DX推進には人材育成が重要? 求められる人材像とスキルを解説

「DXに必要な人材育成」をテーマに、DX推進人材に求められる人材像や必要なスキルについて解説します。

 

事業のあり方そのものを変える「DX」、デジタルトランスフォーメーション。

 

単なるデジタル化にとどまらず、デジタル革新とまで認められるまでの企業になるには、組織全体でDXに取り組む必要があり、中核となるDX推進人材が成否をわけるとされます。

 

本記事では、DX推進人材の定義や求められるスキルだけでなく、DX推進人材を社内で育成するケースや外部から招聘するケースについてもご紹介します。

 

なお、一般的なDXの意味や定義、具体例については次のコンテンツをご覧ください。

デジタルトランスフォーメーション(DX)とは? 意味や定義をわかりやすく解説|さくマガ

DX推進における人材育成の重要性

DX推進において人材育成が重要とされる根拠と言えるのは、取り組みが「革新」の域にある企業と判断される際の評価項目に、人材育成に結びつく「戦略実現のための組織・制度等」が含まれることにあります。

評価項目

  1. 経営ビジョン・ビジネスモデル
  2. 戦略
  3. -①戦略実現のための組織・制度等
  4. -②戦略実現のためのデジタル技術の活用・情報システム
  5. 成果と重要な成果指標の共有
  6. ガバナンス

引用:「DX銘柄2022」「DX注目企業2022」を選定しました!|経済産業省

経済産業省は、DXに積極的に取り組んでいる有望な企業を「DX銘柄」に認定していますが、ただDXで事業のあり方が変わればいいのではなく、組織全体として取り組み、今後も継続的にDXがおこなえる企業を評価しています。

DX銘柄とは?定義や選ばれるポイントをわかりやすく解説

 

また、2021年に経済産業省も、DX推進人材の重要性を踏まえ、国として育成を促進する新たな人材育成の方針として次の3つを示しています。

  • 時勢の変化にあわせたスキルや知識の習得「リスキリング」の促進
  • 実践的な学びの場の創出
  • 能力・スキルの見える化(可視化)

参照:新たなデジタルスキル標準の検討について(PDF)|経済産業省

DX推進人材に必要な人材とスキル

DX推進人材は、DX推進チームに配置されるべき次の役割を担う者を指します。

  • DX全体を設計する「デジタルアーキテクト」
  • AIを活用して知見を引き出す「データサイエンティスト」
  • ITシステムの実装を担当する「エンジニア・オペレータ」
  • セキュリティ専門人材「サイバーセキュリティスペシャリスト」
  • システムのデザイン設計をする「UI /UXデザイナー」

画像一部引用:新たなデジタルスキル標準の検討について(PDF):p.5|経済産業省

 

DX推進チームをつくる際、まずDXの全体を設計する「デジタルアーキテクト」がDX推進人材として求められます。しかし、デジタル技術だけでなく、ビジネスの現場で業務にも通じている必要があるため、誰もがなれるわけではありません。

 

業務全体を把握している社内のIT人材を育成して配置するほうが望ましく、業務経験の豊富な「データサイエンティスト」や「エンジニア・オペレータ」、「サイバーセキュリティスペシャリスト」が担当するケース、プレイングマネージャーとしてほかの役割と兼ねるケースが考えられます。

 

「データサイエンティスト」や「エンジニア・オペレータ」は、知識習得と実戦を繰り返せば、在籍する従業員から適性のある方を見出すことで人材育成もできるでしょう。

 

「データサイエンティスト」は、IT・ソフトウェア領域、数理・データサイエンス領域、AI・ディープラーニング領域の知識が求められるため、たとえば、次の資格の合格レベルのスキルや知識が求められると推定されます。

参照:ITパスポート試験(IP)|情報処理推進機構(IPA)

参照:データサイエンス検定|一般社団法人データサイエンティスト協会

参照:G検定|一般社団法人日本ディープラーニング協会

 

「エンジニア・オペレータ」には、クラウドサービスを前提としたシステム実装に関する知識やスキルが必要なため、たとえば、ネットワークやデータベースに関して、次の資格の合格レベルの理解度が求められると推定されます。

参照:ネットワークスペシャリスト試験(NW)|情報処理推進機構(IPA)

参照:データベーススペシャリスト試験(DB) |情報処理推進機構(IPA)

 

ケースによってはこのほかにも必要な専門性があり得るので、「エンジニア・オペレータ」については情報処理技術者試験の試験区分を参考に人材育成の方向性を検討するとよいでしょう。

参照:試験区分一覧|情報処理推進機構(IPA)

 

なお、セキュリティ専門人材「サイバーセキュリティスペシャリスト」は、サイバー攻撃の対策をする要職であるため、IT業に分類される企業でもない限り、社内での人材育成は困難で、アウトソーシングが現実的です。

 

サイバーセキュリティスペシャリストは、経済産業省管轄の国家資格「情報処理安全確保支援士(登録セキュリティスペシャリスト)」レベルの能力が求められると推察されます。

参考:国家資格「情報処理安全確保支援士(登録セキスペ)」とは|情報処理推進機構(IPA)

 

また、「UI /UXデザイナー」も特殊な専門性が高いため、企業のホームページのデザインを制作会社に外部委託するのと同様、人材育成するよりはアウトソーシングが現実的です。

 

「UI /UXデザイナー」システムのUI(ユーザーインターフェース)画面をどのように設計し、どのようなUX(ユーザーエクスペリエンス)を引き出す使い勝手にするのかは、DXを拡大する際に大きく影響します。

経営層はDXをとりまくデジタル技術の理解が求められる

DX推進は企業が組織全体で取り組むため、必要な人材は「DX推進人材」だけではありません。

画像一部引用:新たなデジタルスキル標準の検討について(PDF):p.10|経済産業省

 

最初の段階では、経営層がDXを理解し、DX推進チームを設置する必要があるため、デジタルリテラシーを備えた最高経営責任者(CEO)・最高情報責任者(CIO)・最高DX責任者(CDXO)が必要になります。

 

経営層のDXの知識に不安がある場合、外部からコンサルティングを受けて取り組むことが一般的ですが、外部コンサル会社に頼りきりにならないよう、最新のデジタル技術を学び続ける姿勢が重要です。

 

DXに取り組む経営層は、DX認定制度を運営し、DX銘柄の認定にも関わっている情報処理推進機構(IPA)が運営する資格試験「ITパスポート試験(IP、iパス)」の合格レベルのデジタルリテラシーが必達です。

参照:ITパスポート試験(IP)|情報処理推進機構(IPA)

※CBT方式で受験できます。

 

ただし、経営者であればサイバーセキュリティリスクを踏まえた経営判断が求められるため、SG試験に合格するレベルの知識はあったほうがよいと推定されるため、ゆくゆくは「情報セキュリティマネジメント試験(SG)」の取得を目指すとよいでしょう。

参照:情報セキュリティマネジメント試験|情報処理推進機構(IPA)

※CBT方式で受験できます。

全従業員に一定のデジタルリテラシーが求められる

経営層やDX推進チーム以外にも、全従業員に新しいデジタル技術への対応力が求められます。

 

DXは組織全体でおこなうものであり、DX推進人材だけを育成してもDXの成功につながりません。並行して従業員へのリテラシー教育による「底上げ」も求められるということです。

 

経済産業省で、デジタル基準を検討中であるため、新しい基準の策定を待つのもよいですが、まずビジネスパーソンとして求められるITの基礎知識を習得させるため、全従業員にIP、マネージャークラスにはSGの資格取得を奨励してもよいでしょう。

DX推進のために社内で人材育成? 外部から招聘?

在籍する従業員を社内で育成するか、外部から専門性のある人を招いてチームに参加してもらうかによっても、DX推進人材の育成に必要なプログラムは異なります。

従業員を育成するケース

従業員をDX人材に育成する場合、人材育成の流れは次の通りです。

  1. DXの計画の一部として人材育成のロードマップをつくる
  2. 個々人のDX推進人材の適性をチェックする
  3. 研修などでスキルや変革へのマインドセットを身に付けさせる
  4. 演習や実践を通して必要な能力を体得させる
  5. 社内外のDXに関連するコミュニティからフィードバックを受けさせる
  6. DXの計画の振り返りのタイミングで人材育成状況を共有させる

ちなみに、2で挙げた「適性」は、たとえばIPAが仮説としてあげる次の要素です。

画像一部引用:「デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進に向けた企業とIT人材の実態調査~ 概要編~」(PDF)- DXに対応する人材に必要な“課題設定力”や“主体性・好奇心” p.31| 情報処理推進機構(IPA)

 

なお、新たにIT人材を雇用して育成していく場合、上に加え、企業内の業務知識も必要になるため、人材育成が完了するまでに時間がかかることになります。

コンサルティングを受けて専門家を招聘するケース

外部の専門家を招聘し、派遣や請負のようなチームの中に入ってもらってDXを推進する場合、DX推進人材として求められる資質や能力面の育成はまず不要だと思ってよいでしょう。

 

ただし、DX推進の知識はあっても、その企業における業務知識はゼロの状態で取り組むことになるため、会社全体の業務を把握できるように情報を提供する・業務経験を積ませることなどが必要です。