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近年、認知度が高まりつつある気象病。気温や気圧などの気候の変化によって起こる頭痛・めまいなどの症状の総称で、日本では5人に1人が悩まされているとも言われている。
そんな気象病にいち早く注目したのが、株式会社ベルシステム24(以下、ベルシステム24)だ。同社は頭痛を管理できるアプリ「頭痛ーる」(ズツール)を開発し、ユーザーから絶大な支持を得ている。事業開発本部の岩見 統之さんと安中 朋哉さんに、同アプリの開発背景について聞いた。

岩見 統之(いわみ のりゆき)さん プロフィール(写真右)
事業開発本部コンテンツ事業部事業部長。2008年にベルシステム24に入社。コールセンターの管理者、商社への出向を経て、2020年に帰任。事業開発部隊の立ち上げから参画し、現在は「頭痛ーる」を含めたコンテンツ事業に携わっている。
安中 朋哉(あんなか ともや)さん プロフィール(写真左)
事業開発本部コンテンツ事業部マネージャー。2010年に株式会社ポッケに入社し、2022年に株式会社ベルシステム24へ転籍。「頭痛ーる」の開発時より、キャラクターデザイン、コンセプト開発などに携わっている。
気圧の変化を確認し、体調を管理できるアプリ
1982年に創業したベルシステム24。コンタクトセンターのアウトソージング事業を中心に、クライアントとユーザーをつなぐ、さまざまなサービスを展開している。気象病対策アプリ「頭痛ーる」もその1つだ。

「頭痛ーる」のリリースは2013年。気圧を中心とした気象情報の確認と、体調・服薬の記録をできることが特徴だ。
「気圧の変化は、雨や雪のように視覚で確認することができません。ですが、自身の不調で気圧の変化に気づく人もいます。グラフで気圧の変化を誰もがわかるようにしたという点が、ほかの気象予報アプリと大きく異なる点です」(安中さん)
気圧を確認できるページでは、1時間ごとの気圧変化グラフと、「上昇注意」「やや注意」「注意」「警戒」の4段階のアイコンで警戒レベルを表示。ユーザーはこれらを確認することで、気圧の変化による頭痛が起こりやすい時間帯を把握し、対策を講じることができる。
また、痛み記録のページでは、痛みの程度、薬の服用の有無、服用した薬の種類、生理の有無、自由記述欄が実装されている。痛みの程度は4段階から選択。選択したものが、気圧変化グラフにも表示され、気圧の変化との相関関係を確認することができる。さらに、痛みの記録を10回おこなえば、それをもとに、AIがユーザーの気圧変化と痛みの関係、傾向を提示してくれる。
このような細やかな機能により、リリースからわずか1か月で4万ダウンロード、2024年12月には2,000万ダウンロードを達成。月間アクティブユーザー数は約100万人となっている。これらの数字から、ユーザーから絶大な指示を得ているといってもよいだろう。
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専任の気象予報士の監修のもと、開発をスタート
ベルシステム24では、2001年から「お天気.com」というポータルサイトを運営。最初に気象の変化と体調の相関関係に注目したのは、当時、同社に在籍していた気象予報士の女性だった。
「『雨が降ると古傷が痛む』と言われることがありますよね。医療の現場でも、気象の変化と体調の相関関係はささやかれていましたが、エビデンスがないことから、その考えが広く普及していませんでした。でも、実際に気象の変化に悩まされている人がいる。それを見えるようにしたいという想いがありました」(安中さん)
元々、開発をはじめたポッケ(2022年にベルシステム24に吸収)には「さまざまなことにチャレンジしよう」という機運があったことと、iPhoneをはじめとするスマートフォンの発売によってアプリが続々と誕生していたことが重なり、気象予報士監修のもと、2012年に開発を開始した。
その当時、気象と体調に関する論文が少なかったことから、自身でデータを取得するために、頭痛に悩む社員10人の協力を得た。約8か月間にわたって頭痛が発生した日時を記録してもらい、実際の気象との関係を分析したという。
過去にない気圧グラフのデザインに四苦八苦
機能の確立だけでなく、デザインにも注力した。気象病という言葉がある現在とは違い、気象と体調の関係は真偽が疑わしいものだった。そこで、ユーザーになじみやすいように既視感のあるデザイン、つまり昔からある天気予報のようなデザインを心掛けたという。一方で、気圧を表した等高線は一目で理解するのが難しいことから、伝わりやすさを優先し、4段階のアイコンレベルで警戒度を表している。
また、気圧変化の表現にも工夫をした。「頭痛ーる」の気圧変化グラフでは、日時を示す縦軸が画面の中心に固定されている。右から左に画面をスライドさせると、日時が進む仕様だ。気圧は画面のスライドに合わせて上下に波打ち、変化を示している。
「気圧は年間を通して大きく変化します。スマートフォンの小さい画面のなかで、その落差をうまく見せるために、日時の軸を中心に置き、気圧グラフが動く仕様にしました。それまでにあまりないデザインだったので、エンジニアに伝えるときは苦労したことを覚えています。言葉では伝わらなかったので、簡単なアニメーションを作って見せましたね」(安中さん)
特徴的なポップな動物のキャラクターを用いたことも、工夫の1つだと安中さんは続ける。

「気圧の話って、難しいですよね。そんな話にも耳を傾けてもらいたいと思ったときに、狂言回しとしてキャラクターがいる方がよいと考えました。作るうえで『流行りに乗ったゆるキャラ』と言われないように、しっかりと設定を練りました。彼らにはそれぞれ役割があるし、生い立ちもあるんです」(安中さん)
実際にユーザーからは「頭が痛くてつらいけど、楽しそうにしているキャラクターたちを見ているといやされる」という声も届いているという。「情報を伝えるだけでなく、人の気持ちに寄り添いたい」という安中さんの想いがユーザーに伝わっているのだろう。
取得データの提供によって、医療業界にも貢献
多くの人に愛用されている「頭痛ーる」は、ユーザーである患者の体調を把握しやすいという点で、リリース当初から医療の現場でも評価をされているという。現在は、個人利用の枠を超えて、学術論文にも活用されているほどだ。
「東洋医学では気象と体調は相関すると言われていましたが、根拠がなく、医師が1人でデータを集めるのも難しい。ところが『頭痛ーる』では、日本全国にいる多くのユーザーからデータを取得できます。これらのデータを活用していただくことで、気象と体調の相関を立証できました」(岩見さん)
さらに、「頭痛ーる」は医療業界への貢献だけでなく、ユーザーとペットとの健やかな暮らしにもつながっているという。
「ペットの健康を記録するために『頭痛ーる』が利用されているのは想定外でした。犬や猫も高齢化にともない、気圧の変化を受けやすくなると考えられています。そこで、犬や猫と暮らすユーザーを対象にアンケートを実施したところ、たくさんの熱いメッセージが届き、『ファミリーケアプラン』『ファミリーケアプラン+』の提供を開始しました」(岩見さん)

「頭痛ーる」の無料プランでつけられる記録は1人分まで。だが、頭痛に悩まされているユーザーの子どももまた頭痛に悩むことが多いといわれ、複数人の記録が1アカウントに集約されていたケースがあった。一方新プランでは、1アカウントで複数人の記録をつけることが可能。そして、この「ファミリー」のなかには、犬や猫といった動物の健康を記録することも想定したデザインになっているという。
「記録、予測、振り返り」のその先へ
利用される業界や使い方の幅が広がり続けている「頭痛ーる」。今後はどのように展開するのだろうか。
「『書き心地のよいペンとメモ』という開発コンセプトを軸に、『予測する』『記録する』『振り返る』という3つを続けてきた13年間でした。今後はこれらをもう少し深め、行動に移す段階にしたいと考えています」(安中さん)
ユーザーは「頭痛ーる」を通じて自身の体調を知ることはできたが、相談する先や解決方法はそれぞれだ。そこで、同社はそれらを提供するために、他社との協業も含めて新たなサービスの提供を始めている。
「頭痛の緩和をサポートするアロマや、ペットの体調を記録できるウェアラブルデバイスなどのサービスを、他社との協業によって実現しています。今はユーザーがよりよい医療情報にアクセスできるように、オンラインサロンの開設を検討している最中です」(岩見さん)
最後に、ユーザーへのメッセージを聞いた。
「私たちは有料広告を一切出していません。それでも、ユーザーのみなさんが積極的に意見をくださったおかげで、サービスを発展させることができました。気圧という見えないものを見えるようにするのは、隠された謎を解き明かすようでもあります。これからもみなさんと一緒に取り組んでいきたいと思っていますので、ぜひ力を貸していただければうれしいです」(安中さん)
「いままでは、気象の変化で頭痛に悩む方々が、『怠けている』と認識されることもありました。しかし、『頭痛ーる』の提供によって、気象病に悩むみなさんが、周囲から理解を得るための役に立てたと実感しています。気象病の認知が高まったいま、さらに一歩踏み込んで、解決策の提供につなげていきたいですね」
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執筆
増田洋子
東京都在住。インタビューが好きなフリーランスのライターで、紙媒体とWebメディアで執筆中。ネズミを中心とした動物が好きで、ペット関連の記事を書くことも。
ポートフォリオ:https://degutoichacora.link/about-works/
※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。
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