さくらインターネット
さくマガ公式SNS
お問い合わせ

AIエージェントとは?生成AIとの違いから導入コスト・GPU選定まで解説

ChatGPTをはじめとする生成AIの普及が進むなか、次世代のAI技術として「AIエージェント」が注目されています。AIエージェントは単なるコンテンツ生成にとどまらず、目標に向けて自律的に判断・行動し、複雑な業務プロセスを遂行できるシステムです。2025年は「AIエージェント元年」と呼ばれ、多くの企業が実証実験や導入を進めました。

本記事では、AIエージェントの定義や生成AIとの違い、技術的な仕組み、そして導入に必要なリソース設計とインフラ選定のポイントを解説します。

1. AIエージェントとは?定義と基本的な仕組み

AIエージェントは、大規模言語モデル(LLM)を中核に据え、目標に向けて自律的に判断・行動するAIシステムです。ここでは、AIエージェントの定義、動作の仕組み、種類について解説します。

1-1. AIエージェントの定義

AIエージェントとは、ユーザーに代わって目標達成のために最適な手段を自律的に選択し、タスクを遂行するAIシステムです。「エージェント(Agent)」は「代理人」を意味し、人間の介入を最小限に抑えながら、設定された目標に向けて自ら考え、行動する点が特徴です。

たとえば、カスタマーサポート部門では、顧客からの問い合わせメールを読み取り、FAQの検索、適切な回答文の作成、返信送信までを一貫して自動化できます。営業部門では、見込み客の情報収集からCRMへの登録、初回アプローチメールの送信、フォローアップの管理まで、営業担当者の手を離れて進行します。データ分析の現場では、データベースからの情報抽出、集計処理、グラフ作成、レポート生成、関係者への共有といった一連のプロセスを夜間バッチで完結させることも可能です。

従来のAIは、人間が具体的な指示を逐次入力しながら、目的達成に向けてやりとりを繰り返す必要がありました。一方、AIエージェントは最終的な目標を与えるだけで、そこに至るまでのタスク分解、実行計画の立案、結果の評価までを自律的に行います。複数のAIモデルや外部ツール(検索エンジン、データベース、APIなど)を組み合わせて活用できるため、単一モデルでは対応困難な複雑なタスクにも柔軟に対応可能です。

2025年には、OpenAI、Google、Anthropicなどの主要AI企業がエージェント機能を相次いで発表し、「AIエージェント元年」とも称されました。生成AIの普及により「指示→確認→再指示」という繰り返しの手間が課題となっていましたが、AIエージェントはこうした人間の介入を最小限に抑え、業務自動化をさらに加速させる技術として期待されています。

1-2. AIエージェントの動作プロセス

AIエージェントは、以下の4つのステップを循環的に実行することで、自律的な動作を実現します。

観測(Perception

センサーやデータ入力などを通じて、環境や状況に関する情報を収集します。たとえば、カスタマーサポート用のエージェントであれば、顧客のメールやチャットの内容を読み取る工程が該当します。

判断(Decision Making)

大規模言語モデル(LLM)による推論を通じて、収集した情報と記憶(短期・長期)や外部ツールを組み合わせ、最適なアクションを判断します。

行動(Action)

メール返信、データベース照会、APIの呼び出しなど、実世界への具体的な操作を実行します。

学習(Learning)

実行結果をフィードバックとして受け取り、成功したアプローチは記憶に残し、失敗した場合は代替策を試すことで継続的に改善します。

1-3. AIエージェントの種類と分類

AIエージェントは、その機能や自律性のレベルに応じて、以下のように分類されます。

反応型エージェント

最もシンプルな構造のエージェントで、事前に定義されたルールに基づいて反応します。特定の条件に対して定型の応答を返すチャットボットが該当します。

モデルベース型エージェント

環境の内部モデルを保持し、現在の状況と過去の経験を組み合わせて行動を選択します。たとえば、ロボット掃除機が部屋の構造を記憶し、効率的な清掃ルートを自律的に計画・実行するような例がこれに当たります。

目標ベース型エージェント

設定された目標に基づいて、タスクの計画・遂行を自律的に行います。営業支援用AIエージェントが、四半期の売上目標に向けて見込み客をスコアリングし、アプローチの優先順位を決定するなどの動作が該当します。

効用ベース型エージェント

複数の評価軸(コスト、時間、リスク、利益など)を考慮して、最も効用が高い行動を選択します。より柔軟で高度な意思決定が可能になります。

学習型エージェント

経験を通じて継続的に自己改善を行います。過去の成功・失敗から学び、より的確な判断や行動ができるよう進化します。

2. AIエージェントと生成AIの違いとメリット

AIエージェントは生成AIを基盤としながらも、自律性やツール活用能力に明確な違いがあります。

2-1. 生成AIとの違い

生成AIとAIエージェントの最大の違いは、「対話して応答する」か「自律的に行動する」かという点にあります。この違いが、業務での活用範囲を大きく左右します。

生成AIは、ユーザーからの入力に対して適切なテキストや画像を生成する「応答型」のシステムです。ChatGPTやGeminiなどがこれに該当し、質問に答える、文章を要約するといった単一タスクに優れています。ただし、複数ステップを要するタスクでは、各段階でユーザーによる指示が必要です。

一方、AIエージェントは「自律行動型」のシステムです。最終的な目標を与えると、そこに到達するまでの手順を自ら考え、必要なツールを選択し、実行に移します。たとえば「競合他社の最新製品情報をまとめたレポートを作成」という目標を与えれば、Web検索→データ整理→レポート作成→ファイル保存という一連のプロセスを人間の介入なしで完遂します。

さらに、AIエージェントは複数の外部ツール(検索エンジン、データベース、計算ツール、APIなど)を組み合わせて活用できる点も特徴です。この「ツールチェーン」により、生成AIでは対応困難だった複雑なタスクの自動化が可能になります。

2-2. AIエージェント活用のメリット

AIエージェントの導入により、企業は以下のような具体的なメリットを得られます。

複雑な業務プロセスの完全自動化

従来の生成AIでは各ステップでユーザーが指示を出す必要がありましたが、AIエージェントは目標さえ設定すれば、タスクの分解から実行、検証までを自律的に遂行します。

リアルタイムでの意思決定支援

外部データソースにアクセスし、最新情報に基づいた判断が可能です。生成AIは学習時点までの知識に依存しますが、AIエージェントはWeb検索やAPIを活用して、市場動向、在庫状況、顧客行動などをリアルタイムで取得・分析できます。

24時間365日の継続稼働

人間の介入を最小限に抑えられるため、夜間や休日でも業務を継続できます。従来のRPAは事前定義されたシナリオのみを実行できますが、AIエージェントは想定外の状況にも柔軟に対応可能です。

3. AIエージェントの技術アーキテクチャと実装設計

AIエージェントを実装するには、LLM、メモリ機能、ツールチェーンという3つのコア要素を適切に設計する必要があります。これらの要素が連携することで、高度な自律動作が可能になります。

3-1. 構成要素とアーキテクチャパターン

大規模言語モデル(LLM)

エージェントの「頭脳」として機能します。ユーザーの目標を理解し、タスクを分解し、次に取るべきアクションを判断します。OpenAIのGPT、AnthropicのClaude、GoogleのGemini、MetaのLlamaなどが主要な選択肢です。

メモリ機能

短期記憶は現在のタスク実行中の会話履歴を保持し、長期記憶は過去の経験や学習した知識をベクトルデータベース(Pinecone、Weaviate、Qdrantなど)に保存します。効果的なメモリ設計では、RAG(検索拡張生成)パターンを活用し、必要な情報だけを効率的に取り出します。

RAGについては以下の記事で解説しています。

RAGとは?LLMを拡張する検索拡張生成の仕組みと実装方法

ツールチェーン

エージェントが利用できる外部ツール群です。Web検索API、データベースクエリ、計算ツール、ファイル操作、外部サービスAPI、コード実行環境などを組み合わせます。LangChain、LlamaIndex、Semantic Kernelなどのフレームワークを活用すると、ツールの統合管理が容易になります。

3-2. セキュリティとリスク管理

AIエージェントは外部システムと連携し自律的に行動するため、セキュリティ対策が極めて重要になります。適切な制御がなければ、意図しないデータ漏えいや不正操作のリスクが生じます。

アクセス制御

エージェントが操作できるリソースを最小限に制限し、機密データへのアクセスには多要素認証を実装します。操作ログを詳細に記録し、異常な動作を検知できる仕組みを構築します。

プロンプトインジェクション対策

悪意のある入力によってエージェントの動作が改変されるリスクに対処します。入力の検証とサニタイゼーション、システムプロンプトとユーザー入力の明確な分離が必要です。

ハルシネーション対策

LLMが事実と異なる情報を生成するリスクを軽減します。重要な判断には外部データソースでの検証を必須とし、不確実な情報を明示します。

4. リソース設計とインフラ選定

AIエージェントの推論処理には、高性能なGPUリソースが不可欠です。使用するモデルの規模に応じて、適切なGPU構成を選定する必要があります。

4-1. 必要な計算リソース|GPUスペックと推論コストの試算

AIエージェントの推論処理は、使用するLLMのサイズによって必要なGPUリソースが大きく異なります。

小〜中規模モデル(70億〜700億パラメータ)

Llama 2 7BやMistral 7Bなどの小規模モデルは、NVIDIA RTX 4090(24GB)やA10G(24GB)で稼働します。社内チャットボットや簡単なタスク自動化に適しています。

Llama 2 70BやMixtral 8x7Bなどの中規模モデルには、NVIDIA A100(40GB/80GB)やH100(80GB)が推奨されます。複雑な業務プロセスの自動化や高度な推論が必要なタスクに対応できます。

大規模モデル(1,750億パラメータ以上)

GPTクラスの大規模モデルを自社で運用する場合、NVIDIA H100やB200の複数GPU構成が必要になります。B200は2025年から本格的に市場投入されたBlackwellアーキテクチャの最新GPUで、H100と比較して推論性能が最大15倍、学習性能が3倍向上しています。192GB HBM3eメモリを搭載し、4,000億パラメータクラスのモデルを単一GPUで実行可能です。

ただし、大規模モデルの自社運用は初期投資が数千万円規模となるため、多くの企業ではOpenAIやAnthropicのAPIを利用するほうが現実的な選択肢といえます。

なお、GPUクラウドの基本的な仕組みや選定基準については、以下の記事で詳しく解説しています。

GPUクラウドとは?研究機関・スタートアップが導入するメリットと選定ガイド

GPUレンタルの選び方ガイド。AI・機械学習研究に最適なサービスと活用法を解説

4-2. インフラ選択の判断軸

オンプレミスGPUサーバー

初期投資は高額ですが、長期的なコスト効率は優れています。NVIDIA H100搭載サーバー(8GPU構成)は約6,000万円以上(ネットワーク・冷却設備含む)ですが、継続利用期間が長くなるほど、月額換算のコストがクラウドサービスより低くなる傾向があります。データが社外に出ないため、金融・医療など機密性の高い業界に適しています。

クラウドGPU

初期投資不要で従量課金のため、スモールスタートに適しています。AWS、Google Cloud、Microsoft Azure、CoreWeaveなどが主要な選択肢です。2025年時点で、H100の時間単価は約300〜525円(2〜3.5ドル)、B200は約940円(6.25ドル)です。

需要に応じて柔軟に拡大・縮小が可能なため、負荷変動が大きい用途に向いています。ピーク時のみリソースを増強できる点も魅力です。

ハイブリッド構成

開発・テスト環境はクラウド、本番環境はオンプレミスまたは国内GPUクラウドという組み合わせも有効です。データ主権やAIガバナンスの観点から、重要データは国内に保持し、柔軟性が必要な部分はクラウドを活用する方式が増えています。

GPUサーバーの導入形態や選定ポイントについては、以下の記事も参考になります。

GPUサーバーとは?基礎知識から選び方までIT責任者が押さえるべきポイント

ベアメタルとは?AI・機械学習に最適な高性能サーバー環境の選び方

計算資源とは?生成AI時代のGPU管理・効率化までわかりやすく解説

4-3. さくらの国産GPUクラウド「高火力シリーズ」の強み

さくらインターネットの高火力シリーズは、AIエージェント開発に適した国産GPUクラウドサービスです。最新のNVIDIA B200(192GB)を搭載した環境を提供し、Llama 2 70BやMixtral 8x7Bクラスの中規模〜大規模モデルの推論に対応します。

北海道、東京、大阪のデータセンターで運用され、データ主権の確保やAI事業者ガイドラインへの対応が容易です。海外クラウドサービスと比較して、日本国内からのアクセス時のレイテンシが低く、リアルタイム性が求められるエージェントシステムに最適といえます。

時間単位の従量課金から月額定額プランまで選択でき、開発フェーズではコストを抑えつつ、本番運用時にはパフォーマンスを確保できる柔軟性があります。詳細は公式サイトをご覧ください。

さくらのGPUクラウドサービス

5. 導入の進め方

AIエージェントの導入は、段階的なアプローチが重要です。いきなり全社展開するのではなく、小規模の検証から始めましょう。

5-1. 導入フェーズ別のステップ|PoC から本番運用まで

フェーズ1: PoC(概念実証)

最初の1〜2ヶ月で、小規模のユースケースで技術検証を行います。OpenAI APIやClaude APIを使った試作で、エージェントの基本動作を確認します。ツールチェーンを2〜3個に限定し、単純なタスク自動化で効果を測定します。

フェーズ2: パイロット運用

3〜6ヶ月かけて、実際の業務プロセスに組み込み、限定ユーザーで運用します。本格的なメモリ機能(ベクトルデータベース)を導入し、複数のツールを統合します。セキュリティポリシーの策定とアクセス制御の実装も並行して進めます。

フェーズ3: 本番展開

フェーズ1、2を経た後は、全社展開または外部顧客向けサービスとして本格運用します。高可用性構成(冗長化、負荷分散)を実装し、24時間365日の安定稼働を確保したうえで、継続的な改善サイクル(新しいツールの追加、プロンプトの最適化)を確立します。

5-2. コスト管理の重要ポイント

LLM APIを利用する場合、トークン単価×処理量でコストが決まります。GPTは入力1,000トークンあたり約4.5円($0.03)、出力は約9円($0.06)です。たとえば月間1億トークン処理(入出力比1:1と仮定)の場合、約67万5千円程度のコストになるため、処理量の予測と予算管理が重要です)。

自社GPUで推論する場合、GPU時間単価×稼働時間がコストになります。H100のクラウド利用で時間約450円($3)、月間フル稼働で約32万円です。

プロンプトキャッシングを活用すると、繰り返し使用されるシステムプロンプトのトークンコストを大幅削減できます。Anthropic Claudeでは、キャッシュされたトークンは通常の10分の1のコストで利用可能です。また、バッチ処理により複数リクエストをまとめて処理することで、GPU利用効率を向上させることができます。

※2025年10月時点、為替レート1ドル=150円で換算

まとめ

AIエージェントは、生成AIとは異なり、目標に向けて自律的に判断・行動する次世代のAIシステムです。LLM、メモリ機能、ツールチェーンの3要素で構成され、複雑な業務プロセスを人間の介入なしに遂行できます。導入には推論コスト管理、セキュリティ対策、適切なインフラ選定が重要なポイントとなります。さくらインターネットの高火力シリーズは、NVIDIA B200搭載の国産GPUクラウドとして、低レイテンシ・高コストパフォーマンスでAIエージェント開発を支援します。データ主権やAIガバナンスへの対応も容易な国内データセンターで、AIエージェントの可能性を最大限に引き出してみませんか。

編集

さくマガ編集部

さくらインターネット株式会社が運営するオウンドメディア「さくマガ」の編集部。

※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。

すべての記事を見る

関連記事

この記事を読んだ人におすすめ

おすすめのタグ

さくマガ特集

働くすべてのビジネスパーソンへ田中邦裕連載

みなさんは何のために働いていますか? この特集では、さくらインターネットの代表・田中が2021年から2022年にかけて「働くすべての人」へ向けてのメッセージをつづりました。人間関係を良好に保つためのコミュニケーションや、必要とされる人になるための考え方など、働くことが楽しくなるヒントをお伝えします。

さくらの女性エンジニア Real Voiceインタビュー特集

さくらインターネットでは、多様なバックグラウンドを持つ女性エンジニアが活躍しています。この特集では、これまでの経歴や現在の業務内容、めざすキャリア、ワークライフバランスのリアルなど、さまざまな角度から「さくらインターネットの女性エンジニア」を紐解いていきます。

転職組に聞く入社理由「なぜ、さくら?」

さくらインターネットには、有名企業を何社も渡り歩いてきた経験豊富な社員がいます。本シリーズでは『転職組に聞く入社理由「なぜ、さくら?」』と題し、これまでのキャリアや入社理由を紐解きながら、他社を経験しているからこそわかる、さくらインターネットの魅力を探ります。

Welcome Talk「ようこそ、さくらへ!」

さくらインターネットには、さまざまなバックグラウンドを持つ仲間が次々と加わっています。本シリーズ『Welcome Talk「ようこそ、さくらへ!」』では、入社直後の社員と同じ部署の先輩による対談を通じて、これまでの経歴や転職理由、関心のある分野や取り組みたいことについてざっくばらんに語ってもらっています。新メンバーの素顔とチームの雰囲気を感じてください。

若手社員が語る「さくらで始めるキャリア」

さくらインターネットで社会人としての第一歩を踏み出した先輩たちのリアルな声を集めました。若手社員のインタビュー、インターンの体験談、入社式レポートなどを通じて、キャリアの始まりに役立つヒントや等身大のストーリーをお届けします。未来を考える学生のみなさんに、さくらのカルチャーを感じていただける特集です。