私たちは今、VUCAの時代を生きています。VUCAとは「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」の頭文字を取った言葉です。VUCAの時代を生き抜くのに必要なのが、戦略的思考です。
ハーバード・ビジネス・スクール教授の竹内 弘高氏が、Sansan株式会社主催の「Sansan Innovation Project 2021」に登壇。戦略的思考の持ち方について語ってくれました。
歴史に学ぶ
「未来は予測できないが、未来はわれわれがつくれる」。ピーター・ドラッカーの言葉です。
1968年、マーティン・ルーサー・キング・ジュニア(キング牧師)が暗殺されました。ロバート・ケネディが暗殺されたのも1968年です。いろいろなことが起きた年なんですね。そんな1968年に、アメリカの国家安全保障局がレポートを出しました。地球が宇宙人に攻撃されて、生き残れないかもしれないというレポートです。出されたレポートのエッセンスを紹介すると、「日本に学べ」と書いてあります。その中から、3つをピックアップしてお伝えします。
- 技術力は劣る(Inferior)が、すぐにキャッチアップした
- 自国の文化を維持しながら、他文化を積極的に取り入れた
- 目的に向かって国全体が連携する
Inferior(遅れ)を真摯に認める
1957年、初めてサンフランシスコに輸出したトヨタの車がトヨペット・クラウンです。この車がなんと、サンフランシスコの急な坂を上りきれませんでした。
しかし現在、トヨタは世界一の車メーカーです。おそらく、Inferiorを真摯に認めて努力してきたから現在のトヨタがあるのでしょう。
最近は、新聞に毎日デジタルトランスフォーメーション(DX)と出ていますよね。
私はこのDXの”X”をですね、トランスフォーメーションと訳してはいけないと思っています。X=×(バツマーク)。「ダメ」と訳したらどうかと考えています。
それくらいの大きな刺激が必要ではないでしょうか。
ハーバード・ビジネス・スクールが良い例です。MOOC(=Massive Open Online Course)、日本語でいうとオンライン講座ですが、ハーバードはスタンフォードに20年くらい遅れていました。
MOOCには問題点がありました。受講を始める人は多いけれど、修了する人が少なかったのです。
そこでハーバードは、Inferiorを認めて10年くらい前に新しい技術を取り入れました。どうしたら最後まで学生が、授業を受けてくれるか考えてシステムを開発したのです。Zoomのように一人ひとりの顔が出て、ディスカッションができるようになりました。
これはハーバードの学長が、これどうにかしなくちゃいけない。このままではダメだといって×(バツ)を出したおかげでこうなったと思うんですね。
他国・他社から学ぶ
コピー機市場のシェアトップクラスに「リコー」があります。リコーはコピー機を開発するために、なりふり構わずアメリカへ行き工場を見せてもらいました。その結果、コピー機で成功できたのです。「なりふり構わず」、これが大事なんですね。
ピカソの言葉を思い出さなくてはなりません。「Good artists copy,Great artists steal」という言葉です。あのピカソが、こういうことを言っているわけです。
以前に黒川先生と山中先生をお招きして、コロナにおいてアメリカが日本から何を学べるか、日本がアメリカから何を学べるかについてセッションしました。
そのときに山中先生が言った「アメリカは、日本からローテックを学んでください」という言葉を、いまでも忘れません。
コロナ対策のローテックはマスクをする、手を洗う、靴を脱ぐなどです。
日本はアメリカからハイテックを学びましょう。PCR検査、ワクチン開発。われわれは完全に遅れています。自分のところの文化(ローテック)をキープしながら、いかにハイテックを学ぶかが大事なわけです。
目的に向かって連携
1964年の東京オリンピック以前は、僕のオフィスの近くにある神田川は臭くてしょうがない時代でした。
いまみたいにゴミを分別していないから、野良猫や野良犬がゴミ箱を散らかして、町も臭くてしょうがなかったんですね。それがオリンピックをきっかけに様変わりしました。
「なりふり構わず全部直そう」と国全体が連帯し、ひとつになったからできたのだと、僕は思っています。今年のオリンピックにも期待をしていました。1964年と同じような変化が、日本国民の連携をもって実施されると。しかし、連携はできませんでした。チャンスを逸してしまいました。
生き方としての戦略
私が考える「コロナ後にイノベーションを起こし続けるために必要な10カ条」をお伝えします。
俊敏性(アジャイル)を取り戻す
シリコンバレーは、日本発のアイディアを盗んでいます。だから彼らはピカソのいうGreat artistsですね。VUCAの時代にはボールがどこに転がるかわからないので、俊敏性を持って臨機応変に対応することを取り戻しましょう。
失敗を許容する
日本は大企業になればなるほど、失敗するとダメですよね。しかし、失敗は当たり前だという考えを持ちましょう。ユニクロの柳井さんが初めて書いた本のタイトルは『1勝9敗』です。「失敗は当たり前」これを日本の企業は実践してください。
過去の成功体験を捨てる
ユニクロの例を挙げます。以前にフリースがあまりにヒットしたので、会社がおかしくなりそうだと思った柳井さんが、野菜事業を展開したのを覚えていますか。この事業は3年で42億の損失を計上して失敗しました。でも柳井さんは、最初からフリースの成功で会社全体が有頂天になっているから、これくらい失敗しないとダメだと思っていたんですね。
COPを受け入れる
COP(コップ)とは、Contradictions Opposites Paradoxの略語です。完全に矛盾している、完全に反対のもの、完全に相容れないものを受け入れようじゃないかという意味です。
こうした考えをもとに議論を深めていくことで、高い次元の解がでるかもしれません。
アナログとデジタルの融合
イノベーションは3段階で起きると考えます。0-1はHumans、1-9はMachines、9-10はHumansが能力を発揮します。0から1にするイマジネーションの力は、人間のほうが上だと思います。ただ、1から9に伸ばすにはマシーンの力が必要です。最後の9から10はセンシティビティの部分です。ここには人間の力が必要です。
ピカソのように振る舞う
「Good artists copy,Great artists steal」というピカソの言葉を紹介しましたが、ピカソのように振る舞うことが重要だと考えます。なりふり構わずです。もちろん、法律は守らなくてはいけませんが。
マキャベリ的になる
マキャベリはイタリアの政治思想家で、目的のためには手段を選ばないとか悪いことをいろいろと言われてます。しかし僕は、賢く「いまここ」を判断した人物だと思っています。
共感
マイクロソフトの3代目CEO サティア・ナデラから学びましょう。ナデラは共感(Empathy)を掲げて、マイクロソフトの戦略を考えるようにしました。ビル・ゲイツがスティーブ・ジョブズと喧嘩ばかりしていましたが、彼が3代目のCEOになってからはアップルとの喧嘩をやめました。
母の知恵を実践する
子どものころに、母親がいろいろ教えてくれたことを実践しましょう。そんなに難しいことではありません。
自然との共生
世界遺産に登録されている「白川郷」があります。自然と共生を学ぶには、白川郷を見るのが一番早いです。数十年に一度、屋根の葺き替えがあるのですが、数百人の村人総出でおこないます。
こんなことができるのは、日本くらいだと思います。この強みをぜひ忘れないでいただきたいです。
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