スーパーに買い物に行く。今晩の食事は何にしようかな、と入り口からすぐの野菜コーナーを見て、魚を見て、肉コーナーへと歩く。これ安いじゃない、というものもあれば、高いな、となるものが並ぶ。同じカテゴリーのものでも、当たり前だけれど値段はピンキリだ。
グラム98円の豚肉もあれば、グラム300円の豚肉もある。牛肉などはパックに入っているだけのものもあれば、一枚一枚懇切丁寧にビニールに挟まれた薄い肉もあったりする。しゃぶしゃぶ用だとは思うけれど、ビニールを剥がしながらしゃぶしゃぶするのだろうか。発想としては板ガムに近い。でも、そのような肉は高い。
お皿などもそうだ。百均ショップに行けば1枚100円(税別)で売っているけれど、自分の家に伝わるお宝を持ってきて鑑定してもらう番組では数百万のお皿が出てきたりする。美術館や博物館にもお皿は並んでいる。料理したものを盛る、という用途は一緒なのに値段は様々だ。
高いお皿には自動洗浄機能が付いているわけではない。絶対に割れない機能や、持っていると幸せが訪れて札束のベッドで眠るような安い雑誌の裏表紙の広告のようなことが起きるわけでもない。でも値段は異なるのだ。
世の中には、上記のように用途は同じでも高級なものがあるのだ。時計もその一つだ。時を刻むという意味では同じだけれど、値段はピンキリ。数百円から数千万円、億に届くものもある。時計は成功者の証でもある。いい腕時計をつけていると、成功者だとすぐにわかるのだ。
世界には高級な時計メーカーが多数存在する。オメガ、ロレックス、タグ・ホイヤーなど。一度、どこかの高級時計屋に入ったことがあるのだけれど、「マジで?」、「これ0の数間違っているよね?」とサバンナでライオンと目が合ったみたいなパニックになったことがある。ポマードでばっちり決めた店員さんに、軽く会釈してそのお店を出た。
ブルガリの時計
そんな高級時計メーカーの一つに「ブルガリ」がある。1884年にイタリアのローマで創業した高級宝飾品ブランドだ。1977年からは腕時計の製造も始め、安くても数十万円、高いものは桁が変わる。「オクト フィニッシモ スケルトン ウォッチ」なんて300万円近くする。もうそれは年収ではないか。私の年収より高いではないか。
しかし、欲しいのだ。世界的に有名で、その時計をつけていると成功者に見える。欲しいではないか。時を刻むという意味では別にブルガリの時計でなくてもいい。スマホでだって時間はわかる。ただ欲しいのだ。だって、世界的に有名で、その時計をつけていると成功者に見えるから。
問題は高いことだ。めちゃくちゃ高いことだ。もしブルガリの時計を買ったら、その後から極貧生活になることが目に見えている。いや、年収全部持っていかれるから、私は消滅するかもしれない。
もう一個問題があるとすれば、私は腕に何かをつけることが得意ではない。普段から時計をつけることはないし、アクセサリーをつけることもない。違和を感じて、そちらばかりが気になってくる。そんなもののために数十万、数百万は無理だ。
ブルガリを買いにブルガリアに行った
しかし、買おうと決めて私はブルガリ「ア」に行ったのだ。ブルガリ「ア」は東欧の国で旧社会主義国。長らくソ連の衛星国だった。明治ブルガリアヨーグルトのブルガリ「ア」はこの国だ。ヨーグルトの国と思ってもいい。スーパーに行くと日本よりはるかに多くのヨーグルトが並んでいる。
そんな国で時計を買うわけだけれど、考えて欲しいことがある。たとえば、スーパーでペットボトルのジュースなどを買うとボトルキャップが1つ付いていることがある。値段は普段と変わらないけれど、ボトルキャップが1つおまけで付いてくるのだ。これは嬉しいことではないだろか。ペットボトルにプラス1の喜びだ。
スーツ屋さんなどに行くと、1着買うともう1着は3000円で買えるというサービスがあったりもする。普通にもう1着買うと1万円以上かかるのに、3000円でもう1着買えてしまう。プラス1の喜びだ。3000円は高いけれど、スーツの値段と考えれば安い。
さくらインターネットもレンタルサーバとは別に、「さくらのVPS」というサービスを提供している。どちらもサーバを借りているという意味では同じなのだけれど、VPSならば、使いたいツールをサーバにインストールできたり、自分に都合のよいプログラミング言語をインストールしたりできる。同じようだけれど異なるのだ。
ブルガリアで買う時計
そういうことなのだ。ブルガリアの時計もそうなのだ。ブルガリではない。ブルガリアなのだ。「ア」をプラス1しているのだ。ブルガリに「ア」が付いてくるのだ。レンタルサーバではなく、VPSみたいなことなのだ、きっと。
「ブルガリ」の時計ではなく、「ブルガ」の時計なら、本来あるはずの「リ」がなくなり損した気分。本来ないといけないものがないのだから。しかし、「ブルガリア」の時計ならどうだろう。本来必要な「ブルガリ」はあり、さらに「ア」が付いてくる。1つ得ではないか。
ペットボトルにボトルキャップが付いてくるようなものだ。スーツを1着買うとプラス3000円でもう1着買えるようなことだ。しかも、ブルガリアの時計なら、アがプラスで付いてきているのに、ブルガリの時計より安いのだ。バーゲン中なのかな、と勘違いしてしまう。
ブルガリの時計は100万円、ブルガリアの時計は350円。桁が違う。100万円の消費税で、余裕で買えてしまう値段だ。しかも、ブルガリの時計はシックなデザインが多いように思えるけれど、ブルガリアの時計は違う。
ブルガリアの時計なら350円
お花柄。これで350円。ブルガリに「ア」をプラスしているのに350円。時を刻むという意味ではブルガリもブルガリアも変わらない。なのに、「ア」がプラスされて350円、さらにお花柄、しかもバラ。完璧ではないか。ブルガリの時計が欲しいという願いはブルガリアで叶うのだ。
もちろん細かく見れば、ブルガリは自動巻きだったり、30メートル防水だったり、サンドブラスト加工だったりと高機能だ。一方でブルガリアの時計は、電池式だし、生活防水さえ心配だし、特になんの加工もないと思う。
しかし、ブルガリアの時計には「ア」が追加されているという、アドバンテージがある。ちょっと考えて欲しい。たとえば「変態性」を高めたいとする。
その場合、実は裸ではない。裸でその辺を歩いていると変態な気がするけれど、プラス1するとより変態性が高まる。裸に靴下をプラス1。裸より全然変態なのだ。自宅の鏡の前で試してみると納得すると思う。ブルガリアの時計もそういうことなのだ。
ブルガリの時計はどんなに頑張っても「ア」を追加することはできない。ブルガリのサイトで時計を見たのだけれど、「ア」を追加という説明文はどこにもなかった。どれも自動巻きだったり、30メートル防水だったりという説明ばかり。
こっちは「ア」が追加されるという、ブルガリにはない特徴を持っている。むしろ、ブルガリよりいいのではないか、と考えてみてはどうだろう。何を言っているのか全くわからないと思うが、このわからなさが世界をおおらかにする。
世界はそのようなプラス思考で明るくなっていくのだ。覚えておいてほしい。
すごい笑顔だもん。写真を見返すと、よっぽど嬉しかったようでたくさん写真を撮っていた。自分の必要とするレベルのブルガリ及びブルガリアの時計を買えばいいのだ。レンタルサーバとVPSと同じ。そういうことなのだ。笑顔になれるから。