さくらインターネット
さくマガ公式SNS
お問い合わせ

ニッチ業種×デジタルが雇用を生んだ。重機運送会社の2代目が進める業務改革

IT・デジタル関連の最新情報や企業事例をいち早くキャッチ
>>さくマガのメールマガジンに登録する

宮城県多賀城市に本社を構える有限会社黒潮重機興業は、創業45年を迎える重機運送会社だ。建設機械などの重機輸送を主力とし、一般的な宅配便とは異なるニッチな運送を担っている。2代目の菅原隆太さんが事業を継いで13年。東日本大震災の発生当時7人だった従業員は、現在18人にまで増加している。高齢化が問題視される運送業界内でも若い組織を維持するその背景には、現場目線で進めてきた業務のデジタル化があった。Excelの導入から始まり、自社独自システムの開発に至る道のりを菅原さんに聞いた。

菅原隆太(すがわら・りゅうた)さん プロフィール

宮城県多賀城市出身。1978年に父が創業した黒潮重機興業に、2003年入社(23歳)。25歳でパソコン教室に通い、業務のデジタル化に着手する。2011年3月の東日本大震災では被災しながらも、翌日には事業を再開。同年12月、32歳で代表取締役社長に就任。現場の負担軽減と業務効率化を両立させる仕組みづくりに取り組み、重機運送業の働き方改革を進めている。 

「やっぱり今日はなしで」が頻発する重機運送

同社Instagramの投稿より

「トラック運送業」と聞くと、多くの人は宅配便などの一般貨物を運ぶ仕事を思い浮かべるのではないだろうか。どこかの拠点で荷物を積み込み、別の拠点へと届ける。長距離輸送であれば、ひとつの案件に1日以上の時間を費やすこともある。

しかし、黒潮重機興業が手がける「重機運送」は事情が大きく異なる。同社が運ぶのは、建設現場で使用されるショベルカーなどの重機だ。短距離の案件が中心で、1日に5件、多いときには10件近くをこなすこともあるという。

さらに、工事現場が行き先となる特性上、「住所」が存在しない場所も少なくない。ドライバーはFAXで届いた地図を手に、土地勘のない場所へ向かう。

加えて、「急だけど明日持ってきてほしい」「やっぱり今日の依頼はなしで」といった変更も頻繁に起こる。ひとつの案件が中止になれば、その後の予定も組み替えなければならず、リカバリーのために別の車両を回す必要が生じる。

そのたびに、どの車両をどこへ向かわせるかを判断し、行き先を電話で伝える。重機運送の配車管理は、つねに変更と隣り合わせの業務だ。

菅原さんが23歳で入社した2005年当時、その配車管理は紙と黒板でおこなわれていた。

ビジネスパーソンに役立つコラムを読んでスキルアップ&隙間時間を有効活用
>>さくマガのメールマガジンに登録する

「紙と黒板は嫌だ」とパソコン教室へ通い始める

もともとは「運転手をやりたい」という思いで会社に入ったが、いずれは父である社長のあとを継がなければならないだろう、という覚悟もあった。

同社では、配車管理は社長の役割。「将来自分がその立場に立ったとき、紙や黒板でやるのは絶対に嫌だな、と思ったんですよね」と菅原さんは笑いながら振り返る。

とはいえ当時は、パソコンの電源の入れ方もわからない状態だった。そこでまずはパソコン教室に通い、できることから始めることに。最初に取り組んだのが、Excelの導入である。

それまで紙や黒板に手書きしていた配車情報をExcelに入力することで、行の並べ替えができるようになった。急に仕事の段取りが変わった場合でも、「並べ替え」機能を使えば順番を正確に組み替えることができる。それ以前は、頭のなかで順序を整理し直したり、番号を書き換えたりと手間がかかり、ミスも生じやすかったが、Excelを導入したことで解消された。

配車管理のほかにも、顧客情報のデータベース化や案件ごとの売上管理など、できることは徐々に広がっていった。一方で、この段階で変わったのは事務所側の業務のみ。ドライバーの仕事の流れは、これまでと変わらなかった。

黄色い車体が特徴的な同社のトラックと菅原さん

LINE導入で情報共有を効率化

東日本大震災の発生後、次のデジタル化の一手として導入したのがLINEだった。ちょうど携帯電話がガラケーからスマートフォンへと移り変わる時期で、ドライバーの間でもLINEを使う人が増えていたことが背景にある。

LINEを活用することで、情報伝達は大きく変わった。行き先が変更になった場合は、目的地の位置情報をLINEで送信する。それまで電話で口頭説明していた場所も、ドライバーが地図アプリを見ながら向かえるようになった。

さらに、社内共有のグループLINEを作成。現場の危険情報や渋滞、事故情報など、共有が必要な情報は一斉送信し、全員が確認できる仕組みにした。これにより、「あそこの現場なら○○さんに聞いて」といった属人的な情報が、LINE上で共有されるようになった。

新しいシステムへの抵抗感がある人でも、日常的に使っているLINEであれば受け入れやすい。グループLINEによる情報共有は、現在も続いている。

無料アプリの限界を感じ、独自システム「クロシオン」開発へ

ExcelとLINEの導入により、業務は着実に効率化していった。さらに配車や現場情報を一元管理するため、無料のスケジュール管理アプリも導入。ドライバーの予定や現場の地図、顧客情報などを紐づけ、約3〜4年にわたり運用していたという。過去の案件をコピーして新たな予定に反映できるなど、利便性は高かった。しかしあるとき、ふと不安がよぎる。

「これ、無料のアプリなんだよな。突然サービスを停止しますと言われても、文句は言えないんだよな、と。想像したら怖くなったんです」

運送業向けの既存システムの利用も検討した。しかし、急な行き先変更が日常的に発生することや、住所のない現場への配送といった重機運送特有の業務には十分対応できなかった。一般的な運送管理システムは、決まった住所へ届けることを前提に設計されているものが多いからだ。

既存の仕組みでは限界があると判断し、菅原さんは独自システム「KRSION(クロシオン)」の開発に踏み切った。

現場にやさしいデジタル化の推進

クロシオンの完成後、ドライバー全員にタブレットを支給。そこから配車情報や現場地図を確認できるようにした。

FAXで届いた地図は事務所でスキャンし、データ化してアプリに配信する。ドライバーは紙を持ち歩く必要はなく、画面上で確認するだけでよい。

また、出発時や積み込み時、荷下ろし時、帰社時などのタイミングで走行距離を入力すれば、自動で実車距離(貨物を乗せて実際に走行した距離)が計算される仕組みになっている。時間は自動表示されるため、ドライバーが入力するのは距離のみだ。

入力されたデータはそのまま日報となり、請求金額の算出にも連動する。これまで帰社後に紙へ記入していた日報は不要となった。

クロシオンには、スケジュール管理や顧客情報の紐づけなど、従来のアプリで活用していた機能がほぼ網羅されている。一方で、「ドライバーが入力できるのは数字(距離)のみ」「LINEに代わる連絡機能は搭載しない」といった制限もあえて設けた。

機能をあえて限定したのは、ドライバーに余計な仕事を増やさないためだ。これにより、新しいツールを導入することに対する現場のハードルをぐっと下げた。

結果として、すべてアナログで運行管理をおこなっていた時点と比較すると、受注件数は1車両あたり約20%、スマートフォンアプリを活用時からの比較でも約10%アップした。また、残業時間は月平均で1人あたり24時間30分削減されたという。

こうした取り組みが評価され、「TOHOKU DX大賞2022」の業務プロセス部門における選考委員会特別賞を受賞。現在クロシオンは、全国の同業他社向けにもサービス提供を始めており、重機運送業界に新たな風を吹き込みつつある。

雇用を生み、会社の魅力を高めるデジタル化

デジタル化によって、菅原さんが何より大きな成果だと実感しているのは、「雇用を生んだこと」だ。クロシオンの運用にあたり、入力やデータ管理を担うスタッフを1人増員した。

「たしかに、一人分の給料はかかります。でもその分、ドライバーが楽に仕事ができる。現場に出る人が、しっかり仕事に集中できる状況をつくることが一番大事だと思ったんです」

DXといえば効率化や人件費削減を思い浮かべがちだが、同社の選択は逆だった。現場をスムーズに回すために、あえて人を増やす。結果としてドライバーの負担は軽減し、業務の質も向上した。

震災当時7人だった従業員は、現在18人にまで増加。定着率も高く、平均年齢は約40歳。運送業界の平均がおよそ50歳といわれるなか、若い組織を維持している。

「5年前は20代のドライバーが何人かいて、平均年齢も30代だったんです。でもふと気づいたらみんな30代になって、どんどん平均年齢が上がってしまいました(笑)。運送業は人の出入りが激しい業界です。どの会社に行ってもドライバーの仕事は大きく変わらないから、どうしても『条件のよいほう』へ流れやすい。だからこそ、『黒潮重機興業が好き』と言ってもらえる会社にしなければいけないと思っています」

その一環として、同社はInstagramでの発信や、家族向けイベントへの出展などにも積極的に取り組んでいる。

例えば2025年10月に仙台市内で開催された「おしごと体験はどうだい?in 仙台」(主催:大同生命)の職業体験イベントでは、子どもたちが重機に触れるブースを出展。重機やトラックを身近に感じてもらうことで、業界そのもののイメージを変えていきたいという想いがあるのだ。

同社社員が優しくサポート!大型トラックや重機を目当てに、たくさんの家族連れが訪れていた

最後に、DXやデジタル化に悩む企業へのメッセージを聞いた。

「デジタル化のはじめの一歩は、何からやればいいのかわからない方が多いのではないでしょうか。お金もかかるし、費用対効果がどれほどあるのかもわからない。でも、ひとつやってみると勝手がわかる。そうすると『これもできるんじゃないか』『あれもできるんじゃないか』と広がっていきます。だからまずは、やってみる。これに尽きると思います」

黒潮重機興業

IT・デジタル関連の最新情報や企業事例をいち早くキャッチ
>>さくマガのメールマガジンに登録する

執筆

岩崎 尚美

宮城県出身、仙台市在住のフリーライター。ビジネス系記事のライティングから恋愛アプリのシナリオ制作までおこなう雑食系もの書きです。日々たくさん生まれる「やりたい!」を少しずつ「できる」に変えていけたら素敵ですね。2児の母。
HP:https://nanaplot.com/

※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。

すべての記事を見る

関連記事

この記事を読んだ人におすすめ

おすすめのタグ

さくマガ特集

働くすべてのビジネスパーソンへ田中邦裕連載

みなさんは何のために働いていますか? この特集では、さくらインターネットの代表・田中が2021年から2022年にかけて「働くすべての人」へ向けてのメッセージをつづりました。人間関係を良好に保つためのコミュニケーションや、必要とされる人になるための考え方など、働くことが楽しくなるヒントをお伝えします。

さくらの女性エンジニア Real Voiceインタビュー特集

さくらインターネットでは、多様なバックグラウンドを持つ女性エンジニアが活躍しています。この特集では、これまでの経歴や現在の業務内容、めざすキャリア、ワークライフバランスのリアルなど、さまざまな角度から「さくらインターネットの女性エンジニア」を紐解いていきます。

転職組に聞く入社理由「なぜ、さくら?」

さくらインターネットには、有名企業を何社も渡り歩いてきた経験豊富な社員がいます。本シリーズでは『転職組に聞く入社理由「なぜ、さくら?」』と題し、これまでのキャリアや入社理由を紐解きながら、他社を経験しているからこそわかる、さくらインターネットの魅力を探ります。

Welcome Talk「ようこそ、さくらへ!」

さくらインターネットには、さまざまなバックグラウンドを持つ仲間が次々と加わっています。本シリーズ『Welcome Talk「ようこそ、さくらへ!」』では、入社直後の社員と同じ部署の先輩による対談を通じて、これまでの経歴や転職理由、関心のある分野や取り組みたいことについてざっくばらんに語ってもらっています。新メンバーの素顔とチームの雰囲気を感じてください。

若手社員が語る「さくらで始めるキャリア」

さくらインターネットで社会人としての第一歩を踏み出した先輩たちのリアルな声を集めました。若手社員のインタビュー、インターンの体験談、入社式レポートなどを通じて、キャリアの始まりに役立つヒントや等身大のストーリーをお届けします。未来を考える学生のみなさんに、さくらのカルチャーを感じていただける特集です。