2021年4月17日「第2回全国高等専門学校ディープラーニングコンテスト(以下、DCON)2021」本選が開催されました。2度の予選を経ておこなわれた本選には、参加した全43チームのうち、10チームが進みました。
DCONは高専(高等専門学校)生が日頃つちかった「ものづくりの技術」と「ディープラーニング」を活用して、企業評価額を競うコンテストです。企業評価額は実際のスタートアップ企業を評価する際と同じように、企業の価値を評価する指標です。DCONでは先輩起業家がメンターに付き、各チームの高専生にアドバイスを送ります。
DCON2021では、福井工業高等専門学校 プログラミング研究会チームが最優秀賞を受賞。ほかにも、技術審査員賞・若手奨励賞・2つの企業賞(アイング賞、KDDI賞)を受賞し、チームの企業評価額は、過去最高額の6億円をつけました。
「全ての老朽化から人の命を守ること」をテーマに作った「D-ON」は、ディープラーニング技術を使って、トンネルや橋におこなう打音検査を低コストで実現するためのシステムです。
マイコン型の機材をハンマーに取り付けて、打音データを計測し、ディープラーニングによって異常検知ができます。ハンマーにマイコンを付けるだけで、どこでも打音検査ができる「D-ON」は、日本のみならず世界でも活用できる可能性を秘めています。
福井工業高等専門学校 プログラミング研究会チームのメンターを担当したのは、さくらインターネット代表 田中邦裕です。コロナ禍のため直接対面はできませんでしたが、オンライン上でアドバイスをおこなってきました。
大会終了から少し経ったころ、受賞のお祝いも兼ねて田中邦裕が福井工業高等専門学校を訪れました。
福井工業高等専門学校 プログラミング研究会のみなさんと対面
田中邦裕(以下、田中):前川君、小川君、村田先生、DCON2021最優秀賞受賞おめでとうございます! これまでずっとオンライン上でお話ししていましたが、ようやくお会いできましたね。みなさんが作った「D-ON」は本当にすごいと思いますよ。最優秀賞を受賞してから、まわりの反響はいかがでしたか?
前川蒼さん(以下、前川):「6億円どうするの?」って聞かれますね。実際にもらえるわけではないんですけど(笑)。
田中:企業評価額が6億円というだけで、もらえるわけではないですからね(笑)。優勝したら「起業しないの?」と聞かれることも多いと思いますが、したければすればいいし、したくないなら無理にしなくてもよいと思います。でも起業するなら、いくらでもアドバイスしますよ。自分がやりたいことをやってください。
前川:優勝した直後は、起業するつもりはまったくありませんでした。でも、後夜祭で松尾先生※のお話を聞いて、少しだけ考えが変わりました。起業して失敗したら借金を抱えてしまうと思っていたんですけど、そんなことはないとおっしゃっていたので。
※DCON実行委員会 委員長の松尾豊先生
田中:借金したり、人を雇わなければ、お金の心配はありません。最初の1、2年は自分たちだけでやるのもありでしょうし。私も3年くらいは自分と友人だけで事業をしていました。会社を作るだけなら、登記の費用しかかかりません。わからないことがあれば、いつでも相談してください。
前川:ありがとうございます。
最優秀賞はチームワークの結果
田中:それにしても「D-ON」は本当に素晴らしいです。建築関係の学生ではなく、IT系の学生からこのアイデアが生まれるとは…。技術審査員賞も受賞したくらい技術評価も非常に高かったです。手軽で安価に打音検査ができる考えは、大企業ではまず思いつかないですからね。小川君の技術と前川君のプレゼンが合わさって、いい結果になりましたね。
小川大翔さん(以下、小川):ありがとうございます。
村田知也先生(以下、村田):じつは、プレゼンのリハーサルは、全然うまくいかなかったんです。リハーサル後に2時間くらい練習したよね。
前川:はい。結構、練習しました。
田中:ええ!? そうなんですか? 本番では堂々としていたので、それは驚きです。小川君、前川君、村田先生のチームワークの結果ですね。誰が欠けても最優秀賞は取れなかったと思います。チームが少数精鋭なのもよかったですね。チーム人数が多いと、うまくまとまらないケースもありますから。
村田:指導していても、そういうケースはよくありますね。今後、別のコンテストにも出ようかと話しているのですが、どう思われますか?
田中:別のコンテストにも、どんどんチャレンジしていいと思いますよ。メンタリングが必要でしたら、いつでもご連絡ください。
前川:コンテストの数がとても多くて、どれに参加すればよいのか全然わからないです。
田中:コンテストによって特徴があります。たとえば、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)が開催しているコンテストは研究志向ですし、総務省が開催している「異能Vation」は起業したい人にオススメです。コンテストはたくさんあるので、ぜひ調べてみてください。
前川:ありがとうございます。いろいろ調べてみます。
高専生の進路
田中:最近、東大生や東大院生の間で、就職の流れが変わってきています。これまでは大企業に就職する人が多かったのですが、自分で起業したり、スタートアップ企業にジョインする人が増えてきているんです。同じように、高専生の一部もそうなってくると思います。
高専生は技術力も高いですし、進路を考えると、起業してビジネスをしながら大学や大学院に通うのもありだと思います。何か聞きたいことがあれば、なんでもお答えしますよ。よく学生の進路相談も受けていますし。
小川:DCONの賞金を、留学資金に使いたいと思っています。福井県の外にあまり出たことがないので、ほかの世界を見てみたいんです。どこかオススメの国はありますか?
田中:何を学びたいかにもよりますが、アメリカの西海岸なんてオススメですよ。小川君はどんなことに興味があるんですか?
小川:イーロン・マスクさんが、脳に電極を埋め込んで視力回復させる技術開発を進めていますが、こうした脳の研究に興味があります。
田中:それなら慶應義塾大学のSFCも面白いと思いますよ。脳波に関する研究所もありますし、自由な校風です。福井県以外を見てみたいなら、海外に行くのもいいですが、国内を見るのもいいと思います。自分が学びたいと思う大学を、全世界で探してみてください。「どの大学で何をやりたいのか」を考えて選ぶといいのではないでしょうか。若い間は海外や日本の都市部で過ごして、また福井に戻ってくるのもありだと思いますよ。
小川:ありがとうございます。
田中:あとは、奨学金制度を活用したほうがいいですよ。あ、そうだ、「孫正義育英財団」に応募してみるのもいいかもしれません。かなり倍率は高いですが、DCONに優勝しているので可能性はあると思います。
「D-ON」の今後
田中:起業するかどうかは別として「D-ON」を実際に使えるものにしたい、という気持ちはどれくらいあるのでしょうか? せっかくですから、完成させてもらいたいですね。
小川:実証実験は、コロナの影響でなかなかできないのが現状です。僕が大学受験を控えているので、いまは少し待ってくださいという感じです。
村田:まだ精度もそれほど高くありませんし、実証実験をするには時間がかかりますね。小川は大学受験があるので、私と前川で少しずつ進めようと考えています。
田中:トライアルアンドエラーで、現場で試してみてほしいです。実際に橋やトンネルなどの現場で実証実験ができると、素晴らしいと思います。最初はうまくいかなくても、データを集めて改善していけばいいので。
村田:現状のデータを集める意味でも、やってみますか。
前川:はい。そうですね。
田中:プロジェクトが進みそうでよかったです。楽しみにしています。
≫ 【導入事例やサービス紹介も】さくらインターネット お役立ち資料ダウンロードページ