や海藻を食べる「ウミイグアナ」や「アシカ」、「ペンギン」は餌に困り数を減らす。一方で雨が多くなると陸では植物の成長が盛んになり、木の実を食べる動物は大繁殖することになる。リクイグアナやフィンチ(鳥)などがそうだ。
逆に「ラニーニャ」が起こると、海にはプランクトンが増えて魚が増えるので、アシカやペンギンなど海で暮らす動物は元気になるが、雨が減るので陸で暮らす動物は大打撃を受ける。そのようなことがガラパゴスの長い歴史の中で繰り返され、生物の進化につながってきた。
つまり、どっちがいい悪いではないのだ。ちなみに一般的な日本における傾向は「エルニーニョ現象」が起きると冷夏で暖冬になり、「ラニーニャ現象」が起きると猛暑で寒冬になる。ガラパゴスで起きたことが世界中に影響を及ぼすとも言える。最前線なのだ。
長い道のりだった。日本からだとアメリカで飛行機を乗り換えてエクアドルに行き、さらに飛行機を乗り換えガラパゴスに到着する。トランジット待ちなどを含めると30時間ほどの旅になる。
入島には書類に20ドル、入島料に100ドルとお金がかかる。持ち込み制限もあり、飛行機に乗る荷物検査とは別に荷物検査があり、ガラパゴスに着いてからも、島から島に移動する際はやっぱり荷物検査が行われる。
ガラパゴスを歩けば、あちこちに動物がいる。一番いるのはガラパゴスウミイグアナ。イグアナは変温動物なので、おそらく午前中は体が冷えているようで、体が温まるまでは全身広げてピクリとも動かない。そんなガラパゴスウミイグアナが時間の止まった古書店の本くらい横たわっている。
海を目指して歩いていると、もはや木のようになったウチワサボテンを見つけた。あちこちにこのようなウチワサボテンが生えている。一般的なウチワサボテンを知っていると、このウチワサボテンには驚くことになる。
ゾウガメやリクイグアナの餌となるウチワサボテンは、身を守るために茎を木のようにしている。上記のように大きくなるのもそのためだ。生態系により進化した結果だ。生き物に食べられ、成長できなくなるリスクを減らすために進化したのだ。
さくらの高火力GPUサーバーと同じことだ、たぶん。コンピューティングリソースの運用や設備投資のリスクを省き、AIやディープラーニングの性能を追求して競争力を高めたい方のニーズに応えるために進化している。
ビジネス用語的なガラパゴス化ではなくて、進化しているという意味で同じなのだ、たぶん。
エルニーニョなのか
気象を調べるための正式な測り方がある。ただそんなのは知らないので、水温計を持って海に入ればいいのかな、と家にあったいつか買ったユニクロのももひきと水温計を持ってガラパゴスに来ている。
家中を探したけれど水着がなかったので、ももひきということになったのだ。ゴーグルはガラパゴスで買った。300円。
海に入った時点で「あ、これ、温かいぞ」とは思ったのだけれど、少し沖のほうまで行って水温を計った。水温はほぼ「26度」。ちなみに行ったのは本当にクリスマスの日なので、水温を測るにはピッタリな日だったのではないだろうか。
その後もいろいろなところで計ったのだけれど、どこも25度か26度だった。港で計ると25度、泳げるようなところで計ると26度。平均すると「25.5度」ということになる。詳しい方に聞けば、その時期の水温としてはとても高いとのことだった。
つまりエルニーニョっぽいということだ。そもそも、ガラパゴスに着いてから、雨が多かった。10年ほどガラパゴスに通った詳しい方に話を聞いても、雨は記憶にない、ということだったので、水温から考えてもエルニーニョ気味であると言えるのではないだろうか。海に入っている写真でもわかるが曇りだ。
先にも書いたように、家にいたってニュースやネットで日本のほぼ反対側とも言えるガラパゴスの天気はわかるし、水温だってわかる。でも、実際に自分で来ることで、エルニーニョ最前線を体験できるのだ。
晴れ渡るガラパゴスを見たかったよ、正直。朝から雨の日とかもあって困ったもの。でも、それが私の「雨男」の力かもしれない。いや、神の子「エルニーニョ」の力。私は神の子なのだ。
だって、10年以上ガラパゴスに通っていた詳しい方(研究者)が、雨降ってたの! と驚くほどなので、貴重な体験だったのだ。
いや、晴れ渡るガラパゴスが見たかったよ、正直。朝から雨とかじゃないほうがよかったよ。エルニーニョのせいで魚が少なくなっているのか、一番見たかった「ガラパゴスペンギン」は見れなかったよ。でも、エルニーニョは体験できたのだ。
それでいいじゃない、ということなのだ。現地に行くことで体験が生まれるのだ。もちろん晴れ渡ったガラパゴスを体験したかったよ、正直。
でも、現地に行ったからこそ、エルニーニョ気味のガラパゴスを体験できたのだ。晴れ渡ったガラパゴスを体験していないのは、家にいる時と今も変わりないけど。だって、雨だもん。
しかし、そういうことなのだ。ペンギンは見れないよ、エルニーニョ気味だったから。でも、ガラパゴスウミイグアナも、アシカも、ゾウガメも見たからいいじゃないか。そういうことなのだ、きっと。エルニーニョ最前線を体感できたのだから。