「うちの会社でも、マーケティングにDXを取り入れたい」
そう考えている方は、多いかもしれません。
マーケティング領域におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)で注目されているツールには、「マーケティングオートメーション(MA)」があります。
ただし、漠然と「DX推進のために!」とMAを導入しても、望む成果を得られるかは別問題。実際、多くの企業が失敗を経験しています。
今回は、マーケティングオートメーションに焦点を当て、なぜ失敗してしまうのか考えていきたいと思います。
そもそもマーケティングオートメーションとは?
まず「そもそも、マーケティングオートメーションって何?」という基本から、おさらいしていきましょう。
マーケティングオートメーション(MA)の概要
マーケティングオートメーション(Marketing Automation)とは、マーケティング業務を自動化することや、そのためのシステム・ツールを指す言葉です。略して「MA」とも呼ばれます。
この直訳すれば「マーケティングの自動化」となる言葉それ自体が、MAを理解するうえでやっかいな点かもしれません。
マーケティングと一言にいっても、その中身は非常に多岐にわたり、人によって思い浮かべるものはさまざまだからです。
マーケティングオートメーション(MA)でできること
そこで具体的にMAで何ができるのか・できないのかを、把握しておきましょう。まずは“MAでできること”からです。マーケティング業務のなかでMAが得意な分野は大きく分けて2つあります。
1つめは顧客の現状を分析・評価すること。2つめはマーケティングコミュニケーションをシナリオに沿って自動実行することです。
膨大なデータを自動的に分析・評価
1つめの“顧客の現状を分析・評価すること”とは、例えば顧客情報や行動履歴(例:資料請求した、特定のWebページを見た、広告をクリックした)など、顧客データを元にした分析を指します。
昨今、マーケティング担当者が扱うデータは増え続けるばかりで、
「データはあるけれど、分析や評価に手が回らない」
ケースが増えています。そこで役立つのがMAです。MAでは膨大なデータを元に自動的に顧客を判別できます。
例えば、成約する可能性が高い見込顧客(=営業担当者が優先的にアプローチすべき顧客)はどの人なのか、優先順位を点数化して可視化することも可能です。これをスコアリングといいます。
決められたシナリオを自動実行
2つめの“マーケティングコミュニケーションをシナリオに沿って自動実行すること”は、顧客へのアプローチをMAが自動的におこなってくれる機能です。
Webマーケティングに長年携わっている方は、
「それってステップメールのこと?」
という疑問が浮かんだかもしれません。
確かに、従来から顧客の初回購入日などを基点として、翌日、3日後、7日後——と自動的にメール配信する手法(ステップメール)は存在していました。
MAの特徴は、より細かな条件・多チャンネル・リアルタイムの「シナリオ設定」ができる点です。
シナリオ機能を使って実現できることを挙げてみましょう。
- 1通目のメールを開封した顧客・していない顧客で2通目のメールの内容を変える
- ランディングページに顧客がアクセスしたときに、顧客の居住地域によって内容を出し分ける
(例:東京在住の人には東京のセミナー、大阪在住の人には大阪のセミナー) - ショッピングカートに商品を入れっぱなしにして離れた当日リアルタイムにメールを送る
- 顧客の悩みに合わせて広告バナーを出し分ける
上記はあくまで一例ですが、いかにも「システムが勝手に自動送信しています」感が丸出しのコミュニケーションとは一線を画し、顧客の状況に沿ったコミュニケーションを実現できるのがMAの強みです。
マーケティングオートメーション(MA)でできないこと
では逆にMAにできないことは何か? といえば、マーケティング業務のうち「考える仕事」の部分です。
ここがMAにおいて勘違いされやすいポイントなので、しっかり押さえておきましょう。
将来的には、AI(人工知能)で考える仕事まで担ってくれるMAツールが登場するかもしれませんが、少なくとも現在市場に出ているツールには、そこまでの機能はありません。
MAは人間の指示に従って、人間が考えたマーケティング戦略の“実行作業”を自動化するだけです。MAを導入した後も、戦略立案や施策の策定は人間がおこないます。
BtoBのマーケティングオートメーションとBtoCのマーケティングオートメーション
最後に、BtoBとBtoCの違いについて触れておきましょう。
▼ MAの主な活用分野
- BtoB:収集した見込顧客を成約に導くためのリードナーチャリング
- BtoC:顧客一人ひとりに合わせたコミュニケーションを実現するOne to Oneマーケティング
元々のMA市場の成り立ちとして、BtoBのリードナーチャリング(見込顧客の育成)から始まっている経緯があり、BtoBのリードナーチャリングはMAが得意とする分野です。
例えば、オウンドメディアからのeBOOKダウンロード・無料セミナー開催・Web広告などで収集した見込顧客の成約率を高める目的で、MAを活用しているBtoB企業が多くあります。
一方BtoCでは、MAは見込顧客の育成にも活用されますが、既存顧客も含めたOne to Oneマーケティングを実践するために利用されることが多い状況です。
One to Oneマーケティングとは顧客一人ひとりに合わせたマーケティングのことで、ロイヤルティを高めて顧客と長期的に良い関係を築くために有効な手法として注目されています。
もちろん、企業によって、あるいはブランドのマーケティング戦略によってMAの活用方法は異なりますが、概括的にいえば上記の通りです。
マーケティングオートメーションの導入に失敗する3つの理由
ここまでにご紹介した知識を踏まえつつ、マーケティングオートメーション導入に失敗する理由を3つ、ご紹介します。
- MA知識不足のまま合わないツールを導入してしまった
- マーケティング脳が社内に足りない
- MAを使いこなすための学習コストが足りない
以下で詳しく見ていきましょう。
MA知識不足のまま合わないツールを導入してしまった
1つめは「MA知識不足のまま合わないツールを導入してしまった」です。
前述の通り、例えばBtoBかBtoCかだけでも、MAの活用スタイルは大きく変わってきます。
特に現在は、ツール選びを慎重にしなければなりません。なぜなら、MAツール市場の淘汰が起こる前の状態で玉石混交だからです。
MA市場の急拡大に伴い、多くのベンダーが参入して多種多様なツールが生み出されています。なかには完成度が低いものも含まれ、ハズレを引くリスクも高いといわざるを得ません。
「MA」と一言にいっても、ツールの種類や機能は非常に多岐にわたります。まずはMAの知識を身に付けて、どのツールが自社に合うか判断できる状態になってから、導入を進めましょう。
マーケティング脳が社内に足りない
2つめは「マーケティング脳が社内に足りない」です。
例えば「マーケティングに強い人材が採用できないから、代わりにMA導入で解決しよう」と考えると失敗します。
MAで成果を出すためには、優れたマーケティング戦略をMAに設定する“マーケティング脳”が必要不可欠で、これは人間がやるしかないからです。
どうしても自社内での対応が難しい場合には、マーケティング支援企業にコンサルを依頼するなどの選択肢も視野に入れる必要があります。
“マーケティング脳なしにMAツールだけ導入しても何も起きない(現状から変わらない)”ことは、しっかり認識しておきましょう。
MAを使いこなすための学習コストが足りない
3つめは「MAを使いこなすための学習コストが足りない」です。
MAは“自動化”という言葉のニュアンスから、
「導入するとラクになる」
とイメージされることも多いのですが、それほど易しいものではないのが現実です。実際、ツールを使いこなせず廃止するケースも見られます。
さまざまなビジネスツールのなかでも、MAは運用が難しい部類に入るのではないでしょうか。
スコアリングやシナリオはじめ、MA特有の機能を理解するところから始まり、それらを使いこなして成果をあげるためには、相応の学習コストが必要です。
近年では、MAのノウハウや運用スキルに長けた「MA人材」という言葉も生まれており、MAを使いこなせる人材へのニーズが高まっています。
裏を返せば、それだけMAの活用は一筋縄にはいかないともいえます。MA導入時には学習コストも含めて見積もることが大切です。
さいごに
マーケティングオートメーションの失敗理由についてご紹介しましたが、MA自体は、まさにマーケティング業務に変革をもたらす優れたDXツールといえます。
あらかじめMAの実体をよく知って、過度な期待を排除し、必要な準備をしたうえで導入すれば、新しいマーケティングの形を社内に構築できるはずです。
そのためには焦ることなく、MAに詳しい人々の話を丁寧に聞き、知識を蓄積し、慎重にツール選びをおこなうことが成功への近道となります。
じっくりと腰を据え、取り組んでいきましょう。
執筆
三島 つむぎ
ベンチャー企業でマーケティングや組織づくりに従事。商品開発やブランド立ち上げなどの経験を活かしてライターとしても活動中。
※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。
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