企業のDX化が進まない理由とは? 「成功=ヒト×DX」

デジタルトランスフォーメーション(DX)は企業にとって重要な経営課題となり、デジタルシフトの波が迫ってきています。しかし、経済産業省の『DXレポート2 中間取りまとめ』によると、企業の9割以上がDXにまったく取り組めていないレベルか、散発的な実施にとどまっていることが明らかになりました。

どうすればDXが成功するのでしょうか。株式会社 Faber Companyが主催した「Real Store Conference(リアルストアカンファレンス)」で登壇した鈴木康弘さんの話をもとに考えていきます。

鈴木さんは著書『成功=ヒト×DX――デジタル初心者のためのDX企業変革の教科書』で、自然科学者のチャールズ・ダーウィンの言葉を紹介しています。

最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。唯一生き残ることができるのは、変化できる者である。

チャールズ・ダーウィン



まさにDXによって企業が変化することが、生き残る方法といえます。

しかし「DXの本質を把握していない企業がほとんどだ」と鈴木さんは話します。DXの本質とは何なのか――



鈴木 康弘さん プロフィール

鈴木 康弘さん プロフィール

1987年、富士通入社。システムエンジニア(SE)としてシステム開発・顧客サポートに従事。96年ソフトバンクで営業、新規事業企画に携わる。 99年ネット書籍販売会社、イー・ショッピング・ブックス(現セブンネットショッピング)を設立し、代表取締役社長就任。 2006年セブン&アイHLDGS.グループ傘下に入る。2014年セブン&アイHLDGS.執行役員CIO就任。 グループオムニチャネル戦略のリーダーを務める。

2017年デジタルシフトウェーブを設立し同社代表取締役社長に就任。デジタルシフトを目指す企業の支援を実施している。日本オムニチャネル協会 会長も務める。

DXの定義

富士通やソフトバンク、セブン&アイHLDGS.などでデジタルに携わってきた経験を経て、DXに必要な実践スキルを学んできたという鈴木さん。DXについては次のように定義しています。

DXとは、「デジタルによって仕事や生活が変革されること」

DXの重要さについて、鈴木さんは次のように話します。



「一部の業界だけではなく、全業界がDXに向かって動きだすでしょう。その時代の境目にわれわれは生きています。この変化にうまく対応できるかどうか。これによって企業の明暗がはっきりしてくると思います」



ただし、経済産業省の『DXレポート2 中間取りまとめ』にあるように、現在の日本でDXがうまくいっている会社はほとんどありません。そのことについて、鈴木さんは警鐘を鳴らします。



「メディアがこぞってDXをはやしたて、取り組まなければ置いていかれる風潮が生まれました。そこにコンサル会社やシステム会社、広告代理店、人材紹介会社などが、あまりいままでの提案と変わらないものに”DX~”と名前をつけて提案をはじめました。その結果、デジタル化が目的化した『DXバブル』が生まれてしまっています。結果、9割を超える会社が暗礁に乗り上げてしまっているのです」



暗礁に乗り上げる原因で共通するものは「ヒト、組織」であり、根本の原因は「他人任せ意識」である、と鈴木さんは言います。さらにDXを目指す企業を迷走させる「DX支援会社のあるある」についても教えてくれました。

コンサルティング会社あるある

  • 世界にネットワークを持っていると提案してきて、欧米企業の事例を持ってくる
  • 分厚い資料を持ってきて、これをやるべき! と提案するだけ。「実現するのはあなたです」と言って去っていく

システム会社あるある

  • 実績をアピールしてDXはお任せくださいと言い、自社の製品をひたすら売り込む
  • AIを導入すれば、なんでも自動化できると営業してくる

広告代理店あるある

  • DXに関するアンケートの結果を出してくるが、結局はネット広告の営業をしてくる
  • 最高の顧客体験を提供するために、デジタルマーケティングツールを導入しましょうと言い、ツールの営業をしてくる

人材紹介会社あるある

  • エンジニア、マーケターを紹介できます、と営業してくる 
  • AI技術、デジタルマーケティングスキルを持つ人材を紹介できます、と営業してくる

「このようにDX支援会社は、DXではなく”デジタル化提案の営業”をしてきます。これが企業を迷走させてしまう理由だと思います。DXの本質は『ヒトの意識と行動の変革』です。これを大切にしなければなりません」(鈴木さん)

DXを成功させるために必要な5つのステップ

DXを成功させるために必要な5つのステップ



DXを成功させるための具体的な実行ステップとして、鈴木さんは次の5つを挙げています。

  1. 経営者の意識を変え、決意を促す
  2. デジタル推進体制を構築する
  3. 未来を想像し、業務を改革する
  4. 自社でITをコントロールする
  5. 変革を定着させ、加速させる

経営者の意識を変え、決意を促す

「経営者のコミットメントが重要であり、経営者が持っている3つの権限をフルに発揮しない限りDXは成功しない」と鈴木さんは言います。3つの権限とは、1つ目が事業方針を決める権限。2つ目が資金配分を決定できる権限。3つ目が人材配置を決定できる権限です。



さらにトップに求められる覚悟について、鈴木さんはこう話します。



「経営者が変わらなければ99%失敗に終わります。企業を変革するにはトップが時代の変化を強く認識し、自ら率先して行動することが必要です。抵抗するヒトも出てきますが、それと戦う覚悟も必要です。いろいろな企業がDXに向かっていますが、どこも答えにたどり着いていません。それでもあきらめない心が大切になります。覚悟を持って不退転の決意をすることが成功への第一歩です」

デジタル推進体制を構築する

経営者が覚悟を持ってDXを進めようとした場合、デジタル推進体制の構築が必要になります。責任者の任命やメンバーの集め方など、体制構築について鈴木さんは次のように話します。



「デジタル推進体制のリーダーは、経営者が一番信頼するヒトを任命してください。また、必ず反対者が出てくるので、経営者が後ろ盾にならないとダメです。リーダーが決まったら、メンバーを集めますが、立候補制にしてください。これは強く言いたいです。先の見えない仕事なので、うまくいかないこともあります。そのときに自分の意志で立候補してくるヒトのほうが、やりきる力があって良いのです」

未来を想像し、業務を改革する

デジタル推進体制を構築できたら、すぐにデジタルを導入するのかと思いきや、それは違うと鈴木さんは言います。次にやることは自分たちの業務を見つめ直して、業務を改革することです。ほとんどの会社は「業務改革」ではなく、「業務改善」で止まってしまっています。

業務改善と業務改革の違いについて、鈴木さんは次のように説明します。



「業務改善は、過去の延長線上で物事を考えています。一方、業務改革は未来の新天地を目指す思考です。未来がどう変わっていくか、そこで自分たちはお客さまに対して何ができるかを考えることが業務改革になります。業務改革を進める際には、会社全体の業務を把握していなければなりません」

自社でITをコントロールする

業務をどう変えていくかが決まったところで、ITの導入です。これまでは、スクラッチ開発で自社に合ったシステムを作る会社が多かったと思いますが、これからはシステムを「所有」から「利用」に変えたほうがよいと鈴木さんは言います。



「システム構築の方法を変えることが大切です。クラウドサービスを活用しましょう。他社も含め、みんなが同じ仕組み(クラウドサービス)を使っていますので、その仕組みに対して自分たちの業務を変えていくのです。業務に合わせてシステムを作るのではなく、システムに合わせて業務を変える。これができると納期も短くなるし、投資費用も下げられます」

変革を定着させ、加速させる

業務を改革し、自社でITをコントロールできたら、それを定着させて加速させます。そこで大事になるのが「諦めずにやり抜く力」です。以前に事業会社で小売業のDXを実現した鈴木さんは、自身の経験からDXの真髄について話してくれました。



「個人にしても組織にしても、いままでやってきたことを否定されてしまうことが怖くて仕方がないんです。だから抵抗するんですね。その”怖さ”を取り除いていくことが大切です。まずは教育やコミュニケーション、決定プロセスに参加させるといった施策からはじめましょう。DXって学者先生が言うような、理想の通りにはいかないんですよ。なぜかというと、”ヒト”がやるから。ヒトにどう納得してもらって、抵抗の気持ちをなくして全社一丸にしていくか。結局はヒトです。これこそがDXの真髄ではないでしょうか」

DXがもたらす未来

DXによって、世の中はどのように変わっていくのでしょうか? あらゆるものが変わると、鈴木さんは話します。



「人々の働き方や生活が大きく変わり、生産性の向上が進み、求められる人材も変わります。国や業界、組織の壁を越えてすべてを融合していく共創の世界へ変わっていくと思います」

まとめ

現場でDX推進を実践してきた鈴木さんの話は、非常に参考になるものでした。外部業者に任せるだけでDXが実現するわけではなく、自社でしっかりと覚悟を決めて取り組む意識が大切です。

9割以上の企業がDXに取り組めていない現状を変えていくには、結局のところ「人(ヒト)」が重要といえそうです。

 

 

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