高度化する再エネ発電事業を支える、革新的データプラットフォームとは

日本政府はカーボンニュートラルの実現に向け、第6次エネルギー基本計画のなかで、再生可能エネルギー(以下、再エネ)を主力電源にしていく方針を示した。一方で、再エネ発電事業者の業務が高度化し、リソース不足と業務間の連携が課題となっている。

このソリューションとしてTensor Energy株式会社(以下、テンサーエナジー)は、拡張性の高いデータプラットフォームを開発した。ファウンダーの堀ナナさんに話を聞いた。

堀 ナナ(ほり なな)さん プロフィール

2011年に戦略系のコンサルタントとして再生可能エネルギー業界へ。蓄電池や太陽光発電、電力のプロジェクトを手掛けたのちに、再エネプロジェクトの組成、開発、建設をおこなう事業会社の立ち上げに参画。Tensor Energy株式会社を創業し、持続可能なエネルギーを必要なときに、必要なところへ届けることを目指して、再エネと蓄電池のオーケストレーションプラットフォームを開発している。

求められる知識と技術が高度化

再エネ発電事業者のおもな仕事には、発電所の開発・建設・運営・保守、電力の販売、資産管理がある。そして、再エネ特措法改正により、新たに「需給調整」「売電管理」が加わった。

需給調整とは、電力の需要と供給のバランスを調整することだ。電力はつねに同時同量でなければ、安定供給ができない。そのため通常、発電事業者は、あらかじめ計画した量に沿って発電し、誤差が生じた分はほかの電源を使って調整する。再エネの場合、法改正前は電力会社がその役割を担っていた。しかし、法改正後は再エネ発電事業者が毎日発電計画を提出し、それに沿って発電する義務を負うようになった。

 

「再エネの場合は、天候の影響を受けるため、発電量を的確に予測するのが難しく、誤差が生じやすいんです。加えて太陽光発電では、日中に電力が余り、夕方に不足するという課題があります。これらの解決策として、蓄電池を導入し、電力の過不足を調整する取り組みが進んでいます」

 

また法改正前は、発電した電気を電力会社が全量定額で買い取ってくれていた。しかし、法改正後の現在は、再エネ発電事業者自らが、売電先や売電量を管理するか、もしくは外部に委託することが求められるようになった。

 

「需給調整や売電管理は、専門的な技術や知識が必要な業務です。現在はこのような業務への対応が、再エネ発電事業者の課題となっています」

関係者と外注先が増えて事業構造が複雑化

再エネ事業における発電事業者は、発電所などの資産を保有し管理する。そして、事業オペレーションは外部委託で形成するのが一般的だ。

 

「それぞれの機能を担う企業が異なり、入れ替わりもあることから、もともと全体を統括するのが難しい事業なんです。そこに、需給調整や売電管理の機能も追加されて、事業構造がより複雑になってきています」

再エネ発電事業に関わるステークホルダー(テンサーエナジー提供)

加えて、発電所の小型化が進んでいる。メガソーラーを建設するには広大な土地が必要になるが、広範囲の森林伐採は土砂災害のリスクを高める。そこで、耕作放棄地を活用した小型発電所を多数建設し、電力を確保していく計画だ。

 

「発電所が増えれば増えるほど、管理コストは膨らんでいきます。たとえば、現在の 100倍の発電所を管理することになったとき、いまのシステムではとても事業を継続できません。そこでわたしたちは、これらの問題を解決するデータプラットフォームを開発しました」

あらゆるデータを一元管理するプラットフォーム

「関わる企業や発電所が増えることで課題となるのは、データの集積と予実管理です。たとえば、管理者は各発電所における予測発電量や実際の売上げ、それにかかったコストなどの情報を吸い上げて投資計画を立てるんです。そのため、各社のフォーマットが揃っていないと、数が増えるほどに業務が煩雑になっていきます。これは、需給調整や売電管理においても同様です」

 

テンサーエナジーが提供する「Tensor Cloud データプラットフォーム」は、再エネ発電事業の多岐にわたるデータを1つの場所で管理するというもの。それによって、各社の協業をスムーズにし、高度化していく業務を技術の力で支えていく。


「発電所の小型化にともなって、数が増えても低コストで対応できるインフラが必要です。最終的には発電所の数は万単位になっていくと予想していますので、そうなっても対応できるような拡張性の高いシステムを開発しています」

 

たとえば発電予測では、数十か所の発電所をまとめて予測するのが一般的だ。こうすると、各発電所の誤差がプラスとマイナスで打ち消されて小さくなる、いわゆる「ならし効果」が働く。この効果を最大化するためにテンサーエナジーでは、発電所ごとの実績を学習するAIを開発。過去データから、自動的に精度の高い予測ができるようにした。

 

「一つひとつの発電所の誤差が小さくなれば、ならし効果によってさらに誤差を抑えることができます」

 

つまり、発電所が増えれば増えるほど、誤差が小さくなっていくように設計されているのだ。

震災でわかった電気の尊さ

2011年3月11日に起きた東日本大震災。当時、堀さんは東京に住んでいた。そこでの経験が、電力業界に進むきっかけとなった。

 

「輪番停電をはじめて経験しました。停電になると暖房が使えなくてとても寒くて、対象地域だけが真っ暗になるという異様な光景。信号もついていない。地下鉄も大混乱。普段平和に暮らしているのに、みんなパニックになっていら立っていて……。安定的に電気を届けることが、いかに大事なことなのか、身をもって知りました」

 

その後、堀さんはアメリカのエネルギー専門のコンサルティングファームで経験を積み、当時の同僚と 2人でテンサーエナジーを立ち上げた。

 

「いま、電力を大量消費する企業は、カーボンニュートラルの流れを受けて、再エネを求めています。しかし供給側は、需要をまかなえるほどの発電ができません。そこには、高度化していく業務に対する知識や技術力の不足があります。ここを解決しないと、再エネは広がっていきません。これが、わたしたちの事業の出発点です」

 

この事業に参加しているメンバーは、エネルギー、テクノロジー、データサイエンスの各分野の専門家からなる多国籍な 11名。業務はリモートでおこない、英語でコミュニケーションをとっている。

 

「技術力の高いメンバーを集めました。気候変動やエネルギー問題に対する強い課題意識を持っています。それぞれ育った国も文化も違うので、最初は心を砕いた部分もありました。でもいまは、スムーズにコミュニケーションがとれています」

失敗してもいい、まずやってみる

電力業界のみならず、技術の進展、モビリティの変化など、時代はいま過渡期を迎えている。そんななかでビジネスを成功させるには、どのようなマインドが必要なのだろうか。

 

「大きな流れにはあらがいようがありません。仕事の仕方も組織の形もどんどん変わっていきます。変化が激しいときは、準備を重ねていたとしても、『さぁやろう』と思ったら、まったく違う状況になっていたということも起こります。だから、ある程度失敗してもいいというマインドを持って、とにかく早く取り組むことが大事です」

 

Tensor Cloud データプラットフォームは、2023年6月にリリースを迎える。まずは、データプラットフォームと需給管理の機能から提供を開始。その後、資産管理、運用管理、売電管理の機能を順次拡張し、2024年には全機能が揃う予定だ。

 

「総合的なプラットフォームまでの道のりはまだまだ長いのですが、まずは、お客さまにご利用いただけるところまで来ることができました。いまは、とてもワクワクしています。これから実際にお客さまの課題をきちんと解決していき、その先に再エネが広がっていく未来をつくっていきたいですね」

 

Tensor Energy株式会社