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経済産業省の職員が伝える デジタル時代に求められるDX人材とは

経済産業省の職員が伝える デジタル時代に求められるDX人材とは

社会のデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めるためには、それを支えるデジタル人材が必要不可欠です。

しかし、日本ではデジタル人材が不足しており、先端技術を担う人材の育成・確保が急務となっています。

DX実現に向け、どのような人材が必要とされるのか。また、人材の育成・確保にはどのような取組が必要なのか。JAIPA Cloud Conference2021に登壇された、経済産業省の松本理恵さんのお話をまとめました。

経済産業省が定義するDX

経済産業省では、DXを以下のように定義しております。

「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」

このように、単にデータとデジタル技術を活用することだけがDXではありません。ビジネスモデルや企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立することがポイントです。

2018年、経済産業省は早急なDXの必要性を訴えるため「DXレポート」を公表しました。

人材面、技術面においてデジタル技術を活用した経営変革がおこなわれなければ、ビジネスの発展が難しくなります。

DXの取り組みについて、日本の現状

多くの日本企業がDXに取り組めていない

(JAIPA Cloud Conference2021登壇資料より)

 

「DX推進指標」という経営・IT両面でDXの取組状況をチェックできる自己診断指標を使い現状調査をおこなった結果、残念ながら多くの日本企業がDXに取り組めていない現状が明らかになりました。

95%の企業は「DXにまったく取り組んでいない」あるいは「ようやく取り組み始めた」段階であり、「全社的に危機感を共有している」あるいは「意識改革を進めている」段階に至っていないことがわかっています。

コロナ禍によって待ったなしの状態に

しかし直近のコロナ禍により、テレワークの導入率が1か月間で2.6倍と大幅に増加をしました。経営トップのコミットメントのもとで、コロナ禍を契機に速やかに大きな変革を達成したといえます。

一方で、環境変化に対応できた企業とできなかった企業の差が大きくなっていることも事実です。

コロナ禍により、デジタル変革は待ったなしの状態になりました。レガシー企業文化から脱却し、素早く変化し続ける。こうした能力を身につけることが重要です。

そのためにも変革を起こせる「DX人材」「デジタル人材」の育成・確保が必要不可欠となります。

DXを進めるために必要なデジタル人材

DXを進めるために必要なデジタル人材と、その育成確保に向けた方策とはどのようなものかをお伝えします。

「世界競争力ランキング」というものがあります。

こちらを見ると対象となっている63か国のうち、日本は2018年には22位だったものが、2019年には23位、2020年には27位と徐々に順位を落としている状況です。

特にデジタル・技術スキルの項目は低い順位となっています。2018年には48位だったものが、2019年には60位、そして2020年には63か国中62位と非常に低い数字でした。

日本のデジタル競争力は低下している。

(JAIPA Cloud Conference2021登壇資料より)

 

デジタル人材の獲得競争は、国際的に激化しています。

民間企業の調査によれば、世界のIT技術者数は約2000万人を超えると推計されています。この多くが、米国、中国、インドといった大国です。日本は約109万人で、世界第4位のIT技術者数です。

大学において輩出されるデジタル人材の数を見ても、日本と米国を比べると人口比以上に数理系の人材の数に大きな差があります。さらに、日本においては高齢化が進み、有識者が定年退職していくことによるノウハウの喪失という「中の問題」も起こっています。

経済産業省で試算したところ、ITニーズの拡大などによって2030年には、国内IT人材が45万人不足すると予測されています。

2030年に国内IT人材が45万人不足

(JAIPA Cloud Conference2021登壇資料より)

 

日本におけるIT人材の約7割はIT企業にいます。ITをビジネスとしないユーザー企業が、デジタル人材を社外から採用するのは容易ではありません。

そのため、社内の人材をデジタル人材として育てる取り組みが必要です。

事業内容とデジタル技術の双方を理解した人材こそが、現場においてDXを実現する立役者となります。

育てるべきデジタル人材の定義

実際に育てなければいけない人材とは、どのような人材なのでしょうか。

デジタル人材について、これまでにさまざまな定義がおこなわれてきています。

たとえばIPA(独立行政法人情報処理推進機構)が提供する「ITスキル標準」においては、情報サービスの提供に必要な実務能力について、職種を11に分類し、35の専門分野に細分化しています。

IPA「ITスキル標準」11の職種と35の専門分野   ▲出典:IPA(独立行政法人情報処理推進機構)

IPA「ITスキル標準」11の職種と35の専門分野 ▲出典:IPA(独立行政法人情報処理推進機構)

 

また、2020年のIT人材白書においては、企業におけるDXを推進する際に求められる人材についての定義の例を紹介しています。

 

DXに求められる人材類型

(JAIPA Cloud Conference2021登壇資料より)

デジタル人材の育成をどう進めていくか

政府において、どのようにデジタル人材の育成を進めていくのかを紹介していきます。

「経済財政運営と改革の基本方針2021」いわゆる骨太方針において、成長を生み出す4つの原動力の中にデジタル人材の育成が明確に位置づけられています。

デジタル人材を育成していくうえで重要となったのが「社会人の学びのエコシステムを考えること」です。

社会人の学びにおいては、「学び」「評価」「キャリアおよび雇用機会」の3つが循環していくエコシステムの構築が重要となります。

そのためには「能力スキルの見える化」が必要です。経済産業省においては、学びの機会と見える化のツールを提供しています。

これらの機会やツールを活用しながら、人材の評価や雇用機会の提供を進めるなど、エコシステムの循環を意識して人材育成を進めていただきたいです。

具体的な学びの機会を4つおよび、見える化のツール3つを紹介します。

学びの機会 その1 数理・データサイエンス・AI教育講座認定制度

数理・データサイエンス・AI教育プログラム支援サイト

(JAIPA Cloud Conference2021登壇資料より)

 

学びの機会のひとつめは、「数理・データサイエンス・AI教育講座認定制度」です。

すべての大学生・高専生(約50万人/年)が、初級レベルの数理・データサイエンス・AIに関する知識の習得を目指した制度です。

基礎的な能力を学んできた人材が、より多く輩出されることを期待される産業界の方も多くいらっしゃると思います。こうした声を集めることを通じて、大学・高専での教育プログラムを整備する取り組みを後押しします。

人材の活躍の場が広がることを目的として、経済産業省では教育プログラムの支援サイトを立ち上げました。協力企業を「MDASH SUPPORTER」として支援サイトで紹介し、産業界をはじめとした社会全体で積極的に評価していけるように考えていきたいと思っています。

学びの機会 その2 巣ごもりDXステップ講座情報ナビ

巣ごもりDXステップ講座情報ナビ

(JAIPA Cloud Conference2021登壇資料より)

 

社会人のみなさまには「巣ごもりDXステップ講座情報ナビ」というポータルサイトをご用意しています。

こちらは経済産業省のホームページの中に新しく構築したもので、掲載されているコンテンツは、主に民間事業者の方からご提供いただいています。

これまでデジタルスキルを学ぶ機会がなかった方も、新たな学習を始めるきっかけを得ていただけるように、誰でも無料でデジタルスキルを学べるオンライン講座を紹介しています。

レベルや分野に合わせた多様な講座を検索可能です。各講座の内容、カテゴリ、どんなコースなのか、どういう方を対象としているのか。このような情報がすべてわかるようになっています。

学びの機会 その3 第四次産業革命スキル習得講座認定

第四次産業革命スキル習得講座認定

(JAIPA Cloud Conference2021登壇資料より)

 

基本的なスキルを身につけた方には、さらにレベルの高いものとして「第四次産業革命スキル習得講座認定制度」をご用意しています。

こちらは、専門的・実践的な教育訓練講座を経済産業大臣が認定をしているものです。

東京のみならず、全国で受講していただく機会を確保するために、eラーニングの講座も複数認定しています。

専門的・実践的な講座ですので、基本的に有料の講座を認定しています。経済産業省が認定した講座のうち、厚生労働省が定める一定の基準を満たしたものについては、専門実践教育訓練としての受講支援制度があります。細かい受給要件については、厚生労働省のウェブサイトをご覧ください。

厚生労働省 教育訓練給付制度

学びの機会 その4 AI Quest(課題解決型AI人材育成事業)

AI人材の育成が重要と言われていますが、育成を進めるための講師が十分にいないという問題があります。

一方で、企業の現場でAIを活用していくためには、現場にいる人材のスキル・ノウハウの不足を解決することが必要です。

このふたつの課題を同時に解決することを目的として、企業の実例に基づいた課題解決型学習による実践的な学びの場を「課題解決型AI人材育成事業」として提供しています。これを通称「AI Quest」と呼んでいます。今年も参加者を募集し、多数の方にご応募いただきました。

続いて、見える化ツールを3つご紹介したいと思います。

見える化ツール その1 ITパスポート試験

ITパスポート試験

(JAIPA Cloud Conference2021登壇資料より)

 

ひとつめは、リテラシーレベルの見える化ツール「ITパスポート試験」です。

ITソフトウェア領域能力の可視化という観点で、お使いいただける試験となっています。誰もが共通に備えておくべき基礎知識をはかるために、情報処理技術者試験の一部として2009年度から開始しました。

全国に約100の試験会場があり、お近くの会場でコンピューターを使って試験していただきます。1年間、いつでも自分自身のITに関する基礎知識をはかることが可能です。

令和2年度には約15万人の方にご応募いただき、約半分の方が合格されています。合格者平均年齢は29.7歳と、若い方からも受けていただいている制度です。

見える化ツール その2 情報処理技術者試験

情報処理技術者試験

(JAIPA Cloud Conference2021登壇資料より)

 

ふたつめは、「情報処理技術者試験」です。ITに関する専門的な知識の見える化をおこないたい方におすすめです。昭和44年から現在まで続く、IT分野唯一の国家試験となっています。

長く続いている試験ですが、試験の区分や出題内容については、時代に合わせて見直しを続けています。これまでの累計応募者数は2000万人を超え、合格者数は約300万人です。

先ほどご紹介したリテラシーレベルのITパスポート試験から、高度な知識技能を証明する、分野別の高度試験まで全13区分にわたる試験を提供しています。

見える化ツール その3 情報処理安全確保支援士(登録セキスペ)

情報処理安全確保支援士(登録セキスペ)

(JAIPA Cloud Conference2021登壇資料より)

 

最後に紹介するのは「情報処理安全確保支援士(通称、登録セキスペ)」です。サイバーセキュリティの確保を支援するため、専門人材の国家資格として平成28年に創設いたしました。

令和3年4月1日時点の登録者数は2万人を超えており、試験を受けたうえでご登録いただき、情報処理安全確保支援士として活動できるようになります。

以上、デジタル人材に関する学びの機会、および見える化ツールについて紹介しました。

デジタル人材の育成に関する根本的な課題

日本では、デジタル・ITを活用した付加価値の高い新規ビジネスを十分に生み出せていません。これが、デジタル人材の育成に関する根本的課題であると考えています。

日本企業の多くは、ビジネスの効率化のためにITを使うことに集中をしています。今後はそれをいかに新しいビジネスを作るかにシフトすることが必要な状況です。

そのために、2021年2月から新しいデジタル人材政策の方向性について、経済産業省でも検討を実施しています。

デジタル時代の人材政策、今後の方向性

(JAIPA Cloud Conference2021登壇資料より)

 

議論の中で、企業組織の外における実践的な学びの場の創出について重要性が示されました。

今後、必要な要件などを整理したうえで、デジタル人材育成プラットフォームを新たに構築していくことを考えています。

 

執筆

川崎 博則

1986年生まれ。2019年4月に中途でさくらインターネット株式会社に入社。さくマガ立ち上げメンバー。さくマガ編集長を務める。WEBマーケティングの仕事に10年以上たずさわっている。

編集

武田 伸子

2014年に中途でさくらインターネットに入社。「さくらのユーザ通信」(メルマガ)やさくマガの編集を担当している。1児の母。おいしいごはんとお酒が好き。

※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。

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