マーケティング分野では近年、「ペルソナ」を設定する機会が増えたと感じます。
背景にあるのがDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進です。
マーケティングオートメーション(MA)をはじめとするデジタルツールを活用する際、ペルソナを主人公にしたカスタマージャーニーを使うことが多いためです。しかし同時に、こんな違和感を覚えることも増えました。
「それっぽく見えるが虚構。妄想のペルソナが増産されている——」
なぜそう感じるのでしょうか。
ペルソナのよくある3つの間違い
そもそもペルソナとは何かといえば、「実在する人たちのデータをもとに作り上げた、代表的な人物像」です。
顧客のペルソナを描き出すことは、世界をペルソナの視点で見られるようにし、感情移入や深い想像を可能にします。結果として、顧客が抱える悩みや日常生活での行動、商品の使用シーンなどの理解が深まるのです。
しかし実際には、本来のペルソナとして機能していないケースも珍しくありません。よくある3つの間違いからご紹介しましょう。
- 属性だけ細かく設定している
- 妄想と願望のストーリーを展開
- ターゲットとペルソナを混同している
(1)属性だけ細かく設定している
1つめは「属性だけ細かく設定している」です。
年齢、性別、住所、職業、役職、年収、配偶者の年齢、子どもの人数・年齢……といったデモグラフィック属性だけが羅列されているケースです。
むしろ「属性を細かく設定すること=ペルソナ設定」と勘違いされている方もいるようです。しかしながら、本来、ペルソナによって描き出すべき部分は、属性ではありません。
大切なのは「ペルソナの気持ち」と「ペルソナの行動」
属性よりも大切なのは「ペルソナの気持ち」と「ペルソナの行動」です。すなわち、ペルソナが抱えているニーズ(解決したい課題や悩み)、価値観、心理状態、生活スタイル、行動パターンなどを明確にしなければ、ペルソナの意味がありません。
多様化が進む現代では、同じ属性でもまったく異なる人間性を持つ人たちがたくさんいます。属性に依存したペルソナは、誤った判断を呼び込むリスクがあることを、認識しましょう。
(2)妄想と願望のストーリーを展開
2つめは「妄想と願望のストーリーを展開」です。
属性より顧客の心理や生活を描きたいという意識は良くても、頭の中の想像だけでペルソナのストーリーを創り上げてしまうのは問題です。マーケティング担当者の場合、意識的・無意識的にかかわらず、実施しようとしている施策から逆算して、ペルソナ設定しているケースが多く見られます。
どういうことかといえば、施策にちょうどよく反応するに違いない人物像を、甘い期待や願望のもとに設定してしまうのです。
ペルソナのポイントは「データドリブン」と「代表性」
先ほどペルソナの定義を「実在する人たちのデータをもとに作り上げた、代表的な人物像」とお伝えしました。ペルソナは、自由に創作するものではありません。
“実在する人たちを情報源として、実在する人たちを代表する人物像を作る”ことが、重要ポイントとなります。
近年、データの分析結果をもとに意思決定する「データドリブン」が注目されていますが、ペルソナこそデータドリブンであるべきです。データをもとに共通項を探し出し、共通項を手がかりにして人物像を作っていくと、「代表性のある」ペルソナが作成できます。
(3)ターゲットとペルソナを混同している
3つめは「ターゲットとペルソナを混同している」です。
どちらもマーケティングでよく使われる用語ですが、本来、ターゲットとペルソナは別の概念です。
ターゲットとは
ターゲットとは、限られたマーケティング資源(予算や人的リソース)をどこに集中させるか? という「的(標的)」のことです。ターゲットはマーケティング戦略の一環として、設定されます。
よく「ターゲットを絞れば絞るほど良い」といわれるのは、その分、絞ったターゲットに戦力を集中させ、高い効果を得やすくなるためです。
ペルソナとは
一方ペルソナは、顧客を深く理解するために設定する人物像です。攻撃目標を定めるためのターゲットとは、目的が異なります。例えば、自社のお得意様である上客を「ターゲット」とは呼びませんが、お得意様を深く理解するために、お得意様のペルソナを作ることはできます。
あるいは、狙うターゲットを定めたうえで、ターゲットとなる人たちを深く理解するために、ターゲット像を「ペルソナ」として設定することもできます。ターゲットとペルソナが持つ役割を明確に区別しておくと、どんなペルソナが良いペルソナなのか、徐々にわかるようになるはずです。
どんなにデジタル化が進んでも省略すべきでないこと
繰り返しになりますが、ペルソナを作る目的は「顧客理解」です。
標的設定でもなければ、施策に反応してくれる都合の良い顧客像を逆算することでもありません。ペルソナは、今よりも顧客を深く知るために作ります。
ペルソナ設定が難しいと感じたなら、前に先に進むヒントは「深く知ろうとしている顧客との接し方」にあるのです。
一次情報は「生身の人間」
DX時代のマーケティングは省人化が進む一方で、ともすれば砂上の楼閣になりかねないリスクをはらんでいます。その最たるものが「ペルソナ」です。
ペルソナを作るうえではデータドリブンであることが大切とお伝えしましたが、最も重視すべき一次情報は生身の人間、つまりリアルな顧客たちです。
デジタル社会だからこそ直接顧客と会っているマーケターは強い
「ペルソナの代表性」といわれても、ピンとこない。自社のお客様がどういう人たちなのか、説明できない。その理由は、顧客と直接会っていないからです。
顧客と直接会っている人は、苦労することなく、むしろイキイキとしながら、自社のお客様像を語ります。これが、本当のペルソナです。
DXは素晴らしいですが、いつのまにか大切なものを失わないように。幻想ではない、地に足のついた現実に存在するデジタルマーケティングこそ、新しい価値を生み出せるはずです。
さいごに
ペルソナで大事な考え方は、「Good story has the right details」といわれます。
つまりストーリーの重要性を説いており、物語性を持ちストーリーを語っていくことで、顧客の行動や製品の使用シーンの詳細まで正しく理解できるという考え方です。
「顧客のストーリーを語る」
——これはデジタルツールにはできないことです。
DX時代のマーケティングにおいて、人間が取り組むべき最重要業務のひとつではないかと筆者は考えています。たくさんのお客様に出会い、おおいにお客様を語りましょう。どうしてその悩みを抱くに至ったのか、今はどんな気持ちでいるのか、どうやって自社商品に出会ったのか、無意識にそんな変わった使い方をしているのはなぜなのか——。
顧客を語れば語るほど、細部まで詳しく見えてきます。それは小気味よい芋づる式で、ときには怒濤の顧客理解が訪れることもあるはずです。
そんな真の顧客理解を助けてくれるツールとして、ペルソナが役立つことでしょう。
執筆
三島 つむぎ
ベンチャー企業でマーケティングや組織づくりに従事。商品開発やブランド立ち上げなどの経験を活かしてライターとしても活動中。
※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。
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