かつて、ウェブサイトを作るにも、ECショップを開くにも、専門知識が必要だった。2000年ごろにECショップを開設しようと見積もりを依頼して「最低500万円ですね」と返された記憶がある。
だが、現代は「ノーコードDX」の時代だ。ノーコード、つまりプログラミングなしでのDXを実現できるとなれば、素人でも触れやすい。コロナ下でオンラインでのやりとりが増えたこともあり、急速にノーコードは広まった。
ノーコードについては「ノーコードとは?ローコードとの違いやアプリ開発におすすめのツールを紹介」でくわしく解説している。
ノーコードDXのメリット
ノーコードDXのメリットは、主に5つある。
- プログラミング人材不足でもツールを使える
- 新技術を活用しやすい
- 開発コスト削減
- システムのサイロ化(孤立)を防げる
- サービスのリリース速度が上がる
プログラミング人材不足でもツールを使える
プログラミングをまともにできる人材は、日本だと専門会社に偏りがちだ。社内でプログラミング人材を育成するにも時間がかかる。それを考えると、ノーコードによるDXが唯一の選択肢になるケースも少なくない。
特に、ウェブサイト制作やECショップ開設・管理など、コーディングすると大変な手間とコストがかかる作業においては、ノーコードのほうが望ましいといえるだろう。
新技術を活用しやすい
内製したプログラマに新技術を学習してもらうにも、追加コストがかかる。それに比べて、ノーコードによるDXであればAIやIoTなどの新技術も、気軽に使い始められるメリットがある。IoTについては「IoTの意味とは?社会が変わる技術の仕組みを簡単にわかりやすく解説」を参照いただきたい。
たとえば、最近はオフィスの鍵を工事なしでデジタル化できるツールが流行している。そういったIoTは、自作であれば相当コストがかかるから諦めざるをえない。こういったものが手に入るのは、便利を通り越して開発企業に感謝すらしてしまう。
開発コスト削減
最新技術も、新しい仕様も試せるものなら試したい。だが、それを実現できないのはひとえにコストがかかるからだ。自社ECショップに500万円かかる時代には、通販を始めるのすら一苦労だった。
それが、今なら無料お試しからノーコードでECショップを開設できる。私がクライアントのECショップを開設したときは、ノーコードツールがあったおかげで数千円で開発できた。
システムのサイロ化(孤立)を防げる
サイロ化とは、部署や担当者ごとに違うツールを使ってしまうことで、各部署の連携が取りにくくなってしまうことを指す。
たとえば、経理部門と営業部門が、同じ経費精算をするにあたっても、それぞれ違うツールを買ってしまったとする。そうなると、経費計上作業すら四苦八苦しながら進めねばならない。
これが経費精算のたとえだから軽微に見えるかもしれないが、顧客管理や決算、株主総会に関係するものとなれば、孤立したシステムを使って起こる損失は計り知れない。
しかし、ノーコードツールを導入すれば、一括で同じシステムをインストールしやすい。ノーコードなら、どんな担当者でも使いやすいからだ。コストも一般的なソフトウェアに比べて安価なため、部署を横断して同じシステムを導入しやすいメリットがある。
サービスのリリース速度が上がる
ノーコードによるDXなら、サービスのリリースまでの速度が短くなる。たとえば、私がイベントを開催したいとしよう。告知ウェブサイトを作るのにしても、HTMLをゼロから組んでいたら、簡素なペライチのページを作るだけでも1日以上かかる。
だが、ノーコードツールを導入すれば、2時間で3ページ以上のページを制作できる。しかも、スマホ対応からSNSシェアまで対応済みだ。ECショップで商品を販売したい、ウェブサイトで告知したい……といった状況で、ノーコードツールを使えれば、サービスのリリース速度は格段に上がる。
ノーコードDXの体験談
私は実際、ウェブサイト作成においてWix、ペライチ、Ownd、WordPress、STUDIOを使ってきた。それぞれの良し悪しはさておき、どれもウェブサイト制作の速度を格段に上げてくれた。
私のように「HTMLなら少しは読めるかも……。CSSは書けません」くらいの知識しかない人間にとって、ノーコードツールはまさに命綱である。
弊社はチームメンバーで言うと数十人いるが、プログラミング言語が使える人材は1名しかいない。その方へ業務が集中しすぎるくらいなら、自分でさらっとイベント告知ページが作れるのは、大きな魅力だ。
さらに、ECショップはBASE、Shopify、STORESを使ってきた。これらもECショップ開設の手間を大幅に削減してくれた。小規模事業では特に、内製化できるプログラミング人材が少ない。ECショップをフルスクラッチ(ゼロから)作るよりも、ノーコードツールを使ったほうがいい場面が多数あった。
もっと言えば、アンケート調査制作においてGoogleフォームに頼っている人は少なくないだろう。社内アンケートから一般調査まで、今やアンケートは「誰にでもできる」動作となっている。このように、ノーコードが浸透した領域においては、誰もが使えるレベルまでツールが浸透しているケースまである。
ノーコードDXのデメリット
メリットが大きなものは、デメリットも常に抱えざるを得ない。ノーコードDXが抱えるデメリットは、以下の通りだ。
- 開発の柔軟性が低い
- セキュリティ面に穴がありうる
- 大規模システムには不向き
- ノーコードツールを使う「訓練」が結局必要
開発の柔軟性が低い
ノーコードは、あくまでノーコードツールを提供する側が許容している機能の範囲内でしか開発ができない。そのため、ノーコードツールが「この機能は使えません」という仕様にしている場合は、別途コーディングで機能を継ぎ足すしかなくない。
セキュリティ面に穴がありうる
以前、とあるウェブサイト制作ツールを使って個人情報を扱うページを作っていたとき、ページがハッキングされ情報漏洩のリスクを抱えた事例がある。ノーコードのセキュリティ面は、開発者に依存してしまう。
そのため、ノーコードツールを使って個人情報、決済情報を扱うときは、事前に入念なチェックが欠かせない。「ツール名 セキュリティ」などで検索して、どういったリスクがあるかを知ってからノーコードツールを導入することをおすすめしたい。
大規模システムには不向き
大規模システムにおいては、その会社専用の機能が必要なことがある。しかし、ノーコードツールは「ないものはないですね」という仕様なので、大規模システム開発には不向きだ。
使う機能が限定されているシーンでのみ、ノーコードを一斉導入するほうが望ましいだろう。
ノーコードツールを使う「訓練」が結局必要
最後に、ノーコードだからといって「誰でも使える」わけではない面だ。ITリテラシーが低い社員が多い場合、ノーコードですら使いこなせない社員が出てくる。その場合、いちからノーコードツールを使う研修が必要となるケースが案外多い。ノーコード=トレーニングなし、というわけではないのだ。
ノーコードDXが向いている状況
このように、ノーコードによるDXは向いているシーンと、向かないシーンがはっきり決まっている手段だ。理想的にはフルスクラッチでコーディングできればいいが、社内で内製する時間とコストがないとき。そして、ノーコードでも賄える限定的なシチュエーションでのみ使いたいとき。
この条件が揃った場合に、ノーコードツールはすさまじい威力を発揮する。メリット・デメリットを踏まえてノーコードツールを今後も使いこなし、会社の成長へつなげていっていただきたい。