デジタルトランスフォーメーションがもたらした、アナログトランスフォーメーション

デジタルトランスフォーメーションがもたらした、アナログトランスフォーメーション



海外旅行で確実にお世話になるサービスといえば、個人的にはUber(ウーバー)とAirbnb(エアービーアンドビー)の二つです。



ウーバーは言わずと知れたライドシェアサポートの企業。日本においてはタクシー業界との軋轢があり、海外に比べると活動が制限されていました。

しかし昨年2020年7月、日の丸リムジン、東京エムケイ、エコシステムら既存のタクシー会社3社と提携したため、現在では堂々とサービスの利用が可能です。

エアビーは、「バケーションレンタル」のオンラインマーケットプレイス企業。旅行などで長期間自宅を空ける場合や、複数の物件を所有するオーナが、余暇を有効活用する目的で部屋を貸し出すサービスです。

オーナーが暮らしている家の一部を貸し出す場合もあり、そうなるとほぼホームステイと同じ環境といえます。



いずれのサービスも、スマホを通じてドライバーやオーナーと利用者を結びつけるシステムであり、既存の業界を「デジタルトランスフォーメーション(DX)」した成功例といえるでしょう。

実際に使ってみた

海外でウーバーが便利な理由は、間違いなく「安心・安全」に尽きます。

目的地までの経路が正しいかどうかは、タクシーの場合、乗客には判断できません。しかしウーバーならばグーグルマップと連動しているため、利用者もドライバーも経路の共有ができます。

さらに配車する前に料金が確定しており、かつ、オンライン決済のため、現地通貨を持っていなくても安心して利用できます。降りた後でのチップの支払いも、もちろんアプリからでOK。

何より言語の通じない国で移動する際、これまでは行き先を書いたメモをタクシードライバーに見せるなどして伝えていたものが、ウーバーを利用することで会話無しでも目的地へ到着できるようになりました。

といっても、英語圏でドライバーからの投げかけに答えない、すなわち「会話が弾まない」ときは、利用者の評価が下がる傾向にありますが…。



アメリカ、ラスベガス



――アメリカ、ラスベガス。

ウーバーで移動する先は、本日の宿泊先であるアパート。ここはエアビーで予約をした場所で、オーナーは現在バカンスのためヨーロッパに出かけているとのこと。

室内の利用方法はエアビーのチャットで確認します。

よくあるのが「鍵の場所はあらかじめ教えず、現地へ到着したら連絡をする」パターンでしょうか。

今回も敷地入り口の門の前で、オーナーとチャットをします。



「&%$#と入力すれば開くよ」

送られてきた数字を押すも、門は開きません。あれ?再度確認。



「あれ、じゃあ%&$#かな?」

言われた通りの番号を何度入力しても門は開きません。しかたなく数字の順番を並べ替えて挑戦するうちに、とうとうロックがかかってしまいました。



「すまない。普段はリモコンで開けてるから、番号を忘れてしまって」



大きなスーツケースとリュックを背負ったまま途方に暮れる私の目の前に、敷地内を清掃中の女性が近づいて来ます。わたしは必死に事情を説明するも、憐れむ様子は一切なし。それでも彼女が何らかの操作をしてくれたおかげで、ズズズッと重い音を立てながら門がゆっくりと開きはじめました。

(助かった! 気温40度を超える真夏のラスベガス、辛うじて一命を取り留めた)



アパートが何十棟も連なる広い敷地内を10分ほどウロウロし、最終目的地となる部屋の入り口へ到着しました。再度、オーナーへ鍵の場所を尋ねます。

「ドアに掛かってる南京錠を開けると、鍵が入ってるよ!」



確かに目の前には、文庫本ほどの大きさの立派な南京錠があります。そしてよく見るとそれはダミーで、南京錠の本体がパカっと開く仕組みになっており、中から本物の鍵が現れました。



――これは防犯対策として正しいのだろうか。

一抹の不安はありますが、とりあえず、本日の宿へ無事足を踏み入れることができました。

事件発生

事件発生



今回ラスベガスを訪れた目的は、ブラジリアン柔術の世界大会への参加です。そのため、市内のジムへ出稽古に行ったり、敷地内のプールで泳いだり、試合本番に備えて日々体を動かしコンディションを整えます。

ではなぜホテルではなく、エアビーを選んだのか。それは「洗濯機」の存在です。

道着や水着を洗うため、毎晩、洗濯機を回します。ホテルの近くにランドリーがあればいいのですが、日本ほどコインランドリーを見かけないアメリカにおいて、エアビーを利用する価値は洗濯機にあるのです。



私のように試合で現地を訪れた選手は、練習と同時に「体重」もコントロールしなければなりません。ましてや、アメリカの食事はボリューム満点で減量にはまるで不向き。そこでアパートのキッチンを利用し、自ら食事を作ることで生活のリズムを維持し、体重を落としていくのです。



――つまり、エアビーを利用する最大の目的である「洗濯機」が壊れていた場合、だったらホテルでよかったじゃないか、となりかねません。

初日の夜、早速、洗濯機を回そうと衣服を放り込みました。日本製の洗濯機とは違い、ややレトロな作りの洗濯機と乾燥器で使い方が分かりません。

それでもオンオフのスイッチや、タイマーと思われるツマミがあるので、これらを駆使しして洗濯を開始…と、その瞬間。タイマーのツマミがポロっと落ちたのです。

(私はまだ回してない! 触っただけなのに!)



愕然とする私の視線の先、洗濯機と乾燥器の間に「プライヤー」が見えます。再度、ツマミが取れたタイマーの芯を見ると、工具で無理矢理回した痕跡が。この2つを何度も見返すうちに、トリックが明らかになりました。

この洗濯機は元からツマミが取れていた。それを隠す、もしくは補うためにプライヤーを使って回していた。しかしこの事実をオーナーは私に伝えていない。それは何故だろう――。



しばらく考えるも答えの出ない私は、オーナーへチャットを投げました。

「洗濯機のツマミ、壊れてますよね?」

しばらくすると返事があり、

「壊れているはずがない、普通に使えていたからね」

と驚きの答え。



私は、落ちているツマミを拾い上げると元通りに差し込み、そこからスマホで動画撮影を開始。ツマミをちょんちょんとつつくとポロっと取れます。そして残された芯棒へ近寄り、工具で無理矢理ひねったであろう痕跡をズームアップ。さらに視線を上げて乾燥器の下に隠されたプライヤーを手に取り、芯棒をガッチリ挟むと時計回りにひねって見せます。



カチカチカチカチ――。

ダイヤルが回る音と共に、芯棒が回転しました。

(ほらね、やっぱり)

すると水が流れ出し、洗濯機が始動したのです。この動画の様子を見たオーナーは、驚きとともに怒り爆発で事情を説明してきました。



「じつはその部屋の掃除を任せている業者がいるんだ。さっき彼女に確認したら、『なにも問題ない、洗濯機もちゃんと動いている』との報告を受けた。その証拠に、毎日シーツを洗濯しているとまで言われたんだ!」



どうやら、オーナー自ら洗濯機を使ったことはなく、日々、ハウスクリーニングの女性が掃除洗濯をこなっている様子。思うに、何らかの原因でツマミを壊してしまった彼女は、その事実をオーナーに伝えられず、長年この方法(プライヤーで強引にひねる)で難を逃れてきたのでしょう。

とはいえ、このような状況に対して正規料金を払いたくはありません。なんせ、エアビーを選んだ最大の理由が「洗濯機」なのだから。

値下げ交渉を重ねるも、ハウスクリーニングの女性を向かわせる!と 言い張るオーナー。さらに洗濯の度に彼女を呼び、洗濯機を回させればいいと。

(いやいや、そんな面倒なことしたくない…)



しかしさすがはアクティブなアメリカ人。夜中にもかかわらず、ものの5分で例の犯人、いや、ハウスクリーニングの女性が到着。そして悪びれる様子もなく、



「Hi,How's going?(ハイ、どんな感じかしら?)」



と笑顔で挨拶。郷に入っては郷に従え、もはや諦めるしかないのでしょう。

DXといえども…

世界的にも「DXの先駆者」として注目を集めるエアビー。しかしその途中には「人間の手」が必要な場面があることも否定できません。

「ICT(情報通信技術)の浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という考えが、DXの目指す世界観です。

とはいえ、壊れた洗濯機のツマミを隠すも直すも人間であり、そこにはアナログな世界が広がるのでした。

 

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