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登大遊氏が語る「おもしろインチキ ICT 技術開発」の重要さとは

日本は研究開発を進化させ、1990 年代にはさまざまな産業分野で世界トップになりました。 ICT の分野でもこれが可能であり、そのためには「おもしろインチキ ICT 技術開発」が必要になる、と登さんは語ります。

日本の ICT とセキュリティ技術の生産手段確立と産業化の実現について、JAIPA Cloud Conference2021 に登壇された、登大遊さんのお話をまとめました。

登大遊氏が語る「おもしろインチキ ICT 技術開発」の重要さ

登 大遊 氏 プロフィール

VPN システムやテレワーク技術等を開発・製品化。オープンソースで全世界に 500 万ユーザーを有する。外国政府のけしからん検閲用ファイアウォールを貫通する研究で博士 (工学) を取得。2017 年より独立行政法人 情報処理推進機構 (IPA) サイバー技術研究室を運営。2020 年に NTT 東日本に入社して特殊局を立ち上げる。ソフトイーサ株式会社を 16 年間経営中。

登大遊氏が考える人材の育て型

私は、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)というけしからん組織のチャンピオンみたいなところでサイバー技術研究室長をしています。また、けしからん会社のチャンピオンみたいな NTT 東日本でも働いています。

われわれ日本は、ICT やセキュリティなどを外国から輸入してきて使うのは得意ですが、これからは自分たちでも作れないといけません。

そのための開発手法や人材育成のためには、昔はあったけれど、今はなくなっている「おもしろインチキ ICT 開発手法」を復活させなければと思っています。ここでいうインチキの意味は、「既存の確立されたプロ向け手法ではなく、創意工夫を凝らして新しいやり方でやってみること」です。

日本は、クラウドを使いこなすことはだいぶうまくなりましたが、クラウド技術はなかなか作れません。

クラウド上で動くアプリや、デジタルトランスフォーメーション(DX)というものがあります。これは結局、大きな豪華客船の船室を客室にしよう、レストランにしよう、プールにしようなどとやっているわけです。ただ、よく考えると船そのものの「船体」があって、これは日本ではなく外国で造船しているわけです。

われわれは、それを仕入れて使っているケースが多いのですが、日本も「船体」を作れるようにならなければと思っています。

船体を作れる人材を育成するには、自律的なコンピューターネットワークの実験環境を、いろいろな組織の中でみんなが作ることを黙認して、社員の方々が自由に技術開発をやるような状況にする。

そうすれば自然に人材が育ち、技術が生まれ、これによってクラウドや OS 、サイバーセキュリティが実現できると思います。

登大遊氏が開発した65万円の費用で十数万人が使うシステム

開発費65万円で十数万人が使うシステムを開発

(JAIPA Cloud Conference2021登壇資料より)

 

私たちは、「シン・テレワークシステム」というものを作ってきました。このシン・テレワークシステムはなかなか変なシステムで、開発費65万円でバーッて作りましたが、いまでは十数万人に使ってもらっています。

また、VPN も開発しています。2003年から「SoftEther VPN」を作っています。540万サーバーが世界中で動いていまして、10%くらいが日本、残りの90%が海外です。

「VPN Gate」という、けしからんものもやっております。中国やイランなど、検閲のある国がありまして、最近ですとミャンマーで政府による遮断がありました。ミャンマーの方々が日常的な情報を得たり、ビジネスを継続したりするために、VPN Gate を使って生活を営んでいるわけです。

自由な国である日本のわれわれは、こういう世界中の方々の自由で安定した環境を実現するためのものを作っていかなければと思っています。

1990年代に日本が産業分野でトップになれた理由

1990年代に日本が産業分野でトップになれた理由

(JAIPA Cloud Conference2021登壇資料より)

 

日本は産業分野で1990年代くらいまではトップでした。たとえば世界の物流の90%以上は船舶(海運)が担っていますが、世界の船舶の1/3は日本の造船所から生み出されていたわけです。

日本で新しくサイエンスとしてこれらを開発したわけではありません。諸外国からの技術をもらって分解したりして、最初は参考にしていました。けれど最後には、外国を超える世界トップクラスの技術と製品が多数実現されました。

その過程では必ず試行錯誤がおこなわれて、いろいろな新しいものを作ってきたんだと思います。この手法を再現すれば、先ほどお伝えした日本の問題である国産のクラウド技術やOS 技術などがあまりない状況も、解決できるのではないでしょうか。

ただ残念ながら、日本の ICT 環境は、まだわけのわからない江戸時代末期のような状態です。新たな試みや試行錯誤をすると、セキュリティポリシーとか、わけわからんもんが危ないじゃないか、と言ってやらせてくれないけしからん会社がたくさんあります。

そのけしからん代表が、行政と独立行政法人と電話会社です。けしからんのチャンピオンみたいなところですね。まずはここで正しいことができるようになれば、他のところでも自由にできるようになると思っています。

登大遊氏が語る「おもしろインチキ ICT 技術開発」

日本はどうすれば諸外国のようなものを作れるのか? と考えますと、これは「おもしろインチキ ICT 技術開発」が必要だと思っています。

まず日本においては、ゼロリスクとカオスの両極端で議論をおこないます。

おもしろインチキ ICT 技術開発

(JAIPA Cloud Conference2021登壇資料より)

 

一般的な組織においては、秩序が保たれなければ、すぐカオスになって破綻します。ですから、リスクをゼロにしようと言うわけです。ただ、ゼロリスクを目指すと、他の会社は何らかのおもしろいことをやっているのに、自社はやっていないので、必ず競争に負けてしまいます。

われわれはカオスが駄目になるのはよくわかるけれども、ゼロリスクも駄目になることをよく理解しなければならないのです。そうすると両極端ではなく、絶妙なバランスに基づいた「けったいな行為」が生まれます。つまりは中庸です。良いバランスを目指すことは、大変おもしろいことではないかと思います。

おもしろインチキ ICT 技術開発をやれると、われわれ日本がクラウドやセキュリティやインターネット技術などの分野で世界トップになれると思うわけです。これは非常に難しいチャレンジだと思いますけど、必ず実現できることではないでしょうか。

これからは、おもしろいものをみんなでバーッて作れば、日本の ICT は大きく飛躍するのではないかと思います。

サイバー技術は、複雑な装置や雑なソフトウェアのソースコードなどがぐちゃぐちゃになって集まって、カオスにならずに秩序を保って動いている魔法のような技術であります。これを生み出すのに必要なものはインチキだけでは難しくて、勉強、学問が必要です。その根拠を示します。

ICT 製品の生産手段

(JAIPA Cloud Conference2021登壇資料より)

仕事の一環として無関係な勉強をする大事さ

一般的な工業製品の場合、原材料を生産設備に投入すると、中で反応が起きて生成物と高炉ガスが出てきます。これを ICT 製品で考えると、われわれの頭脳が生産設備にあたります。生産設備である頭脳に原材料を入れなければなりませんが、われわれの得意なソフトウェアやコンピューターといった知識は、必要な原材料全体の 10 分の 1 くらいなのではないかと思われます。

他に経営や工学、政治や芸術など全然無関係なところを、「これおもろいな」という感じで勉強することが重要だと思います。それは仕事の一環としてやるべきです。

なぜかと言いますと、このような全然関係ないように見える構造物も、コンピューターやセキュリティの仕組みや OS の仕組みなどと非常に相似関係があるのではないかと思うのであります。

1960 年代にアメリカの方々がコンピューター技術を発明しましたが、明らかに 1 から思いつくわけはありません。彼らはその知識をどこかからパクッてきているんじゃないかと思うわけです。おそらく彼らは、コンピューターとは別の分野から勉強しておったのではないかと思われるのですね。

われわれも、こういうことをやればいいのです。日本の場合は、仕事のうち 9 割くらいがボトルネックに費やして、1 割だけが本当の仕事みたいな感じです。他国の 10 分の 1 の効率でそれなりのものをやっておるわけですから、ちゃんとやればアメリカや中国の方々よりも、われわれのほうがすごいのではないかと思うのであります。

おもしろインチキ ICT 開発手法によって日本が ICT 先進国になる

ICT の難しいシステムを作る方々は、大変多くのことを同時に重ね合わせて思考されると思いますが、そこに日本企業特有の「ガバナンスおじさん」みたいな人が出てきて、「今どうなってるんだ! わかるように説明しろ!! けしからんじゃないか」と言ってきます。

統制・規則・明確な説明などを求められると、やりかけていた高度なものがせっかく良いところまであるのに、パッと忘れてしまうんじゃないかと思うんです。

おもしろインチキ ICT 開発手法によって日本が ICT 先進国になる

(JAIPA Cloud Conference2021登壇資料より)

 

メールも Web もプログラミング言語も、みんな明確な統制をして計画的にうまいことできて普及するというものは、あんまり見たことないですね。

じつは、コンピューターやクラウドの世界においては、このインチキ手法がメインストリーム(本流)だと自分は思うのです。

われわれもインチキ手法を実践しています。伝統的にインチキをやっていまして、 IPA のもとで、このインチキサーバールームとかインチキ VPN ソフトとか、インチキ表彰をもらいまして、インチキゴミ拾いもおこないました。

シン・テレワークシステムや自治体向けの LGWAN ネットワークなんかも、すべてインチキの中で動いています。

表向きは大変立派なシステムである、みたいな感じです。新聞にも立派な感じで書かれています。しかし、じつはインチキでやっているのであります。

このようにインチキで自作することが重要だと思いまして、日本のさまざまな企業や組織、役所の中で広めていこうと思っておるのであります。

「おもしろインチキ ICT 開発手法」によって、日本は ICT 先進国になれるのではないかと思います。

どうもありがとうございました。おしまい。

 

 

執筆

川崎 博則

1986年生まれ。2019年4月に中途でさくらインターネット株式会社に入社。さくマガ立ち上げメンバー。さくマガ編集長を務める。WEBマーケティングの仕事に10年以上たずさわっている。

編集

武田 伸子

2014年に中途でさくらインターネットに入社。「さくらのユーザ通信」(メルマガ)やさくマガの編集を担当している。1児の母。おいしいごはんとお酒が好き。

※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。

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