株式会社トヨコン(以下、トヨコン)は、1964年に創業された総合的な物流サービスを提供している会社です。ホームページに掲載されている代表からのメッセージには「お客様のお役に立てることを誇りとし、これからもお客様のベストパートナーであり続けるためにトランスフォーム(変容)し続けて参ります」とあります。まさに”トランスフォーム”を意識していることがうかがえます。
そんなトヨコンで、2015年からデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組んでいるのが、浦部将典氏です。
「必要なのは情熱と仲間だと思っていました。しかし、それだけでは長く続きません」と語ります。5年にわたる取り組みで気づいた、情熱と仲間以外に必要なものとは――
Sansan株式会社が開催した「Sansan Innovation Summit2021」の講演内容をもとにお届けします。
コロナの影響で、マーケティング構想を作り直した
2015年からサイト統合やメールデザインのリニューアル、エンゲージメントプログラムなどを進めてきた浦部氏ですが、2020年に新型コロナが流行。これからマーケティングは何をしなければならないのか考えたと言います。
「最初におこなったのが、マーケティング構想の作り直しです。計画していたものを前倒しして、加速度的に進める必要が出てきました。またいずれは、インサイドセールスやカスタマーサクセス部隊を作り、訪問して商品を売るだけではなく、デジタルを介した顧客体験の価値も上げていく必要があると予測しました」
2020年4月には緊急事態宣言が発令され、営業がお客さまへ会いに行けない状況に陥りました。商談ができない危機的状況です。営業部門の役職者と話し合い、営業は何ができなくて、何が必要なのか。デジタルでできることは何か。あることへ舵を切った、と浦部氏は言います。
「2020年6月にウェビナーへと舵を切りました。告知メールを送り、ウェビナーに誘導して課題解決の話や商品の紹介をするのです。ウェビナーなんてやったことがないし、何をテーマに30分も話せばいいかわからない、そもそもカメラに向かって話したこともない、と問題は山積みでした。しかし、営業が動けない状況ではこれしかないと腹をくくりました」
ちょうどそのころ、営業部でもインサイドセールス部隊の設立を考えていたそうです。ただインサイドセールスをやるにも見込み客が少ないので、まずはウェビナーをおこない、反応のあった方を見込み客として対応する方法を考えた浦部氏。しかし問題が発生したそうです。
「プロジェクトでは若手営業担当を3名招集していましたが、現状の営業と兼務です。既存のお客さまも担当しており、プロジェクトにかけられる時間も限られていました。そのため、ウェビナーを開催するにも3か月に1回開催するのが精一杯だというのです。私の想定では1か月に2回のウェビナー開催が絶対条件だと思っていました。プロジェクト内で何度も交渉しましたが受け入れてもらえず、3か月に1回の開催でやっていくことが決まりました」
どうしても1か月に2回開催したかった浦部氏は、ある決断をします。
プロジェクトを抜ける決断
「そうだプロジェクト、抜けよう。そう決断しました。このプロジェクト内で実現できないなら、別でウェビナーを開催してしまおう。そう思い、プロジェクトから抜けることを決めました。プロジェクトを抜けた後すぐ、デジタルマーケティングを実装した当時のメンバーに、『ウェビナーを一緒にやらないか』と相談を持ちかけました」
相談したメンバーからはすぐにOKをもらえたそうですが、問題は山積みだったそうです。
「何を話すかのテーマもさることながら、撮影や配信準備、告知メールや参加者の管理などを2人だけでやるのは無理だろうなと思っていました。そこでSansanの『SeminarOne』を導入しました」
こうしてデジタルツールを活用して、施策を進めた浦部氏。結果、ウェビナー施策開始直後と比べて申込数は約4倍、案件創出額は1億円に伸びたそうです。
「手探りではじめたウェビナーを定期開催し続けることで、何とかコロナ禍での案件創出に貢献できました。少人数ではじめた施策でしたが、現在は営業担当12名が関わるまでになりました」
社内でデジタルマーケティングの仕組みや、セールスプロセスの構築に取り組んできた浦部氏。今後の構想を明かしました。
「5年という長い年月が掛かってしまいましたが、いまでは部署関係なく全員でアイデアを出し、さまざまな企画を打ち出す体制ができています。そしてさらなる顧客体験価値の向上を目指し、新たな構想も描いています。それは人事データと営業データを連携させて、問い合わせ内容に的確に答えられる営業を商談へアサインする”営業マッチング”という構想です」
担当営業という垣根を越えて、それぞれが顧客のタイミングに応じて対応する。そうすればお客さまの課題解決までのプロセスが短くなる、と浦部氏。
協力者を増やすコツ
5年間デジタルマーケティング、セールスプロセスの改革に取り組んでみて気づいたことがある、と浦部氏は言います。
「新しいことを取り入れたり、組み込んだりする場合、ほとんどの方が抵抗感を抱きます。いかにそういった人たちを巻き込んでいくか。それもわくわくするような状態で巻き込んでいくか。そのためには相手が理解しやすい表現やイメージに落とし込む必要があります」
新しいことをはじめるときは「言うのではなく見せる」ことが大事だそう。
「インパクトのある方法で見せたほうが、協力者が出てきます。実際、私も構想図やフレームワークを何度も描いて、どういう未来にしていくのかを伝えるようにしています」
協力者を増やすコツについても教えてくれました。
「なぜやるのか、何のためにやるのか。”WHY”が明確であるほど、高い影響力を発揮することがわかってきました。一貫した明確なビジョンを作り、なぜやるのかを伝え続けることが、協力者を増やすコツだと思います。
私が新しいことをはじめるときに意識している理論があります。まず8分の1、40人いたら、5人くらいを仲間にすることです。そして3分の1から賛同を得ましょう。最終的に2分の1の人間がやってみようになれば、あとは自然とついてきます」
「やりたいこと」を実現するために
自分の「やりたいこと」を通すのは簡単ではない、と浦部氏は続けます。
「挑戦するための心構えが足りなかった私を何度も前に進めてくれたのは、かけがえのない仲間でした。どんな険しい道であっても、それでも何かを見通し動き出そうという志のある人間は、何度も挑戦できると思います。
どんな空想も仲間と共にゴールまで描けば、それは実現可能な未来となる。イノベーションを起こし継続していくためには、情熱と仲間と”何度も挑戦するための心構え”が大事だと思います」
情熱と仲間以外に必要なものは「何度も挑戦するための心構え」だ、と浦部氏はまとめました。一度挑戦してダメだったからと諦めず、何度も挑戦する心構えを持つ。
浦部氏は自身の経験を通じて学んだことを教えてくれました。これはすべての仕事に通じることではないでしょうか。