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GPUクラウドとは?研究機関・スタートアップが導入するメリットと選定ガイド

AI開発や機械学習モデルの構築、大規模シミュレーションなど、高度な計算パワーを必要とするプロジェクトを進める研究チームやスタートアップにとって、適切なGPUリソースの確保は大きな課題です。この記事では、GPUクラウドの基本から市場動向、活用メリット、選定基準まで、先端技術開発に取り組むリーダーが押さえておくべき情報を紹介します。

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GPUクラウドとは?従来のクラウドとの違いと市場動向

GPUクラウドとは、ネットワークを通じて高性能なグラフィックス処理ユニット(GPU)の計算能力を利用できる、クラウドコンピューティングの形態です。このようなサービスは、従来のCPU中心のクラウドコンピューティングとは異なり、AI開発や機械学習などの並列処理に特化した環境を提供します。

GPUクラウドと一般クラウドの技術的差異

GPUには数千の小さなコアが搭載されており、同時に複数の演算を処理できます。従来の一般クラウドサービスで使用される同等コストのCPUと比較して、ディープニューラルネットワークのトレーニングが大幅に高速化する場合があります。

最新のNVIDIA A100やH100などのGPUアーキテクチャには「Tensor Core」と呼ばれる特殊なコアが搭載されています。これらは、ニューラルネットワークの学習に不可欠な行列演算を高速に処理するために最適化されており、モデルの学習時間を大幅に短縮します。この専用設計により、AIや機械学習の開発者は複雑なモデルをより効率的に構築・検証できるようになりました。

国内外の主要プロバイダー比較

GPUクラウド市場にはさまざまなサービスプロバイダーが存在し、それぞれ特徴が異なります。

AWS、Microsoft Azure、Google Cloud Platform(GCP)などの大手クラウドプロバイダーは、既存のクラウドサービスとの統合が容易である点が強みです。特にGCPは、生成AI、AIビデオなどの集中的なタスクに、最適な最新のNVIDIA L4 GPUを提供する最初のクラウドプロバイダーとなりました¹。これらの大手サービスは安定性と信頼性に優れていますが、価格面では割高な傾向があります。

Lambda LabsやPaperspaceなどの専業GPUクラウドプロバイダーは、AI開発に特化したサービスを展開しています。Lambda Labsはディープラーニングワークフロー向けに事前設定された環境を提供し、プラグアンドプレイの手軽さを実現しています。これらのサービスは一般的に大手クラウドより低コストで利用できるケースが多いです。

日本国内の主要プロバイダーとしては、さくらインターネットが提供する「高火力シリーズ」があります。このサービスは、NVIDIAのGPUを搭載したコンテナ型クラウドサービスで、事前に準備したDockerイメージをクラウド上で実行することが可能です。環境構築の手間を省き、秒単位での時間課金制によりコストを効率的に管理できます。また、再生可能エネルギー電源100%でCO2排出量ゼロを実現する石狩データセンターから、サービスを提供している点も大きな特徴です。国内のGPUクラウドサービスは、データを国内保管できることによるコンプライアンス対応、日本語でのサポート、低レイテンシなど、国内の研究機関やスタートアップにとって重要な強みを持っています。

¹:NVIDIA and Google Cloud Deliver Powerful New Generative AI Platform, Built on the New L4 GPU and Vertex AI

最新の技術トレンド

GPUクラウド市場では革新的な技術が次々と登場しています。マルチインスタンスGPU(MIG)分割技術は、1つの物理GPUを複数の独立したGPUインスタンスとして利用できるようにし、リソース効率とコスト効率を高めています。

複数のGPUを連携させるGPUクラスタリング技術も発展し、大規模モデルのトレーニングを分散処理で効率的に実行することが可能になりました。さらに、大規模言語モデル(LLM)やStable Diffusionなどの画像生成モデルのような生成AI向けに最適化されたGPUインスタンスの提供も始まっています。

これらの技術進化により、研究機関やスタートアップが高度な計算リソースにアクセスする障壁は大きく下がりつつあります。

研究機関・スタートアップにおけるGPUクラウド活用のビジネスメリット

研究機関やスタートアップにとって、GPUクラウドは単なる技術的選択肢ではなく、戦略的な競争優位を生み出す要素になりえます。

TCO(総所有コスト)から見るGPUクラウドの優位性

GPUクラウドの重要な優位性の一つは、自社でGPUを導入・運用する場合と比較した際の総所有コスト(TCO)の削減効果です。GPUを自社で導入する場合、ハードウェア購入費に加え、設置スペース、電力費、冷却設備、保守・運用のための人的コストなど、さまざまな費用が発生します。GPUクラウドではこれらの間接コストを大幅に削減できます。

長期的に一定の利用が見込まれるワークロードの場合、GPUクラウドのペイパーユースモデル(利用した分だけ料金が発生する従量課金型の料金体系)では、コストが急増する可能性があります。しかし、研究開発のように負荷が変動するプロジェクトでは、従量課金モデルが有利になることが多いです。ある機械学習研究プロジェクトの5年間コスト比較では、利用率が50%を下回る場合、GPUクラウドの方が総コストが低くなりました。

加えて、GPUの技術革新は非常に速く、2〜3年で大幅な性能向上が見られます。自社購入したハードウェアはすぐに旧式化するリスクがありますが、クラウドではつねに最新モデルにアクセスできます。これにより研究の競争力を維持しつつ、技術の陳腐化リスクを最小化できるのです。

研究・開発プロセスの加速

GPUクラウドの採用により、研究開発のスピードを劇的に向上させることができます。GPUクラウドはどこからでもアクセス可能で、ハードウェアを所有・管理する必要がないため、複数のデータセットを扱うデータサイエンティストに最適です。

自社GPUサーバー構築には数週間から数か月かかりますが、クラウドでは数分から数時間で環境を立ち上げられます。研究開発のアイデアをすぐに検証できるこの即応性は、イノベーションサイクルを加速する重要な要素です。

GPUクラウドや仮想化技術の導入によって、研究機関におけるGPUリソースの活用効率が大幅に向上しました。複数の実験やジョブを並行して実行できるようになったことで、全体のリソース利用率や研究効率が大きく改善した事例があります。たとえばClemson大学では、NVIDIAの仮想GPU(vGPU)技術を用いて、1台の物理GPUを複数の仮想ノードで共有しています。これにより、GPUリソースの利用率を最大400%向上させ、同時にシステム全体のスループットも大幅に増加したと報告されています²。このようなGPU仮想化の活用は、研究機関が限られたハードウェア資源をより効率的に活用し、より多くの研究プロジェクトや実験を同時に進めるための有効な手段となっています。

²:Optimizing HPC Resources for Community Autonomous Vehicle Research, NVIDIA × Clemson University(NVIDIA公式PDF)

限られた研究・開発予算の最適配分

限られた予算を効果的に活用することは、研究機関やスタートアップにとってつねに重要な課題です。GPUクラウドを利用することで、固定資産投資を変動費用へと転換できます。

GPUクラウドは初期投資が不要なため、全体的な資本支出を削減したい企業に最適です。高額なハードウェア投資ではなく、研究開発そのものに予算を集中できるようになります。

また、各開発フェーズに応じた最適なリソース配分も実現します。プロトタイピング段階では小規模なGPUインスタンス、本格的なトレーニング時には大規模なGPUクラスタ、運用段階では必要最小限のリソースというように、フェーズごとに最適な構成を柔軟に選択できます。

経済産業省とNEDOが推進する生成AI開発プロジェクト「GENIAC」では、株式会社RUTILEAのGPUクラウドサービスが、採択事業テーマの実施予定先となる企業や研究機関に対して、高性能な計算リソースを柔軟に提供しています。これにより、従来のような単一のGPUサーバーへの大規模投資ではなく、必要な時期・規模に応じてGPUクラウドを活用できるようになりました。その結果、複数の研究開発プロジェクトに対して、効率的にリソースを配分し、研究開発のスピードと成果の最大化を実現しています。とくに、国内データセンターのセキュリティやスケーラブルなリソース提供、専門エンジニアのサポートなどが、研究機関やスタートアップの多様なニーズに応えています。

研究・開発ニーズに最適なGPUクラウド選定ガイド

研究内容やAI開発の特性に応じた最適なGPUクラウドの選択は、プロジェクトの成功に直結します。

ワークロード別に見る最適なGPU構成

実行するワークロードの特性に合わせたGPU構成を選ぶことが重要です。ディープラーニングモデルのトレーニングには、NVIDIA A100やH100などの大容量メモリを搭載したGPUが適しています。とくに大規模言語モデル(LLM)のファインチューニングでは、80GBのGPUメモリを持つモデルが効果的です。

推論処理では、トレーニングほどの高性能GPUは必要なく、NVIDIA ミドルレンジ、あるいはローエンドのGPUでも十分なケースが多いです。レイテンシが重要な場合は、GPUの性能だけでなくネットワーク環境も含めた総合的な判断が必要です。

科学技術計算やシミュレーションでは、倍精度演算性能(FP64)が重要なケースが多いため、この特性に優れたGPUを選択すべきです。ワークロードに最適なGPU構成を選ぶことで、コストパフォーマンスを最大化できます。

データセキュリティと知的財産保護の観点

研究データの機密性確保は選定の重要な観点です。ユーザー自身の拠点にGPUが設置される環境(オンプレミス)では、すべてのデータが組織のネットワーク内にのみ存在します。そのため、データ漏洩リスクが最小化され、PCI-DSS、GDPRなどの厳格な業界規制への準拠が確保されます。

クラウドを利用する場合でも、データ暗号化、VPNやプライベートネットワーク接続、厳格なアクセス制御などセキュリティ機能が充実したサービスを選ぶことで、リスクを軽減できます。また、研究成果や開発したAIモデルなどの知的財産を保護するため、利用規約やデータ所有権に関する条項を事前に確認することが不可欠です。

国内データセンターの利用は、とくに個人情報や機密データを扱う研究におけるコンプライアンス上の優位性があります。データの越境移転に関する規制リスクを回避し、安心して研究開発に集中できる環境を整えられます。

コンテナ型GPUクラウドの研究開発向け優位性

コンテナ技術を活用したGPUクラウドサービスは、研究開発環境に新たな可能性をもたらしています。Docker等のコンテナ技術により、研究に必要なすべての依存関係を含むイメージを作成すれば、いつでも同一の環境で実験を再現できます。この再現性は学術研究において極めて重要です。

また、離れた場所にいる研究者同士でも、同一のコンテナイメージを共有することで、環境差異に起因する問題を排除した効率的なコラボレーションが可能になります。異なる機関や組織間での共同研究においてもスムーズな連携が実現します。

コンテナ技術を活用することで、高度な開発環境を含むイメージを事前に構築し共有できるため、環境構築の専門知識がなくても研究開発環境をすぐに利用開始できます。この再現性とアクセシビリティの向上は、幅広い研究分野でのGPUクラウド活用を促進しています。

料金体系の比較と予算計画

GPUクラウドの料金体系は多様であり、利用パターンに応じた選択が重要です。短期間の集中利用や不定期な利用には時間課金が適している一方、常時稼働が必要なケースでは月額固定プランがコスト効率に優れます。

秒単位課金や最低利用時間の設定も比較ポイントです。短時間のジョブを多数実行するワークフローでは、秒単位課金と短い最低利用時間を持つサービスが有利です。一方で、長時間の連続処理が主体の場合は、持続的な利用に割引が適用されるプランを検討すべきでしょう。

予算管理機能も重要な選定基準です。プリペイド方式の採用や残高アラート機能により、予期せぬ高額請求を防ぎ、限られた研究予算内での運用を確実にできます。とくに、助成金や固定予算で運営される学術研究プロジェクトでは、こうした予算管理機能が必須となります。

料金比較の際は、GPU単体の時間単価だけでなく、メモリ容量、ストレージ、データ転送料金なども含めた総合的なコスト評価を行いましょう。見かけの単価の安さに惑わされず、プロジェクト全体のTCOを見据えた選定が重要です。

まとめ

GPUクラウドサービスは、限られた予算と時間のなかで最大の研究・開発成果を目指す機関やスタートアップにとって、戦略的に重要なリソースとなっています。とくに国内サービスは、技術サポートの充実度や国内法規制への適合性など、日本の研究機関やスタートアップに適した特長を持っています。

その代表例であるさくらインターネットの「高火力 DOK」は、コンテナ型の柔軟な環境構築と秒単位課金の料金体系で、研究開発プロセスの効率化を強力に支援します。先端研究や生成AI開発に取り組むなら、「研究室のGPUリソース選定ガイド」も参考に、ぜひ国産GPUクラウドの活用を検討してみてください。

編集

さくマガ編集部

さくらインターネット株式会社が運営するオウンドメディア「さくマガ」の編集部。

※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。

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