実際に異動を経験した方や異動を受け入れた方、キャリアコンサルタントの方などにお話をうかがっています。
今回は、前回登場したエンジニアから未経験で法務部への異動を経験した社員の異動を受け入れた側にインタビューしました。異動を受け入れたことで気づいたことや、ご自身への影響について聞きました。
塚田 麻美子(つかだ まみこ)プロフィール
コーポレート本部 法務部 部長。大学卒業後、会計事務所・法律事務所で勤務後、2013年にマーケティングリサーチの企業に入社したことで企業法務のキャリアをスタート。2016年、さくらインターネット入社。
未経験者の受け入れ
――法務未経験の奥田さんの異動を受け入れたのはどういった経緯だったのでしょうか?
当時、法務のメンバーが少なく採用もなかなかできていない状況のなかで、社内からの異動を受け入れる話が出ました。上司が「行政書士の資格を持っているエンジニアの方がいるので、異動を打診してみようか」と言っていたんですね。そのころの私は社歴が短く、奥田さんを存じ上げなかったのですが、「そんな方がいるんだ」と思いました。
――実際に奥田さんを受け入れてみていかがでしたか?
エンジニアとして社歴が長い方だと聞いていました。実際にお会いすると、非常に腰が低く丁寧で穏やかな方なので、一緒にお仕事をしていけるいいイメージが持てましたね。
当時、奥田さんは大阪本社、それ以外のメンバーは全員が東京支社勤務でした。その点について、最初はあまり気にしていなかったのですが、東京と大阪でコミュニケーションの量に違いが出てしまいました。当時はコロナ禍の前でしたので、いまのようなリモートワーク前提の働き方に合わせた環境整備もいまほど進んでいませんでした。なので、これはフォローしないといけないと思い、私が2か月に1回、1週間ぐらい大阪に出張して、隣の席でお仕事をする機会を設けました。
――法務未経験者の受け入れということで、業務についてはどのように支援していったのでしょうか?
奥田さんは行政書士の資格をお持ちですから、法務未経験とはいえ、法律のことに関してはかなりよくご存じという状況でした。法律に関する共通言語でお話することもできたので、OJTについてもあまり大変だったという印象はないです。
ただ、奥田さんは大変な部分もあったと思います。たとえば、持っている知識を契約書を作るときにどう反映していくのか。実際の契約書を修正したり、作ったりするときに、言葉にしにくいニュアンスなどをどのようにご理解いただくのかといったあたりですね。
実際のOJTの進め方としては、契約書の審査に関する書籍を1冊読んでいただき、この契約書のキーポイントはこの本のこのあたりに書いてありますよ、といった説明をしていました。あとは、とにかく実際の契約書にどんどん触れてもらって感覚をつかんでもらうといった感じです。
電気通信事業法関連の総務省への届出・申請、古物商の届出・登録などは行政書士の業務にも含まれる部分になりますので、そのあたりは奥田さんにお任せしていました。
ただ、奥田さんも実際の業務経験があったわけではないので、一からいろいろ調べながら取り組んでいただきました。
異動は受け入れ側にとっても価値がある
――未経験の方の育成に関して、塚田さんご自身のモチベーションの維持は大変ではなかったのでしょうか?
未経験の方の育成という意味では、これはなかなか難しいものだな、未経験の方はこういうことに悩むんだな、ということは取り組んでみてはじめてわかったことです。最初から身構えてなかったのは逆に良かったのかもしれないですね。
こういうところでつまずくんだ、ここはこう伝えても私の意図がきちんと伝わらないなといったところは、私にとっても学びが多かったです。
法務で当然のようにおこなっている業務でも、あらためて質問されるときちんと説明できないことがあります。社内でも法的なことに関する研修をしますが、なんとなく内容を小難しくしてしまうんですよね。私たちは伝えたいことを調べてきれいにまとめて、社内にきちんとお伝えできた、と満足してしまいますが、聞いているほうはよくわからなかったということは起こりがちです。法務部内ではそれで通じてしまいますから、法務以外の人にもわかりやすく伝えることがなかなか難しいんです。
そういうことを日々意識しながら奥田さんとお仕事ができたことで、私自身の伝える力を育成する機会にもなりました。意識していたわけではないですが、そこがモチベーションになっていたのかもしれません。
――奥田さんの異動を受け入れて良かった点は何でしょうか?
エンジニアとしての豊富なご経験のある奥田さんに入っていただいたことは、法務にとっても非常に良いことだったと思います。法務を含め、バックオフィスにいる方々に言えることですが、さくらインターネットにいながら技術に関してはわからないことが多いんです。
契約書をつくるときに、技術のこともわかっていたほうが、エンジニアや営業の方とのやりとりがスムーズになります。また、やりとりで不安になったときに、奥田さんに「これってどういうことなんですかね」と気軽に聞いて教えていただけるのがすごくありがたかったですね。
その関連で、奥田さんには法務部内で勉強会をやっていただきました。サーバーとは、インターネットとは、など基本的な技術の説明からしていただいて、私たちの知識のブラッシュアップになりました。最終的にはコーポレート本部全体に対して勉強会をするというプロジェクトに発展しました。
また、法務の業務の中には、プロバイダ責任制限法に関連する発信者情報開示請求や送信防止措置の請求についての訴訟や仮処分の対応があります。
これは、単に権利を侵害する投稿があるかどうかが問題になるだけでなく、どういう仕組みでそういった発信がされているのかといったところについて、技術的な説明が必要になることが多いです。そのあたりについて、裁判官や相手方にご納得いただける説明を書面に落としていかなければならないので、弁護士と連携していくうえで、技術的な説明がとても難しいんですね。
奥田さんはエンジニアとしての知識をお持ちのうえ、法務としての考え方もご理解いただいています。同じ言葉でお話ができて、わかりやすくご説明いただけるので、本当にありがたかったです。
訴訟対応の手順も、とくに技術的な確認の部分についてはこれまでやや行き当たりばったりでやっていましたが、奥田さんに入っていただいたことで、知見をまとめたうえで手順もきれいにそろえることができました。それは、法務しか経験のないメンバーのみだったらできなかったことだと思います。
――逆に、受け入れに関して反省点はありますか?
私も含め当時の法務メンバーは、全員が法務としてのバックグランドがあり、大学も法学部で法律を学んできていました。なので、奥田さんが業務をおこなう上で引っかかるポイントをしっかり理解できていたのかと言われると、反省はありますね。
あと、奥田さんは、企業法務の業務をなにも知らないところから入ってきて、できるようになりたいという強い気持ちを持っておられました。一方私は、以前はどこまでできるようになったら企業法務として一人前といえるのか、ということをあまり気にしてこなかったので、ご自身ができるようになったという実感をどうやって感じていただけるのか、手探りだったというところが反省点としてあります。
――社員の異動や、法務部での受け入れについて、塚田さんのお考えを教えてください。
法務は専門職の色合いが強いので、専門知識を持ち、深く理解している人を一定数確保しておく必要はあります。一方で、奥田さんの受け入れを経験して、ほかの部署の方が法務のエッセンスを吸収してまたほかの部署に異動することで、お互いに価値があるなと思いました。
半年、1年といった期間限定での異動で基礎を身につけ、またもとの部署に戻るといったこともやっていけるといいかもしれないですね。
志を共に、視点は独自に
――塚田さんが今後チャレンジしたいことについて教えてください。
部門としては、相変わらず人が足りない状況ですので、採用を強化したいです。それに合わせて、法務にどういうことをやっている人たちがいて、どんな考えをもとにさくらインターネットの法務を運営しているのか、どんどん社内外に発信していきたいですね。
採用のターゲットについては、長期的には法務とまったく関わりのないキャリアを歩んできた方も検討したいです。じつは、未経験で企業法務に入ったメンバーは多いです。法務知識はあるけれど、企業法務の経験はない方ですね。誰もが未経験からはじめているので、そこに未経験の人が入ってきて大変かというと、そんなこともないのではないかと思います。
――さくらインターネットの法務ならではの面白みは何だと思いますか?
さくらインターネットの社是でもある「やりたいことをできるに変える」について、事業部の方はお客さまのほうをみて考えていることが多いと思います。一方で、私たち法務はお客さまとの直接の接点がありません。なので、「お客さまのやりたいこと」を受け取った「事業部の人たちのやりたいこと」と考えて、私たちはそれを「できるに変える」ために一緒に取り組みます。
事業部のみなさんのやりたいことを自分ごととし、お手伝いではなく一緒に取り組むんだと捉えるようにということで、「志を共に、視点は独自に」という法務のビジョンを掲げています。
たとえば、私がちょうど入社したころ、さくらインターネットがIoTの事業をはじめました。法務担当としてIoT事業にかかわる中で、技術的にはよくわからないけれど、すごいことをやろうとしていて、一緒にがんばっているという感覚がすごく楽しかったんですよね。私も仲間のひとりとして一緒にやりたい、という感覚をもつことを大事にしたいと考えています。
一方で、法務のプロフェッショナルとしての独自の視点を適切に加えていく必要があります。独自の視点は、なにかに取り組むときに、一緒に作り上げている人たち各々にあると思うので、それらをかけ合わせることでいい仕事ができると思うんです。
さくらインターネットは、そういった取り組み方をするのが普通であるという感覚がありますよね。エンジニアの方々と話していても、法務の意見や役割をすごく尊重してくださっている、理解してくださっていると感じます。そこがさくらインターネットで働く魅力だと思います。
法務部の紹介記事「設立5周年 法務部の過去・現在・未来 ~バーチャル株主総会を実現する法務組織~」も、ぜひご覧ください。
(撮影:ナカムラヨシノーブ)